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現代に響く愛と運命の物語…舞台『血の婚礼』観劇レビュー

撮影: 田中亜紀

あらすじ
灼熱の大地スペイン、アンダルシア。

20年前、ある家族の父親、長兄がフェリクス一族に殺された。母親(秋山菜津子)は暴力への憎しみを全身に宿しながら残った息子(宮崎秋人)を育てる。

その息子が成長し、結婚相手を決めても、母親の心が晴れることはない。息子が選んだ花嫁(伊東蒼)は、フェリクス一族のレオナルド(中山優馬)と恋人関係だったという噂があるからだ。

レオナルドには妻(岡本玲)と子どもがいる。しかし幸福な暮らしではなかった。花婿と花嫁の婚礼は、花嫁の父(谷田歩)の家で開かれ、早朝にレオナルドが花嫁を尋ね、いまだ燃え盛る熱情を告げる。

花嫁は動揺を隠して婚礼の一日を過ごすが、祝宴の真っ最中、レオナルドとともに姿を消してしまう。皆がそれに気づき、大騒動と化す婚礼。花婿は、花嫁とレオナルドを追いかける。

森のなか、「月」が若者たちを照らし「死」が囁きかける。そして、悲劇が起こる

 
今作はスペインを代表する劇作家フェデリコ・ガルシーア・ロルカが、実際の事件をもとに書き、ロルカの三大悲劇の一つと言われている戯曲です。互いの家族に祝福され結婚式を迎えようとしている一組の男女の元に花嫁の昔の恋人が現れ、運命が狂い始めます。冷静や沈黙を爆発させるような血の衝動…伝統や因習に縛られた男女の思い…
演出は、栗山民也氏が手掛け、見応えのある作品に仕上がっています!

 
撮影: 田中亜紀

結婚という「幸せの象徴」のような出来事の
「現実」と、身の毛もよだつような「怖さ」を突きつけられるような作品でした。

終始、観劇中はわなわなとした不気味さ、息苦しさを感じます。登場人物の激しい熱情と、渦巻く思いは色々な人々を巻き込み、後戻り出来ない苦しさとなって増幅し続け「事件」を引き起こします…狂おしい程の愛に翻弄され起こってしまう悲劇は、観ていて辛さしかありませんでした…
しかし、どこか美しさを感じる不思議な魅力がありました。
表向きは、冷静に取り繕い、日々生活する人々の、内では激しく蠢く感情がこれでもかと表現されており、そこがリアルで人間らしく、演出の素晴らしさと喰らいつくような役者の情熱を感じました!
撮影:田中亜紀

印象的なシーンがいくつもありますのでご紹介します!
結婚式の早朝、レオナルドが自分の妻子を置き、馬で駆け付け花嫁に思いをぶつけるシーン。
妻子がありながらも抑えきれない気持ちを花嫁に伝える様は愛するが故に発生する怒りや嫉妬など様々な思いが溢れる場面でした。元恋人レオナルドへの気持ちを断ち切り結婚しよう!と心を決めた花嫁ですが、実際目の前にレオナルドが現れると、激しく動揺してしまいます。淡々と冷静にレオナルドや自分の思いを宥めようとしながら、「既に決まった結婚をしなければならない自分」と本当は諦めきれないレオナルドへの思い、全てを捨てて逃げてしまいたい本音の狭間で揺れ動く花嫁の感情の起伏が目に見えるようで胸をえぐられました。
結婚式当日は、本当なら幸せの絶頂のような日ですが、
「後戻りできない結婚」を目の前に「本当に自分はこの結婚をして良いのか?」「した方が良いのか?」「すべきか?」本音とは裏腹に「結婚しなければならない現状」に追い込まれる花嫁の気持ちは「これがマリッジブルーというものか」と未婚の私はこの舞台を観ることでリアルに感じることができました。撮影:田中亜紀

親や義母、花婿や結婚準備を手伝う人々が次々にお祝いの言葉を述べ、幸せそうにしているのを見る度、心がちくりと痛み、自分がこの思いを我慢すれば全て上手くいくからと感情に一旦蓋をする花嫁の気持ちもわかりはしますが、どんどん悪い方向に進んでいってしまう状況に、観劇しながら登場人物達に手を差し伸べたくなりました。巻き戻せない時と、掛け違ったボタンのように上手くいかない状況は苦しさしかありませんでした。

今作はスペインの農村の話で時代背景や田舎の閉塞感、狭い人間関係、家族同士の関係性もあり、逃れられない「儀式」感をより強く感じますが、「結婚」を前にした花嫁の揺れ動く感情や取り巻く環境は時や場所を越え共通する部分があると感じました。

撮影:田中亜紀
抑えていた思いが遂に爆発し、追っ手から2人で逃げているシーン。お互い気持ちを曝け出し思いを吐露します。地を這うようにしてレオナルドの足の甲に頬ずりし、彼を見上げ「なんて美しいの…」と呟く場面は物語の全てを表しているようでした。危険な程に激しい性格でありながらも、そこが情熱的で魅力的に感じるのはレオナルドを演じる中山優馬さんだから説得力があるように感じました。吸い込まれるような眼力と、ひれ伏してしまうような美貌、男らしさは女性ならどうしようもなく惹かれてしまいそうになります。
撮影:田中亜紀
今作は、レオナルド役の中山優馬さんの役柄の適正はもちろんですが、どの役者さんも配役が合っていて役を全うしているように感じました。

花嫁役の伊東蒼さんはピュアで幼い見た目ですが、内に強い気持ちを持っており、繊細でありながらも激しく揺れる女性の心の葛藤を表現されていました。

宮崎秋人さん演じる花婿は、花嫁が罪悪感に苛まれるのもわかるくらいに優しく包むようにまっすぐに花嫁を愛し誠実な姿がみえました。
撮影:田中亜紀

レオナルドの妻役の岡本玲さんは、冷え切った夫婦関係の中で必死に妻として母として家族を守ろうとする姿が健気でした。

花婿の母親の秋山菜津子さん、花嫁の父親の谷田歩さんはリアルなシーンとはまた別の役で登場されます。シンプルな舞台上で引きずるような布を纏い歩く男性、不敵に笑う老婆…存在感と2人の演技力が抜群で、物語の幻想的で重要なシーンを担っているように感じました。
撮影:田中亜紀

煌びやかさや派手さはないですが、表現が何とも舞台的で役者さんの演技が光る作品でしたので、ぜひ劇場で見て頂きたいです!

(文:あかね渉

公演情報

舞台『血の婚礼』

【作】フェデリコ・ガルシーア・ロルカ
【翻案】木内宏昌
【演出】栗山民也
【出演】
中山優馬、宮崎秋人、伊東蒼、岡本玲、
舩山智香子、柴田実奈、金井菜々、角川美紗 、谷田歩、秋山菜津子

◻︎東京公演
【日程】2024年12月7日(土)~12月18日(水)
【会場】IMM THEATER(東京都文京区後楽1丁目3-53)

◻︎ 兵庫公演
【日程】2024年12月28日(土)、29日(日)
【会場】兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール(兵庫県西宮市高松町2-22)

公式サイト
https://chinokonrei24.srptokyo.com/

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