悲しき戦国武将・最上義光の物語、ついに開幕!舞台『羽州の狐』観劇レビュー
撮影:岸隆子
悲しき戦国武将・最上義光の物語がCBGKシブゲキ!!にて、ついに開幕!
2024年10月23日、CBGKシブゲキ!!にて、舞台『羽州の狐』のゲネプロが行われました。本作は、日本の歴史・偉人を題材とした作品を多数上演してきた、”る・ひまわり”が描く、戦国時代の最上家当主・最上義光の物語です。
時は慶長五年、九月。関ヶ原の戦いを終えた最上義光は、東軍勝利を祝うため、甥・伊達政宗に一宿の誘いをします。しかし羽州の山道を進む途中で雨に降られ、政宗の従兄弟・伊達成実が地滑り!
義光の弟・中野義時を含めた4人が、洞窟の中に閉じ込められてしまいます。洞窟で夜を明かすことになった4人。しかし、義光の様子には違和感があります。彼の思惑とはいったい…?
穏やかな仮面を被りながらも、豊臣秀吉討伐に燃え、あらゆる手段を使って相手を罠にかける、狂気的な一面を持っていることから「羽州の狐」と呼ばれた最上義光。本作では、彼が「羽州の狐」と呼ばれる人間となった、悲しい理由に迫ります。
なお本作は、2024年3月に新国立劇場で上演した舞台「時をかけ・る~LOSER~」のスピンオフ作品としても注目が集まっています。
各出演者について
主演の最上義光を演じるのは、安西慎太郎さん。陽気で飄々とした雰囲気を纏っているところが、かえって不気味な印象。時折見せる狂気的な目線運びには、思わず背筋がゾクッとしました。
撮影:岸隆子
彼は地滑りに巻き込まれ、甥の伊達政宗らと共に洞窟に閉じ込められてしまいますが、それでも慌てた様子はなし。お茶目に政宗を追い詰める姿には、まさに「狐」の不気味さがありました。
物語の後半の回想シーンでは、彼が復讐に燃える「狐」になった原因が明らかになります。そのときの切なさ、やるせなさ、虚しさ、苦しさ、そして怒り…あらゆる感情を爆発させて語る姿は、涙なくして観ることはできないほど。安西さんの熱演が客席中を包み込んでいました。
撮影:岸隆子
最上義光の甥・伊達政宗を演じるのは、松田岳さん。佇まいが美しく、眼帯をつけていても目の奥には強さを宿していることを感じさせます。
撮影:岸隆子
洞窟に閉じ込められた直後、義光に迫られても、楽観的でユーモアのあるキャラクターとして政宗を造形した松田さん。一方、回想シーンで演じた大谷吉継には風格と落ち着きがあり、その芝居の使い分けも印象的でした。
伊達政宗の従兄弟・伊達成実を演じるのは、木ノ本嶺浩さん。ストーリーテラーの役割も担い、幕開きから物語の世界へと優雅に誘います。「いよいよ始まる…!」という高揚感を、開始早々から与えてくれました。
撮影:岸隆子
伊達成実として洞窟の中で繰り広げられる、騙し合いにもナチュラルに参戦していきます。心理戦のなかで、繊細に的確に表情を変えて演じる姿が印象的でした。
最上義光の弟・中野義時を演じるのは、本作の演出も務めた平野良さん。前半は口数も少なく、後ろから義光と政宗の言い争いを見つめているという印象でしたが、佇まいに宿る「強さ」と「存在感」が魅力的です。後半になって明らかになる、彼の本当の姿には大きな衝撃が待っていました。
撮影:岸隆子
また、回想シーンで演じた黒田官兵衛の勇ましさ・男らしさが印象的です。個人的には、平野さんの所作が美しく見とれてしまいました!
細部までこだわり抜かれた演出
印象的だったのは、ド派手な音響とライトを使った演出です。大きな舞台転換はありませんが、ライトによって義光の心境の変化が繊細に描かれていました。また、ライトの当たっていないところで、影を使って存在を表現する演出には、どことなく物悲しさも漂います。
物語の一場面として成立させているだけでなく、一枚の写真のように楽しむこともできる本作。こだわり抜かれた美しさが、義光の苦しい人生との対比のようにも感じられました。
撮影:岸隆子
また、物語が時系列で進んでいくのではなく、「過去に起きた話」として描かれるところも本作のポイントでしょう。時折回想シーンが組み込まれることで、物語の結末は分かっていても苦しくなる…登場人物に感情移入しやすい構成だと感じました。
撮影:岸隆子
もうひとつ印象的だったのは、落語などの伝統芸能を彷彿とさせる表現方法。本作には、扇子を筆や刀に見せる表現などが、多数組み込まれていたのです。その表現方法が、時代物の作品の世界観に引き込む役割を果たしているのだと感じました。
撮影:岸隆子
たった4人だけで繰り広げられる、濃密な会話劇。最上義光の悲哀な人生、ダークファンタジーな世界観をぜひ劇場で体感してみてください!
本作は10月27日(日)までCBGKシブゲキ!!にて上演されています。
詳細は公式サイトで。
https://le-himawari.co.jp/galleries/view/00132/00702
(文:山本萌絵)
舞台『羽州の狐』
【演出】平野良
【企画・製作】る・ひまわり
【出演】安西慎太郎/松田岳/木ノ本嶺浩/平野良
公式サイト
https://le-himawari.co.jp/galleries/view/00132/00702
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