舞台『世界のすべては、ひとつの舞台』インタビュー特集

シェイクスピアの味見に最適 この世界に巻き込まれに来て! 『世界のすべては、ひとつの舞台~シェイクスピアの旅芸人』大澤遊・小田島創志インタビュー

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水戸芸術館プロデュース公演『世界のすべては、ひとつの舞台 ~シェイクスピアの旅芸人』を構成・演出する大澤遊と、翻訳を手掛けた小田島創志にインタビュー取材し、本作の魅力について聞いた。

『世界のすべては、ひとつの舞台 ~シェイクスピアの旅芸人』は、シェイクスピア作品を新しい翻訳と演出で創造する 水戸芸術館の新企画シリーズの第一弾。
シェイクスピア作品の劇中劇(『ハムレット』『夏の夜の夢』『テンペスト』など)を新世代の翻訳家・小田島創志が新しく翻訳。大澤遊がこれを構成・演出して新たな舞台として上演する。

とある旅芸人に芝居を依頼するハムレット役を演じるのは池岡亮介。そのハムレットの依頼を受ける旅芸人一座の団長は、数々のシェイクスピア劇に出演してきた松田洋治が演じるほか、2023年に水戸芸術館の人材養成事業「リーディング・プロジェクト」のオーディションを通過し、選抜された若手俳優と専属劇団ACMのメンバーらが出演し、新たに構成された旅芸人一座の物語を幻想的に描く。

エントレでは本作の構成・演出を手がける大澤遊と、翻訳を手掛けた小田島創志にインタビュー取材し、本作の魅力について聞いた。

STORY
パンデミックの中、突然現れたシェイクスピアの旅芸人たち
芸人一座が繰り広げる劇の舞台は、やがて見たこともない風景に

たくさんの荷物をのせた荷車が遥か遠くからやってきた。どうやら旅をする役者の一座らしい。団長の掛け声ひとつで、役者たちは次々に演じ始めるが、うまい芝居になかなか仕上がらない。ハムレットに依頼された劇がようやく見ごたえのあるものになるが、いつしか世界は違う劇の場面へと移っていく。戸惑う役者たち、舞台の行方はいかに…。

シェイクスピアの劇中劇に注目した演劇

――「シェイクスピア作品の劇中劇」に着目した企画意図を教えてください

大澤 まず、2023年からリーディングプロジェクトとして『ロミオとジュリエット』をやりました。これを2025年に本公演として上演しようと思っているのですが、この間の1年間をつなげられる作品を作りたいと思い今作を企画しました。そこでシェイクスピア作品の中から『ロミオとジュリエット』を思わせるものを探したところ、『夏の夜の夢』に出てくるピラマスとシスビーの劇中劇があり、こちらがまさに『ロミオとジュリエット』を模倣したシーンだったので今作は「これらの劇中劇に注目する演劇」にしようということになりました。
ただ、ピラマスとシスビーの物語だけだと短すぎるので、旅芸人の一座を中心に据えて、他の劇中劇も追加してやれたら面白いんじゃないかなと思い、今回の企画を構成しました。

 
――いろいろなシェイクスピア劇が出てくるんですね

大澤 そうですね。ひとつの旅芸人の一座が、シェイクスピアの世界に巻き込まれていくようなニュアンスで作っています。
ちなみにどうして旅芸人たちがいろんな芝居に巻き込まれていくかというと、パンデミックの影響を受けているんです。我々はコロナ禍を経験しましたが、シェイクスピアの生きた16世紀にはペストが流行して、劇場が封鎖されたため仕方なく地方に出てお金を稼がなきゃいけないっていうことがあったんです。だから彼らは生きるために旅に出てお芝居をしているというのが設定としてあります。

小田島 劇中劇との劇中劇の間のシーンは、役者さんたちにインプロ(即興劇)でやってもらい、そこで生まれたせりふを構成したり調整したりしていきました。
例えば『ハムレット』では、ハムレットが旅役者たちに芝居をさせて、それを元にクローディアスの犯罪をあばこうとするんですが、クローディアスは芝居を途中で終わらせて、ハムレットに激怒するという展開になってきます。じゃあ、芝居を中断させられた役者たちがどうなったかというと、そこはシェイクスピアは書いてないんです。「あの後、彼らはこんな感じで慌てながら逃げたんじゃないかな・・・」というのを、想像しながら作っているのが今回のお芝居なんです。 

古すぎず、新しすぎない、軽いタッチで

――シェイクスピア劇にはちょっと堅苦しいイメージがありますが、人間味があって馴染みやすそうですね

小田島 気軽にいくつかシェイクスピア作品をかじって味見してもらえるような企画ですね。

大澤 僕が最初の稽古で出演者に「粋な軽演劇を作っているつもりでお願いします」とお伝えしたんですが、割と軽いタッチで作っています。シェイクスピア自体が人間のことをよく書いているので、生き生きとした人間が生き生きと演じられるように作っていっています。

――今回新たに翻訳する上でこだわったことを教えてください。

小田島 今回『ハムレット』『夏の夜の夢』『テンペスト』の一部分を翻訳したんですが、言葉のリズムを損なわないように気をつけました。僕は今30代ですけれど、『ハムレット』『夏の夜の夢』に出てくる人物も20代から30代くらいが多いんです。シェイクスピア自身も20代〜40代で多くの作品を書いていたことも踏まえて、等身大となるような、古すぎず、新しすぎない訳を意識しました。

ダンス、音楽、言葉遊びも。

――聞いているだけで楽しくなってきました。ダンスや音楽のシーンもあるんでしょうか?

大澤 振付とステージングは水中めがね∞の根本紳平さんにお願いしていて、とても華やかなシーンを創作してもらっています。

小田島 『夏の夜の夢』にはダンスシーンがありますよね。

大澤 劇中劇の中には笑えるシーンもたくさんあります。彼らがハムレットと真剣に向き合い、本気で困ることが笑いを生み出す要素になっていると思います。あと、彼が小田島家の人間だからこそダジャレもいっぱい入ってきています。

小田島 実はシェイクスピア自体も高尚な言葉遊びだけではなく、くだらない言葉遊びも多いんですよ。

大澤 なので、堅苦しいシェイクスピアというよりは、ダジャレや笑いがあって、物語に巻き込まれていく。最後は華やかな祝祭劇で終わるという作品にしたいなと思っています。

――お稽古をしてみていかがでしょうか?

大澤 役者さんたちはとても真面目ですね。いい意味で、シェイクスピアの世界観に巻き込まれているかのようです。小田島さんから「シェイクスピアの時代も結構遊んでいたんだよ」ということを聞いて学んだことによって、今ようやく打ち解けて、色々なアイデアを出しながら、芝居が動き始めてきたかなというところです。

小田島 役者の皆さんはキャラクターが豊かですよね。一人一人、持っているものが違う方々が集まってくれた感があっていいですよね。

生き生きと描かれたキャラクターたちが魅力

――改めてシェイクスピア作品の面白さはどういうところにあると思いますか?

大澤 やはり人間が丁寧に描かれているところですね。主人公はいるけれども、切り口を変えると誰もが主人公になれるキャラクターが描かれていると思うんです。どのキャラクターもその時代にちゃんと息づいているというのが魅力的だなと思います。
いろんな時代の作品がありますが、根底は現代にも通じるものがある。だからこそ、いろんな人が今でもやるんだろうなと思います。

小田島 シェイクスピアって、今生きてたら僕は友達になれなかったと思うんです。こんなに人間を鋭く描ける人って、人間をちゃんと見ているから。嫌じゃないですか、そうやって見られるのは。ただ、くだらない言葉遊びとか、困っている人間を描いて笑わせるみたいな、今の現代演劇のコメディの笑わせ方にも通じる技術がちゃんとありますし、笑えるシーンも角度を変えるとニュアンスが違って見えることもあるので、いろんな視点から楽しめるのがシェイクスピア作品の魅力のひとつだと思います。

舞台『世界のすべては、ひとつの舞台』チラシ表面
舞台『世界のすべては、ひとつの舞台』チラシ

予習は不要。この世界に巻き込まれに来て!

――本作を見るにあたって、予習をしておいた方が良いでしょうか?

大澤 僕は予習はいらないと思っています。というのは、ここに登場する旅芸人たちも、シェイクスピアの世界に巻き込まれていく人たちなので、お客さんも「なんなんだ、これ!?」という気持ちで、一緒に巻き込まれて欲しい。もしそれで、興味を持った作品があれば、その後読んでもらえたらいいなと。「シェイクスピアってなんなんだろう、面白いの?」って思っている人たちにこそ、是非観にきてほしいです。

小田島 これをきっかけに、初めて『ハムレット』や『夏の夜の夢』を読んでもらえたらうれしいですよね。たぶん、「どんな人が観ても楽しめるシェイクスピアの味見」という側面がこの作品にはあると思います。演劇をそこまで観たことがない方も、シェイクスピアに興味がある方にも楽しんでいただける舞台に、大澤さんがしてくれると思います。僕もこれからどう進化していくのか楽しみです。

 
台『世界のすべては、ひとつの舞台』
左から翻訳:小田島創志、構成・演出:大澤遊

 
本作は1月25日(土)から水戸芸術館で上演される。
詳細は公式サイトで。
https://www.arttowermito.or.jp/theatre/lineup/article_4235.html

(文:森脇孝/エントレ編集部)

公演情報

『世界のすべては、ひとつの舞台 ~シェイクスピアの旅芸人』

【原作】W.シェイクスピア 【構成・演出】大澤遊 【翻訳】小田島創志

【 出 演 】
池岡亮介、伊海実紗、伊藤ナツキ、今井公平、西奥瑠菜、八頭司悠友
塩谷亮、大内真智、小林祐介(以上劇団ACM)
松田洋治

【公演日程】 2025年1月25日(土)~2月2日(日)
1月25日(土)14時開演
1月26日(日)14時開演
2月1日(土)14時開演/18時30分開演★
2月2日(日)14時開演
※開場は開演の30分前

【会場】
水戸芸術館ACM劇場

公式サイト
https://www.arttowermito.or.jp/theatre/lineup/article_4235.html

チケットを探す
https://www.arttowermito.or.jp/ticket/

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