世は空前のソフトボールブーム。誰もがソフトボールを習わされており、例に漏れず平凡なOL縁緑(吉岡里帆)もその一人。周りに合わせて好きでもないソフトボールを続けています。冒頭から”そんなことある?”とつっこんでしまいそうな設定ですが一旦飲み込み(笑) 義務の様に感じて自分の意思に反して行動していることあったりするよなあ、うんうんと共感させられたところで、緑はソフトボールのゲーム中に謎の穴に落ちてしまいます。
迷い込んだ町は「スルメが丘」。絵本のようなタッチの舞台に、名前の通り町中にスルメが干してある少し変わった町。町民から話を聞くに、なんとシンデレラや浦島太郎など童話の登場人物が生まれる「物語の世界」のようで・・・
クセ強めな世界で生活する緑
緑は助けてくれた町娘のクロエとその家族と一緒にしばらく生活することに。緑が話せば話すほど、スルメが丘の話を聞けば聞くほど異世界の話にお互い驚くことになりますが、徐々に打ち解けていきます。中でもクロエ(鞘師里保)と女子トークを繰り広げ、きゃっきゃと話している様子がとてもかわいらしいです。
舞台初主演という吉岡さんは真っ直ぐな瞳と大らかさ漂う出で立ちが、緑の芯の強さと異世界で流れに身を任せる姿にとても似合っていて、鞘師さんも可憐さと天然さを感じさせる声が大切に育てられたクロエにピッタリ。クロエの両親には岩崎う大さん、もりももこさん。今回作・演出を手掛けた岩崎さんはクスっと笑いを起こすような場面がたびたび。他にも、伊藤あさひさん(トム:クロエの幼馴染)、牧野莉佳さん(トムの姉)、旅人の小椋大輔さん、予言者のふせえりさんに至るまで個性爆発で”クセ”が強い登場人物を演じています。
パルコ・プロデュース 2022『スルメが丘は花の匂い』 撮影:岡千里
幸せとは何か
スルメが丘の住民の何よりの願いは「有名な物語の主人公になること」。はじめは緑同様”へ~そんなに大事なことなんですね”と思っていましたが、次第に「そうだ、自分の人生は自分のもの、主人公は自分じゃないか」と当たり前の事実に勇気付けられた自分がいました。また同時に、その物語は”大きな”物語でありたい、”有名な”ものであってほしいという欲も持ち合せていて、それは日々を生きていく上で目標や希望になりますが、時に自分を見失う要因となることもあります。周囲の目や欲を取っ払い、自分にとっての本当の”幸せ”を見つけていきたい・・・
この作品の願いでもあるのではないでしょうか。
油断するとつい、自分の人生や価値観を顧みてしまう。そのくらいスッと入ってくるシュールでお笑いでファンタジーで、でも演劇である岩崎さんワールド。
印象的だったのは世界観の設定は”ないない”なのですが、登場人物同士のやりとりに”あるある”が多いこと。愛想笑いや話を合わせるために発する相槌、とりあえずYESと言う、知ったかぶりなど・・・(個人的には岩崎さんがぶつぶつとうんちくを並べるシーンが好きです) また、”口には出さないけど”の部分をすべて言葉にしてしまう新鮮さというか辛辣さ。ファンタジーの中にリアルが散りばめられていて、日常を切り取ったような台詞と絶妙なテンポや間がクセになります。
多様化の時代、価値観も幸せの形も生き方も人それぞれ。
自分とは程遠いファンタジーな世界の中で、「幸せとは」と哲学的なことを考えてしまいました。最後には自分の毎日をもっと素敵なものにしたい、と前向きでハッピーな気持ちになりました。
スルメが丘と緑が辿る運命を、是非劇場で見守って下さい!
公演の詳細は公式サイトで。
https://stage.parco.jp/program/surumegaoka
(文:真来こはる)
パルコ・プロデュース 2022『スルメが丘は花の匂い』
【作・演出】岩崎う大(かもめんたる)
【出演】
吉岡里帆 / 伊藤あさひ、鞘師里保 / 岩崎う大、牧野莉佳、もりももこ、小椋大輔 / ふせえり
2022年7月22日(金)~31日(日)/東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
2022年8月6日(土)・7日(日)/大阪・松下IMPホール
2022年8月11日(木・祝)/福岡・久留米シティプラザ ザ・グランドホール
2022年8月12日(金)/広島・JMSアステールプラザ 大ホール
2022年8月14日(日)/高知・高知県立県民文化ホール オレンジホール
2022年8月17日(水)/愛知・東海市芸術劇場 大ホール
2022年8月26日(金)/福島・いわき芸術文化交流館 アリオス 大ホール
公式サイト
https://stage.parco.jp/program/surumegaoka
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