日に日に広がりを見せる北村×明日海コンビの『王様と私』観劇レビュー
リチャード・ロジャース&オスカー・ハマースタイン二世の代表作として、世代を越えて世界中で愛されてきた『王様と私』。1952年第6回トニー賞作品賞、主演女優賞を含む5部門を受賞。日本では1965年に日本初演を迎え、日生劇場公演は1996年9月以来、なんと28年ぶりの上演となります。
言わずと知れた名作。今回の上演で作品を初めて観る私も、まだミュージカルを知らなった幼少期に、あの有名なダンスの一場面をテレビのニュース番組で見たことがあります。そもそも70年以上も前に初演された作品ですから、当時の時代感や価値観が今とはかけ離れています。今回は小林香さんが演出を担当し、時代に沿って新しくアップデート。往年のファンの方から、今回作品を初めて観るという方まで、多くの人の心を掴んで離さない、そんな作品になっていると感じます。私も今回の作品を一度観た日から作品の世界観に心を奪われ、観劇を重ねている一人です。
そこで今日は、遅ればせながらみなさんに「王様と私」の魅力を、選び抜いた写真と共にお伝えさせていただきます!
舞台は1860年代のシャム(現タイ)。
国の未来を背負い苦悩する国王と、西洋文化を取り入れるために雇われたイギリス人の家庭教師アンナのお話です。
シャムの王様(北村一輝さん)は、「難問だ」が口癖の王様。国の未来を背負う身として、植民地化を図る欧米列強が迫る中、苦悩します。一見ムッとした印象がありますが、悩ましい問題を抱えながらも国のため外からの情報を広く学び、シャムの近代化を進めようとする勤勉な人。
ぶっきらぼうながらも子供をみつめる眼差しはあたたかく、そんな王は子供からも慕われ、威厳ある王に抱きつく子供もいるほど。そんな一場面から父としての優しさ・愛情深さも感じます。
北村さんの王は、立っているだけで華やかで存在感抜群。そしてワイルドなモヒカン(で合っているでしょうか)がよく似合っています。色気のある声はみなさん既にご存じかもしれませんが、特に注目したいのは王様のソロナンバー。歌声が日に日に身体に響きわたり、迫力が増しています。このあたり、北村さんの今までの経験というかさすがの芝居勘というのか、舞台上で日に日に魅力的になっていく様は、ミュージカル初出演とは思えない堂々の舞台姿でした。
王家の子供たちの家庭教師として雇い入れられたイギリス人女性・アンナ(明日海りおさん)。冒頭では、大きな船でシンガポールからはるばる、たくさんの荷物と共にシャムへやってきます。裸(半分、ね)のシャムの人々を見て驚き、イギリスとは何もかも違う異国の地に怯えつつ、そんな時は「口笛を吹けばいい!」と息子のルイス(Wキャスト:木村亜有夢さん・田中誠人さん)と勇気を奮いたたせ、歌います。
アンナは賢くしなやかな女性で、異国でも自分の芯がぶれることはありません。
誇り高く生きながらも、シャムの子供たちに教え、そして子供たちからも学ぶ中でシャムの文化や人々を理解していきます。明日海さん自身が、家庭教師アンナとしてとても自然に息づいていて、言葉の端々から子供への愛や品性、知性を感じます。
そして(勝手ながら明日海さんの専売特許だと思っているのですが)安心と信頼の表現力とビジュアル。
王への怒りを爆発させながら歌うナンバーでは、感情が乗った砕けた歌い回しをしながらも、しっかりと押し出しのある歌声で歌い上げます。その他にもころころと変わる表情とチャーミングな身振りと…1つナンバーの中で見どころが満載で、とても聴きごたえがありました。
大きなドレスの着こなしとドレス捌きも見事で、ドレスから見える白い肌と綺麗なフェイスライン、デコルテ。うっとりするほど美しいドレス姿はプリンセスかと思いました。カーブのついたふわふわのブロンドヘアは、本当に生えているのではと毎回思ってしまいます。そのあたりの作りこみはさすが、美術・衣装さんのみならず明日海さんご本人のメイクや着こなしへのこだわりが伺えます。
権力を持ち、国内のすべてのものを服従させてきた王と、おかしいことはおかしい、約束は約束。(いたって正論なのですが)王という権力を前にしても一歩も引かないアンナ。
自分の主張を両者とも譲らず言い合い、でも呼吸のあう場面もあり、仲が良いんだか悪いんだか。時々冷や冷やしながらも、二人が会話する様子が微笑ましく、テンポの良さが心地よく感じました。北村さんと明日海さんのお芝居の親和性がとても高くて、今やその掛け合いの虜です。日によって、回によって変化しており、それを楽しんでいる様子が、お二人のお芝居の肌感が似ているのでしょうか、観ていて飽きない(ずっと観ていたい)ペアだなと感じました。
もちろん言い合いをしているばかりではなく、イギリスの外交官ラムゼイ卿(中河内雅貴さん)が突然やって来た時にはアンナが(それとなく)サポート。これをきっかけに二人の距離がぐっと近くなることになります。
あの有名なダンスシーン「シャル・ウィ・ダンス?」では、広い舞台上を駆け巡るようにダイナミックに踊り舞います。どの瞬間を切り取っても絵になる美しく優雅なダンスは、ぜひ目に焼きつけたい一場面です。
王とアンナの関係は、北村さんと明日海さんの関係にも重なる点があるのではと個人的に感じています。映像と舞台と、それぞれ主戦場が異なる二人が、劇中で「二人でよい方法を思いついた!」とでも言うように、補い合い、作用し合う。二人の化学反応が作品の世界観をより広げ、立体的にしているのではないでしょうか。お互いが今までにないものを引き出し合っているように見えました。
アンナは王様だけでなく、周りのいろんな人物に影響を与えていきます。
ビルマから来たタプティム(朝月希和さん)やルンタ(竹内將人さん)、王様を献身的に支えるチャン王妃(木村花代さん)。それぞれが歌うナンバーは、メインビジュアルの月夜のように、美しくも切ないシーンで胸に迫ります。これから作品を観る方には、タオルを持っていくことをおすすめします。(笑いもありますが、文字通り涙もあり、です)
そして王の息子、チュラロンコン王子(Wキャスト:立石麟太郎さん・前田武蔵さん)もアンナの教えに少しずつ影響され、学び、成長していきます。子供たちが小さくてかわいらしく、その成長過程や一生懸命さにも胸がいっぱいになりました。
そして今回の演出で特徴的なのは、舞台セット。
オーケストラピットの手前に通路(宝塚歌劇で言う銀橋のような道)があり、役者をより近くに感じることができます。時には目的地までの通路、時には登場人物の気持ちの高ぶりを表現するメインステージとして。登場人物の表情や心情がよりくっきりと迫りくる感覚を感じられるのも、このセットの効果かもしれません。
また、美しい音楽も外せません。華やかさはさることながら、極めて自然な流れで音楽が耳に流れこんでくるのは、翻訳・訳詞を担当した小林さんの美しいことばの力が作用しているのだと思います。歌いだしに唐突さがなく、観る側も無理なく付いていけるのは、登場人物の心情の変化が自然に表現されているからではないでしょうか。どれも耳に残る魅力的なメロディーで、名ナンバー揃い。一度聴いたら耳から離れなくなること間違いなしです。
泣く泣く選抜から漏れ、ここでは載せきれなかった写真もありますが…
日に日に膨らみ、より魅力的・立体的になっている『王様と私』の世界観。
美しい音楽や衣装、そして登場人物の表情はぜひ劇場で感じてみてください。
本作は4/30(月)まで東京・日生劇場で上演し、そののち大阪・梅田芸術劇場メインホールでも上演されます。
詳細は公式サイトにて!
https://www.tohostage.com/thekingandi/index.html
(撮影・文:真来こはる)
ミュージカル『王様と私』
【音楽】リチャード・ロジャース
【脚本・歌詞】オスカー・ハマースタインII
【翻訳・訳詞・演出】小林香
【出演】
王様:北村一輝
アンナ:明日海りお
タプティム:朝月希和
ルンタ:竹内將人
チャン王妃:木村花代
ラムゼイ卿:中河内雅貴
オルトン船長:今拓哉
クララホム首相:小西遼生
アンサンブル:井口大地、伊藤かの子、風間無限、笠行眞綺、金子桃子、河野駿介、黒田陸、酒井航、島田彩、鈴木遼太、聖司朗、西尾真由子、福満美帆、松田未莉亜、丸山泰右、宮河愛一郎、村上貴亮、村上すず子、矢野友実、吉田玲菜、植木達也(スウィング)、油井杏奈(スウィング)
チュラロンコン王子(Wキャスト):立石麟太郎、前田武蔵
ルイス(Wキャスト):木村亜有夢、田中誠人
王子・王女(Wキャスト / 日替わり出演):有澤奏、井澤美遥、猪股怜生、大久保実生、川田玲那、木村日鞠、木村律花、杉山穂乃果、高橋玲香、戸張柚、中西縁、萩沢結夢、古正悠希也、森田みなも、若井愛夏、若杉葉奈
2024年4月9日(火)~30日(火)/東京・日生劇場
2024年5月4日(土・祝)~8日(水)/大阪・梅田芸術劇場 メインホール