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ハレの日の素敵なことを味わいに行こう 『エブリ・ブリリアント・シング』 ~ありとあらゆるステキなこと 観劇レビュー

「エブリ・ブリリアント・シング ~ありとあらゆるステキなこと~」撮影:田中亜紀

「エブリ・ブリリアント・シング ~ありとあらゆるステキなこと~」撮影:田中亜紀ハレの日の素敵なことを味わいに行こう 『エブリ・ブリリアント・シング』 ~ありとあらゆるステキなこと 観劇レビュー

唐突な話題ではありますが、人生で子供の頃に「ごっこ遊び」を通ってこなかった人はおそらくいないんじゃないでしょうか。もちろん、男女問わず。
自分ではない何かになりきる、と言う行動は子供の頃ではとても当たり前にやっていたのに、それがどんどん大人になるにつれて、「人前で何かをやること」は「恥ずかしいこと」「避けたいこと」となっていく人も多くなっているように思います。もちろん「仕事のプレゼンや取引先とのやりとり」「こっちのコミュニティに属している人には見せる顔」と、日々の生活でも色々な顔を使い分けてるとは思います。


「エブリ・ブリリアント・シング ~ありとあらゆるステキなこと~」撮影:田中亜紀

さて今回、新訳・新演出での再演となった『エブリ・ブリリアント・シング』、新型コロナウイルスの影響で一部公演が中止となってしまい、3年ぶりにまさしく”満を持して”の上演です。
台本としては”一人芝居”ではありますが、実際は”役者1人+観客全員”芝居と言っても過言ではない作品。舞台には緞帳もなく、客席と舞台が対面している一般的なものではありません。四方が客席で中央に舞台、客席エリアの全てを含めて空間そのものがまず舞台です。
ソーシャルディスタンスとか、客席や通路を使う演出、とにかくキャストとスタッフ・関係者ですら会わないようにしていたこの3年間じゃあできないね!ようやく再演できるようになったことに時代の変化を感じつつ、観て思ったのは「もしこの作品が『初めて観た舞台』だったら舞台に対して食わず嫌い、嫌悪感を持っている人も単純に嫌な思いとかをしなくて済んだかもなあ〜」ということ。


「エブリ・ブリリアント・シング ~ありとあらゆるステキなこと~」撮影:田中亜紀

私のように普段は舞台の制作を生業にしていて、ライターとして色々な舞台を観に行く人間は観劇慣れしていますが、世間的には「黙ってじっとしているのが苦手、内容が難しいと尚更しんどい」「客席が暗くなるのもしんどい」「学校の芸術鑑賞会で強制的に・・・」など観劇に対してネガティブな感情を持っている人が存在しているのも一つの側面としての事実。中高時代の芸術鑑賞会、正直いい思い出ないなあ、と今この仕事をしてる私ですら思ってます。
開演前の客席の喧騒が、開演直前に照明がすっと落ちてさざなみのように引いていき、いよいよ始まるぞと固唾を飲んで舞台を見つめる時間も私は大好きなんですけど、ああいう空間が緊張を強いられてしんどい!というのもわかる!感じ方は人それぞれ!!
と、いう面では今作はかなりリラックスして観れる作品です。

まず唯一の登場人物である「ぼく」こと佐藤隆太さんが客席が会場したらお出迎えしてくれます。います、いるんです、キャストの方が先にいるってなんか不思議な感覚ですけど。そしてカードを配ったり、小物を渡したりするのですが、ここも本当に丁寧にコミュニケーションをとりながら声がけしてくださるんですね。ちなみに「どうしても無理!!!」なら断ってもOK、観てるだけがいいのもOK。無理強いは一切ありません。
「観客も舞台の一部」という表現よりは「そこにいるみんなでこの場をふわ〜っと囲む」という優しい印象です。ゲネプロの日は開演前に佐藤さんがスタッフさんに「あと何分?」「もう少しお待ちください〜」などおしゃべりしながら会場をぐるぐる回ってました。距離の近さに改めてびっくり。座席に水とか小道具とか入れたポーチも置いてあって水飲みながら「みんな見てる中で飲むのとかそんなないよ〜」と


「エブリ・ブリリアント・シング ~ありとあらゆるステキなこと~」撮影:田中亜紀

でもそんな中、開演する瞬間はブザーが鳴ったり、音楽が流れ始めたりするわけではなく、ただすっと一瞬照明が変わって、声のトーンが変わって語り出すので一気に切り替わります。その瞬間からは「本番」です。
「ぼく」が語り出すのは子供の頃からの自分の人生の話、そして「ありとあらゆる素敵なことのリスト」の話。タイトルから受ける印象が「すごくハッピーな幸せな物語かな?」と思っていたのですがいやはやこれが結構ヘビーな話。子供時代のこと、最初に別れたペットのこと、獣医さん、母のこと、父のこと、カウンセリングの先生、そして大学時代の恋人のこと。「ぼく」がその時どう思っていて、でも今の僕だったらどう思うか、を語っているうちに物語に引き込まれていきます。ただ「あ、これそう言うテーマなのね」というのはあくまで1要素。「こう言う作品だからこう!」「作品のメッセージはこう!」と押し付けたり、何かを考えさせるようなことはなく、どちらかといえば「こんな感じなので感じ方は皆さんに任せますわ」と答えを出すことは一切求められてないです。ただそこにあることを受け入れるという印象です。


「エブリ・ブリリアント・シング ~ありとあらゆるステキなこと~」撮影:田中亜紀

そして一方的に受信するだけにならないのが今作。ここで開演前に配られていたカードが生きてきます。「番号が書いてあるので僕が番号を言ったら言ってくださいね」と事前に言われていた通り、観客が「ぼくのリスト」になる場面が出てきます。これはいつ自分の番号が呼ばれるかわからないから本当にドキドキ。気がつけば「あ、呼ばれてる!」なんてこともきっとあるでしょう。ただただ見てるだけ、では終わらない作品です。
ちなみに私の観劇したゲネプロ回では、カードを1枚と、一番最初のシーンでなんと舞台上に「獣医の先生役」で呼ばれて登場することに・・・!セリフは全部佐藤さんが「こう言ってください」とアシストしてくれるし、動きもこう受け取ってくれるので当日ご指名された方はぜひ!!遠慮なく!!いきましょう!!作中何回かあります!恥ずかしかったら断っても「それもこの上演回での答え」です。実際断られたこともあるそうですが、そのシーンも逆に見てみたいと思ってしまう即興性がこの作品の魅力のひとつでもあります。


「エブリ・ブリリアント・シング ~ありとあらゆるステキなこと~」撮影:田中亜紀

演劇の制作的に告知を書くなら、「上演時間は本編1時間+開場から開演までの30分も出入り自由ですのでお楽しみください」「“ぼく”役のほかのキャストは全公演シャッフルとなっております」というところ。個人的には学校の体育館や地域の公民館とかで上演するのも向いてそうです。今後地方巡回もありますが、本当に全ての公演がその回の人たちだけしか知らない、そこにいた人たちだけが味わえる、全てのステージでの反応が気になるところ。

「今後もライフワークとして続けていきたい」「(芸劇の芸術監督の)野田さんの年齢までは」と佐藤さんも意欲を見せている今作品。観劇慣れしてる人間がいうと烏滸がましいかもしれませんが、演劇・観劇苦手勢にお勧めできる作品は?と聞かれたら一押ししたい作品です。もちろん、演劇大好き勢にもおすすめの一作であることは言うまでもなく。
コロナ禍でただ普通に公演を実行できることが奇跡、と言われていた3年間を経て、やはりこの作品はここでしか、その人が観た回はそこで場所と時間を共有した者同士でしか味わえないミラクルな公演です。

ちなみに、佐藤さんの素敵なリストは「3人いるお子さんが普段は奥さんが見てくれているけど、休みの日にご飯を作ったときに『おかわり!』と言ってくれること」だとか。
人生の幸せは、あたり前の日常の中にある。客席を後にする時にはそんなハッピーな気持ちになれる作品です。

(文:藤田侑加

公演情報

『エブリ・ブリリアント・シング〜ありとあらゆるステキなこと〜』

【作】EVERY BRILLIANT THING by Duncan Macmillan with Jonny Donahoe
(ダンカン・マクミラン+ジョニー・ドナヒュー)

【翻訳・演出】 上田一豪
【出演】 佐藤隆太

【東京公演】2023年8月11日(金・祝)〜8月27日(日)
/東京芸術劇場 シアターイースト
【豊橋公演】2023年9月1日(金)~3日(日)
/穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース
【富山公演】2023年9月8日(金)~10日(日)
/オーバード・ホール 中ホール
【水戸公演】2023年9月16日(土)~18日(月・祝)
/水戸芸術館 ACM劇場
【いわき公演】2023年9月22日(金)~ 24日(日)
/いわき芸術文化交流館アリオス アルパイン大ホール 舞台上舞台
【北九州公演】2023年9月30日(土)~ 10月1日(日)
/J:COM北九芸術劇場北九州芸術劇場 中劇場(舞台上客席)
【熊本公演】2023年10月3日(火)
/熊本県立劇場 演劇ホール(舞台上)
【高知公演】2023年10月7日(土)~10月8日(日)
/高知市文化プラザかるぽーと 大ホール(舞台上舞台)
【大阪公演】2023年10月13日(金)~15日(日)
/茨木市市民総合センター(クリエイトセンター)センターホール 舞台上特設劇場
【名古屋公演】2023年10月17日(火)~ 18日(水)
/千種文化小劇場
【松本公演】2023年10月21日(土)~22日(日)
/まつもと市民芸術館 特設会場
公式サイト
https://www.geigeki.jp/performance/theater342/

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