
現代に響く!不公平で理不尽な世の中に訴える女性たちの魂の鎮魂歌‐レクイエム‐! 笑って、泣けて、心震えるROCKエンターテイメント!ミュージカル『SIX』観劇レビュー
撮影: 岩田えり
「英国史上最も有名でスキャンダラスな暴君」として知られるヘンリー8世が主役!ではなく、その元妻である6人の王妃たちが現代に蘇り、歴史上最もパワフルなガールズバンドを結成し一夜限りのライブを開催します!その中で、「王に最も酷い仕打ちを受けた王妃」がバンドのリード・ボーカルになるという目的で、自身の境遇や悪名高い元夫との物語を歌います。これまで王のために語られてきた歴史ではなく「彼女たち」にフューチャーし、書き直された物語…。誰がこのバンドの主役になるのか?目撃者は皆さんです!
奇想天外、奇天烈なあらすじに観劇前からわくわくしていましたが、その期待の何倍も刺激的で面白く心に残る作品でした。80分間ノンストップのエンターテイメントショーは生バンドと生歌、ダンスパフォーマンスによりLIVEのような感覚でガンガンに盛り上がり楽しめます!そして、勢いだけではなく、物語構成もしっかりしているため、楽しみながらも最後心にガツンと響くようなメッセージ性も強いミュージカルでした。
気軽な気持ちで笑ったり、手拍子したりと観劇していましたが、いつの間にか作品に引き込まれ、最後涙するとは夢にも思いませんでした。ものすごいパワーと熱量溢れる内容で、トニー賞2部門を含む35の賞を受賞し、世界中を熱狂させている作品であることにも納得でした。ミュージカルが苦手な方も間延びせずに楽しめますので、食わず嫌いせず劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです。エネルギッシュなエンターテイメントに寝てる暇はありません(笑) キャッチ―でダンサブルな楽曲にいつの間にか体がノリノリになっていきます!会場が一つになる一体感に包まれ、会場がヒートアップしクラブ化したかと思えば、しっとり歌いあげる場面があったりと幅広い音楽とエンターテイメントが繰り広げられ、飽きる間もありません!
お一人お一人違った衣装もスパンコールやスタッズなどが細かくあしらわれ、じっくり見たいほどに手が込んでいました。個性的なキャラクターが表現され、それに伴ったヘアメイクにもこだわりを感じました。
撮影: 岩田えり
オープニング!“Are you ready TOKYO?”の掛け声と共に一気に会場のボルテージが上がりROCKで痺れる音楽と派手で大胆なパフォーマンスに圧倒されます!6人の王妃たちがそれぞれのメンバーカラーに合わせたキラキラの戦士コスチュームに身を包み、ステージで歌い踊る姿に思わず目が釘付けになりました。ここから6人6様、それぞれが「王から受けた酷い仕打ちと自身の人生」を個性溢れるステージで見せてくれます!
まず、トップバッターを飾る王妃はソニンさん!ソニンさんの歌や演技には安定感と安心感があり好きなミュージカル女優さんの一人ですが、今作のキャサリン・オブ・アラゴン役は特にぴったりでした。強めのはつらつとした女性役がとっても似合いますし、ゴリゴリに歌って踊るソニンさんは、いつも以上に活き活きしていて、美しくてカッコよくて、輝いていました!貫禄ある抜群のパフォーマンスは流石で、誇り高き妃に相応しい存在感でした。
撮影:岩田えり
2人目の王妃は、田村芽実さん演じるアン・ブーリン。「悪気なくって」とお茶目に歌う、憎めないキャラクターでコメディエンヌぶりが素晴らしかったです。早口な言い回しや打首にされたことをネタ化した自虐キャラには思わず笑ってしまいました。皆さん個性強めでしたが、一番妃っぽくなくて、キャラが確立していて面白かったです。このミュージカルにおけるユーモアの根幹を成していました。
3人目の王妃は原田真絢さん演じるジェーン・シーモア。他の妃とは違うテイストで、他が“動”なら彼女は“静”。衣装もひざ丈でやや大人しめのデザインです。しかし控えめではありますが、一本しなやかな芯が通った女性で、それが優しさや愛でできている部分に彼女の強さを感じました。柔らかで澄んだ歌声に会場が包み込まれるようで、人間が求めるのは「癒し」であり母性なのかなとも思わされました。
4人目の王妃はエリアンナさん演じるアナ・オブ・クレーヴス!ドイツから嫁ぐも「肖像画と顔が違う」というまさかの理由で離婚された不憫な妃です。肖像画をスワイプするように、妃が選ばれる演出から「16世紀でも“見た目”で選ぶ現代のマッチングアプリみたいなことが起こっていた」ことを知り、「時代は繰り返され、人間の本質は変わらないこと」が皮肉まじりに表現されていて笑ってしまいました。身勝手な理由で離婚されたクレーヴスでしたが、「自由になった!人生の主人は自分よ!」と自信をもって歌う姿はパワフルでカッコ良かったです。また、真っ赤な衣装がよく似合っていて、和田アキ子さんを彷彿とさせるソウルフルな歌声とオーラ、ハードなビジュアルは印象的でした。
撮影:岩田えり
5人目の王妃キャサリン・ハワードを演じるのは鈴木愛理さん!バラエティ番組でのMCや女優として活躍されている姿は目にしたことがありましたが、生のステージで見るのは今回が初めてでした。可愛らしさと可憐さ、愛嬌が抜群でチャーミングさに魅了されました。そして、歌唱力を兼ね備えたアイドル性の高さに驚きました。キャサリンが歌う「All You Wanna Do」は、何度かサビが繰り返されますが、1曲の中に彼女の複雑な思いが込められ、明るい中にも切ない心情が表現されていました。
6人目は、斎藤瑠希さん演じる最後の妻キャサリン・パー。彼女が歌う「Don’t Need Your Love」は自分を解き放ち、「自分らしく生きる」というメッセージ性の強い曲でした。凛とした姿が素敵でした。
撮影:岩田えり
彼女たちの半生を表したステージを見ていると、流産や幽閉、浮気や望まない結婚など、どれもがあまりに辛い内容で、一言では片づけられない苦しみをそれぞれの妃が味わって生きてきたことが伺えました。内容としては到底笑って片付けられるものではありません。が、しかし、この作品は「私たち可哀そうでしょ?」と同情を誘って終わらせるのではなく「離婚、打ち首、死亡、離婚、打ち首、死別…」という悲惨な出来事さえ、ポップな音楽に乗せ、キャッチーな歌詞とノリの良い曲にして、自虐や笑いに浄化していきます。そして、彼女たちが経験した理不尽さや嘆き、悲しみ、怒りを全てエネルギーに変え、とてつもないパワーを観客に届けるんです!!!そこが、この作品の醍醐味であり素晴らしさだなと感じました!
6人は途中から競うことの無意味さに気づき、不幸自慢大会を止めます。悲劇のヒロインから脱却し、それぞれの生き方を認め合い、解放していくのです!“〇〇の妻・王妃”という肩書にすがったり、誰かの添え物ではなく、「“私自身”の人生を生きること」を選びます。そして、6人のうち「一人だけが特別なんじゃない、6人それぞれがかけがえのない存在で、人生の主役だ!」という答えを導き出します。フィナーレでは、誰か一人がNo. 1じゃない、それぞれがOnly1!と全員が自分の物語を堂々と歌い上げます!
当時の身分制度を思うと“王様の意見は絶対”で、きっとこんな風に声を大にして訴えることはできなかったと思われます。声をあげることもできず、葬られてきた魂の叫び…心の内に秘めていたであろう、彼女たちの本心…「ひどくない?」「あり得ない!」「王様だからって何してもいいわけじゃない!」「自分勝手に他人を傷つけて良いわけない!」「都合のいいように扱わないで!」「ふざけないでよ!FUCK!」といったか言わなかったかは知る由もありませんが(笑)当時の彼女たちの気持ちを代弁したような、訴えることができなかったであろう本音を台詞にした音楽は正にROCK!!!思わず、汚い言葉で罵りたくもなるよね…と、同情したり共感する部分も多くありました。
撮影:岩田えり
現代は多くの国で身分制度は廃止され、一人一人の人権も尊重されるようになってきました。また、男女平等が叫ばれ、当時に比べればだいぶ声を上げやすくなり、女性の権利も保証されるようになりました。しかしながら、社会において全ての不平等が解決されたわけではありません。あからさまな主従関係や差別はなくなったとしても、未だに見えないルールに縛られ、生き辛さを感じている人も多いのではないでしょうか?昨今のTV局での問題などにも見られるように女性軽視やパワハラ、セクハラなどハラスメント問題はどの業界においても根強く残っています。そんな今を生きる私たちだからこそ、時代は違えど彼女たちが苦しんだ内容に共感できる部分があるのだと感じます。
私は、完全に観客側で観ていましたが、彼女たちの魂の叫びは自分への強いメッセージだと受け止められた瞬間、心が震え涙が溢れました。「あなたはただの観客、モブキャラじゃない!自分が主役として後悔ないよう自分の人生を生きるのよ!」と、背中を押し応援されているようでした。また、「おかしいことはおかしいと声を上げて良い!怒っていい!」「昔みたいに耐え忍ぶ必要はない!」「我慢せずに自分を押し殺さず生きて!」「自分を解放して!もっと自由になって!さぁ、一緒に歌おう!踊ろう!」と、現代社会の何かに捕らわれ生きる我々観客に大きなパワーと元気をくれました。説教臭くなく、深く胸に響いてきたのは、彼女たちの生き様に強さと同時に寄り添うような温かさ、ハグされるような優しさも感じたからです。
歴史に名を遺した王の影にいた女性たち…その一人一人が深く傷つき、思いや葛藤を抱えながらもその時を「確かに生きていたこと」を強く感じました。不公平で理不尽な時代であっても、彼女たちは自分の人生を一生懸命生き抜いてきた。だからこそ“今”という時代がある。彼女たちが繋いでくれた今を生きる私たちは、思いを無駄にしてはいけない!当時に比べれば生きやすくなった今、へこたれて諦めてる場合じゃない!もっと自分らしく生きなければ!と勇気をもらえました。
悲しい事実や過去、歴史は変えられないし、どんなに後から訴えても人生は1度きりです。彼女たちは“今”を生き直すことはできません。だからこそ、“今という時代を生きる我々へ”過酷な時代を生きた彼女たちから思いを託されたようにも感じました。
ダブルキャストであり、公演によってはドレスアップ推奨回、光るライトスティック配布回、シング・アロング回と言い、一緒に歌ったり、何度足を運んでも楽しい作品となっています。SIX NIGHT回は限定フードやドリンクもあります。カーテンコールは全公演で写真・映像が撮影可能ですのでSNSで感想や想い出の投稿も残せます。
また、大人はもちろんですがお子さんも一緒に楽しんでいる様子も見かけましたので、春休みの思いで作りにもおすすめです!(文化庁による令和6年度「劇場・音楽堂等における子供舞台芸術鑑賞体験支援事業」に、ミュージカル『SIX』来日版が採択されています。)
パッションとエネルギー溢れる情熱的な歌声と音楽、ダンスパフォーマンスを是非劇場でお楽しみください!そして、熱い熱いメッセージを受け取って下さい!
(文:あかね渉)
ミュージカル『SIX』
【原作】トビー・マーロウ&ルーシー・モス
【演出】ルーシー・モス&ジェイミー・アーミテージ
【翻訳・訳詞】土器屋利行
【キャスト】
キャサリン・オブ・アラゴン:鈴木瑛美子 / ソニン
アン・ブーリン:田村芽実 / 皆本麻帆
ジェーン・シーモア:原田真絢 / 遥海
アナ・オブ・クレーヴス:エリアンナ / 菅谷真理恵
キャサリン・ハワード:鈴木愛理 / 豊原江理佳
キャサリン・パー:和希そら / 斎藤瑠希
【公演スケジュール】
2025年1月31日(金)〜2月21日(金)
東京都 EX THEATER ROPPONGI
2025年2月28日(金)〜3月2日(日)
愛知県 御園座
2025年3月7日(金)〜16日(日)
大阪府 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
※ソニンさんは東京公演のみ、田村芽実さんは東京公演と愛知公演のみの出演。