
【インタビュー】月波兎 第5回公演『おやじの瓢箪』五戸真理枝(演出)×陳内将×石井麗子×奥山美代子 座談会

左から、奥山美代子、陳内将、五戸真理枝、石井麗子
月波兎(つきなみうさぎ)は俳優の石井麗子と奥山美代子が2023年から活動を始めた演劇集団。その第5回公演となる『おやじの瓢箪』では、虹と雪の大地・北海道を舞台として、騒がしい家族の日常や、さまざまな過去や事情を抱えた人々の交錯した思いが描かれる。
今回は、演出を担当する五戸真理枝、出演の陳内将、そして月波兎主宰の石井麗子、奥山美代子の座談会を行い、本作の見どころや人生の転機などを語り合ってもらった。(敬称略)
【騙す人】と【騙されているけど、それを信じたい人】の物語
――本作の脚本を読んだ感想を教えてください。
奥山 私と石井とでベースは考えてから脚本の佃(典彦)さんにお願いをした形なので、ある程度はわかっていたんですけれど、私たちの想像を超える素敵な脚本だなと思いました。
石井 私と美代ちゃん(奥山)で、【騙す人】と【騙されているけど、それを信じたい人】という案を考えて、そのあとに今回キーとなっている【満州】のことを、私がドキュメンタリーを見て提案したんですよね。そして、美代ちゃんが札幌の出身なんですけど、「札幌といえば1972年のオリンピックの年にいろいろあったよね」となりまして、そのベース案を佃さんにお送りしたんです。そうしたら、佃さんから『おやじの瓢箪』というタイトルで戻ってきてびっくり(笑)。

奥山美代子
奥山 去年が『いつものオーロラが割った夜』という凄く現代っぽいタイトルだったのに、急に渋くなって(笑)。
石井 そうそう(笑)。でも読んでいるうちに瓢箪にいろんな意味が込められていることがわかりましたし、ゾワゾワっとするくらい話が膨らんでいくので、感動しました。
陳内 僕はプロットの段階で読ませていただいて、舞台となる1972年当時の社会情勢や満州での出来事などを重く受け止めて、かなり精神的に疲弊もするような役をいただいたんだなと思って覚悟していたんですけれど、完成した脚本を読んだら、結構笑えるシーンも多くて(笑)。人間関係の面白い部分もたくさん描かれていて、僕が覚悟していたのとはまた違う角度の、凄くハートフルで素敵な作品だなと思ったのが最初の印象ですかね。その後に美代子さんから北海道の方言をご指導していただいたんですけれども、「早く皆様と会わせていただきたいです!」「会話をしたいです!」とお伝えしてしまったくらい、お稽古が楽しみになる脚本でした。
――五戸さんは、演出をするうえで意識したいと思っていることはありますか。

五戸真理枝
五戸 私もプロットの段階では、取り扱う時代や、人物たちが背負っている背景にちょっと重たい印象があって、「重厚なお話になるのかなぁ」と思っていました。でも、意外とコメディタッチな部分が多くて、人間のダメなところや可愛らしさがたくさん描き込まれている、ユーモラスで素敵な物語でした。なので、その空気感を細部までしっかり形にしたいです。演劇ならではの仕立て方を模索しながら、演出でも物語の伝え方にこだわれたらいいなと思っています。
――登場人物それぞれの“生き様”がとても丁寧に描かれていますよね。
五戸 そうですね。冒頭は80歳の雅彦さんというおじいさんのシーンから始まるのですが、この作品はそのおじいさんの若い頃のお話で、「なぜこの人が瓢箪工房を継いだのか」という物語のそばに浮かんでくるドラマも面白いと思います。他の人物たちもそれぞれキャラが立っているからこそ、ただ「面白い人」で終わってしまわないように、いつもの演出以上に登場人物に血を通わせることを丁寧に行っていけたらいいなと思っています。
それぞれの「人生の転機」
――主人公である雅彦は、自分の転機を「1972年」だと語ります。みなさんにとって、「人生の転機だったな」と感じている時期はありますか。

石井麗子
石井 私は20歳の時に文学座に入って、10年くらい経った頃に、「ちょっと外の世界が見てみたいな」と思って1年間ロンドンに留学したんです。それによって日本の演劇の良さとか、今まで自分の中で蓄積されていたものとかを客観的に見ることができたような気がしました。それからお芝居を「苦しい」ではなく「楽しい」と思えるようになったんですよね。お芝居はもちろん厳しい世界ではありますけど、基本は楽しむものだと教えてもらったといいますか、「演技する」って「Play」と言うけど、「遊ぶ」も「Play」じゃないですか。「一緒なんだよ」と教わることができた。あの留学が私の転機かなと思っています。
五戸 私の場合、人生を振り返ると、「転機」って頭打ちが起きた時に来ているんですよね。
1回目は、就職活動に行き詰まって、もうあきらめようと決めた時。それでフリーターになったから、演劇を続けることができました。
2回目は、旗揚げしていた劇団の公演を中止した時。仲間たちが仕事を任されるようになって休みが取りにくくなり、「劇団員の時間を奪うことは収入を奪うことだ」「演劇の売り上げで食べさせることもできないのに」と思って。それで自分の技術のなさが怖くなり、修行のつもりで文学座に入りました。あの時のガッカリがなければ、今ここにいることも多分なかったと思います。
3回目は、演出をし始めるきっかけになった出来事です。私は裏方も性に合っていて、演出助手の時は、演出家が何をやりたいかを考えて、自分の意思を封じ込めるくらいの気持ちでやっていました。でも、ある時、演出家と大喧嘩しちゃったんですよね(笑)。それで、自分の想像力を捨てるような仕事の仕方をしても、私にとって何も良いことがないと気がついて、自分で演出をする方向に戻ってきた。だから、あの悲惨な大喧嘩も、人生には必要なものだったんだと今なら思えます。
奥山 私はすいぶんお年になってから結婚できたというのが、ひとつの転機だと思います。こうして自分たちの団体を持って芝居をできるようになったのは、旦那さんの存在が大きいかなと思いますね。ちょっと話していて恥ずかしいんですけど(照)。
石井 そんなことないよ。幸せになったんでしょう。
奥山 おかげさまで(笑顔)。
五戸・陳内・石井 (拍手)。
石井 大きな転機じゃないですか。
奥山 こうやってみなさんに会えることになったのも、その転機のおかげです。

陳内将
陳内 僕は俳優になる転機は18歳の時にあったんですけど、今回にたどり着く転機というと、2024年に出演した『カミシモ (あいつが上手で下手が僕で)』という作品で、両親がいなくて麗子さん演じるおばあちゃんに育ててもらったという役どころだったんです。そこでのご縁もあって、実はだいぶ早い段階からお声がけをしていただいていて。
石井 そう。本当に素敵だったから。
陳内 ありがとうございます。「遠い未来ですけど、よろしくお願いいたします」なんてお話をさせてもらっていたら、まさかの今年、Office8次元の『人間失格』という作品で美代子さんと共演させていただき、しかも冒頭が2人芝居で始まるという。演出は寺十さんでしたし、今回小道具で入ってくださっている近藤茶さんもいらっしゃったし、というので、いろんなご縁を手繰り寄せてここにたどり着いたんだなと思うと、転機は『カミシモ』での出会いではないかなと思いますね。
奥山 ご縁って面白いなぁと思うけど、やっぱり「人を深く知ること」は大事ですね。「陳君がこの役を演じるなら、方言を絶対に入れたいです!」とか、こうしたほうがより素敵な部分が生きるんじゃないかとか想像がつくじゃないですか。そういうことを作家に具体的にオーダーできたのは共演したからだと思うので、それも発見ではありましたね。
――劇場にいらっしゃるお客様へ、代表で五戸さんからメッセージをお願いできればと思います。
五戸 デジタルが発達した今だからこそ描ける、より人の感情の機微などがクローズアップされた1972年をお届けしたいと思っています。当時の人情や戦争の記憶というのはずっと語り継がれてきているものですが、「振り返ることの意味」みたいなものを提示していけたらと。とにかく出演者のみなさんのエネルギーが素晴らしくて、見どころだらけだと思います。見どころが繋がって1本の作品になっているようなお芝居なので、ちょっとしんみりするところもありますけれど、楽しいと思っているうちに物語の魅力も伝わってしまうような、そしてオシャレな作品にしたいなと思っています。

左から、奥山美代子、陳内将、五戸真理枝、石井麗子
公演の詳細は公式サイトで!
https://tsukinamiusa.jp/stage-202609/
文:越前葵
月波兎
『おやじの瓢箪』
【作】佃典彦
【演出】五戸真理枝
【出演】
陳内将 / 高橋ひろし / 藤崎卓也 / 根本大介 / 寺十吾 / 伊藤わこ / 夏川詩子 / 森本ななみ / 向真佑佳 / 石井麗子 / 奥山美代子
【日程】
2026年9月26日(土)〜10月4日(日)
東京都 ザ・ポケット

