
剣幸が魅せる—愛と芸術の儚き輝き~ナイト・ウィズ・キャバレット観劇レビュー
提供: 『ナイト・ウィズ・キャバレット』製作委員会
10年の時を経て、ついに上演
第2回せんだい短編戯曲賞大賞を受賞(2014年)したものの、今回が初めての上演となる『ナイト・ウィズ・キャバレット』(西史夏作)。この待望の舞台が、2月13日、東京・シアターグリーン BOX in BOX THEATERで幕を開けました。演出を手掛けるのは、数々のプロデュース公演で脚本・演出として活躍する堀越涼さん。期待が高まるなか、ついに観劇の機会を得ました。
実力派俳優による二人芝居
剣幸さんは、天海祐希さんと先輩後輩の関係にあり、一度は舞台を拝見したいと思っていたものの、なかなか機会が合わず今回が初めての劇場での観劇となりました。しかも、会場はシアターグリーン BOX in BOX THEATER。小劇場ならではの距離感で、間近に迫る演技を堪能できる貴重な経験となりました。
本作は二人芝居。剣幸さんの相手役(ちょっと宝塚っぽい表現ですが)は、小劇場からミュージカルまで幅広く活躍する小林タカ鹿さん。剣さんは「稽古がとても大変だった」とおっしゃっていましたが、お二人のお芝居をじっくりと堪能させていただき、貴重な体験となりました。。
提供:『ナイト・ウィズ・キャバレット』製作委員会
大正から昭和へ—浅草を舞台に繰り広げられる物語
物語の舞台は、大正14年から昭和16年までの東京・浅草。
アフタートークの会話で明かされたことですが、剣さんが演じる踏子の初期の年齢設定は21歳。剣さんは「どうせ見えないだろうと思っているので(笑)」とおっしゃっていましたが、それに対し天海さんが「可愛かったですよ」と絶賛。その言葉通り、初々しさから大人の女性へと変化していく姿を、見事に表現されていました。
また、ちょっとコミカルな表情には、宝塚時代のビルを思い出させる要素もあり、懐かしさのようなものも感じながら拝見しました。
舞台は、東京浅草アサヒホテルの501号室。シンプルなセットながら、場面転換の際には配置を変えることで時間の経過を見事に演出していました。
提供:『ナイト・ウィズ・キャバレット』製作委員会
時代背景と演出の工夫
舞台では、二人の関係が師弟関係から恋愛関係へ、そして人間同士の深い愛へと変化していきます。同時に、俳人としての生き方や創作への思いも、時代の流れとともに変化し、それが二人の関係性にも影響を与えます。
当時の芸術への弾圧や戦争の影響が色濃く描かれ、やがて二人は次第にすれ違ってしまいます。その変化を、音楽と二人の繊細な表情で見事に表現し、観客を舞台の世界へと引き込みました。
提供:『ナイト・ウィズ・キャバレット』製作委員会
ピアノの生演奏が舞台の世界へ誘う
本作の魅力の一つは、音楽の存在感。
劇伴を担当したのは吉田能(あやめ十八番)さん。場面ごとにレコードの音が効果的に使われているほか、ピアノの生演奏が会場全体を舞台の世界へと誘っていました。
ピアノに加え、ピアニカやパーカッションなどさまざまな楽器を駆使し、場面の雰囲気を巧みに表現。時には心地よく、時には恐怖感さえも感じさせる、印象的な演出でした。
やっぱり観たかった「あの」お姿
剣幸さんといえば、元宝塚のトップスター。
これまで柔らかいお芝居で観客を魅了していましたが、キャバレーのシーンでは一転。まさに「元宝塚トップスター!」と思わせるような伸びやかなビブラートが会場に響き渡り、思わず唸るほどの圧巻のパフォーマンスでした。
女性役と理解していても、歌手紹介の場面ではどこかで期待してしまう男役の姿。そして、ついにスーツ姿に帽子を被った剣さんが登場!そのカッコいいお姿に、「いやぁ~流石!元宝塚トップスター!!」と心の底から唸ってしまいました。
ご本人もトークショーで「帽子被ったりズボンを履くと恐ろしい病気が出てしまう・・(笑)」。プロデューサーさんにも「「ちょっと男っぽい・・」と言われてしまった!とおっしゃっていましたが、個人的には、このままのカッコよさを貫いていただきたいところです。
さらに驚かされたのが小林さん。剣さんが登場するかと思いきや、まさかの小林さんがその場に。そして、その美しさに圧倒されました。そんな美しい小林さんが、客席にちょっと視線を下さるんですが、たぶん私は目が合いまして・・うっかり、引き込まれてしまいそうでした(笑)。
歌声も素晴らしく、単純に明るいお話ではありませんが、キャバレーのシーンはお二人ともキラキラと輝いて見えました。
余談ですが、新人歌手の名前が「天海ゆきこ」と呼ばれていたのはアドリブでしょうか?翌日の公演でも同じ名前だったのか…気になるところです(笑)。
提供:『ナイト・ウィズ・キャバレット』製作委員会
現代への気づき
本作は大正14年から昭和16年の物語ですが、「表現したいものを自由に表現できない」といった状況は、現代にも通じるものがあります。
現在は「表現の自由」が保障されていると言われますが、自由がかえって不自由を生んでいるようにも感じています。この作品を通じて、そんななこともふと考えさせられました。
提供:『ナイト・ウィズ・キャバレット』製作委員会
スペシャルゲストとの特別な時間
舞台の幕が下りた後には、剣幸さんの芸能生活50周年を記念し、日替わりでスペシャルゲストを迎えたアフタートークが開催されています。
私が観劇した日のゲストは、宝塚時代の後輩である天海祐希さん。宝塚時代はお二人の姿を生で拝見することが叶わなかったので、宝塚時代の話を直接聞ける貴重な時間は、まさに至福のひとときでした。
また、18日のゲストは天海さんの後輩である彩輝なおさん。剣さんから天海さんへ、そして彩輝さんへと繋がるバトンが、剣さんへと戻るようなこの流れ。どのようなトークが繰り広げられるのか、とても気になります。
◆アフタートークショーゲスト(敬称略)
・2月13日(木)18:30 天海祐希
・2月14日(金)14:00 角野卓造
・2月15日(土)14:00 東山義久
・2月16日(日)13:30 石井一孝
・2月17日(月)18:30 大沢健・堀越涼
・2月18日(火)14:00 彩輝なお
・2月18日(火)18:30 原田優一
・2月20日(木)18:30 小林タカ鹿・堀越涼
・2月21日(金)14:00 森公美子
・2月22日(土)14:00 良知真次
・2月22日(土)18:30 小林タカ鹿・堀越涼
ぜひ会場で体感を!
剣さんが「稽古が本当に大変だった」とおっしゃる本作。
舞台はもちろん、アフタートークも見どころの一つです。まだ観ていない方は、ぜひ劇場に足を運び、この特別な時間を体感してみてください!
(文:松坂柚希)
『ナイト・ウィズ・キャバレット』
脚本:西史夏
演出:堀越涼(あやめ十八番)
〈出演〉
五所踏子:剣幸
鏡千里:小林タカ鹿
劇伴:吉田能(あやめ十八番)
◻︎東京公演
公演日程:2025年2月13日(木)~2月23日(日)
会場:シアターグリーン Box in Box