音楽劇『スラムドッグ$ミリオネア』写真提供/東宝演劇部

人生を切り開くエネルギー溢れる 音楽劇『スラムドッグ$ミリオネア』観劇レビュー

音楽劇『スラムドッグ$ミリオネア』写真提供/東宝演劇部
音楽劇『スラムドッグ$ミリオネア』写真提供/東宝演劇部

人生を切り開くエネルギー溢れる『スラムドッグ$ミリオネア』観劇レビュー

ミリオネア。すなわちお金持ち。
格差の激しいインドではスラムで暮らす人間とお金持ちでは
その一線は越えることはできない。
本当にそうだろうか。ある日突然10億を手にすることだってある。
“チャンス”を掴めばー

本作は09年にアカデミー賞8部門に輝いた大ヒット映画『スラムドッグ$ミリオネア』の原作小説「Q&A」を世界初の舞台化。スラム街の孤児ラムが10億をかけたクイズ番組で全問正解しいかさまの容疑をかけられるところから始まります。なぜ全問正解することができたのか、またラムが持つある目的を追う物語です。

主人公ラム役を演じるのは屋良朝幸さん。衣装替えなし、大きなセット転換なく身体一つで幼少期から現在までを演じています。歌い、踊り、ある場面ではパルクールもあり。自由自在にラムを体現する柔軟さと身体能力の高さに圧倒されました。
ラムの親友サリム/シャンカールの二役を演じる村井良大さんは誠実さ溢れる台詞回しと舞台姿が印象的。(二役で雰囲気がガラッと変わるので注目です!)
ラムと恋に落ちる娼婦ニータを演じる唯月ふうかさんは艶のある歌声はもちろん、品のあるしっとりとした色気と体のラインを綺麗に見せた衣装さばき、ダンスが見どころ。ラムに出会うことで生気を取り戻し目に輝きが宿っていく様子も素敵でした。
ラムを支援する謎の弁護士を演じる大塚千弘さんは、表情から溢れる正義感と包み込むような歌声が魅力。そしてクイズ番組の司会者で国民的スター、プレム・クマール役を演じる川平慈英さんは見るからに目的のためには手段を選ばないワル。ガラ悪くネクタイやベルトを直す姿や威圧的な空気感がとても似合っていました。(川平さん自身はあまりやってこなかった役どころというから驚きです。)ラムと対峙する場面では緊張感が走ります。

今回上演台本・演出を手掛けたのは瀬戸山美咲さん。インドの貧困や格差などの厳しい現実と向き合い落とし込んでいったエンターテイメントとしての表現。このご時世に上演され、世に放たれた音楽劇。演技や歌、ダンスに加えパルクールやバンド演奏など多様な手法で表現されたこの作品はおさまりきらないパワーを持ち、うねるような生命力を感じました。一種の使命感や強いメッセージのようなものを感じ胸が熱くなりました。

音楽へのこだわり

音楽劇ということもあり至るところで音楽へのこだわりを感じました。舞台上に見える形でバンドがあり、バスドラムの音が胸の鼓動のように突き上げ、ギターの音が脳内に切り込むように鳴り響く。バンド演奏がBGMではなく、そこに生きる人間たちの中を流れる血液のように生き生きと躍動感に溢れていました。
また、劇中のナンバーもメロディーがとてもキャッチーでどこかで聴いた事のあるような懐かしさもあり。特に印象的だったのはラムとニータが出会う2幕。2人の青春の香り漂うナンバーがとってもロマンチックなんです!屋良さんと唯月さんの歌声とキャッチーなメロディーとが相まって、舞台が一気に色づいたように鮮やかに映りました。最後の中毒性のある楽しいカーテンコールも注目です!

現実と、夢と、葛藤と、希望と。
過酷で混沌とした現実をまるごとエネルギーに昇華し、様々な表現で詰め込んだ時間はハラハラワクワクして充実感たっぷりでした。最後には年月を感じるずっしりとした見応えも残ります。

実際は”人生を切り開いていく”なんて綺麗な言葉ではなく毎日の困難を”なんとか乗り越えていく”と言った方が正しいのかもしれません。その中で打ちのめされながらもただひたすら前を向き、進もうとするラムの姿がとても眩しく見えました。そしてラムの辿った人生を一緒に駆け抜ける中で、どこか励まされている自分がいました。

ビックドリームなんて多分ない。
でも“チャンス”の種は皆んなにあるのかもしれません。

公演の詳細は公式サイトで。
https://www.tohostage.com/slumdog/

(文:真来こはる

公演情報

音楽劇『スラムドッグ$ミリオネア』

【原作】ヴィカス・スワラップ「Q&A」
【上演台本・演出】瀬戸山美咲

【出演】
屋良朝幸・・・・ラム・ムハンマド・トーマス
村井良大・・・サリム/シャンカール(二役)
唯月ふうか・・・ニータ
大塚千弘・・・スミタ・シャー
川平慈英・・・プレム・クマール

池田有希子  辰巳智秋  吉村 直
野坂 弘  阿岐之将一  當真一嘉  中西南央

【東京公演】2022年8月6日(土)〜8月21日(日)/日比谷シアタークリエ
*当初の予定8/1(月)から、8/6(土)初日に変更となりました。

【愛知公演】 2022年8月31日(水)/日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
【新潟公演】 2022年9月3日(土)/長岡市立劇場
【大阪公演】 2022年9月9日(金)〜9月11日(日)/サンケイホールブリーゼ

 公式サイト
https://www.tohostage.com/slumdog/

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