舞台「フリー・コミティッド」成河 撮影:神ノ川智早

ひとりで38役を演じきった成河さんに素直に拍手!「フリー・コミティッド」観劇レビュー

舞台「フリー・コミティッド」撮影:神ノ川智早舞台「フリー・コミティッド」撮影:神ノ川智早ひとりで38役を演じきった成河さんに拍手したい!「フリー・コミティッド」観劇レビュー

本作でみんなが気になる、楽しみにしているのはやはり“成河さんが1人38役を演じる”という点ですよね? 劇場でも開演前から38役を数えようとしている人達の姿がチラホラ。もちろん自分もそのつもりでいました。結論からいうと・・・数えきれません!(笑)  少なくとも初見でそればかりに気を取られるのはナンセンスだと、冒頭5分間怒涛の変化に圧倒された自分は思いました!

舞台「フリー・コミティッド」成河 撮影:神ノ川智早

舞台で1人芝居というと、モノローグ(独白)を用いて展開していくのが一般的な気がしますが、この作品は会話を紡いで物語が進みます。つまりは落語に近い。受話器を片手に別の誰かを演じ続けます。38役を把握できるか心配になる方もいると思いますが、自分は1日経って振り返っても20役は思い出せました。登場人物はわかりやすいように演じ分けがされてるし、出てくる人物は大抵が曲者で否応なしに思い出せます。帰り道に友人と38役を思い出せるか答え合わせをするのも楽しいかも。

簡単に38役を演じるなんて書いてますが、これは相当な体力を要します。成河さんご自身も「実はもう体ボロボロなんですよ。運動量と肺活量を駆使してて。」と半ば笑い話のように話してましたが、途中から衣裳の色が汗で変わるぐらい。所狭しと舞台を走り回るし、叫ぶし、テンション上げるし、空気変えるために呼吸を止めるし、どう考えても体に良くない!(笑) 人は自分という1人の人間で生きていくのも大変なのに、38人分を生きるなんて、どーかしてますよ、この作品(笑)

舞台「フリー・コミティッド」成河 撮影:神ノ川智早

主人公サム以外の人物は、欲望の塊のような人がたくさん。みんな有名レストランの料理が食べたくて勝手言うもんだから、サムが可哀想でした。と同時に、その行動におかしくもなったり、時には彼等の人生が垣間見えて切なくなったり。後半に一瞬だけ立場が逆転して、サムが予約を取るシーンがありますが、それを観た時に『みんな事情があると必死になるよね』とやたら共感できたり。

1人芝居のはずなのに共演者がいるような錯覚を覚えたのは、(演出だったのかもしれませんが)台詞ミスがあった場面で、そのミスを電話先の人がツッコミを入れるという芝居を観せられた時。もちろん電話先の人は成河さんが演じているわけですが、舞台の上に1人で立ちながらも、自分自身と共演し、更には美術や音響や照明と“聞こえない会話”をしていました。きっと観客、劇場空間すべてを共演者にしてくれそうな予感!

舞台「フリー・コミティッド」成河 撮影:神ノ川智早

演出次第では、電話先の相手を録音して流すことも十分可能な作品。しかし、それだと舞台ならではの“生の会話”の魅力が薄れる。今回、1人で全てを演じるという肉体的にもハードな追いこまれ方が、サム自身の追いこまれ方にもリンクし、強いては成河さん自身が苦しくなる姿に、自分も同調して苦しくなりました。気がつけば完全にサムに感情移入してしまったので、いつの間にかサムの状況を客観的に観て楽しむ余裕はなくなり、「頑張れ!」という気持ちでいっぱい。そして、約2時間を終えて解放される成河さんに素直に拍手を送ってました。

この作品を1ヶ月近く上演するという果てしない挑戦、力尽きることなく走り続けてほしい! きっとそれを成し遂げられるのは、みんなの声援のような気がします。

(文:かみざともりひと

公演情報

シーエイティプロデュース 舞台「フリー・コミティッド」

【作】ベッキー・モード
【翻訳】常田景子
【演出】千葉哲也
【出演】 成河

2018年6月28日(木)~7月22日(日)/東京・DDD 青山クロスシアター

公式サイト
シーエイティプロデュース 舞台「フリー・コミティッド」

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