
笑い納めと笑い始めはミュージカル『サムシングロッテン!』に決まり!
2018年に福田雄一さん演出で上演され、大きな話題を呼んだミュージカル『サムシング・ロッテン!』が、7年ぶりに再演されます。
ブロードウェイでは2015年に初演され、トニー賞も受賞。シェイクスピアをはじめ、数々の演劇作品や名作ミュージカルを大胆にパロディしながらも、演劇への深い愛と情熱に満ちた一作として、世界中の舞台ファンを魅了してきました。
前回から続投の中川晃教さん、瀬奈じゅんさんに加え、加藤和樹さん、石川禅さん、大東立樹さん(CLASS SEVEN)、矢吹奈子さんら豪華キャストが集結。
作品の魅力をさらに広げ、よりパワーアップした『サムシング・ロッテン!』が届けられます。本記事では、開幕直前取材会の模様と、実際に観劇して感じた本作の魅力をお伝えします。
ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり
あらすじ
ルネサンス時代のイギリス。売れない劇作家のニックは、弟ナイジェルと、自分たちの劇団を成功させたいと願っていました。ニックは、天才シェイクスピアに対抗心をむき出しにしながらも大衆の支持を得られず苦しい状況にいます。
ある日、ニックは妻ビーの目を盗み、預言者ノストラダムスのもとを訪ね、「これからの演劇は“歌って踊るミュージカル”が流行る!」という神からのお告げを受けます。そして、お告げに従い「世界初のミュージカルを創ろう!」と奮起します。一方、作家の才能を秘めた弟ナイジェルは、美しい清教徒の娘ポーシャと出会って恋に落ち、新たなインスピレーションを生み出します。
そのころ、シェイクスピアは、「ロミオとジュリエットに続く大ヒット作を書かねば」と人知れず思い悩んでいました。彼は、以前からナイジェルの才能に目をつけていたため、役者「トービーベルチ」に化け、ニックの劇団に潜入し、後の大ヒット作となる「ハムレット」の土台となるアイデアをどんどん盗んでいくが…。
ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり
いやはや、「ミュージカルで久々にこんなに笑ったかもしれない」と感じるほど、随所に笑いが散りばめられた作品です!役者一人ひとりのポテンシャルや、これまでの経歴を存分に活かした演出によって、本作は唯一無二の作品へと仕上がっています。
ミュージカル歴の長い石川禅さんや加藤和樹さんが、取材会で「今までやったことがない」「新たな自分に出会えた」と口を揃えて語っていたように、“これまでの彼ら”を知っている方、長年のファンであればあるほど、その意外性や新たな一面にきっと驚かされるはずです。加藤さんは、「色んな発見があって…僕のファンもそうだし、今まで色んなミュージカルを観て目が肥えているお客さんも「何これ?」って思うようなものが飛び出てくる作品なので、宝箱のような感覚で、どんなものが次出てくるか楽しんでいただけたら」と語りました。
石川さんは、稽古中の福田さんの印象的な言葉として、
「悲劇は世界共通だけれど、“喜劇という笑い”にはその国ならではのものがある。だから日本は、日本の笑いをきちんと引き継いでいかなければならない」という話を挙げ、強く刺激を受けたと語っていました。
その言葉からも伝わるように、原作ありきの作品を、ここまで“日本の笑い”として昇華させてみせた福田さんの手腕には唸らされます。巧みだな、と素直に感じました。
作中には、さまざまな有名ミュージカルのパロディが登場するため、ミュージカル好きほど楽しめる側面はありますが、舞台初心者でも気楽に楽しめる、親近感あふれる内容です。ギャグや時事ネタもふんだんに盛り込まれ、ミュージカル特有の敷居の高さを感じさせません。
それでいてチープに見えないのは、実力あるキャスト陣の歌声、ダンス、そして演技力があってこそ。言わずもがな、その完成度の高さが作品全体をしっかりと支えています。
さらに、センスの良い豪華な衣装や、オーケストラによる生演奏など、非日常感あふれるミュージカルならではの壮大さや優雅さも大切にされており、その魅力をきちんと体験できる一作だと感じました。
というのも、演出の福田さんは映画監督の印象が強いものの、以前は毎年のようにブロードウェイへ足を運び、一日中ミュージカルや舞台を観るほどの舞台好き。
だからこそ、随所に散りばめられた笑いの中に、演劇への深い愛情が感じられるのだと思います。
ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり
オープニング、太鼓のドドドドンというリズミカルな音にトランペットが加わり、軽快な音楽とともに幕を上げます。ドラムロールは、これから始まる物語にわくわくするような期待感と高揚感が膨らみます!その後、緩やかな音楽とともにストーリーテラーが現れ、時代背景について語ります。
ルネサンス期のイギリス、人々は絶え間ない戦いと窮屈な政治に苦しんでいます。しかし、そんな中で芸術や科学は進歩し、人々の生活が大きく変わっていく様子が表現されます。
静から動へ。心の声がそのまま台詞になり、ひとりが歌い出すとアンサンブルの声が重なり、踊り、やがて大きな音楽の波が押し寄せる。オープニングのわずか数分間に、“ミュージカルの定番”がぎゅっと詰め込まれていて、心が躍りました。
衣装もまた印象的です。クラシカルで可愛らしいかぼちゃパンツにブーツ、フリルのあしらわれたシャツ。ドレスは一人ひとり異なるデザインで、細部までこだわりが感じられます。
思わずじっくり眺めたくなるほどで、衣装展示があったら嬉しい……と感じてしまうほどでした。
特に、矢吹奈子さんの金髪に黒のワンピースがよく映えていて、フリル襟で可愛らしさが際立ち、大東立樹さんの袖フリルも、気品とキュートさをぐっと高めていて好きでした。また、瀬奈じゅんさんのラストのお衣装とヘアスタイルは、まるでディズニープリンセスのベルのようで、とても素敵でした。
ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり
曲がロック調に転調し、盛り上がったのも束の間……
中川さん扮する売れない劇作家・ニックの舞台稽古のシーンに切り替わります。
中川さんの“売れない”加減が絶妙で、最初の台詞の棒読み具合や漂う空気感から、
もうすでに「売れてないだろうなぁ」感が滲み出ていて、思わず笑ってしまいます。
取材会で福田監督が、7年前より「ダメっぷりに磨きがかかった」と太鼓判を押していたので、「あ、これかぁ!」とすぐに感じました(笑)。
ダメさと言うか、情けなさ全開のニック。劇中、彼は明らかに一人だけ間違った意見を言い、それを頑なに押し通そうとします。兄弟が仲違いしてしまうほどで、周囲が呆れるのも無理はありません。それなのに、不思議とあまりイライラしないんです(笑)。なぜか憎めず可愛らしい。それは、ニックがバカ真面目で真っすぐで、誰よりも一生懸命な人だと伝わってくるから。成功したシェイクスピアに嫉妬して「嫌いだ」と言い放ったり、文句や愚痴が止まらなかったり。けれど、その姿が人間らしくて、どうしようもなく“愛しい”存在なのです。
ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり
取材会で福田さんは「ミュージカル俳優でダメ感を出せる人って、なかなかいないと思うんですよ(笑)全部そぎ落とすことは難しいと思う。だって他の演目では、ちゃんとキラキラしているわけですから」と話していました。
中川さんの代表作といえば、ミュージカル『ジャージーボーイズ』で天使の歌声を持つフランキー・ヴァリが挙げられますが、今作のニックは、そのフランキーとは対照的な役柄。正反対に近い役ですが、中川さんにぴったりの当たり役だと感じました。表情豊かで、全身を使って表現される姿が印象的で、まさに“中川さんだから演じられる”愛すべきキャラクターとなっています。
加藤さんは「言葉悪いですけどダメダメな(笑)。でもそれが愛しくて、こんなアッキーさん見たことないです」と語り、妻ビー役の瀬奈じゅんさんも「アッキーのダメさが増して可愛いです。(7年前より)倍守りたいとか、倍楽しい気持ちです」と笑顔で話していました。
ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり
そんな共演者たちの言葉を受け、照れたような笑顔を浮かべながら中川さんは、
「福田さんは最初、正直ちょっと怖い人というイメージがあったんですが、思い切って飛び込んでみたら、すごく優しい方だと分かって。そこから自分をさらけ出せるようになりました」と振り返ります。
普段は役者と役作りについて多くを語らないという福田さんですが、今回は中川さんと役柄についてじっくり話し合う時間があったそうで、そのやり取りを境に「一気に良くなった」とも明かしていました。
作品を通して、二人の間に確かな信頼関係が築かれ、さらに深まっていったことが伝わってきます。
ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり
そして今作で、「こんな姿、観たことないランキング(私調べ)」で中川さんと並ぶのが、加藤和樹さんと瀬奈じゅんさんです。
ファンの間では、もしかしたら物議を醸す部分もあるかもしれませんが(笑)、私はお二人の弾けっぷりが最高で、たくさん笑わせていただきました。
(なお、お二人以外の場面でも下ネタや少しお下品な表現が登場するので、そのあたりは好みが分かれるかもしれません……笑)
ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり
加藤さんは今作が福田組初参加で、稀代の天才劇作家・シェイクスピアを演じます。
誰もが夢中になるスターで、容姿端麗な加藤さんのビジュアルや抜群のスタイル、そして美声を存分に活かした役柄です。
意外にも、これまで「THE男前」や「人気スター」といった役を演じる機会は多くなかったそうで、キャラクタービジュアルを見たファンの方が「テニプリ(加藤さんがミュージカル俳優として注目されるきっかけとなった『テニスの王子様』)以来じゃない!?」
と驚いた、という声もあったのだとか。
ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり
これまで演じてこなかった“思い切りカッコつける役”ですが、それがしっかりとサマになっており、性別問わず会場中を一気に虜にします。キンキラのゴールドのジャケットやスタッズ付きの革ジャン、黒ブーツを颯爽と履きこなし、赤いバラまでもがよく似合う大人の男。抱き寄せられたり、匂いをかいだだけでとろけさせ、妊娠してしまうのでは……と思ってしまうほどの色気を纏い、観る者を魅了します。
その姿は、まさに誰もが目を奪われるスターそのもの!スポットライトが似合う本物のイケメンだからこそ、キザな台詞もまったく嫌味がなく、思わず頷いてしまいます(笑)。
ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり
そして、ここで最高潮に“カッコいい”を体現しているからこそ、後半でニックの劇団に忍び込み、アイディアを盗む「トービー・ベルチ」という男に変身した姿に、「ええええええー!」とのけぞるほど驚き、笑ってしまうのです。
「こんな加藤和樹、観たことない!」と誰もが声を上げてしまう、まさに“想像のはるか斜め上を行く加藤和樹”に出会えます(笑)。
加藤和樹×〇〇〇の姿は、ここでしか観られないのではないでしょうか。殻を破った、という言葉ではとても追いつかないほどです。福田さんや中川さんも「あんな声出るんだ!」と驚いたそうです(笑)
ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり
前作から引き続き出演の瀬奈さんについて、福田さんは
「7年前よりも圧倒的な母性が生まれている」と語っていましたが、その言葉通り、包み込むように温かく、明るくて頼りがいのある、家族想いの妻・ビーを演じています。
ビーは、売れない劇作家ニックを支えるため、専業主婦から外に出て働きに出ます。
しかし当時は女性が働ける場が少なく、舞台にも立てない時代。ビーは、さまざまな男性の姿に変わって働くことに……。その姿がどれもまさかすぎる職業ばかりで、思わず絶句してしまいます。品のある瀬奈さんが、“あんな姿やこんな姿に”(笑)。そのギャップがとにかく強烈で、猛烈にチャーミングなんです。どんな男性にも変身してしまう姿は、さすが元宝塚男役トップスターのなせる技で、その経歴がこれでもかと活かされています。また、「よくこの演出を受け入れたな」と瀬奈さんの懐の深さにも改めて驚かされました。母性にあふれた部分がありながら、瀬奈さんは良い意味でぶっ飛んでいて、それがサイコパスではない、爽やかなぶっ飛び加減。
何でしょう……今作は他のキャストさんにも共通して言えることですが、瀬奈さん自身が役を思い切り楽しんでいて、やらされている感がまったくありません。カラッと明るい空気感なので、観ているこちらも安心して笑える。そんな気持ちになります。
どの役者さんからも、心から楽しんで演じていることが伝わってきて、“独りよがりのさぶい舞台”ではなく、きちんと観客に届く作品になっているところが、今作の素晴らしさだと感じました。キャストと観客が心を通わせ、受け入れ合い、笑い合っている——その感覚がとても素敵だなと思います。
ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり
福田組への出演を熱望していた石川禅さんは、抜群に声が良いこともあり、
“胡散臭いけれど、それっぽく聞こえてしまう”予言者・ノストラダムスを熱演しています。
劇中、石川さんと中川さんが歌い上げる、今作を代表するナンバー「ミュージカル」という曲があるのですが、思わずこちらも口ずさみ、踊り出したくなる一曲です!
取材会では、「やりがいがありすぎです。やりがいしかない!ただ、めっちゃ長いんですよ。口をあけっぱなしで歌っていて、つばを飲み込もうとすると吐きそうになるんです(笑)。それくらい大変ですが、同時にこんなに楽しいナンバーは今まで歌ったことがないです。この年になって、こんな大きなナンバーが歌えることないですから、1回1回大切にやっていきたいです」と、笑顔で語っていました。
ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり
ニックの弟ナイジェルを演じる大東立樹さん。(以下、親しみを込めてリッキーと呼ばせていただきます。)キュルッキュルでキラッキラ、ニッコニコでフワッフワ!
歌って、踊って、跳ねて、おふざけ全開。客席を次々と笑顔にしていく――そんな“大東立樹”の魅力を存分に味わえます。
彼女ポーシャ役の矢吹奈子さん(以下、親しみを込め、奈子ちゃんと呼ばせていただきます)と共に、二人の持つ可愛らしさと輝きが、これでもかというほど舞台いっぱいに振りまかれていました。
ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり
加藤さんが「二人のシーンが可愛すぎて、観ている方がキュン死にしないかな?」と心配されていたほどですが……これが本当にその通り。
二人のやり取りは、まさに悶絶級の可愛さです。奈子ちゃんとリッキーのバランスが抜群で、観ているこちらまで自然と頬が緩んでしまうほど。
私は思わず「可愛い……」と、何度もつぶやいてしまいました(笑)。
特に好きなシーンは、二人が詩が好き! シェイクスピアが好き!と、“好きなこと”が同じだと知った瞬間から会話が弾み、ポエムを読みながらあっという間に心の距離を縮めていく場面です。テンションも空気感もばっちりで、惹かれ合う姿は初々しく、まるで赤い実がはじけたような感覚(笑)
さらに、二人の関係性がまるでロミオとジュリエットだと、劇中で寸劇を始めてしまう場面。
バカップルのようでどこか滑稽なのに、そこには確かに“二人の世界”が出来上がっていて、
観ているこちらまでフワフワほわほわな気持ちにさせられます(笑)
このカップルは、私のミュージカル界・好きなカップルランキング入り!
ナイスカップル賞を贈りたいくらい、お似合いです。
福田さんも取材会で、「二人の姿には“純真無垢”という絶対的なテーマがあるんです。そんな少女と少年を二人が描いてくれているから、作品の根幹が支えられている」と話されていました。
ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり
福田さんは再演を経て、「今作の本質や魅力に気づいた」と語ります。それは、“ニックとシェイクスピアの苦悩”。
監督自身、7年前の初演時は、映画を撮る際に低予算の中で「面白ければいい」という思いが強かったそうですが、今年は10億円規模の映画を2作品手がけ、多くの人の思いを“背負う”感覚がより芽生えたといいます。
さらに、「自分の子どもが生まれ、養っていかなければならないという覚悟など、さまざまな部分に自分を投影してしまい、毎回クライマックスでは涙してしまう」とも話されていました。
取材会では、作品や一人一人の役者さんの魅力についてもたっぷりと語ってくださり、その愛情と想いがあふれ出し、時間切れになってしまうほど(笑)。
中川さんも「こういう場で監督の思いを聞けるのは嬉しい」と、喜びを噛み締めている様子でした。改めて、素敵なカンパニーだなと感じます。
年末の少し浮かれた今の時期にも、重たい作品ではなく、心から楽しめる一作!
そして、たくさん笑って一年を始めたい年始にも、ぜひおすすめしたい作品です。
(文:あかね渉)
『サムシング・ロッテン!』
作詞・作曲:ウェイン・カークパトリック / ケイリー・カークパトリック
脚本:ケイリー・カークパトリック / ジョン・オファレル
演出:福田雄一
翻訳・訳詞:福田響志
キャスト
中川晃教 / 加藤和樹 / 石川禅 / 大東立樹 (CLASS SEVEN) / 矢吹奈子 / 瀬奈じゅん / 岡田誠 / 高橋卓士 / 横山敬 / 植村理乃 / 岡本華奈 / 岡本拓也 / 神谷玲花 / 小山侑紀 / 坂元宏旬 / 髙橋莉瑚 / 高山裕生 / 茶谷健太 / 横山達夫 / 吉井乃歌 / 米澤賢人
【開催日程・会場】
2025年12月19日(金)〜2026年1月2日(金)
東京都 東京国際フォーラム ホールC
2026年1月8日(木)〜12日(月・祝)
大阪府 オリックス劇場

