ミュージカル『101ダルメシアンズ』

クルエラが狂えば狂うほど、作品の魅力が増していく ミュージカル『101ダルメシアンズ』観劇レビュー

ミュージカル『101ダルメシアンズ』

クルエラが狂えば狂うほど、作品の魅力が増していく ミュージカル『101ダルメシアンズ』観劇レビュー

 
ミュージカル『101ダルメシアンズ』、「悪役が主演」という、ちょっと珍しい舞台にチラシを見た時から興味津々でした。
まず印象に残ったのが、記者会見でのクルエラ役のお二人。新妻聖子さんと蘭寿とむさんが登場した瞬間から、あまりにも背格好も雰囲気も違う! 新妻さんはクルエラを「狂エラ」と表現。演じる人の狂気の数だけ、いろいろなクルエラが存在する。蘭寿さんのクルエラについては、立っているだけで造形美があり、自然に恐ろしいことを言うからこそ怖い、と絶賛。 お二人の息の合った楽しいやり取りを聞いているうちに、「蘭寿クルエラも観なければ!」そんな気持ちにさせられました。

今回観劇したゲネプロは新妻さんのクルエラ。
原作も知らず、犬にも詳しくない自分が、ネタバレを含めてレビューします。

 
ミュージカル『101ダルメシアンズ』
ミュージカル『101ダルメシアンズ』クルエラ役Wキャスト:新妻聖子 撮影:岩村美佳

幕が開くと、夜のロンドン郊外に一匹の犬、ポンゴが登場します。演じるのは村井良大さん。そして、その横には人形のポンゴ。これがまずすごい。関節まで細かく動き、本物の犬が動いているように見える!
しかも、人形の表情が大きく変わるわけではないのに、動きだけで「寂しい」「元気がない」が伝わってくる。犬の鳴き声も最初は音源なのかと思ったら、まさかの人の声。「犬を観るのが正解?キャストを見るのが正解?」と迷いましたが、答えはその両方。人形と俳優が一緒になって、一匹の犬を作っているんですね。
保護センターでポンゴが洗われる場面も好きでした。泡まみれのポンゴが綺麗になると、ダルメシアンの斑点が現れてくる。舞台ならではの見せ方に拍手したくなります。 保護センターに集まる人たちも個性的で楽しく、観始めて10分ほどで「これ、子どもにも観せてあげたいな」と思いました。

ミュージカル『101ダルメシアンズ』
ミュージカル『101ダルメシアンズ』 撮影:岩村美佳

その後、ポンゴとパーディが出会い、犬たちのリードが絡まることで、ダニエルとトムまで巻き込まれていく。犬たちが人間同士を結びつける、まさに恋のキューピッドです。やがてラブラブになってキスをする二人を見て、犬たちが「ヨダレを擦り付け合ってるみたい」なんて言うのも愉快。人間の恋愛を犬目線で見ているのが、なんとも可笑しい。

ミュージカル『101ダルメシアンズ』
ミュージカル『101ダルメシアンズ』クルエラ役Wキャスト:蘭寿とむ 撮影:岩村美佳

デザイナーとして鳴かず飛ばずだったトムに、ファッション界の大物クルエラから電話が。チャンスだと浮足立つトムですが、「動物園から一夜のうちに忽然とキリンが消えた」というニュースの後、キリンの衣装をまとったクルエラが登場。 新妻さんの存在感がとにかく大きい。動物が大好きだと豪語して歌い上げるのですが、どうやら「動物が好き」なのではなく、「動物を身に着けるのが好き」ということらしい……そしてパーディに近づき妊娠に気づくクルエラ。「クルエラ何者!?」と思っていると、さらに子犬を使って服を創りたいという衝撃的な発想まで飛び出してくる。ここから、子犬たちの運命が気になって仕方ありません。
やがてポンゴとパーディの間に子犬が誕生。最初は「8匹くらいかな?」と思っていたら、どんどん増えていく。「もしかして101匹になるの?」なんて思ったりもしたのですが、実際には15匹。15匹もなかなかな数(笑)
そしてトムのデザインがクルエラに認められたことをきっかけに、15匹の子犬たちは誘拐され、クルエラの構想はどんどん膨らんでいく。ついには街中から集めた無数のダルメシアンが必要になっていくわけです。一幕終わりにその欲望を歌い上げる姿が、怖くも美しくて……

ミュージカル『101ダルメシアンズ』
ミュージカル『101ダルメシアンズ』クルエラ役Wキャスト:新妻聖子 撮影:岩村美佳

第2幕では、子犬たちを助ける猫のタビーが登場。このタビーがまた良い。猫なのに、という言い方も変ですが、ものすごく人情深い。犬たちの人形が関節の動きを活かして細かく表現されているのに対して、タビーは素早く、自由で、予測不能な動き。その違いも面白く、「動物を演じる」という同じ表現でも、こんなにアプローチが違うんだと楽しめました。
さらにクルエラの甥、キャスパーとジャスパーが登場。イケメンのお二人が、あえてダサさ全開で可愛い(笑)。しかもこの二人、子犬たちが殺されることには反対しているんです。子犬たちを可愛がる優しい一面があるのに、クルエラには逆らえない。そんな二人がリンダを気にかけている様子も描かれます。
リンダは斑点がありません。初めて知ったんですが、ダルメシアンの子犬は生まれたばかりの頃は白く、そこから斑点が現れていくんですね。なかなか斑点が出てこないリンダに、やがて斑点が現れる瞬間は、舞台上の視線が一気に集まるはず!

ミュージカル『101ダルメシアンズ』
ミュージカル『101ダルメシアンズ』クルエラ役Wキャスト:新妻聖子 撮影:岩村美佳

観終わってみると、「101匹いたんじゃないか?」と思うくらい、たくさんのダルメシアンたちと出会ったような気持ちになっている。俳優、パペット、動き、そして物語の力で、舞台上に存在する犬の数以上の広がりを感じさせてくれるんです。

ミュージカル『101ダルメシアンズ』
ミュージカル『101ダルメシアンズ』クルエラ役Wキャスト:蘭寿とむ 撮影:岩村美佳

そして何より面白いのが、クルエラへの自分の感情が変わっていくこと。最初は強烈だったクルエラが、どんどん面白く、愛おしくなってくる。 もう最後までブレずに突き進んで!と応援したくなる。クルエラが狂えば狂うほど、作品の魅力が増していく。「悪役が主演」というこの作品の面白さは、まさにそこにあるのかもしれません。
そして、新妻さんのクルエラを観たことで、記者会見で聞いた蘭寿さんのクルエラもますます気になる。これは……もう一度観るしかないですね。

 
(文:かみざともりひと)

ミュージカル『101 ダルメシアンズ』

【原作】ドディー・スミス
【作詞・作曲】ダグラス・ホッジ
【脚本】ジョニー・マックナイト
【舞台版脚色】ジニー・ハリス
【訳詞・翻訳・演出】石丸さち子
【美術】トム・ロジャース
【照明】ハワード・ハドソン
【パペットクリエイター/パペットディレクター】ジミー・グライムス
【音楽監督】桑原まこ

【キャスト】
クルエラ・ド・ヴィル 新妻聖子/蘭寿とむ(W キャスト)
ポンゴ 村井良大
パーディ 土井ケイト
トム 鈴木勝吾
ダニエール 川添野愛
キャスパー 島田惇平
ジャスパー 永田崇人
リンダ 高橋 愛
パッチ 山本咲希
スパッド 山城 力
ボタン 有馬爽人
ハムレット 風間由次郎
タビー 可知寛子

石井千賀、小原悠輝、坂田隆一郎、谷口あかり、舩山智香子、宮河愛一郎

2026年10月13日(火)~29日(木)[東京]日生劇場
2026年11月7日(土)~15日(日)[大阪]梅田芸術劇場メインホール

公式サイト
https://www.umegei.com/101dalmatiansjp/

関連記事一覧