2017.8.7

誰にも愛されない「にんじん」を観て現代の子供は何を思うのか?/ミュージカル「にんじん」観劇レビュー



ミュージカル「にんじん」大竹しのぶ、真琴つばさ
ミュージカル「にんじん」大竹しのぶ、真琴つばさ
 

誰にも愛されない「にんじん」を見て現代の子供は何を思うのか? ミュージカル「にんじん」観劇レビュー

 
「にんじん」はフランスの作家ジュール・ルナールが、1894年に発表した小説。フランスの片田舎を舞台に、にんじんのように真っ赤な髪、そばかすだらけの顔をした少年 “にんじん”とその家族の物語である。

今回の公演は、1979年に日生劇場にて上演された音楽劇「にんじん」でにんじん役を演じた大竹しのぶさんが、38年の時を経て、同じ役を演じるということで、観劇前から楽しみにしていた。

 
にんじんは14歳の少年。
フランスの片田舎、美しい景色に囲まれた小さな村に暮らすこの少年は、誰にも愛されていない。
だからこそひねくれてしまい、さらに怒られ、仲間外れになる。
そしてそのことをにんじん自身もよく知っている。

「真っ赤な髪で そばかすだらけ
そうさぼくは みにくい“にんじん”」

と、自分自身で歌ってしまうくらいだ。
この歌詞は、本作の脚本を手がけた山川啓介氏が作詞されたものである。
切なくも美しいメロディーに乗せて、にんじんの想いが観客に伝わって来る。


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彼は人にも、自分のことを“にんじん”と呼ばせる。本当は“フランソワ”という素敵な名前があるにもかかわらず、にんじんと呼ばれることを望むのだ。

そして、にんじんは決して「ぼくはみにくいフランソワ」とは言わない。

これは、にんじんが今置かれている状況に陥っているのは決して本当のぼくじゃない。かわいそうなのはぼくじゃなくて、“にんじん”なんだ。と、自分自身の幸せを信じ、にんじんにすべての悲しい事を引き受けてもらいたいと必死で願っていることの表れに思えた。

ミュージカル「にんじん」大竹しのぶ
ミュージカル「にんじん」大竹しのぶ

 

子供の生きる小さな世界

子供の世界はとても小さい。

たとえば道で転んで怪我をした時、子供はまるでこの世の終わりのような声をあげて泣きわめく。
それは、経験したことのない初めての痛みに驚き、自分ひとりがこんなに辛い思いをしていると感じるからなのではないだろうか。
それが大人になると、転んだ時は消毒をして、絆創膏を貼ればいいということを知っているから、転んで怪我をするということが大それたことではなくなる。

悪い言い方をすれば、大人になるにつれてどんどん素直に受け止める気持ちを忘れてしまう。
そんなたくさんの経験を積み重ねて、子供は大人になっていく。

だが、人より多くの辛い経験を子供のうちから経験している子供は、どうなるのだろうか。心のどこか一部分だけが大人になって、それ以外は子供のまま。大竹しのぶさんの演じるにんじんは、そんな繊細な部分が見事に表現されていた。

たとえば、にんじんは何度も「泣きたいんだろうな」と感じるシーンがたくさんあった。その「泣きたい」時に、大竹しのぶさんの演じるにんじんは毎回違う反応をするのである。

例をあげると、筆者は子供の頃、友達とけんかをして泣きそうになった時、悲しくて泣いていると思われたくなかったために、「頭が痛い」と嘘をついて、その頭痛によって泣いている、というシナリオを作りあげた上で、泣いたことがある。そんなふうに、自分が子供の頃にした「泣いてない」と言うための努力をしたことを思い出すような仕草の描写が繊細で、見事だった。

 
ミュージカル「にんじん」中山義紘、大竹しのぶ、宇梶剛士
ミュージカル「にんじん」中山義紘、大竹しのぶ、宇梶剛士

そして、この舞台の登場人物すべてが優しくないことも見所のひとつではないだろうか。

舞台の世界に生きる登場人物には、少なくとも誰かひとりくらいは、いわゆる「良い人」がいるように思う。
だが、このミュージカル“にんじん”には、そんな人はいない。
だからこそ、より現実世界に近い感覚がする。

生身の人間なら(それも大人ならなおさら)フィクションの世界のように上手に優しくなれないのが当たり前。誰かが優しい言葉をくれた後、ふとした時に冷たい言葉を渡してくることなんてざらにあるだろう。

もしかしたらこの舞台の中のどの登場人物に感情移入をするかによって、そして観る者の年齢や性格によって、感じることが違うかもしれないな、とも思った。

 

今の子供は何を思うのか

ミュージカル「にんじん」大竹しのぶ、今井清隆
ミュージカル「にんじん」大竹しのぶ、今井清隆

また、この公演には子供料金が設定されている。
音楽劇「にんじん」の初演は1979年。その頃と今とでは時代背景もまるで違うだろう。
“にんじん”を見て、今の子供たちは何を思うのだろうか。

2016年の児童虐待事件は過去最多を記録したという。
こういった事件について少し調べてみたのだが、虐待を受けた子供の言葉の多くが「お母さんに抱っこしてもらいたい」「パパはいじめてない」など、自分が亡くなる間際まで、加害者である親を守ったり、求める言葉であることに、胸が痛んだ。

「子供は親を選べない」

劇中の言葉だ。いじめられ、愛されず、辛い毎日の中で、にんじんは最後にどんな道を選ぶのだろうか。

彼がどんな道を選ぼうと、人が何をしようと、いなくなろうと、何があっても、空は変わらず同じところにある。植物が空へ向かって伸びていくように、少し曲がったとしても、きっとまた空へ向かって伸びていくことができるのが人間だ。

改めていろんなことを考えさせ、大切なことを教えてくれる舞台だった。

 
このレビューを書いたのは

志田彩香
千葉県生まれ。報道写真家の祖父の影響で、写真を始める。
武蔵野美術大学卒業後、アシスタントを経て、2016年 フリーランス。
ホームページ

 

公演情報

ミュージカル「にんじん」
【原作】ジュール・ルナール
【訳】大久保 洋(「講談社文庫版」より)
【脚本・作詞】山川 啓介
【演出】栗山 民也
【音楽】山本 直純

【出演】
大竹 しのぶ
中山 優馬、秋元 才加、中山 義紘、真琴 つばさ、今井 清隆、宇梶 剛士、キムラ緑子 ほか

公式サイト
ミュージカル「にんじん」

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