魔女の宅急便の原作は児童文学作家・角野栄子氏の児童書で、1989年にはスタジオジブリによって映画化され大ヒットを記録した作品です。2017年にミュージカル化され、その後2018年、2021年と再演が繰り返されてきました。そんな大人気ミュージカルが、山戸穂乃葉さんを主演に迎えて、3月8日(金)から日本青年館ホールにて再上演されています!
ファンが多い作品なので、プレッシャーと戦いながらの稽古期間だったと思いますが、すべてのキャストがその世界に息づいている素敵な作品に仕上がっていました。
13歳になった魔女のキキは、古くから伝わる習わしにのっとり、相棒の黒猫・ジジと共に満月の夜に旅立つ。自分で新しい町を見つけ、一年後には自力で暮らせるようにならなければいけないが、空を飛ぶ魔法しか知らないキキは、新しい町コリコでも様々な壁にぶつかる。皆が家族同然の小さな街で育ったキキは、大きな町での価値観の違いに驚き、また魔女であることに対する好奇の目や偏見にも苦しむ。
自分という小さな存在に葛藤しながらも、飛ぶことに憧れる少年トンボとの交流や、パン屋のおソノさんに励まされながら、思春期の少女は少しずつ成長していく。
飛べることを生かしお届けもの屋さんを始めたキキだが、なかなかうまく町に馴染むことができない。何かとちょっかいを出してくるトンボへの淡い恋心も、まだまだ子どものキキにはその気持ちを整理することができない。
そんな中、町長からある依頼がくる。それは町の一年で一番大きな行事に関わる重要な仕事。キキは無事にその依頼を果たせるのか。そしてトンボとの淡い恋の行方はどうなっていくのか?!
角野栄子(原作者・監修)
コロナで上演できない年も続いた、「魔女の宅急便」のミュージカルが、装いも新たに再出発いたします。 初々しいキキとトンボさんとともに、新しい役者さんたちが、 コリコの町を飛び回ります。 そして、あなたに、やさしさをお届けします。 大切な人々に、明るい明日がきますように。 世界中の人々に、明るい明日がきますように。 強い願いを込めて、舞台の幕が上がります。
初日前会見には、キキ役の山戸穂乃葉さん、トンボ役の深田竜生さん、コキリ役(キキの母親)の生田智子さん、オキノ役(キキの父親)の横山だいすけさん、フクオ役(おソノの旦那)の藤原一裕さん(ライセンス)、おソノ役の白羽ゆりさんが登壇。
撮影:伊藤智美
山戸さんは「初めは自分が主演で大丈夫なのかなと不安が大きかったですが、今はとても楽しいので、何も考えず頑張ろうという気持ちです。」とコメント。
山戸さんについて尋ねられた白羽さんは「ダメ出しから逃げないところが、キキと穂乃葉ちゃんの成長重なった」と評価し、生田さんは「(山戸さんは)呑み込みが早く、言われたことをすぐに直せる」と絶賛。
山戸さんをほかのキャストが見守っているような和やかな会見で、こちらもほっこりする時間でした。
そんな温かなカンパニーが作る舞台は、やっぱり温かくて優しい…!ジーンとする場面が多々ありました。
それでは、さっそく公演の感想をお伝えします。
キキ役:山戸穂乃葉さん
可愛らしい少女の佇まいがぴったり。ご自身は囲み取材で「地声が低いので、高い声で頑張っている」と発言していましたが、努力の成果が発揮され、声は高くてキュートな印象。
キキはまだうまく空を飛べないのに、木にぶつかりながらも飛び続けるような少女です。そんなキキのお転婆な面を見事に体現していました。個人的に印象的だったのは、キキが自分の住む街を探すためにほうきで空を飛んでいる場面。大きな表情の変化はないのですが、背筋を伸ばしてほうきで飛んでいる姿が、映画のキキにそっくりで、「本物のキキがいる…!」と錯覚してしまい…(笑)ワイヤーで吊るされて飛んでいる彼女を、ときめきながら見上げている自分がいました。
フレッシュで毒がなく、落ち込むこともあるけれど、前を向ける強さがある…山戸さん自身の魅力と、キキの魅力が相まっているのでしょうか?誰もが応援したくなるようなキキでした。
トンボ役:深田竜生さん
優しくておっちょこちょいで、とても真っ直ぐなイメージがあるトンボ。深田さんが演じるトンボも、まさにその空気があって。乙女心があまり分からない鈍くさいところさえも、愛おしくて可愛い…そう思えるトンボでした。
映画よりも恋愛に重きを置いた今作。キキのために荷物を運ぶ方法を考えたり、パーティーに来たのに帰ってしまったキキに困惑したり…キキの行動に一喜一憂しながらも、まっすぐな心でぶつかる姿は、まさに青春。深田さんの“一所懸命なお芝居”が、トンボの一途な気持ちにリンクしていて、優しいお芝居をする役者さんだと感じました。
キキの両親役(コキリ・オキノ):生田智子さん、横山だいすけさん
キキの成長を嬉しく、ちょっぴり切なく思っていることが伝わるお芝居で、理想の両親そのものでした。
特に「誰の中にも魔法はある」と、コキリ(生田さん)がキキに歌う場面が印象的。私の座席からは、生田さんの後ろ姿しか見えなかったのですが、背中から包容力を感じました。
そして、娘のことが心配でたまらない様子を体現していた横山さん。うたのおにいさんだったからでしょうか?とにかく、持っているオーラが優しくて。キキとコキリを見守っている姿から、3人が過ごした時間の濃さ、愛情の深さを感じました。
フクオ役(おソノの旦那):藤原一裕さん(ライセンス)
言葉は発しませんが、ずっと見守っている姿が印象的なフクオ。おソノがキキを見守っていられるのは、彼の存在があるからだろうと感じさせる柔らかさがありました。
個人的に印象に残っているのは、体を壊したキキにおソノが「あなたの心の栄養になる人を想って眠りなさい」と歌って階段を降りようするところ。オソノに優しく手を差し伸べるフクオを見て、オソノの歌が反芻されて…。「誰にだって必ず大切な人がいるんだな」と温かい気持ちになりました。
おソノ役:白羽ゆりさん
個人的に、すごく好みだった白羽ゆりさん演じるおソノ。小顔で美人な方なのに、豪快なおソノの立ち居振る舞い、笑い方が見事に再現されていました。キキにとって、おソノは第2の母のような存在のはず。白羽さんのおソノには、“ふるさと”のような気楽さと頼もしさがあるので、キキが母のように慕うことができたことにも納得です。特に、体を壊したキキを看病しながら歌うおソノさん…包容力と母性に溢れていて涙腺が緩みました。
撮影:伊藤智美
歌とダンスが非常に多く、ミュージカルを思う存分楽しめる本作。主要キャスト以外の方々の力強いダンスや歌も印象的で、隅から隅まで見てしまい、まったく目が足りませんでした!
また、映画に比べて“魔女”に対する恐怖や偏見が強く描かれていたのも印象的。フラットな心で物事をとらえる難しさを痛感しながら、「こんな時代だからこそ、より響くのかもしれない…」と感慨深くなりました。
上演時間は約2時間(休憩時間を除く)。ほかのミュージカルに比べると短いですが、その分内容が凝縮されているという印象を受けました。自分の中にある“好き”や“得意”を魔法だと考えると、明日がもっと楽しくなる。押しつけがましくないけれど、愛のあるメッセージがたくさん詰まっている作品です。
ぜひ劇場で観劇して、たくさんの愛を受け取ってみてください!
本作は3月17日(日)まで東京・日本青年館ホールで上演されます。
詳細は公式サイトで。
http://www.musical-majotaku.jp/
(文:山本萌絵)
ミュージカル『魔女の宅急便』
【脚本・演出・振付】岸本功喜
【作曲・音楽監督】小島良太
【出演】山戸穂乃葉
深田竜生 生田智子 横山だいすけ 藤原一裕(ライセンス) 白羽ゆり 他
2024年3月21日(木)~3月25日(月)/大阪・新歌舞伎座