
7年ぶりに日本で巻き起こる革命の嵐『1789 -バスティーユの恋人たち-』観劇レビュー
名作が再び。7年ぶりに『1789-バスティーユの恋人たち-』が明治座で開幕!
フランス革命を題材にした名作『1789』。革命という歴史の潮流に飛び込み、果敢に泳いだ人々の物語は多くの人々の心を打ってきました。日本では2016年/2018年に上演されてきた本作が実に7年ぶりに4/8から明治座にて上演。人気を博しました。
今回、演出を務めた小池修一郎さんは『エリザベート』『モーツァルト!』でも知られる実力派。今回も小池さんのテイストを生かしつつも、若い役者たちと共に果敢に新たな『1789』を作り上げました。今回は名作として更にパワーアップした『1789』の観劇レポートをお届けします!
フランス革命を題材とした平民と貴族の物語。
まずは簡単にストーリーをご紹介します。
舞台はフランス革命、激動の最中のパリ。パリに行く前、主人公ロナンはとある農村で農夫として政府からの高額な税金に苦しむ日々を送っていました。
そんなある日、政府の高官が現れると難癖をつけられロナンの父が連れて行かれそうになってしまいます。反抗するロナンに役人は容赦なく発砲、その凶弾からロナンをかばったのは父。涙するロナンはそのままパリへ行き、出会った仲間たちと革命派へと身を投じる。
時は1789年、歴史が大きく動こうとしているまさにその瞬間でありました。
この舞台が題材として面白いのは、平民と貴族の対立の構図を片側からだけではなく両サイドの視点から描いている点です。ロナンという貧しい市民からの目線だけでなく、マリーアントワネットをはじめとする宮廷の人々からみたフランス状況も描かれている。
特にマリーアントワネットが人目を忍んでフェルゼンに会いに行くシーンは明日の食事に苦しむ市民、パンのために身体を売る女たちとあまりにアイロニカルな対比になっています。このような両極端な立場を同時に演ずる作品はそう多くはありません。
革命の寵児ロナン、その燃え盛る闘志。
(写真)舞台上で輝く岡宮さんの表情
(写真)Wキャストの手島さんの表情も凛々しい
主人公ロナンはダブルキャスト。私が観劇した日にロナンを演じたのは岡宮来夢さん。『進撃の巨人-The Musical』でエレン・イェーガー役として熱い男を演じた岡宮さんは本舞台でも革命に殉ずる熱情を宿した青年を演じました。ロナンは本舞台において民衆の声の代表であり、また多くの観客が共感できる存在です。だからこそ、声高に叫び歌わなければならない。でなければ観客・民衆に伝わらないからです。また熱量が足りなければ、知的に語るように歌う役どころは第三身分の味方をする貴族が務めており対比もでません。
そんな膨大なエネルギーを要求される役どころを岡宮さんは演じ切っていました!
私は2018年の小池徹平さんがロナンを演じた時にも観劇していますが、小池さんの少しクールなロナンとは違った熱さを感じて素敵でした。特に印刷所デムーラン・ロベスピエールに向かって「兄弟じゃない!」と歌い伝える場面は、まさしく貧困に苦しむ第三身分の声そのものを感じました。岡宮さんの放出する熱量の高さを感じることができ、若い役者さんならではのエネルギーに思わず笑顔がこぼれました。
渦中の強き女性たち。
(写真)凪七さんのマリーアントワネット。衣装もとても美麗です!
フランス革命は流血を伴った革命で最後には武力衝突によって結末を迎えました。しかし、それは男たちだけの物語ではありません。本作では色恋だけでなく革命の最中の女性を描いています。
中でもロナンの妹役であるソレーヌは過酷な役どころで、父を失いロナンを追いかけてパリに来たが、食べていくために娼婦に身を落とすこととなります。食べ物のために女性の反乱を率いた際のソレーヌ役 藤森蓮華の歌は迫力が凄まじかったです。マリーアントワネット役 凪七瑠海さんやオランプ役 星風まどかさんが純潔に軽やかに歌うのであれば、藤森さんの歌唱はさながら嵐の豪雨。ありあまる苦行や妬みをそのまま反映した歌声は力強く木霊していました。
前述した通り、他の女性キャラクターと対比となっていることもさることながら、主人公の妹としても忘れがたいインパクトを残してくれました。
また、オランプを演じた星風まどかさんの歌唱はとにかく純潔。キャラクター性によく合っていた声で聞き入ってしまいました…!加えて2018年にオランプを演じた神田沙也加さんの声と不意に重なる瞬間があり、私は少し懐かしさを覚えました。どちらも素晴らしかったです。
小池修一郎 演出により新たな輝きを魅せた舞台・役者。
本作を語る上で小池修一郎さんの演出について語ることは外せないでしょう…数多くの舞台を演出してきた小池さんですが、本作では2.5次元舞台とミュージカルを融合し、そこに新たな映像演出を加えたような印象を受けました。
ここで「2.5次元的な演出」というのは具体的にダンスのような身体描写が、台詞やストーリーの流れにわかりやすく組み込まれているということです。例えばロナンがデムーランやロペスピエールにお前らとは兄弟にはなれないと告げる場面では、その場にいた労働者たちとロナンが足を踏み鳴らし拒絶するような素振りのダンスをしており、地面を踏み鳴らす音は威圧的でネガティブな感触でした。このように台詞だけでなく、身体全体を使うことによって意味を伝えてくれて、わかりやすさや親しみやすさを与えてくれていました。
さらに映像演出では舞台の奥行を深めるような演出がなされており、オランプとロナンのシーンでは舞台を分断する形で白いカーテンが引かれ意図的に2人の影を映す演出がなされていました。
これはまるで2人が世界から隔絶されたようで、2人が恋をする限定的な空間を形成していることが視覚的に想像しやすかったです!また、城前でオランプとロナンが別れるシーンでは、階段から城壁を立体的に斜めに画面上に映すことで、舞台上を3次元的にみせる工夫もされていました。このように舞台上に画像を映すといったテクノロジーの進化に応じた演出を、今まで数多くの名作を生み出してきた中で、更にチャレンジしていく小池さん。素敵です。
魅力的なペアも!癖のあるキャラクターたち。
メインキャラクターだけでなく、この作品には魅力的なキャラクターが沢山います。今回はそれぞれ演じたキャストを紹介しながらペアで迫ってみましょう!
(写真)デムーランとロベスピエールとロナン。3人の声が響き渡る。
デムーラン(内海啓貴さん)、ロベスピエール(伊藤あさひさん)、ダントン(伊勢大貴さん)。この3人はロナンと身分違いの兄弟になり革命へ身を投じる貴族。
ロナンの言う通り、飢えの苦しみ等を知らない貴族ではあるが皆性根の良いキャラクターです。内海さんと伊藤さんは何処か品のある高めの声で歌うのですが、伊勢さんはダントンらしく低めで豪快な歌声を披露しました。3人寄らば文殊の知恵といいますが、それぞれが違う歌声を持ち寄って肩を組んでいる姿は見応えがありました。
ラマール(俵和也さん)、アルトワ(高橋健介さん)宮廷側の2人も外せないでしょう。高橋さんの端正な顔出ちと銀色の衣裳はとても生えていて、またその「端麗さが滲み出る嫌なやつ感」に拍車をかけておりピッタリな役。また、そのアルトワに追従するラマールは作中唯一の道化。シリアスな中で難しかったと思いますが、観客が笑えるように堂々とした芝居を観せてくれた俵さんも良かったです!
名作の再発見!新たな魅了。
『1789』は2012年に初演を迎えた比較的新しい演劇。けれど、将来的には古典的になりうるポテンシャルを秘めた作品です。そのような作品は観れば観るほど、ガムのように味を増していきます。小池版『1789』もまた味わい深いものになっていそうな予感。私は演出面で「見やすさ」「先端技術を活かした姿勢」に感銘を受けましたが、もう一度観るならば更に細かな演出のディテールやストーリーに注視したいですね!何回みても観るべきポイントを変えられるくらい魅力的な作品はそう出会えません。もし機会があればご覧あれ!
(文:田中諒)
ミュージカル『1789-バスティーユの恋人たち-』
〈出演〉
◻︎公演日程
【東京公演】
公演日程:2025年4月8日(火)~4月29日(火祝)
会場:明治座
【大阪公演】
公演日程:2025年5月8日(木)~5月16日(金)
会場:新歌舞伎座
公式サイト