劇場が沸き立つ絢爛豪華な祝祭音楽劇『天保十二年のシェイクスピア』観劇レビュー
写真提供/東宝演劇部
現代演劇にも絶大な影響を与えているウィリアム・シェイクスピア。「ロミオとジュリエット」「マクベス」「ハムレット」など、発表から約400年以上を経て今も世界中で上演され続けています。そんな彼の37作品を軸とし、江戸末期の人気講談「天保水滸伝」を織り込んだ井上ひさしさんの戯曲が、新たな姿で再演!
主演は、二〇二〇年同公演で「きじるしの王次」役を演じた浦井健治さんが務めます。続投するキャストに加え、大貫勇輔さんなど舞台経験豊富な新キャストも加わり更にパワーアップしています。
演出は二〇二〇年の公演と合わせ第28回読売演劇大賞最優秀演出家賞、第42回松尾芸能賞優秀賞を受賞した藤田俊太郎さんが、音楽は同じく第28回読売演劇大賞優秀スタッフ賞を受賞した宮川彬良さんが、再びタッグを組んでの上演です!
江戸末期の天保年間。下総国清滝村の旅籠を取り仕切る十兵衛は、老境に入った自分の跡継ぎを決めるにあたり、三人の娘に対して父への孝行を一人ずつ問うていく。腹黒い長女・お文と次女・お里は父親に取り入ろうとするが、父を真心から愛する三女・お光だけは、おべっかの言葉が出てこず、十兵衛の怒りにふれ、お光は家を追い出されてしまう。
月日は流れ、天保十二年…跡を継いだお文とお里が欲望のまま争いを繰り広げている中、醜い顔と身体、歪んだ心を持つ佐渡の三世次が現れる。謎の老婆のお告げにより、三世次は、言葉巧みに人を操り、清滝村を手に入れる野望を抱く。そこにお文の息子 ・きじるしの王次が父の死を知り、無念を晴らすため村に帰ってくる―。
写真提供/東宝演劇部
冒頭、木場さんの素晴らしい前口上に、会場から拍手が起こりました!いよいよ舞台が始まる!という高揚感と、2020年の公演時はコロナ禍であったことを考えると、劇場で舞台ができる喜び、観劇できることの幸せを演者と観客が噛み締めているように感じました。
軽快なリズムを感じる音楽とともに幕が上がり、キャストが歌い踊り、明るく始まります。音楽も耳馴染みが良く、和を感じながらも現代的なハイカラさを感じました。シェイクスピアを題材としているだけあり、POPな音楽や鮮やかな色彩溢れる舞台演出とは裏腹に、内容的にはやや刺激的で血生臭い展開でした。コミカルに描き、人間味を感じる内容で、「芸術は思想」という言葉通り観客に「想像」させ考えさせるような作品でした。
写真提供/東宝演劇部
まず、新キャストとして加わった大貫勇輔さんの姿には釘付けになりました!個人的に今回の舞台で観られることを楽しみにしていたので、今か今かと出てくるのが待ち遠しかったです。スラっと長身でスタイルが良く、男前で端正な顔立ち。躍動感ある立ち回りやダンスは存在感があり正に舞台で映えるお人だと感じました!また、ダイナミックでアウトローな出立ちや役どころでありながら、どこか品もあるのは大貫さんならではでした!アクロバットやダンスだけでなく、バレエなど幅広いジャンルを踊りこなす大貫さんの実力の高さを感じました。醸し出る色気や豪快さ、男らしい逞しさは女性達を魅了するオーラとなり、柔和さ、ユーモアも魅力的でした。「きじるしの王次」役にぴったりでした。
写真提供/東宝演劇部
今作の肝となる唯月ふうかさんの2役にも目が離せませんでした。可憐で純真な心を持ったおさちとクールなお光。途中、登場人物たちが二人の存在に翻弄されるのですが、その姿がとってもコミカルで印象に残っている場面の一つです。私自身も「あれ、今はどっちだっけ?」と考えることもありました(笑) 2人は全く別なようで深い部分では似通う部分があり繋がった存在でした。唯月さんの心の移り変わりの表現や演じ分け、美しい歌声は素敵でした。
写真提供/東宝演劇部
主演の浦井健治さんは前回同作公演時、「きじるしの王次」役を演じているため、今回の「心も身体も醜い佐渡の三世次役」に最初驚きました。だって、どうしても近くで拝見するとやはり滲み出るイケメンさがあるので…全然醜くないじゃんって…(笑)。しかしながら、観劇し続けると、浦井さんの演技力が素晴らしく、猫背の姿勢や目線、攻撃的で捲し立てるような言葉遣いや迫力に凄みがあり、次第に三世次という役柄と融合していき、違和感はなくなりました。三世次は残酷で憎らしい部分もありましたが、どこか憎み切れない人物でした。それは「誰しもが持つ」人間の欲や他者への僻み、嫉みなど黒い感情や、愛し愛されたい強い思いを投影したような、どこか共感するキャラクターだったからだと感じました。
写真提供/東宝演劇部
「キレイはキタナイ、キタナイはキレイ」浮世絵的な部分がありながら、この世の矛盾したような表裏一体な現実世界を投影しているようで、人間の核心に迫るようなハッとさせられる言葉や台詞がいくつもありました。そこが、シェイクスピア的であり、彼の37作品が盛り込まれているため、劇中、シェイクスピアのパロディや要素を見つけるのも面白く、作品を知っていると圧倒的に楽しめます。しかし、詳しくない方も楽しめる内容ですので敷居が高いと思わずにぜひご覧ください。私も全てはわからなかった部分があったので観劇後に、一緒に観た方と振り返ったり考察するのも楽しかったです。
華やかで妖しい不思議な世界…劇場が沸き立つような絢爛豪華な祝祭音楽劇『天保十二年のシェイクスピア』どうぞ劇場でお楽しみください!
写真提供/東宝演劇部
(文:あかね渉)
『天保十二年のシェイクスピア』
作:井上ひさし
音楽:宮川彬良
演出:藤田俊太郎
キャスト
浦井健治 / 大貫勇輔 / 唯月ふうか / 土井ケイト / 阿部裕 / 玉置孝匡 / 瀬奈じゅん / 中村梅雀 / 章平 / 猪野広樹 / 綾凰華 / 福田えり / 梅沢昌代 / 木場勝己 / 妹尾正文 / 新川將人 / 出口雅敏 / 武者真由 / 森加織 / 山野靖博 / 天瀬はつひ / 斎藤准一郎 / 下あすみ / 鈴木凌平 / 中嶋紗希 / 藤咲みどり / 古川隼大 / 水島渓 / 水野貴以
公演スケジュール
2024年12月9日(月)〜29日(日)
東京都 日生劇場
2025年1月5日(日)〜7日(火)
大阪府 梅田芸術劇場
2025年1月11日(土)〜13日(月)
福岡県 博多座
2025年1月18日(土)・19日(日)
富山県 オーバード・ホール 大ホール
2025年1月25日(土)・26日(日)
愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール