「母と惑星について、および自転する女たちの記録」

現パルコ劇場 最後の新作舞台に込められた願いと愛/舞台「母と惑星について、および自転する女たちの記録」観劇レビュー

「母と惑星について、および自転する女たちの記録」舞台「母と惑星について、および自転する女たちの記録」舞台写真 撮影:引地信彦現パルコ劇場 最後の新作舞台に込められた願いと愛

公開稽古を観終えて、ふと前列から客席を見渡すと客席の赤いシートの「背中が当たる部分」に無数のハートがあった。

改めて公開稽古前に出演者の一人、鈴木杏さんが語ったことが胸に響いた。

「舞台上から客席を見ると、皆さんの座った跡で背もたれがハート型になってるんです。それが何ともすてきな光景で、本当にお芝居が好きな人たちが集まっている劇場なんだとしみじみしてしまう時があります」

パルコ劇場のページで、内部を3Dで観られます! ハート型もよく見えました!

7月7日、現パルコ劇場での最後の新作舞台となる蓬莱竜太作×栗山民也演出『母と惑星について、および自転する女たちの記憶』が開幕した。

この物語は女として奔放に生きた母と、母の突然の死から母の遺骨を持って異国へ旅に出た三姉妹の葛藤と自立を描いたものである。

劇場において『作品を生む』ことは母が『子を産む』ことそのものであり、その母がこの世を去り、その娘たちがそのことを懐古し、悩み、前に進んでいく姿はまさにこのパルコ劇場の最後の新作舞台としてふさわしい作品だと感じた。

『母と惑星について、および自転する女たちの記録』
舞台「母と惑星について、および自転する女たちの記録」舞台写真 撮影:引地信彦

出演者もパルコ劇場に縁のある実力派女優四人。
娘たちを翻弄し、最後まで女としての人生を生きた母・辻峰子を「君となら」(95,97)「人間風車」(00)「斎藤幸子」(09)「紫式部ダイアリー」(14)の斉藤由貴。
母と最後まで過ごし、母への複雑な思いを募らせる三女・シオを「オレアナ」(15)で初舞台を踏んだ志田未来。
母のような奔放さを持ちながら専業主婦に拘る次女・優を「SISTERS」(08)の鈴木杏。
しっかりもので母のような生き方はすまいと思いながらも母の血を感じる長女・美咲を「夜叉ヶ池」(04)田畑智子。

『母と惑星について、および自転する女たちの記録』
舞台「母と惑星について、および自転する女たちの記録」舞台写真 撮影:引地信彦

旅に出た異国(おそらくはイスタンブール)での出来事をきっかけに、三姉妹は共に過ごした長崎での母の思い出をそれぞれの立場から思い出し、語る。

蓬莱竜太の綴る言葉はどれも大仰さはなく繊細で優しく、言外の思いに満ちたもので、おそらくはひどい母なのであろう峰子と3人の娘たちの『母と娘』だからこそ感じる共感と反発を丁寧に丁寧に描いていた。

また、異国と長崎、現実と回想を行き来する抽象的な舞台は、照明も相まって1枚のタペストリーを読み解いているかのような印象を受け、題名にある『記録』という言葉がぴったりの舞台だった。また、3人の娘たちのそれぞれの葛藤の中に母の真実の思いが見えてくる様子は栗山民也の深い人間への洞察力を感じさせた。

『母と惑星について、および自転する女たちの記録』
舞台「母と惑星について、および自転する女たちの記録」舞台写真 撮影:引地信彦

そして演技派女優四人だけで紡ぐ二時間。個々の感想を書くとどうしてもネタバレしそうなので、ぜひ劇場で目撃してほしい。全員が本当に素晴らしく、贅沢な時間を過ごせること間違いなし。

そして、個人的にぜひ知りたいと思うこと。この作品を観た女性の感想。男性視点から観るのと、女性視点から観るのではおそらく感想が全く違うのではないかと思う作品。『母と娘』という女同士の関係だからこそ感じる様々な思いをきっと感じられると思う。

最後に斉藤由貴さんが公開稽古前に語った言葉を借りて、

パルコ劇場にこれまで関わったみなさん、そしてパルコ劇場を愛してくださったたくさんのファンのみなさん。ぜひこの最後の新作舞台に足を運んで見てください!

東京公演は7月31日まで。その後8月4日に仙台電力ホール、8月9日に広島JMSアステールプラザ大ホール、8月13・14日に北九州芸術劇場中劇場、8月16日に新潟りゅーとぴあ、8月20・21日に大阪シアター・ドラマシティにて公演が行われる。

詳細は公式サイトで。

(文:平岡基

公演情報

パルコ・プロデュース公演「母と惑星について、および自転する女たちの記録」

【作】蓬莱竜太   【演出】栗山民也
【出演】志田未来、鈴木杏、田畑智子・斉藤由貴
2016年7月7日~31日/東京・パルコ劇場
2016年8月4日/仙台・電力ホール
2016年8月9日/広島・JMSアステールプラザ大ホール
2016年8月13日・14日/福岡・北九州芸術劇場中劇場
2016年8月16日/新潟・りゅーとぴあ
2016年8月20日・21日/大阪 シアター・ドラマシティ

舞台「母と惑星について、 および自転する女たちの記録」 公式サイト

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