
切なさの向こう側に希望を見出せる作品に 土屋神葉、小泉萌香、脚本・演出・出演の生田輝にインタビュー Tom’s collection 舞台『月夜の人形』
Tom’s collection 舞台『月夜の人形』左から生田輝、土屋神葉、小泉萌香
Tom’s collection 舞台『月夜の人形』に出演する土屋神葉、小泉萌香、脚本・演出・出演の生田輝にインタビュー取材した。
舞台『月夜の人形』は、ある日届いた美しい人形へ次第に思いを募らせていく青年トニの数奇な運命を描いた物語。
2023年に劇団生田輝の第二回公演作品として上演された朗読劇『月夜の人形』を元にしつつ、キャストを一新して新たに舞台化される。
主人公トニ役は、声優や俳優として活躍中の土屋神葉が演じるほか、七木奏音、小山百代、真野拓実、小泉萌香などが出演する。
生田輝は作者役として出演しつつ、脚本と演出を手がける。
今回エントレでは『月夜の人形』の稽古場で、土屋神葉、小泉萌香、脚本・演出・出演の生田輝にインタビュー取材し、本作の魅力について聞いた。
STORY
「今日も何もない一日が終わる」
トニは人生の波をゆらゆらと漂っていた。
ある日、彼の元へ贈り物が届く。
それは生きている人間と見間違えるほど精巧で美しい人形だった。
彼は次第に彼女への思いを募らせていく。
そんな中、幼馴染に月光祭へ行こうと誘われるトニ。
この街では、月光祭の夜に月の女神が願いを叶えてくれるという言い伝えがある。
彼は人形と話がしたいと願い、気まぐれな女神は彼に問いかけた。
「たとえ、失うものがあったとしても?」
本当の幸福とは何か。これは、彼の数奇な人生を辿る物語。
Tom’s collection 舞台『月夜の人形』
大人の読む絵本のような舞台に
――本作『月夜の人形』について教えてください。
生田 このお話自体は2年前くらいに、朗読劇として上演したものです。現実世界ではお金とか、仕事とか、いろんなリアルな悩みがあるじゃないですか。なので劇場でお芝居を観ている間には、気付きだったり救いだったり、よし明日も頑張ろうみたいな気持ちになれればいいなと思っているので、ファンタジーを書くことが多いですね。
夜とか星とか、そういうテーマが好きなので、今回は月をテーマに書きました。
土屋くんが演じてくれるトニという孤独な青年が、お父さんが集めた骨董品の中にあった とても美しい人形・イリスと出会うことによって、彼の人生が少しずつ動き始めていくというお話です。舞台の脚本を書くのは今回が初めてなんですけど、私としては、大人が読む絵本のようなイメージで書いていて、観終わった後に、夢から覚めたような、ふわふわとした不思議な気持ちになってもらいたいなと、そんな舞台を目指して書きました。
Tom’s collection 舞台『月夜の人形』 脚本・演出:生田輝
切ない気持ちの向こう側に希望を見出せる作品
――『月夜の人形』の脚本を読んでみていかがでしたか?
土屋 朗読劇を観たことがある方も新鮮に受け取ってもらえるし、初めての方の心にもしっかりと届く素敵な内容になっていると思います。切ない気持ちにはなるんですけど、その向こう側に希望を見出せるというか、観終わったお客様が前を向いて明日を生きていけるような作品にしたいです。
Tom’s collection 舞台『月夜の人形』 土屋神葉
小泉 私は(生田)輝ちゃんの作品にずっと出たい出たいと言ってたので、すごく楽しみにして読みました! お母さんみたいに世話を焼いてくれる人で、そういう性格面も知っていただけに、いろんな意味で感動しました。私がこれを舞台でやれるんだ!って思ってすごく嬉しかったです。繊細なところや大胆なところが散りばめられた脚本で、私に当て書きしてくれたり「そのままでいいよ」って言ってくれたりして、自由にさせてくれてありがとうって思っています。
生田 朗読劇の時は、また別のキャストの子に当て書きしていたんですけど、今回は新たなキャストの方の印象を受けて脚本には反映しています。特に朗読劇の時、トニは私が演じていたので。
土屋 そうだったんですね!
生田 トニは半分私に当て書きをしていたんですが、土屋くんが演じるトニをもっと肉付けしたくてたくさん変えたシーンもあります。小泉さんが演じてくれる月の女神ルーナは、朗読劇の時とは全然違う女神さまになっていて、彼女が演じて魅力的になるように書き直しました。
土屋 劇団を主宰する役者さんって、脚本を書いて演出して主演を担う方もいらっしゃいますが、今回生田さんはトニじゃなくて「作者」という役なんですよね。珍しいなと思って。
生田 待って!この状況でトニも私がやったら死んじゃうよ! トニずっと出てるんだから!
土屋 それは確かにそう!
Tom’s collection 舞台『月夜の人形』稽古場より
――それぞれ演じる役について教えてください。
土屋 僕が演じるトニは心に傷を負っていて、表面的に傷は癒えているかもしれないんですが、深いところに残っていて塞がっていない。ある意味トニの時間は止まっているんですよね。周りの時間は過ぎ去っていくのでどんどん孤独になっていくんです。こんなに孤独な思いをするんだったら何で生まれてきたんだろうっていうところまで行き着いていて、真っ暗な中生きている。光が欲しいんだけど、少しの光だとはねのけてしまう。なぜなら、心の傷の原因が他者との関わりから来ているからなんです。
そこに、トニが必要としていた存在が現れて、そこに光を見出して、トニなりに光に向かって頑張って歩み始めるという、そういうキャラクターです。
小泉 私が演じるルーナは、塩梅が難しいんですよ・・・。
生田 ・・・神だもんね。
小泉 結構自然体ではいるんですけど、もう何万年も生きて・・・、
生田 いやいや、月が生まれた時からいるからね。
小泉 ということは、何億年も生きているので、人間の歴史なんてちっぽけなわけですよ。でも、ふと、お近づきになってみようかなと、トニの元に来るんですよね。トニの願いも神にとってみればちっぽけで、別に叶えなくても良くね?みたいな。
土屋 叶えてよ〜!お願い!
小泉 でも、ルーナの中でも何かが動いて、気が変わったんでしょうね。
生田 まあ、愛の女神だからね。
小泉 その「何か」は、稽古でみんなの様子を眺めながら、探っているところです。神としての余裕や貫禄も必要なので頑張ってます。
Tom’s collection 舞台『月夜の人形』 小泉萌香
大切なものを犠牲にしても叶えたい願いなのか?
――トニの願いが叶うのか気になってきました。
生田 願いは叶えるけど、無償じゃないんです。ルーナの中には無償で願いを叶えていない理由はあるんですが、タダで願いが叶うんだったら人は頑張らなくなっちゃうと思うんです。自分の大切にしている何かを犠牲にしてでも叶えたい願いなのかどうかをルーナは人間に聞いて、叶えてやっているんですね。私がこういうお話を書いたのは、ルーナに現実世界にいて欲しいなって思ったからなんです。何か願いがある時に、自分の大切なものを代償にしてもいいかどうか、天秤にかけてみてほしくて。
トニは大切なものを犠牲にしてもいいと決断して、物語が進んでいくんですけど、そういう「人間の願い」って普遍的だなって思って。愛とか幸福とかって抽象的なものですけど、舞台の上ではリアリティを持って現れるようなキャラクター作りをしたので、そういうところがお客様に伝わると嬉しいなと思います。
――このお芝居の好きなところを教えてください。
土屋 「僕を一人にしないで」っていうトニを象徴するせりふがあるんです。一人にして欲しく無いと渇望しているんだけど、トニを見ていると自分から一人になっている。この裏腹な感情がとても人間らしいなと思うんです。このギャップが深いほど、この願いはとてつもない重さを持っていると思います。トニの気持ちの軸が共有できるシーンにできたらいいなって思っています。
Tom’s collection 舞台『月夜の人形』稽古場より
小泉 私はやっぱり月の女神なので、月光祭は楽しいんだろうなって思っています。
生田 月光祭ね!この街の年に一度のお祭りで、最も月が美しく輝く日に行われるんです。彼女を崇め奉る日なんですよ。
小泉 その日は、私のことだけを考えて過ごしてくれているという、神として嬉しいですよね。
生田 人間が勝手にやっているお祭りだけど、神様も喜んでくれているんだ〜って、今嬉しくなっちゃった。
小泉 人間が神を想像してくれないと、神は存在できないんじゃないかと思うんです。もしかしたら、月が生まれた瞬間にはまだ存在しなくて、みんなの祈りで生まれたのかもしれない・・・って今思いました! みんなの想像する女神でありたいですね。
生田 私はもちろん全部好きなんですけど、私が机の上で書いた時点ではまだ「キャラクター」だったものが、みんなが稽古を重ねていくうちにリアルに存在していく人たちになっていっているんです。「こういう風に思っているんだ」とか「なんて優しいんだろう」とか、たくさん発見があるので、全てのシーンと登場人物が愛おしいですね。
まだ稽古途中ですが、おそらく私はラストシーンが一番好きです。現時点でまだ形になっていませんが、私の想像のもっと向こう側の素敵なシーンになると思います。
Tom’s collection 舞台『月夜の人形』稽古場より
――最後にお誘いのメッセージをお願いします。
土屋 世界の神話にも、人外の存在に恋をする物語が登場します。人間は昔から、自分の手の届かないものや、名付けようのない存在に心を惹かれてきたのかもしれません。
あなたにとっての“イリス”は何でしょうか?
そんなことを帰り道に考えたくなるような作品です。ぜひ月夜の晩にお会いしましょう。
生田 ・・・昼公演もありますけどね!
小泉 夢のような時間を過ごしていただけるお芝居を作りたいと思いますので是非お越しください。
生田 いろんな愛が出てくる話です。難しい話ではないので、夢を見に来るような、遊びに来るような感覚で見にきていただいて、舞台上で繰り広げられる愛を優しく見守るような気持ちで見に来てもらえたらいいなと思っています。
Tom’s collection 舞台『月夜の人形』左から生田輝、土屋神葉、小泉萌香
詳細は公式サイトで。
https://www.808.baby/tsukiyo/
(文:エントレ編集部)
Tom’s collection vol.3『月夜の人形』
【脚本・演出・出演】
生田輝
【出演】
トニ役 土屋神葉
イリス役 七木奏音
サラ役 小山百代
アレン役 真野拓実
ルーナ役 小泉萌香
アンサンブル 甚古萌
田口実加
作者役 生田輝
2025年11月1日(土)~11月3日(月・祝) 神奈川・横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール