支えてくれる家族や友人の存在が、観劇前よりも愛おしくなる 東野圭吾原作 ミュージカル『手紙』2025観劇レビュー!

撮影:山口喜久義

東野圭吾原作ミュージカル『手紙』2025、ついに開幕!

ミュージカル『手紙』2025は、東野圭吾さんの小説「手紙」を原作としたミュージカル。2016年と2017年、2022年に上演されており、今回が4回目の上演となります。

原作は第129回直木賞候補作にも選ばれ、文庫版は1か月で100万部以上を売り上げました。

物語の主人公は犯罪者の弟・武島直貴。兄は、弟の大学進学のための金欲しさで強盗殺人を犯しました。弟を気にしている兄は毎月1通手紙を出すものの、弟は加害者家族としての世間からの厳しい風当たりと戦っていて…

撮影:山口喜久義

2025年版で兄弟を演じるのは、村井良大さん(弟・武島直貴)と、spiさん(兄・武島剛志)。本記事では、3月6日に行われたゲネプロの様子をご紹介します!

各出演者について

まずは、主な出演者についての感想からお伝えします!

村井良大さん

弟・直貴を演じた村井良大さんは、誠実で真っ直ぐな彼の人柄を忠実に再現。そのうえで、加害者家族として苦しみ、人間関係を遮断しようとする心の動きも繊細に表現していました。

撮影:山口喜久義

兄の逮捕から数年間の直貴の纏う空気や立ち姿から垣間見えたのは、辛辣な社会への絶望。誰にも頼れない孤独さ。しかし、その後そんな彼の孤独を理解してくれる人たちの存在に救われていく過程も、非常にリアルでした。

撮影:山口喜久義

また、兄の存在が自分の人生を阻む壁となっていることに気が付いて、距離を取るようになったときの異常なまでの嫌悪感も印象的。その異常さは、加害者家族にしか分からない思いの発露なのかなと考えさせられました。

spiさん

兄・剛志を演じたspiさんは、堅物で真面目な空気感で登場。故意的に強盗殺人をしたわけではないことが痛いほどにわかる、不器用ながらも愛情深い芝居でした。弟への想いから強盗殺人をしてしまったのだと感じられて、観客が彼に同情したくなる役作り。

撮影:山口喜久義

自分が弟から疎まれていることに気が付かないふりをして、牢屋で弟からの手紙をただひたすら待ち続ける姿は、涙なしでは見られませんでした。

そして語らずにはいられないのが、歌声の迫力。伸びがあり劇場を突き抜けるほどの声量で、彼の苦悩を吐露していて、その歌声にも涙をそそられました。

優河さん

弟の直貴を支え続けたのは、彼を一途に想う由実子。優河さん演じる由実子の歌声は、直貴の心のわだかまりを包み込んでくれるような温かさがありました。

撮影:山口喜久義

歌声に繊細さと大胆さが同居していて、ずっと聞いていたくなるほど。優河さんの声色は、由実子の人柄そのもの。関西弁で無邪気に振舞うときも、苦しむ直貴を見守るときも、彼女の根底にあるのは優しい包容力。舞台上での彼女の存在は、直貴だけでなく観客である私にとっても救いでした。

鈴木悠仁さん

鈴木さんが演じるのは、直貴の高校の同級生・祐輔。直貴が加害者家族となった後もずっと彼を気にかける、友達思いで漢らしい男性です。

メジャーバンドとして成功することを夢見ながら、夢を追いかけられない立場にいる直貴を応援し続けます。そんな祐輔の漢らしさと優しさをバランスよく体現していました。

撮影:山口喜久義

そのほか、バンド仲間のコータ(青木滉平さん)とアツシ(稲葉通陽さん)のメジャーデビューへの貪欲な姿勢や、直貴の恋人・朝美(青野紗穂さん)の自由に生きたいけれど一般的な価値観を捨てきれない様も印象的です。それぞれ個性豊かに演じて、作品に厚みを出していました。

被害者家族の忠夫を演じた染谷洸太さんは、遺族の悲しみや苦悩を、噛み締めるような言い回しで表現。物語のキーとなる役どころを、存在感たっぷりに演じていました。

ミュージカル『手紙』2025に込められたメッセージ

物語に込められているのは、加害者家族の苦悩や被害者家族の悲しみだけでなく、「暗闇に迷い込んでしまった時、何を大切にして生きるべきか」という問いだと感じました。

直貴の苦しみを受け止めてくれる仲間たちは、本作の光として、大きな存在感を放っています。彼らが歌によって直貴の背中を押す演出も多く、ミュージカルならではの魅力もたっぷり。

撮影:山口喜久義

撮影:山口喜久義

後半になるにつれて、それぞれの想いが歌になって重なる場面が増え、その度に客席からすすり泣く声が聞こえてきました。

どんな人でも、人生のどん底に直面するときや、何をやってもうまくいかないタイミングがあると思います。そんなときこそ、自分を想ってくれる人を忘れずにいたい、そんな気持ちになる作品でした。

家族や友人の存在が、観劇前よりも愛おしくなる。そんな物語です。ぜひ劇場で!

本作は3月23日(日)まで東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)にて上演されています。
詳細は公式サイトで。
https://musical-tegami.srptokyo.com/

撮影:山口喜久義

撮影:山口喜久義

撮影:山口喜久義

(文:山本萌絵

公演情報

ミュージカル『手紙』2025

【原作】東野圭吾
【脚本・作詞】高橋知伽江
【作曲・音楽監督・作詞】深沢桂子
【演出】藤田俊太郎

【出演】村井良大/spi
優河/鈴木悠仁/青木滉平/稲葉通陽/青野紗穂/染谷洸太
遠藤瑠美子/五十嵐可絵/川口竜也/江原璃莉・君塚歌奏 
 

2025年3月7日(金)~3月23日(日)/東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)

公式サイト
https://musical-tegami.srptokyo.com/

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