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サファリ・Pがアゴタ・クリストフ原作の小説『悪童日記』を新たなキャスト、台本、演出で5年ぶりに再演

サファリ・P|悪童日記_チラシ_表面
チラシ表面

京都の劇団 サファリ・Pが、アゴタ・クリストフ原作の小説『悪童日記』の”文体”を舞台化し、演劇・ダンス・パフォーマンスの融合した作品として上演する。

サファリ・Pは、2017年、2019年と継続的に上演を続けている『悪童日記』を、2024年4月京都にて、新たなキャストと台本に改訂を加え5年ぶりに上演する。

原作について

『悪童日記』(原題:Le Grand Cahier)はハンガリー生まれの作家アゴタ・クリストフによるフランス語のデビュー小説で、1986年に出版された。1988年に続編の『ふたりの証拠』、1991年に『第三の嘘』が発表され、この三部作は世界30か国以上で翻訳された。2013年にはヤーノシュ・サース監督により映画化された記憶も新しい。
『悪童日記』は、母と離れ祖母のもとに疎開した幼い双子が、戦争によって炙り出された人々の浅ましい言動から己の心身を守るために、自らを鍛え上げる物語。戦火をしたたかに生き抜く双子が独自のルールにしたがってしるした日記という形で進行する。

サファリ・Pと『悪童日記』

サファリ・Pは、本作の初演では、物語そのものではなく、人によって受け取る印象の変化する“感情”にまつわる言葉を一切排除し、事実だけを連ねるという双子の日記の“文体”を舞台化することを目指した。劇中で発せられる言葉は意味や物語ではなく、単なる音やリズム、感覚として、たった5つの無機質な平台に奉仕する演者の身体に連動し、スピーディーで無機質な舞台空間を造り上げ、翻訳者に「今はもう地上にいない原作者アゴタ・クリストフに観せたかった」といわしめた。

続く2019年版では、双子の主人公のうち1人を女性が演じることで、戦時下を生き異国の地で孤独に働いた作家であるアゴタ・クリストフ自身の姿を投影し、この物語が原作者の戦争体験から来るものであることを示唆した。

今回の上演について

サファリ・Pは、今回の上演でも、この日記に書かれた”物語”を舞台化するのではなく、双子によって、感情を排除され事実のみを簡潔に記された日記の”文体”そのものを舞台化することで、日記には決して記されなかった双子の感情を舞台上に再現する。

さらに、初演時には気がつかなかった小説の中の、隠れた、しかしおそらく原作者にとっても大切だと思われるストーリーを、新たにエンターテインメント要素として組み込もうと試みるという。

また、これまでの上演からさらにセリフを必要最低限まで減らし、劇中で発せられる言葉は、言語の意味や物語ではなく、言葉の生み出す感覚やそれが形作る世界を表現し、洗練された俳優の身体を駆使することで舞台空間を造り上げようとしている。

新たなキャストには、劇団壱劇屋の主宰として長年関西の第一線で活躍をしている大熊隆太郎と劇作家・演出家・俳優として多方面で活躍している幻灯劇場の藤井颯太郎を迎える。サファリ・Pのメンバーとは異なるバックグラウンドや身体性を持っている2名が加わることで、作品に新たな視点が加わり、作品をより深く多角的なものになることが期待される。

大きなノート

山口茜(脚本・演出)

主人公である双子が、小説の中で一貫して取る行動は、自分にとって絶対に必要なものはあらゆる手段を使って必ず手に入れるということです。戦争によって人々の心は荒んでいるため、そこで自然発生する過酷な暴力に耐えるべくトレーニングを行い、自らの感覚を麻痺させながら、自分たちだけでなく、あらゆる人が生き延びるために必要なものを知恵を絞って入手し与えます。反対に、他者の人権を脅かす人に対しては惜しみない罰を与えます。
そしてその様子を毎日、大きなノートに記します。作文のルールは単純で、内容は真実でなくてはならない、つまり見る人によって変わるような形容詞や感情の表現ではなく、事実の描写でなくてはならないというものです。

だから私はこの双子を「戦時下を生き延びようとするいたいけな子供たち」ではなく、この世界の「神」すなわち「文体」として描くことを思いつきました。それで2016年の初演では、稽古着の5人の演者の身体と5つの無色の平台のみで世界を表現しようとしたのです。

そうしてこれまで4度の上演を重ねてきましたが、今回新たに、作品の中で、愛の定義を問い直したいと思っています。

あらゆる施しを拒否する双子も、最初の頃は「髪に受けた愛撫だけは捨てることができない」*と記します。これは同じく小説に登場する「兎っ子」と呼ばれる子供も口にすることです。「私はね、果物や魚やミルクなんて欲しくないわ。そんなもの私、盗めるんだもの。私はね、あんたたちが私を愛してくれたらってそう思うのよ。誰も私を愛してくれない。母さんさえも」*

私たちはつい、愛というものを、言葉や愛撫や束縛で表現しようとしますが、小説「悪童日記」のなかで双子は、自らの体験と作文を通して、これまで知らなかった新しい愛の形を知り、それを実行することになります。そこから読み取れるのは、その愛の形こそが戦争を無くす鍵なのだという、アゴタ・クリストフからのメッセージのようにも思えます。
言葉でもなく、愛撫でもなく、束縛でもない愛とはなんなのか。
ぜひ見届けにいらしてください。

*アゴタ・クリストフ著, 堀茂樹訳『悪童日記』ハヤカワ文庫, 2001 より

 

本作は4月12日(金)から京都・THEATRE E9 KYOTOにて上演される。
詳細は公式サイトで。
https://stamp-llc.com/stage/vol10_akudo/

(文:stamp制作部 監修:エントレ編集部)

公演情報

サファリ・P第10回公演『悪童日記』

原作:アゴタ・クリストフ『悪童日記』(ハヤカワ文庫)
翻訳:堀茂樹
脚本・演出:山口茜
出演:芦谷康介、佐々木ヤス子、達矢(以上 サファリ・P)、大熊隆太郎(劇団壱劇屋)、藤井颯太郎(幻灯劇場)
(※出演を予定しておりました辻本 佳は降板することとなりました。2024/3/11)
スウィング:谷美幸(劇団壱劇屋)
作曲:増田真結
舞台美術:夏目雅也
照明:池辺茜
音響:森永恭代
舞台監督:下野優希
演出助手:入江拓郎(THE ROB CARLTON)
宣伝デザイン:山口良太 (slowcamp)
宣伝写真:中谷利明
制作:水戸亜祐美、寺田凛、染谷日向子(合同会社syuz’gen)、合同会社stamp
企画/製作:合同会社stamp
4月12日(金)~16日(火)/京都・THEATRE E9 KYOTO

公式サイト
https://stamp-llc.com/stage/vol10_akudo/

チケットを探す
全席自由席・前売当日同料金
一般:4,000円
U18:1,000円
障がいのある方とその介助者:2,500円(同伴の介助者一名無料)

*未就学児入場不可
*U18は公演当日要年齢証明書
*障がいのある方とその介助者チケットは、障害者手帳等をお持ちの方がご購入いただけます。身体障害者手帳、療育手帳、精神保健福祉手帳のいずれかを当日受付でご提示ください。また、ご同伴の介助者一名まで無料になります。
*車いすで観劇をご希望の方はチケット予約時にお知らせいただくか、『悪童日記』制作部までお問合せください。
*入場券の整理番号は当日受付順となります。

チケット予約
[peatix]予約のみ・当日清算
https://peatix.com/group/4185018

[THEATRE E9 KYOTO]事前精算/劇場支援会員
https://askyoto.or.jp/e9/ticket/240412

 

【サファリ・P】
2015年7月、利賀演劇人コンクール2015にて『財産没収』(作:テネシー・ウィリアムズ)を上演。優秀演出家賞一席を受賞。メンバーは芦谷康介、達矢、佐々木ヤス子、池辺茜、森永恭代、山口茜の6名(2023年10月現在)。パフォーマー(俳優・ダンサー)・技術スタッフ(照明・音響)・演出部(演出家・ドラマトゥルク)からなる劇団。
これまでは、主に既成戯曲・小説から作品を立ち上げてきた。物語に底流する作者の生い立ち、時代背景などを重視してテキストを紐解き、その中から選び抜いた最小限のテキストを抽出。パフォーマーに俳優とダンサーが混在していることを活かし、身体と最小限の舞台美術、最小限のテキストのみを使用し、文字だけで立ち上がっていた原作世界の、意外な、しかし間違いなくそこにある要素を立ち上げることを得意とする。
『悪童日記』は、2016年、2019年の本公演に加え、瀬戸内国際芸術祭やコソボ共和国で開催されたFEMART Festival 7thにも招聘され、観客から多くの支持を集めた。

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