
Travis Japan・七五三掛龍也×黒柳徹子 “60歳差の珠玉のラブストーリー” 朗読劇『ハロルドとモード』取材会&観劇レビュー
2025年9月~10月、『ハロルドとモード』が東京・EX THEATER ROPPONGI、大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演されました。
撮影:濱谷幸江
本作は、1971年にアメリカで公開された映画『ハロルドとモード』を原作とし、2020年から黒柳徹子さんのライフワークとして舞台化されてきた作品です。
物語は、“生”を思い切り楽しむ 79 歳の女性・モードと、“死”に固執する19歳の少年・ハロルドという二人を軸に描きます。
あらすじ
自らの死を演出し狂言自殺を繰り返すことでしか存在を証明できなかった19歳の青年・ハロルド(七五三掛龍也)。ある日、“赤の他人の葬式への参列”という趣味を通じて、破天荒でキュートな79歳の女性・モード(黒柳徹子)と出会う。彼女と過ごすうちに死に囚われていたハロルドは少しずつ“生”の意味を見つけていく。そんな中、彼はモードの80歳の誕生日パーティーを計画するが―。
6度目のモード役を務めるのは――なんと御年92歳の黒柳徹子さん!
79歳のモードを遥かに超える実年齢に、まず驚かされます。
取材会では、「年に一度の舞台をとても楽しみにしています!」と笑顔で語り、
「観客の皆さんがいてくださることが嬉しいんです」と、声を弾ませていました。
「テレビは100歳まで続けたいと言っていますが、舞台も頑張りたい!」と話され、
その明るく前向きな姿に、誰もが励まされます。
毎公演「もっと良くなりたい」「成長したい」と努力を重ね、「空間が素敵で、毎日劇場に来るのが楽しみ」とキラキラした眼差しで話す姿に若々しさと瑞々しさを感じました。
そんな彼女の相手役である2025年版のハロルドは Travis Japanの七五三掛龍也さんです。
(記事中、愛称の“しめちゃん”と呼ばせていただく部分があります。)
初演(2020)の生田斗真さんをはじめ、藤井流星さん(WEST.)、佐藤勝利さん(timelesz)、向井康二さん(Snow Man)、松島聡さん(timelesz)らが演じてきたハロルドを引き継ぎます。
取材会で「先輩方が代々演じてきているハロルドを演じるプレッシャーはありますか?」との問いに「初演の(生田)斗真くんを始め皆さんの映像を見させてもらいました。それぞれ違うハロルドに見えて、その人らしさを感じました。今年やらせていただくからには自分らしいハロルドを意識して稽古に挑んでいます。(松島)聡ちゃんと連絡は取ったりしてたんですが、あえて舞台のことは聞かなかったです。自分の感じたことを素直に演じていけたらと思いながら稽古していました」と、話されていました。
七五三掛さんにとって朗読劇は今回が初挑戦!決して経験が豊富というわけではないものの、一言ひとことに真剣さが宿り、お芝居への情熱がまっすぐ伝わってきました。繊細でありながら全身全霊で臨む姿に、心を打たれます。
更に七五三掛さんはギターにも挑戦しており、生田さんの時から使用していたギターを借りて、7月から毎日練習を重ねていたそう。別の仕事で滞在していたタイにも持参し、ホテルでも時間を見つけては手にしていたそうです。ハロルドがギターを弾きながら、モードとお互いの顔を見合わせて歌うシーンは少しずつ心が通っていくような様子が伝わってきて、観ていてとても温かい気持ちになりました。劇中で大好きなシーンです。
黒柳さんは七五三掛さんの印象について、
「この舞台は80歳と19歳の恋愛という不思議な関係なんですけど、七五三掛さんは本当に純粋な方で、心を込めていらっしゃるのが伝わり感動しました。とても一生懸命にやっていることがうれしいです」と語っていました。
また、七五三掛さんの実年齢を知らなかった黒柳さんが、本人から「30です」と聞いて驚く一幕も。「うそー!? 本当に!? 10代だと思ってた!」と目を丸くされていました(笑)。
たしかに、年齢を知っていたとしても、あの舞台上で見る“しめちゃん”のピュアさには、思わず驚いてしまうのも納得です。
黒柳さんからの言葉に「僕のことをピュアと言っていただきましたが僕以上に純粋な方だなと。タイのお土産を渡したら、すっごく喜んでくださり、人類で観た中で一番可愛らしい喜び方でした。」と七五三掛さんが答えたり、「演出家から言われたことを全てその通りに修正したり、何倍にもよくして演じるから毎回びっくりします。こんな風に言うのねと勉強になります。」と黒柳さんに褒められると、「世界一嬉しい誉め言葉です!」と、七五三掛さんが素直に喜んだり、二人のやり取りも微笑ましかったです。
ハロルドの趣味は、廃棄物処理場を訪ねたり、見知らぬ人の葬式に足を運んだりすること。さらには狂言自殺を繰り返して母を驚かせたり、愛車が霊柩車だったりと、どこか風変わりな青年です。他者と積極的に関わるタイプではなく、深い孤独を抱えて生きています。
そんな少し危うい役どころは、普通に演じると暗く、共感を得にくい人物になりがちですが、
しめちゃんのしなやかな演技と、圧倒的に大優勝なヴィジュアルが相まって、ハロルドはまるで“こじらせ男子”のような愛らしさを纏っています。
レースのブラウスに蝶ネクタイ、白いステッチが効いたトラッドなジャケット。
その装いが甘い顔立ちに驚くほどよく似合い、上品さとあどけなさが絶妙に溶け合っています。透明感のある肌、ぽてっとした唇、キュルキュルと輝く瞳、くるくる変わる豊かな表情——どの瞬間も愛おしく、目が離せません。
さらに、優しく張りのある歌声が心にまっすぐ届きます。
あまりに反応が可愛いので、自由奔放なモードのように、つい困らせたり振り回したくなってしまう——そんな気持ちにさえさせられました(笑)。
撮影:濱谷幸江
共演には、森迫永依さん、前野朋哉さん、松尾貴史さん、和久井映見さんといった実力派俳優が揃います。
和久井映見さん演じるハロルドの母は、息子を心配するあまり、彼にお見合い相手を紹介します。一見すると息子想いのようですが、毎日スケジュールが埋まり忙しい彼女には、死に惹かれるハロルドの心情を理解する余裕がありません。二人を対照的に描くことで、母の思いが空回りし、互いに分かり合えない親子のすれ違いが際立ちます。
母の行動は愛情ゆえでありながら、どこか押しつけがましさも感じさせます。
森迫永依さんはハロルドのお見合い相手3人を一人で演じ、それぞれまったく異なる容姿や性格の女性を見事に演じ分けていました。ハロルドと同年代の年相応な女性ですが、彼には響きません。
“死”で頭がいっぱいだったハロルドは、破天荒で自由なモードと出会ったことで、やがて“生きる希望”を見つけていきます。自由奔放なモードに最初は戸惑いながらも、ハロルドは次第に彼女のペースに巻き込まれていきます。
モードは一見、母親のように「自分中心」な人物にも見えますが、母とは決定的に違う点があります。それは、ハロルドの話にきちんと耳を傾け、彼の存在そのものを受け入れる姿勢です。「いいじゃない」「素敵ね」と否定せずに言葉をかける彼女に、ハロルドは少しずつ心を開き、惹かれていきます。
モードの言葉や考え方には深みがあり、優しさと温かさが滲んでいます。同世代の女性にはない包容力と安心感を感じさせる存在です。他人の車を許可なく乗り回すなど、一見すると自分勝手にも見えますが、彼女の自由さは単なる奔放さではなく、長い人生の中で培われた経験からくるもの。ふと見せる影の部分からは、彼女が積み重ねてきた年月と、そこに宿る“生への思い”が伝わってきます。
黒柳さんの愛嬌と人間味がその人物像に重なり、モードは“憎めないお茶目さ”と“人生を達観したおおらかさ”を併せ持つ、なんとも魅力的なキャラクターとして立ち上がります。
「サプライズってわくわくした気持ちになる」「まるでシフォンケーキみたい」
モードの反応や言葉の選び方が本当にかわいらしく、聞いているだけで心がほどけていくようです。ヒナギクの花びらで乾杯するシーンをはじめ、花を眺めたり、空を見上げたり、海辺で夕陽を見つめたり――自然の中でゆったりとした時間を過ごす二人の姿には、どこか懐かしく、あたたかな空気が流れています。
そんな穏やかな時間の中で、二人は“生と死”といった人間の本質的なテーマにも触れていきます。「ものにこだわっても虚しい」「花も人間も同じ」――そんな言葉のやり取りから、“生きること”の尊さが静かに浮かび上がります。
作品が長く愛される理由を問われ、黒柳さんは、
「こんなに続けられるのは、今作が本当の愛――いろんなものを取っ払って、一番美しい純粋な愛が(観客に)伝わっているからだと思うんです」と語っていました。
まさにその通りで、黒柳さん自身が、もはや役を超えて「愛をもって生きること」そのものを体現しているようでした。彼女の眼差しや語りには慈愛があり、年齢の重みだけでなく、軽やかに笑い、時に涙を誘う一言一句はハロルドだけでなく観る者の心に深く刺さりました。
「人は笑い、人は泣く。
どちらも人間だけにしかない特性なの。
そして人生でいちばん大事なことはね、ハロルド、
人間らしくあることを恐れずにいることなのよ。」
当たり前のようで、とても大切な考えや愛、優しさ、ぬくもりを、ハロルドは彼女と過ごす時間の中で少しずつ知っていきます。
“命はやがて終わる。だからこそ、生きることはこんなにも愛おしい”。
そのメッセージが、ユーモアと詩的な言葉を交えて美しく描かれます。是非、切ないクライマックスと柔らかくてあたたかな空気を劇場で感じて下さい。
(文:あかね渉)
朗読劇『ハロルドとモード』
作:コリン・ヒギンズ
上演台本・演出:G2
音楽・演奏:荻野清子
演出補:平田純哉
出演
黒柳徹子 七五三掛龍也(Travis Japan)
森迫永依 前野朋哉 松尾貴史 和久井映見
<東京公演>
公演期間:2025年9月30日(火)~10月10日(金)
会場:EX THEATER ROPPONGI
<大阪公演>
公演期間:2025年10月16日(木)~19日(日)
会場:森ノ宮ピロティホール