2019.5.14  40

中村獅童主演で骨太の現代劇として天王洲の倉庫で蘇る! オフシアター歌舞伎『女殺油地獄』観劇レビュー


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オフシアター歌舞伎「女殺油地獄」
オフシアター歌舞伎「女殺油地獄」
 

骨太の現代劇として天王洲の倉庫で蘇る『女殺油地獄』観劇レビュー

 
オフシアター歌舞伎『女殺油地獄』(作=近松門左衛門/脚本・演出=赤堀雅秋)が5月11日に天王洲・寺田倉庫で開幕した。

『女殺油地獄』は、実際の事件を元にした物語だと言われている。300年前の享保6年(1721年)に人形浄瑠璃で初演が行われ、その後、歌舞伎の演目となり、現代では映画やドラマにもなっている。
油を入れた桶がひっくり返る中での凄惨たる殺しの場面は、この演目の代名詞とも言える。

主演の中村獅童演じるは、油屋の河内屋の次男、与兵衛。
色町に繰り出すために借金をこさえる、世間で評判の放蕩息子だ。
金の無心をする中で、親の慈悲に触れ、知人の情にも触れるものの、最後には凶行に走ってしまう。

300年前に実在したかもしれない孤独な男の物語が、赤堀氏の脚本と演出によって、骨太な現代劇として寺田倉庫に蘇った。

 

与兵衛という人物/中村獅童氏の奥深い人物造形。

オフシアター歌舞伎「女殺油地獄」

主人公の河内屋与兵衛は、前述の通りの放蕩息子だ。しかし、今作の中村獅童氏の与兵衛を見れば、それが記号的な「放蕩息子」にとどまらない、現代的な病理を抱えた人物であることがわかる。
遊女に入れあげ、借銭を繰り返しては、刹那的な快楽と癒しを得る。
借銭でたやすく手に入れた金は、真面目に働けば得難いもの。
労働意欲は削がれていき、せっかく恵まれた境遇もふいにしてしまう。
人の厚意に甘えやすく、その癖プライドは高く、他人に軽く扱われるのが我慢ならない。
見渡せば、今もどこかにいる男の実像である。

劇中、与兵衛は幾度となく高い声で「なに?」という言葉を発するが、これが今も私の耳について離れない。
甘える癖がついた人間の鳴き声だ。
今作の与兵衛を見れば見るほどに、この「甘え癖」の根深さ、あさましさ、恐ろしさが肉迫して伝わってきた。

 

市井の人々が息づく/赤堀雅秋氏の脚本・演出。

オフシアター歌舞伎「女殺油地獄」

今作は、歌舞伎のスタイルをとってはいるものの、まさしく現代劇だ。
市井の人々を丁寧に描くことで知られる赤堀氏であるが、本作においてもその力は如何なく発揮されている。
主人公の与兵衛はもとより、与兵衛の肉親、同業者の豊嶋屋一家、遊女、そして通行人に過ぎない百姓にも確かな人間としての息遣いを感じる。
与兵衛を取り巻く人々は、各々の幸せを見出し、生きている。それがかえって、与兵衛の幸せや、生きることへの空虚感を浮き彫りにしていた。

  

オフシアター歌舞伎/倉庫という空間。

オフシアター歌舞伎「女殺油地獄」

これまで歌舞伎が上演されることのなかった空間を使って行われる「オフシアター歌舞伎」は、伝統と革新が融合した、非常にエキサイティングな挑戦だ。

寺田倉庫のある天王洲は、もともと埋め立て地で、倉庫街である。
天王洲アイル駅から劇場に行くまでのだだっ広い道路を歩き、高層のタワーマンションやオフィスビルを横目に見るだけでも、再開発の匂いは無視できない。

そして到着した寺田倉庫は、コンクリートが打ちっ放しの、さほど天井も高くない、いかにも「倉庫らしい」空間だ。機械的に等間隔に、太いコンクリートの柱が立っている。
その一角(1マス)に、まるで浮島のように舞台と花道がある。

オフシアター歌舞伎「女殺油地獄」

この、なんとも人為的で無機質な立地、空間が、『女殺油地獄』という演目と非常に奇妙な化学反応を見せていた。
四方囲みの客席からは、まるで合わせ鏡のように柱が続いていくのが見える。
そんな中、ゆらりと姿を現した与兵衛は、まるで300年間変わらぬ人間の業をまとった亡霊である。
些細な借金によって狂い、そして狂わされた男が、今もどこか物陰で彷徨っていることを感じさせる。

オフシアター歌舞伎「女殺油地獄」

演劇においては、しばしば、劇場まで足を運ぶ途中の風景、そして劇場の持っている歴史や空気が、作品の強烈なサブテキストとして機能することがある。
上演後、劇場の周辺を歩くのも悪くないと思う。
天王洲の路上に、フライヤーの写真さながら、建物に身を預け、野良犬ような目で睨む与兵衛に会えるかもしれない。

もう一つの上演会場である新宿FACEは歌舞伎町のど真ん中にある。
ここでもまた、違った風景が見られるだろう。

 
このレビューを書いたのは

山本タカ
やまもと たか|劇作家、演出家。くちびるの会 代表。
劇団活動と並行して、外部脚本、演出、青少年対象のワークショップ活動なども行う。くちびるの会公式HPより、不定期メールマガジン「山本タカの嘘日記」を配信中。

https://twitter.com/1123taka

 


 
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公演情報

オフシアター歌舞伎『女殺油地獄』

【作】近松門左衛門
【脚本・演出】赤堀雅秋

【出演】
中村獅童 中村壱太郎 上村吉弥 嵐 橘三郎 赤堀雅秋 荒川良々

2019年5月11日(土)~17日(金)/東京・寺田倉庫G1-5F
2019年5月22日(水)~29日(水)/東京・歌舞伎町・新宿FACE

公式サイト
オフシアター歌舞伎『女殺油地獄』

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