ミュージカル『アメリカン・サイコ』

Hey! Say! JUMP髙木雄也が全身全霊で令和のシリアルキラーを熱演! ミュージカル『アメリカン・サイコ』初日前会見&観劇レビュー

ミュージカル『アメリカン・サイコ』撮影:岡千里

 

あらすじ
舞台は、80年代末バブル期のNYウォール街。エリートビジネスマンのパトリック(髙木雄也さん)と、彼の周りの“ヤッピー”と呼ばれるエリートたちは、来る日も来る日も流行りの高級レストランで食事をし、ブランド物や見栄えのいい彼女を競い、きらびやかで閉ざされたコミュニティで生きていた。パトリックの婚約者・エヴリン(石田ニコルさん)やその友人・コートニー(玉置成実さん)も、服や美容にこだわり、ホームパーティーに興じていた。パトリックの秘書・ジーン(音月桂さん)は地味な自分とパトリックの住む世界に違いを感じつつ、密かにパトリックに思いを寄せていた。
そんなパトリックには、夜になると猟奇的連続殺人犯、シリアルキラーに変身するという裏の顔があった…。

 
『アメリカン・サイコ』は同名小説を原作にクリスチャン・ベール主演で映画化され、ロンドンでミュージカル化、ブロードウェイにも進出した作品です。
今作は80年代終盤のヤッピーたちの生活を、当時を彷彿とさせるショーナンバーやファッション、ダンスで表現しています。日本ではバブル期にあたりますが、アメリカの経済成長も著しい年代です。シャネルなどの高級ブランドや、ソニーのウォークマンなど流行りのアイテムが随所に散りばめられ、当時を知る人はより楽しめます。また、マドンナなどのサウンドをオマージュした音楽が多様され、当時の音楽が再ヒットする現代においても刺さる部分がありました!私は1988年生まれなので、舞台設定の1989年当時の華やかで活気がある様子を知ることができて嬉しかったです。

こちらでは、初日前会見の様子と観劇レビューをお伝えしていきますね!

観て頂ければわかるのですが…今作はタイトル通り、正に“アメリカンでサイコ”な作品です!(笑)オープニングから、髙木さんのアイドルらしからぬまさかの登場にお口あんぐり…
「ナンジャコリャー!!」って心の声が漏れそうなほどインパクトがありすぎて、見たことのない髙木さんの姿に私はフリーズしてしまいました。「え、事務所OKですか?大丈夫?」と心配してしまうくらいでした(笑)。 髙木さんはめちゃくちゃ饒舌に英語混じりの台詞をすらすらと話しますが、しばらく頭の整理や情報処理が追いつかず、台詞が耳に入ってきません(笑)。しかし内容は、いかに主人公パトリックがブランドやトレンド、見た目重視の煌びやかな世界で生きているかという、中身があるようでないものなので台詞が入ってこなくても大丈夫です(笑)。それよりも目の前の髙木さんの姿を受け入れ、かみ砕くまでに時間がかかります(笑)。

髙木雄也の衝撃の姿とは⁉(ややネタバレを含みますので内容を知りたくない方はご注意ください)

普段アイドルとして、キラキラの衣装をまとい、グループ内では落ち着いた大人の魅力で色気を振りまく彼が“白のブリーフ1枚”という、ほぼ素っ裸の状態で舞台上に立つ姿を誰が想像したでしょう?ステージの高い場所で、白ブリーフ姿でスポットライトを浴びながら、声高らかに歌う髙木雄也は滑稽でありながら異質の輝きを放っていました!そして、何も纏わぬパンイチから、ブランドのスーツをビシッと着こなす姿や佇まいは雰囲気抜群で魅力的でした。髙木さんは、ビジネスとマネーの競争社会で生きるエリートビジネスマンと、殺人を犯していくシリアルキラーという二面性を持った難役を熱演していました。

囲み取材で演出家の河原雅彦さんは、髙木さんに対し「よくやってくれました!」と褒めておられ、「感謝している」とも仰っていましたが、観劇するとその理由がよくわかりました。かなり独特の世界観とキャラクタ-だったので、私も観終わった後「まず、よくこの役を引き受けたな」と髙木さんの思い切った挑戦と心意気に脱帽しました。そして、彼が自分なりのパトリックを作り上げ、最後まで演じ切ったことに、感心し心から大きな拍手を送りました。
河原さんは「こんな時代にコンプラを無視した作品」と語っていました。たしかに正直引いてしまうような演出や台詞も多々ありました(笑) “イエール大学によくいるタイプ”、“イカレたホモ野郎”のような偏見的言動もみられます。そのような台詞からも各々のキャラクター像が浮かび上がります。
また、河原さんは「色々言われている時代にルッキズムの塊のような作品」「今作はビジュアルが全て」と言い切っておられ、ぶっ飛んだ内容ですが、キャストのビジュアルが良いからこそどうにか最後まで観ることができた感覚はありました(笑)
「美しくないと作品にならない」と体作りをキャストに指示したそうで、キャストの皆さんは空き時間も筋トレに精を出していたとのことでした。その甲斐あってか、身体が仕上がってらっしゃいました!髙木さんは稽古中、グループのライブツアーも重なり忙しい中で肉体改造に取り組んでいたようです。ポスター撮影時より、かなり絞ったお姿にストイックさを感じました。そして、その努力が“見た目重視でブランドやステータスを大切にする役柄とマッチしており、説得力がありました。
演出家はアイディアを考える役目ですが、思い描いていたものを最終的に表現し直接観客に届ける役目は役者の皆さんです。演出・河原さんの描くブラックユーモアたっぷりの世界観と難しい役柄、ほぼ出ずっぱりで英語混じりの台詞に、完璧な肉体づくりと求められることも多く、責任感やプレッシャーは計り知れなかったと思われます。普段の髙木雄也を知る方にこそ観ていただきたい作品です。衝撃的な姿とキャラクターに度肝を抜かれるはずです!

英語混じりの日本語はルー大柴さんを彷彿とさせるような“ルー語”のようでギャグにも捉えられ、癖が強いキャラと相まって物語に常に可笑しみを伴わせる効果を感じました。その独特のキャラやセリフ回しと演者のスタイリッシュな装い、完璧なビジュアル、最新のプロジェクションマッピングの映像演出との大きなギャップが畳みかける様なボケとなって笑いになっていました。そして、その裏側に潜む狂気がじわじわと滲み出てきて、この作品の中毒性を生んでいるようでした。観終わった後に感想をシェアしたり、真相を知りたくなるような作品です。

そして、今作は髙木さんの頑張りもさることながら、脇を固めるキャストの皆さんも全員超個性的で実力派揃いでした!お一人お一人が役を自分に落とし込み、楽しんで演じていました。また、演技や歌、ダンスも総じて上手く、台詞の掛け合いやノリ、バランスが良かったのでこのブラックサイココメディは成立していました。作品や役者さんによっては、演技のわざとらしさが、むず痒く、観ていて興ざめすることが多々あるのですが、今作は皆さんきちんと面白く、世界観に合っていました。

ここからは、髙木さん以外にも気になったキャストの方たちを紹介していきますね!

主人公パトリックがライバル視するポール:大貫勇輔さん

私は大貫勇輔さんの爽やかでハンサムな外見と、優雅なダンス、“なんだか変な”内面が元々大好きなのですが、今作のポールはハマり役だと感じました!会見では「僕だけ脱がない」と残念そうに仰っていましたが、服の上からもわかる隆々とした筋肉とダイナミックで体幹の安定した美しいダンスで人々を魅了していました。そして「人をイラッとさせる人物(笑)」と自ら語っていましたが、スマートな見た目と独特のユーモアでパトリックが嫉妬するポールという役を見事に演じていました。とにかく様々なダンスナンバーを踊っていらっしゃり、多ジャンルに精通する大貫さんのダンスを堪能できます!
レ・ミゼラブルのオマージュだったり、サングラスをかけて踊る姿は「PERFECT HUMAN」のRADIO FISHのようで、かっこいい中にシュールな面白さを感じました!

パトリックの恋人エヴリン:石田ニコルさん

華やかなビジュアルで一際目を引いた石田ニコルさん!モデルのイメージが強いですが、ドラマや舞台女優としても活躍されており、確かな歌唱力と演技力に惹かれました。見かけ重視で強気なエヴリンが嫌味に感じなかったのは石田さんのチャーミングさがあってのことです。プリプリ怒ったり甘えたりする姿がとってもかわいかったです!

パトリックの同僚で(彼のことが好きなゲイ)コートニーの恋人ルイス:原田優一さん

鍛えられた肉体とビジュアルが整ったキャストが多い中、清潔感を保ちながらも絶妙なわがままボディと演技がツボで、今作で1番笑わせて頂きました(笑)!

エヴリンの親友でパトリックの浮気相手、ルイスの恋人コートニー:玉置成実さん(←関係性がめちゃくちゃで乱れた性生活を物語っています…笑)

美しくて魅力的だけど痛い女の子役がお上手でした(笑)。観客が引かない程度の表現をされていてコメディセンスがあるなと感じました。そして、歌手として活躍されているだけあり、歌に安定感があり聴きごたえがありました!

皆さんちょっとづつ…いやだいぶ様子がおかしくて、頭抱える場面も何度もありましたが、キャラに真面目に向き合い、全力で表現されている姿が素敵で…なんだか、人生楽しく生きたもん勝ちだなと思えました(笑)。単純にムーディで陽気な人々の様子は観ていて元気になりました!

会見で、演出・河原さんは「ストーリーはあってないようなもの、話を真剣に追うようなタイプの芝居ではない」と仰っていましたが、今作では、派手な時代背景や演出とは裏腹に、不穏な事件やパトリックの闇が描かれています。それはバブルの賑やかな生活とは対照的にベルリン崩壊などの歴史的出来事やエイズの蔓延など時代の光と影を表現しているようでした。
パトリックは洗練された見た目、申し分のない暮らし、華やかな交友関係…全てが揃っているはずなのに、どこか心にぽっかり穴が開いたような空虚感や孤独が拭えず、“何か”を満たすために殺人を犯していきます。彼を凶行に駆り立てたのは、生来のサイコな性格か、はたまた時代や環境か?理由は明確にされていませんでしたが、私は後者のように感じました。人間は環境に適応していくものであり、人は誰しも、どこかで自分を偽りながら生きているのではないでしょうか?現代の、物質で溢れ虚飾に満ちたSNS社会にも通じるように感じました。1980年代の話ではありますが、現在の資本主義社会へ風刺的に切り込んだ作品です。

音月桂さん演じる秘書ジーンの存在

パトリックは上昇志向の塊で、常に他人と自分を比較する競争社会で生きています。友人たちは親しげでありながら、どこか互いをライバル視し本音を言えない関係性…金と名誉にこだわり、酒と女とドラッグにまみれ、クラブでダンスと音楽に明け暮れる日々を過ごします。会話の内容は、こだわりの名刺のデザインや、“いかにセクシーにメニューを読むか”そんな見かけにこだわる鼻につく男達の様子があほらしく、皮肉めいて描かれています。
パトリックは快楽主義の世の中で、友人たちとの中身のない薄っぺらい毎日に嫌気を感じているようにも見えました。そしてそれはいつしか他人や社会に向けられ、凶悪な行動を起こしていきます。自分の異常さに気づきながらも、制御不能の衝動に駆られ、次々に罪を犯しますが、苦しみ、葛藤もしていました。そんなサイコでイカレた、トランス状態の自分に秘書のジーンは包み込むような愛や優しさをくれました。パトリックは「彼女の前では有能なボスでいたい」「彼女には尊敬されていたい」と自分を保てていたのではないでしょうか。物語の中で、ジーンという存在は“パトリックを正常に戻す役割”だったのではないかと感じます。彼女は全員癖強キャラの作品内で1人だけまともなキャラです。仕事に真面目で、細かい配慮ができる有能な秘書であり、謙虚で思いやりがあり家族や周りの人を大切にする素敵な女性です。パトリックは自分で「オレには感情(愛する心)というものが無いんだ」と語りますが、ジーンには心を開いているようでした。音月さん演じるジーンの澄み渡るような歌声や誠実な人柄は、キャラが渋滞した物語の中で“清涼剤”ような役割を担っていました。音月さんの凛とした美しさと安定した歌唱力や演技力は素敵で、英語の発音も聞き取りやすく綺麗でした。流石、宝塚出身の役者さんだなと感じました!

他にも魅力的なキャストが多数出演され、次々と展開するストーリーに目が離せません!80年代の時代やサウンドを感じながら、実力派のエンターティナー達が作り出す、スタイリッシュでクレイジーな世界観を是非劇場で体験してみて下さい!

(文:あかね渉

公演情報

ミュージカル『アメリカン・サイコ』
■出演
髙木雄也
音月 桂 石田ニコル 中河内雅貴 原田優一 玉置成実
高橋駿一 GENTA YAMAGUCHI 松野乃知
ダンドイ舞莉花 エリザベス・マリー 吉田 繭 加島 茜
秋本奈緒美 コング桑田 大貫勇輔

■脚本
ロベルト・アギーレ=サカサ
■作詞・作曲
ダンカン・シーク
■原作
ブレット・イーストン・エリス
■翻訳・訳詞
福田響志
■演出
河原雅彦

◻︎東京公演
公演日程:3/30(日)~4/13(日)
会場:新国立劇場 中劇場

◻︎大阪公演
公演日程:4/19(土)~4/21(月)
会場:森ノ宮ピロティホール

◻︎福岡公演
公演日程:4/26(土)
会場:J:COM北九州芸術劇場 大ホール

◻︎広島公演
公演日程:4/30(水)
会場:JMSアステールプラザ 大ホール

公式サイト
https://stage.parco.jp/program/AmericanPsycho

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