
「俺たちに明るい明日は来る」と信じて。ミュージカル『ボニー&クライド』フォトコール、囲み取材レポート
1930年代、世界恐慌下のアメリカ中西部で銀行強盗や殺人を繰り返した伝説のギャングカップルの生き様を描く、ミュージカル『ボニー&クライド』がシアタークリエにて3月10日(月)に開幕。
前日となる3月9日(日)、同劇場にて、柿澤勇人、矢崎広、桜井玲香、海乃美月ほか出演者数名、そして上演台本・演出を担当する瀬戸山美咲が登壇してフォトコールと囲み取材が行われた。
その様子を一部、ご紹介します!
まずは囲み取材から。
左から、瀬戸山美咲、桜井玲香、柿澤勇人、矢崎広、海乃美月(敬称略)
イチオシのシーン
※早速余談なんですけれど、発言する人が一歩前に出るシステム、個人的には初めて見たのですが、律儀で素敵ですね。
柿澤 僕のイチオシは、「クライドが、バスタブの中でウクレレを持って歌う」というシーンです。どうやら音楽に関わっている方が見ると、楽器を持ってお風呂の中で演奏するなんて言語道断らしいんですけど(苦笑)、クライドはそんなことは全く気にせず、ボニーに対するラブソングを歌います。そのときはもう強盗もして人も殺めて、隠れ家に逃げている最中なので、本当は音もあまり立ててはいけないような状況にも関わらず、ボニーに対する愛を熱唱するわけです(笑)。冷静に考えると「バカだなぁ」と思うんですけど、でもそういうシーンこそ、ボニーとクライドらしいといいますか、型にはまらない彼らを象徴しているシーンだなと思います。なかなかバスタブに入って楽器する機会もないですし(笑)、個人的にはイチオシです。
矢崎 ボニーとクライドは本当にしょっちゅうケンカするんですけど、僕はそこが見所かなと思っています。ダブルキャストのときって、「組み合わせによって全然違いますよ」ってよく言うと思うんですけど、今回が本当にかなり違うんですよ! 「本来は再演じゃないと出ない違いだよな」と思うくらいの違いがペアによってあるので、いろんなケンカが見られることは見所かなと思っています。
桜井 ボニーが出ているシーンではないのですが、ストーリーの後半で、クライドと兄のバック、そしてボニーの幼馴染みのテッドの3人がそれぞれ思いを歌うナンバーがありまして、それが本当にカッコイイんです! テンションがあがります! 初めて稽古場でそのシーンを見たとき、ほとんどの女性陣が「カッコイイ(ため息)」とつい言ってしまったくらい素敵なナンバーが後半にあります。出てきたら絶対にわかると思うので、ぜひ楽しみにしていただきたいなと思います。
桜井 私は、1幕と2幕のラストがとても印象的だなと感じています。1幕には、ボニーとクライドが出会い、犯罪に手を染めたクライドと協力して一緒に進んで行くというスリリングさや爽快感があると思います。2幕は、みんなボロボロになって、「俺たちこれからどうするかわからないけど、とにかく生きていかないといけない」という、また1幕とは違う2人の姿が描かれていくので、それぞれのラストは特に見所ではないかと思います。
ダブルキャストゆえの演出方法
瀬戸山 組み合わせによって、関係性の見え方が変わるなと感じています。特にボニーとクライドに関しては、「この2人だとクライドのほうが強いんじゃないか」とか「ちょっとお母さんと息子みたいな関係に見えるなぁ」とか、組み合わせによって受ける印象が違ったり、出てくる感情が違ったりしているので、各組み合わせごとに確認しながら、考えながら、より良く見せる方法を話し合いました。
ボニーから見たクライド(柿澤&矢崎)の魅力
※以下、桜井さんと各クライドとの恋人漫才的な掛け合いが面白かったので、トーク形式でお届けします(笑)。
桜井 柿澤さんは、めっちゃ、かっきー(笑)。勢いがとにかくすごいし、テンポ感も早いので、必死についていかないとどんどん置いて行かれそうな気がするんですよね。好きになってくれなさそうというか、好きにさせないといけないというか…「頑張ろう!」と思います。
柿澤 僕は大好きなんだけどなぁ。
桜井 (笑)。私もそのつもりでやってるんですけど、負けないように頑張らないといけないなと思います。逆に、矢崎さんは包容力がすごく…(柿澤の気配を感じ)あ、違うんです!
柿澤 僕には包容力がないと。
桜井 違う! あるんです!
柿澤 勢いだけだと。
桜井 違う、そうじゃなくて…。
柿澤 いいんだよ(笑)。
※桜井さんの天然発言炸裂によって、カメラのピントも柿澤さんもブレブレ。
桜井 矢崎さんは、お父さんみたいな…。
柿澤 (爆笑)
矢崎 (崩れ落ちる)
※崩れ落ちる矢崎さん(可愛い)と、爆笑する皆様がこちらです。
瀬戸山 わかる。ボニーを見守っている感じがしますよね。
桜井 矢崎さんは、私が何をやってもまとめて終わらせてくれるんです。…ごめんなさい、海ちゃん頼みました(苦笑)。
海乃 頼まれました(笑)。かっきーさんのクライドはとにかくワイルドで、本当に一目惚れ出来てしまうオーラと熱量を持っていらっしゃるなと思います。とにかく持っているパワーが強いクライドです。
矢崎さんは、一瞬一瞬をすごく大切にされているというか、繊細さのあるクライドだなと感じています。どんなときもボニーを絶対に逃さず見てくださっているような感じがして、自然とあたたかい気持ちが生まれて来るといいますか。そして、要所要所でクスッと笑わせてくださるコミカルさもあり、でも真剣なときはすごくその時間を全力で生きていらっしゃって、心の振れ幅が広いクライドさんだなと感じています。告白みたいで恥ずかしい(照)。
クライドから見たボニー(桜井&海乃)の魅力
柿澤 玲香は、これまで何回か共演しているのですが、王道系のヒロインの役が多かったんですね。だけど今回のボニーとクライドは、型にはまらないというか、完全なるアウトロー。なので、初めて見る玲香の顔が稽古場段階でたくさんありましたし、おそらく初日が開けてからもどんどん変わっていくのだろうと思います。今までの自分が踏み入れていない領域に行こうと悩んで、苦しんでいる姿はすごく美しいし、カッコイイなと思っているので、僕も一緒にエネルギーを持って演じられたらいいなと思います。
海ちゃんは、宝塚歌劇団を卒業されて最初の作品ということで、おそらく今まで経験してきたことと勝手が全然違うだろうし、そもそも稽古場に男のキャストがいること自体初めてなわけですよね。いろいろと戸惑っている部分があるだろうとは思うんですけど、でも、何があってもしがみついていくような強いエネルギーとか精神性を持っている方だなと感じています。ファンの方も、初めて観る方も、きっとびっくりするだろうと思いますね。
※役に影響されて駄々をこねる機会が増えていた桜井さんを「あんなに稽古場で怒っている玲香を初めて見た」と話す柿澤さんに対し、「え、そういう人だと思ってた」と言う矢崎さん。あくまで“役に影響されて”だと訂正が入りました(笑)。
矢崎 稽古に入る前、玲香ちゃんはダークサイドが似合うと思っていて、海ちゃんはライトサイドが似合うと思っていたんですけど、稽古をしていくうちに印象が逆転しました。玲香ちゃんは自分の見え方や相手の見え方をいろいろ考えていますし、すごくコミカルな部分も持っているし、とても可愛らしい内面の持ち主で。本来はライトサイドの人がボニーに果敢に挑んでいる姿を見て、僕も頑張らないとなと思わされます。
海ちゃんは、すごく華やかなイメージがあったんですけど、役作りに悩んだ結果なのか、あるとき突然髪型のチェンジをしてきたんです。その日から急にスイッチが入ったような気がしたというか、元々めちゃくちゃ真面目でストイックな方だと思うんですけど、そういう方が突き抜けるとダークサイドにグンっと入るんですよね。止められない怖さ、触ったら怪我しそうな怖さが出てきて、「この女優、怖え!」と稽古の後半から思っています。
※「怖がらせちゃった」とつぶやきつつ、海乃さんがとても嬉しそう。
お客様へのメッセージ
瀬戸山 ミュージカル『ボニー&クライド』は、シビアな現実や育った環境から飛び出したいと思っているボニーやクライドや周りの人たちのエネルギーを楽しんでいただける作品だと思います。空を夢見るカゴの中の鳥のように、人の夢は誰にも制御出来ないし、夢を現実に変えていこうという力も誰にも止めることが出来ない。その勢いをみなさんにも楽しんでいただけたらいいなと思っています。
そして、フランク・ワイルドホーンさんの音楽がとにかく強くて、私たちをグイグイ引っ張っていってくれるので、ぜひお客様もその音楽に乗っかって、遠くまで一緒に旅をしていただけたらと思います。よろしくお願いします。
海乃 シアタークリエはとても素敵な劇場で、舞台と客席の距離が近いので、繊細な部分も伝わりやすいし、エネルギーも感じやすいのではないかと思っています。なのでしっかりとパワーを出してやっていきたいなと思いますし、ダブルキャストで全然違うものをお見せ出来るように、何回でも楽しんでいただける『ボニー&クライド』を作れるように精一杯頑張りたいなと思います。どうぞよろしくお願いします。
桜井 この作品を語ろうと思うと表現力が逆に乏しくなってしまうくらい、真っ正面からぶつかるようなお芝居と歌が出来ていて、とにかく楽しいです。この楽しさがお客様にも少しでも多く伝わったらいいなと思いますし、とにかく「あっという間に終わってしまったな」と思えるくらいいろいろなものがギュッと詰め込まれていると思いますので、ぜひスカッとほろっとしに劇場に来てくださったらうれしいなと思います。よろしくお願いします。
矢崎 この作品は、どのシーンを見ても本当にカッコイイなと思います。自由に生きたいボニーとクライドに対して、不自由な境遇や時代が目の前にあって、その不自由さにどう向き合ってうまく生き抜いていくのか、そのぶつかり方の違いをいろんな組み合わせで楽しめるものになったなと思っています。曲も素晴らしいですし、多方面から楽しめる作品だと思いますので、ここからもっと盛り上げていけたらなと思います。
柿澤 史実のボニー&クライドは、20代半ばで最後は警官に撃たれて亡くなります。けれども今回の舞台では決して暗いとか絶望に向かっていく感じが一切なく、楽しむときはぶっ飛ぶくらい楽しんで、ケンカするときは本気でぶちキレて、彩度の高いシーンが続きます。なので、「悲しいな」とか「最期を迎えるの嫌だな」とか思うことはなく、あっという間に終わってしまうなと、稽古場で見ていて感じました。映画版には『俺たちに明日はない』という邦題がついていますけど、僕らは、明るい明日は来ると信じて、イキイキと生きています。「この世界を変えてやるんだ」「名前を残してやるんだ」と信じれば信じるほど、ラストのコントラストが効いてくるのではないかと思います。とにかくみなさんに爽快感を持って楽しんで見ていただける作品になっていますので、劇場でお待ちしております。
続いて、フォトコール(劇中2シーン披露)です。
第1幕より
ボニーの幼馴染で保安官のテッド(吉田広大)が、ボニー(桜井玲香)をパーティーに誘う。
車が故障して困っていると、クライド(柿澤勇人)が現れ、修理。
惹かれ合う2人。
クライドは、「俺にはプランがある。ここから抜け出して有名になる」と語り、「♪残すのさ、名前を」を歌う。
第2幕より
食料品店を襲ったさいに警官を射殺してしまったクライド(矢崎広)は、母・カミー(安田カナ)、父・ヘンリー(広田勇二)を訪ねる。
隠れ家では、ボニー(海乃美月)がお待ちかね。
クライドは、新品の服をプレゼントする。
ボニーとクライドは、「自分の父親/母親のような人生は我慢できない。満足できる人生を2人でつかみ取ろう」と「♪満足できる人生」を歌う。
桜井さんは、無邪気で可愛らしく、笑顔も人柄もチャーミングなボニー。突然現れたクライドに瞳を輝かせ、壮大な夢を語るクライドに吸い込まれるように惹かれていく、そのピュアさが危なっかしくも魅力的。
この場面でクライドとのキスシーンがあるのですが、背伸びをしながら抱きついている姿に、胸キュンでした。
海乃さんは、透明感の中に芯の強さが見え、心の余裕と色気を感じるボニー。かと思えば、隠れ家に戻ってきたクライドに見せる笑顔は、幼い子供のように無垢でキュート。そのギャップが素敵でした。
宝塚歌劇団を退団し、本作が初舞台。歌声も娘役時代より強く、深くなった印象で、これからがさらに楽しみです。
インタビューはこちら↓
【インタビュー】海乃美月、ミュージカル『ボニー&クライド』にて宝塚歌劇団退団後初舞台! 好奇心旺盛に、新たな世界へ羽ばたく
柿澤さんは、台風の目のようなクライド。活発で情熱的。よくよく聞くと思想は過激だけれども、あまりにも楽しそうに「俺は有名になるんだ!」と語るので、なんだかヤバそうな香りなんてどうでも良くなってしまうような(※絶対ダメ)、眩しいほどのカッコよさを放っている。危険な人からしか得られない独特の色気ってあるよね、わかるよボニー。
矢崎さんは、繊細であたたかみを感じるクライド。「平凡な人生なんて我慢できない」と歌いながらも、両親に対して多少の自責の念はあるのではないかと思うような、葛藤を感じる表情をする(※自業自得だけど)。けれども、隠れ家に戻ると、明るく逞しさを感じる表情に。彼にとって、ボニーがいかに大切な存在か、よくわかります。
ミュージカル『ボニー&クライド』はこれまで、2011年にブロードウェイにて上演され、2012年に日本初演。その後2022年にロンドン・ウエストエンドで再演し、2023年には宝塚歌劇団雪組で上演されました。2025年、瀬戸山美咲による新演出版『ボニー&クライド』はどのような世界観となっているのか、とても楽しみです。
本作は4月17日(木)まで東京・シアタークリエにて上演されたのち、大阪・福岡、愛知でのツアー公演も予定されています。
詳細は公式サイトで!
https://www.tohostage.com/bonnie_and_clyde/
(撮影・文:越前葵)
ミュージカル『ボニー&クライド』
【脚本】アイヴァン・メンチェル
【歌詞】ドン・ブラック
【音楽】フランク・ワイルドホーン
【上演台本・演出】瀬戸山美咲
【出演】
クライド・バロウ(Wキャスト): 柿澤勇人/矢崎広
ボニー・パーカー (Wキャスト):桜井玲香/海乃美月
バック:小西遼生
ブランチ:有沙瞳
テッド(Wキャスト):吉田広大/太田将熙
エマ:霧矢大夢
シュミット保安官:鶴見辰吾
石原慎一/彩橋みゆ 池田航汰 神山彬子 齋藤信吾* 社家あや乃* 鈴木里菜 焙煎功一 広田勇二 三岳慎之助 安田カナ
*(スウィング)
【東京公演】2025年3月10日(月)~4月17日(木)/シアタークリエ
【大阪公演】2025年4月25日(金)~30日(水)/森ノ宮ピロティホール
【福岡公演】2025年5月4日(日)~5日(月・祝)/博多座
【愛知公演】2025年5月10日(土)~11日(日)/東海市芸術劇場