ジブリの世界観が目の前に…！原作へのリスペクトを感じる舞台『千と千尋の神隠し』観劇レビュー

舞台『千と千尋の神隠し』　提供元：東宝演劇部ジブリの世界観が目の前に…！原作へのリスペクトを感じる舞台『千と千尋の神隠し』観劇レビュー

宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』は、2001年に公開され爆発的ヒットを記録。第52回ベルリン国際映画祭金熊賞、米国アカデミー賞長編アニメーション映画部門賞を受賞した不朽の名作です。今もなお人気が続く本作は、2022年3月に舞台化、帝国劇場にて上演され、好評を博しました。そして、2024年に再演が決定！日本を飛び出し、ロンドン・ウェストエンドでも公演が実施されます。

舞台『千と千尋の神隠し』　提供元：東宝演劇部

2022年の千尋役は、数々のドラマ・映画で主演を務め、第73回紅白歌合戦では司会も務めた国民的女優・橋本環奈さんと、女優・歌手・声優として幅広く活動し、同役で第30回読売演劇大賞の最優秀女優賞を史上最年少で受賞した上白石萌音さんが務めました。2024年版には、橋本環奈さん・上白石萌音さんに加え、NHK連続テレビ小説や大河ドラマに出演し、舞台でも活躍の幅を広げている川栄李奈さんと福地桃子さんが参戦。4人の千尋が生み出す新たな『千と千尋の神隠し』が、2024年3月11日（月）から帝国劇場にて開幕しました！

本記事では、上白石萌音さんが千尋を務めたゲネプロの様子をお伝えします。この日のキャストは、千尋・上白石萌音さん、ハク・増子敦貴さん(GENIC)、カオナシ・小㞍健太さん、リン・華 優希さん、釜爺・宮崎吐夢さん、湯婆婆・春風ひとみさん、兄役・堀部圭亮さん、父役・伊藤俊彦さん、青蛙・元木聖也さん、頭・五十嵐ゆうやさん、坊・武者真由さん、アンサンブルは湯屋チームです。

舞台『千と千尋の神隠し』　提供元：東宝演劇部

主要キャストについて

千尋（上白石萌音さん）

登場シーンからぼんやりとした表情、覇気のない話し方で、ジブリアニメの千尋を完璧に再現。上白石さんはしっかり者の印象があるだけに、千尋の再現度の高さにより驚かされました。一方、トンネルに入ろうとする両親に「帰ろうよ」と叫ぶところや、湯婆婆にどんなに脅されても「ここで働かせてください」と言い続けるところには、千尋の意志の強さを感じます。
千尋が強い意志を持って行動しなければ、この物語は動きません。しかし、危なっかしいところも彼女の持つ個性。強い意志と危なっかしい面が良い塩梅で描かれなければ、一貫性のない人物になってしまいます。その難しいバランスを、上白石さんは“優しい意志”で演じているように感じました。

舞台『千と千尋の神隠し』　提供元：東宝演劇部

上白石さんが作る「千と千尋の神隠し」の世界は、“千尋の優しさが、物事を成功へ導いている”と感じさせるのです。一生懸命で不器用で優しい千尋、愛おしくて仕方ありませんでした。
そして、ラストシーン！油屋での日々とハクを想って、切なさと愛おしさが交錯した表情で微笑む千尋に泣かされました…。あの表情を見るためだけに観劇に行く価値があると思ってしまうほど！観劇後はしばらく余韻が抜けませんでした。

ハク（増子敦貴さん）
ハクは敵か味方か…それさえ分からないミステリアスな雰囲気を持った役ですが、増子さんはそのイメージがぴったり。中性的な美しさもジブリアニメ同様で、儚げな空気感もよく似合っていました。また、千尋に声を掛けるときの優しいトーンからは、千尋への想いが伝わってきてきゅんとします。

舞台『千と千尋の神隠し』　提供元：東宝演劇部

特に印象的だったのは、湯婆婆に盾突く場面。初めて彼の感情を見た気がしたのです。心を殺して生きてきたハクが、千尋のおかげで自分の心の扉を開くことができたように感じて、胸が熱くなりました。

カオナシ（小㞍健太さん）
ダンサーらしいしなやかな動きで、カオナシの不気味な雰囲気を表現していた小㞍さん。物悲しい雰囲気が的確に表現されていたので、千尋の優しさに執着しているのも納得のお芝居でした。前半は得体のしれない奇妙な雰囲気があるのですが、後半になるにつれて忠実な印象に変わっていくのが面白くて…！カオナシの心境の変化が、動きやオーラから読み取れたのは、小㞍さんの表現力の高さだと感じました。

リン・千尋の母（華優希さん）
姉御な空気感がよく似合っていました。宝塚歌劇団のトップ娘役だった頃の可愛らしい印象とは違い…と言いたいところですが、彼女は宝塚時代から『はいからさんが通る』の紅緒など、お転婆キャラも演じていたので、案外似合う役なのかもしれません。口は悪いけれど、面倒見が良くて優しいリン。千尋が体調を崩したときの華さんの表情や口調の変化、各場面で千尋の挑戦を見守る姿などから、その優しさが強く感じられました。
一方、千尋の母を演じているときは、リンとは違うクールな表情が印象的。ジブリアニメ版でも千尋の母は厳しい印象がありますが、そのキャラクターがリアルに再現されていました。

釜爺（宮崎吐夢さん）
最初は気難しそうに見えるのですが、だんだん優しくて情のある人物へと印象が変わっていく釜爺。釜爺にはユーモアのセンスがあるので、緊迫した場面でも彼の存在が癒しとなっていました。

舞台『千と千尋の神隠し』　提供元：東宝演劇部

そして、常に舞台全体を包んでいるような安心感も。千尋がハクを救うために奮闘する姿を「愛だ」と見守る姿には、本物の孫を見守るような包容力がありました。

湯婆婆・銭婆（春風ひとみさん）
湯婆婆は千尋の障壁となる人物だけれど悪役ではない…そのバランスがうまく表現されていました。感情表現が豊かで、特に怒りを表現する場面が多い湯婆婆。声量があるので、魔女の迫力を感じました。腐れ神が来たときや坊が泣いたときに、表情がコロコロ変わるのも見所のひとつです。

舞台『千と千尋の神隠し』　提供元：東宝演劇部

一方、双子の姉・銭婆では、包容力のある温かい人柄を的確に再現。千尋と銭婆の出会いは必然で、千尋のまっすぐで優しい人柄が、2人を引き合わせたのだと感じさせられました。そう感じたのは、2人が常に穏やかで柔らかな空気を纏ったお芝居をしていたから。銭婆と千尋の会話には、心に灯がともるような温かな空気がありました。

兄役（堀部圭亮さん）　父役（伊藤俊彦さん）　青蛙（元木聖也さん）
彼らを筆頭に、油屋で働く愉快な者たちも、物語の世界観の引き立て役として存在感を放っていました。はじめは「人間だ」と千尋を警戒していたはずなのに、少しずつ味方になっていく…。彼らには憎めない愛らしさがあり、思わず口角が緩む瞬間が多々ありました。

五頭（五十嵐ゆうやさん）　坊（武者真由さん）
緊迫した場面を笑いに変える面白さがあった2人。小道具を使った芝居も多かったですが、すべてが自然でした。特に、五十嵐さんは動きが軽やか！（笑）後半は2人とも癒しの存在となっていて、千尋の大切な仲間であることが伝わってきました。

舞台『千と千尋の神隠し』　提供元：東宝演劇部

アニメファンの心にも刺さる舞台

個人的に好きだったのは、セリフのない場面が強調されているところ。千尋とリンが海を眺めながら食事をする場面や、電車で沼の底へ向かう場面などは、セリフがなく音楽と舞台セット、人の動きだけで場面を繋ぐ時間があります。ジブリアニメは風景や自然の音などを大切にする印象がありますが、それが舞台でも強調されているように感じました。アニメファンの心にも刺さる、原作へのリスペクトを感じる演出です。

舞台『千と千尋の神隠し』　提供元：東宝演劇部

また今回は主要キャストが役替わりをするので、何度見ても新鮮な発見があるのではないでしょうか？

ジブリの世界観が目の前に広がる感覚を楽しめるのは舞台だけ。ぜひ生の舞台を観て、千尋とともに油屋を冒険してみてください！個性豊かな仲間たちが、あなたを憧れの世界へ誘ってくれるはずです！

舞台『千と千尋の神隠し』　提供元：東宝演劇部

舞台『千と千尋の神隠し』　提供元：東宝演劇部

舞台『千と千尋の神隠し』　提供元：東宝演劇部

本作は3月30日(土)まで東京・帝国劇場で上演されます。
詳細は公式サイトで。
https://www.tohostage.com/spirited_away/

（文：山本萌絵）