
芳根京子 × Snow Man渡辺翔太がフライングで紡ぐ幻想世界 舞台『ウェンディ&ピーターパン』観劇レビュー
撮影:細野晋司
Snow Man・渡辺翔太さんと芳根京子さんがW主演を務める舞台『ウェンディ&ピーターパン』が、6月東京・THEATER MILANO-Zaで、7月に大阪・フェニーチェ堺で上演されます。
今作は、世界的名作『ピーターパン』をウェンディの視点から大胆に翻案し、少女が自らの力で運命を切り開いていく壮大な冒険を描きます。
2013年にイギリスで初演され、ダンスやフライング、小道具や美術、映像などを駆使した舞台が話題となり、再演を重ね、2021年にはワールドツアー版として日本初演が実現し、2025年にはロンドンで上演。そして今年待望の日本再演となりました。
今記事では観劇レビューと取材会の様子をお伝えします。
あらすじ
1908年のロンドン。ダーリング家の子供部屋。ウェンディ(芳根京子)、ジョン(鳥越裕貴)、マイケル(松岡広大)、そして体の弱い末っ子のトムが戦争ごっこをしながら部屋中を飛び回っている。そこへ両親であるミスター&ミセス・ダーリング(石丸幹二、池谷のぶえ)が子供たちを呼びに来る。家族が揃った姿は幸せそのもの。
その晩、熱を出したトムを医者に診てもらうも、診立てはあまりよくない。やがて皆が寝静まった遅い時間に子供部屋の窓からピーターパン(渡辺翔太)がやってきて、トムをどこかへ連れ去っていった…。
それから1年後のある日の夜、子供部屋の窓が開いて、再びピーターパンが現れる。驚くウェンディはジョンとマイケルを叩き起こし、トムを探しにいくため、ピーターパンたちと一緒にネバーランドへと旅立つのだった。
芳根さんがウェンディ役、渡辺さんがピーターパン役で出演。そのほか、ウェンディの弟・ジョン役に鳥越裕貴さん、同じく弟・マイケル役に松岡広大さん、ピーターパンの相棒・ティンク役に富山えり子さん、海賊・スミー役に玉置孝匡さん、ウェンディの母親であるミセス・ダーリング役に池谷のぶえさん、フック船長とミスター・ダーリングの二役に石丸幹二さんが登場します。
撮影:細野晋司
ウェンディを演じる芳根京子さんは、とにかくキュート‼︎
真っ白なワンピースに、ゆるく巻いた栗色の髪がよく似合い、天真爛漫な笑顔で周囲を明るく照らすような可憐な魅力を放っています。そして、可愛いだけでなく、真面目で礼儀正しく、揺るがない芯の強さも感じさせました。
ウェンディは弟・トムを探すためネバーランドへ旅立ちます。彼女はただ未知の世界への冒険に胸を躍らせるというよりも、一貫して「弟を連れ戻し、幸せな家族をもう一度取り戻したい」という長女としての責任感と深い家族愛を胸に行動する人物でした。
ネバーランドでは、いつしか皆んなの母親のように振る舞い、母性も見せます。ベッドの上で、いなくなったトムを想い静かに祈る場面では、弟を心から案じる姉の切実な思いが胸に迫りました。私自身も長女だからこそ、その気持ちに共感する場面が何度もありました。
撮影:細野晋司
無邪気な少女から、一人の大人の女性へと成長していく姿を自然に体現した芳根さん。その変化を、表情や立ち居振る舞いの一つひとつで見事に表現していました。
そんな芳根さんについて、渡辺さんは、「本当に太陽みたいに明るい方だなという印象から、稽古をやっていくうちに、力強くて、パワフルで、体力もある。本当に見た目とのギャップがかなりある方だなという印象です。」と語っていました。その言葉どおり、舞台上でも可愛らしさだけではない、エネルギッシュな存在感が作品を力強く支えていました。
撮影:細野晋司
ピーターパン役の渡辺翔太さん。私は、30代の渡辺さんがピーターパンを演じると聞いたときから、不思議と違和感はありませんでした。見た目の若々しさだけでなく、飄々とした佇まいや、やんちゃで「僕はずっと子どものままで遊んでいたい」という永遠の少年らしい空気感が、渡辺さんの持つ魅力と重なると思っていたからです。そして実際に舞台を観ると、その予感は間違っていませんでした。
舞台に現れた渡辺さんは、まさに自由奔放なピーターパンそのもの。冒頭の自己紹介では、どこかアニメの主人公を思わせるような弾む声で登場し、渡辺さん自身がこの役を心から楽しんで演じていることが伝わってきます。
真面目な話になるとすぐに話を逸らしたり、猿真似をしたり、思いつくままにふざけたり……。自由で気まぐれな性格は、実際に身近にいたら少し腹が立ってしまいそうですが(笑)、その茶目っ気たっぷりで憎めない愛嬌こそが、しょっピーターパンの魅力。渡辺さんは、その無邪気さと少年らしさを自然体で表現していました。
撮影:細野晋司
渡辺さんと芳根さんの掛け合いも自然で、息がぴったり。いたずら好きなピーターがウェンディに「君の顔、まん丸でビスケットみたい」と言う台詞は、本作の中でも特にお気に入りのフレーズです。
その言葉に納得してしまうほど、芳根さん演じるウェンディは愛らしさにあふれています。二人の微笑ましいやり取りからは、ピーターとウェンディの距離が少しずつ縮まっていく様子が自然と伝わってきました。
取材会で、芳根さんは渡辺さんについて、「良くも悪くも初めて会った時と印象が変わらないですね。素直で嘘が付けない方だなと。ピーターにぴったりで、裏表がなくてさっぱりされてるから気持ちがいいです」とコメント。その言葉どおり、飾らない素直さが役柄と重なり、渡辺さんだからこそ生まれるピーターパン像を作り上げていました。
印象的だったのが、冒頭の登場シーンです。暗転した舞台で中央奥の窓が静かに開き、仁王立ちするピーターパンの姿が浮かび上がります。暗闇の中ではシルエットしか見えないにもかかわらず、その立ち姿だけでスタイルの良さと存在感が際立ち、「ピーターパンが来た!」という高揚感を一気に高めてくれる、幕開けでした。
撮影:細野晋司
今回の大きな見どころの一つが、フライングシーンです。
渡辺さんは取材会で、「まあまあ、飛び慣れてますね(笑)。でも、役が乗っかって飛ぶってことは初めてで。渡辺として飛ぶ時は、僕はどんな動きをしようが僕の自由。僕が美しいと思った形で飛べばいいんです。でも、ピーターとして、役が乗った動きがあるフライングは経験がないので」と語り、ただ飛ぶだけではなく、「ピーターパン」として空を飛ぶ難しさがあったことを明かしていました。
その言葉を聞いたうえで舞台を観ると、劇中で何度も披露されるフライングは、どれも驚くほどしなやかで自然。空中では身体が回転してしまうなど難しさもあるそうですが、渡辺さんは狙った位置でぴたりと静止し、まるで空を自在に飛び回っているかのような軽やかさを見せます。高度な体幹の強さはもちろん、これまで積み重ねてきたフライング経験があってこその安定感で、ピーターパンの自由な飛翔を見せてくれました!
撮影:細野晋司
一際目を引いたのは、富山えり子さん演じる妖精ティンクが妖精の粉を振りかけ、ウェンディ、ジョン、マイケルがふわりと宙に浮かび上がる場面です。
ピーターが「さぁ、行こう!」と声をかけると、一同はロンドンの夜空へ飛び立ちます!
映像とフライングが美しく融合し、劇場が一瞬にして幻想的な世界へと変わります。初めて空を飛ぶことに戸惑うウェンディたちを、渡辺さん演じるピーターパンが軽やかにリードする姿は、まさにネバーランドへの案内人。その優雅な飛行に導かれるように、観客もまた物語の世界へと誘われていきました。
今作は、舞台セットの豪華さや小道具をはじめとする美術の緻密な作りにも、心が躍ります。
冒頭に登場するステンドグラスが印象的な子ども部屋をはじめ、ロンドンの街並み、きらめく星空、豊かな自然に囲まれたネバーランドまで、次々と広がるファンタジックで華やかな世界は圧巻。細部までこだわり抜かれた美術と映像が織りなす幻想的な空間に包まれ、ここが新宿・歌舞伎町であることを忘れてしまうほど、夢と魔法に満ちた世界へ引き込まれます。
撮影:細野晋司
そんな素敵な世界をより豊かに彩っているのが、主演のお二人を支える実力派キャストたちです。
ウェンディたちの父・ミスター・ダーリングと、宿敵フック船長の二役を演じた石丸幹二さん。威厳と貫禄に満ちた佇まいは、対照的な二つの役柄に説得力を与えていました。
ミスター・ダーリングは、家族の中心として頼もしさがあり、子どもたちを温かく見守る優しさと、ユーモアを兼ね備えた父親。やんちゃな子どもたちと、笑い合う夫婦の姿からは、誰もが憧れるような幸せな家庭が伝わってきます。しかし、トムを失い、その穏やかな日常は崩れていきます。
もちろん父親である彼も、悲しみを抱えています。ただ、その悲しみに向き合うことができず、仕事の忙しさで気持ちを紛らわせようとしているように感じます。悲しみに沈む妻を支えたい気持ちはありながらも、世間体を気にし、家族の心は少しずつすれ違っていきます。
トムがいなくなって一年経っても息子を想い続け深く落ち込む妻と、その気持ちにきちんと寄り添えない夫。同じ悲しみを抱えているはずなのに、家族の心はばらばらになってしまいます――。石丸さんは、強く頼れる父親でありながら、悲しみや戸惑いを胸の奥に押し込める一人の人間としての弱さも繊細に表現していました。
そんな壊れかけた家族をもう一度つなぎ合わせたい――。ウェンディがネバーランドへ向かう理由には、家族を思う切実な願いが込められていました。
撮影:細野晋司
ウェンディたちの母親・ミセス・ダーリングを演じた池谷のぶえさん。これまで親しみやすく、どこか肝っ玉母ちゃんのような役柄のイメージが強かった池谷さんですが、今回は気品あふれる上品なマダム役がとても新鮮でした。
石丸幹二さん演じるミスター・ダーリングとの落ち着いた夫婦の空気感も心地よく、4人の子どもたちに無償の愛を注ぐ包容力あふれる母親役がぴったり。子どもたちを見つめる優しい眼差しや穏やかな微笑みからは、深い愛情が自然と伝わってきました。
子どもたちがネバーランドから帰宅し、部屋で母とウェンディが語り合う場面は印象的でした。母娘だからこそ交わせる秘密めいた会話は微笑ましく、池谷さんのあふれる母性が存分に感じられるシーンです。「誰にだって、自分だけの冒険があるものよ」とウェンディに語る言葉には、大人への一歩を踏み出した娘をそっと認め、背中を優しく押す母親の姿が描かれ、観終えたあとも余韻が残る印象的な場面となっていました。
撮影:細野晋司
また、コンテンポラリーダンスを思わせる振り付けは独創的で、コミカルな雰囲気の中にもどこか幻想的な美しさが漂い、作品の世界観を鮮やかに彩っていました。
一方、ピーターとフック船長の対決では、迫力あるアクションシーンが展開。俊敏な身のこなしと華麗な剣さばきで応酬を繰り広げ、クライマックスに向かうにつれて緊張感と迫力が一層高まっていきます。
ダンスやアクションなど身体表現の魅力が存分に堪能できる一方で、一点だけ惜しいと感じたのは、渡辺さん、石丸さんともに歌唱力に定評のあるお二人だからこそ、ミュージカル作品としてその美しい歌声もぜひ披露してほしかったということ。お二人の歌声が加われば、作品の魅力はさらに広がったのではないかと感じました。
撮影:細野晋司
今作はウェンディの視点から描かれる『ピーターパン』ですが、単なる冒険物語ではなく、「子どもと大人」「男性と女性」「生と死」といった普遍的なテーマも散りばめられているように感じました。
ウェンディは大人になっていき、一方、ピーターは永遠に子どもでいます。劇中「おかあさん」や「お父さん」という言葉も多用され、それらは、「成長すること」「男性性、女性性」「性的役割」についても表しているようでした。ピーターは永遠に子どもでいることで、ロストボーイズたちを見守る存在として居続けます。それは彼なりの責任感や役割、優しさでもあると感じました。
また、本作では女性の生き方にも焦点が当てられています。1908年当時のロンドンにおける女性の在り方を、ウェンディの母・ミセス・ダーリングを通して描写しています。夫から「家庭に残って子どもの世話をすること、家事をすることは君の義務だろう」と引き止められるも、彼女は「義務でここにいるんじゃない」と伝えます。夫に従属するのではなく、自らの意志で家庭を守り、さらに働きたいという思いを口にする姿からは、女性の社会進出へのまなざしもうかがえます。
だからこそ、ウェンディが自らの意思で未来を選び取る姿にも重みがあります。本作は、女性が誰かのためだけに生きるのではなく、自分自身の人生を歩んでいくことを肯定するメッセージを、時代を超えて観客に届けているように感じました。
さらに印象的だったのが、ロストボーイズしか存在しない理由について、ピーターが「女の子は賢いから」と語る場面です。思わず笑ってしまうユーモアのある台詞でありながら、その一言には作品らしいメッセージが込められているようでした。
そして、クライマックスでピーターが語る「トムを忘れるんじゃない。悲しむことを忘れるんだ。幸せなこと、楽しいことを思い浮かべるんだ。」という言葉も胸に深く響きます。
大切な人を失った悲しみは簡単に消えるものではなく、その人の存在を無理に忘れる必要もありません。それでも、残された人が前を向いて歩き続けるためには、幸せだった記憶や楽しい出来事を胸に抱いて生きていくことが大切なのだと、ピーターはそっと教えてくれているようでした。
無邪気で自由奔放に見えるピーターですが、その姿の奥には、誰よりも悲しみや孤独を知るからこその優しさが感じられます。笑顔の裏側にある彼の背景や心情に思いを巡らせずにはいられませんでした。
そして、本作が問いかけるもう一つの大きなテーマが「大人になること」。本当の自由とは何か、本当に自分が望む人生とは何か――。ネバーランドでの冒険を通して、登場人物たちだけでなく、観る者自身も自らの人生について問い直すきっかけを与えてくれる作品です。ぜひ劇場で、『ウェンディ&ピーターパン』の世界を体感してみてください。
(文:あかね渉)
Bunkamura Production 2026
DISCOVER WORLD THEATRE vol.16『ウェンディ&ピーターパン』
作 エラ・ヒクソン(J.M.バリー原作より翻案)
翻訳 目黒条 髙田曜子
潤色 山本卓卓
演出 ジョナサン・マンビィ
美術・衣裳 コリン・リッチモンド
出演
芳根京子 渡辺翔太
鳥越裕貴 松岡広大 富山えり子 天野はな
玉置孝匡 池谷のぶえ
石丸幹二
山本圭祐 小日向春平 富永海仁 木村風太 宮下雄也 富川一人 坂本慶介 粕谷吉洋
宮河愛一郎 乾直樹 小川莉伯 木原萌花 吉﨑裕哉 渡辺はるか
企画・製作 Bunkamura
【東京公演】
公演期間 2026年6月12日(金)~7月5日(日)
会場 THEATER MILANO-Za
【大阪公演】
公演期間 2026年7月13日(月)~20日(月・祝)
会場 フェニーチェ堺 大ホール

