一緒にパーティーメンバー気分で没入観劇体験!『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』観劇レビュー
米吉&菊之助 撮影:引地信彦
© SQUARE ENIX/『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』製作委員会一緒にパーティーメンバー気分で没入観劇体験!『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』観劇レビュー
実は人生においてテレビゲームの類のゲームをしたことがないのです。
世界中でプレイされている各種ゲーム、もちろんファイナルファンタジーもシリーズ通して未プレイどころかゲームのRPGも人生においてプレイしたことがない人間です。
そして歌舞伎も、裏方の大道具はやったことがあるのですが、観劇に関しては1度だけ歌舞伎座で観に行ったことがある程度・・・の”どちらの側面からみても初心者”が観たことない組み合わせをあえて観ようと思ったのか・・・。それは単純に『ゲーム原作』『伝統芸能』についてどちらもどうも縁が薄い人間だからこそ その化学反応が気になる!という純粋なる興味からでした。
結論。
初心者だけど楽しめたし、ゲームを機会があればプレイしてみようかな?とも思えたし、古典歌舞伎もみようかな?という気持ちになる、という「そんなお手本のような回答!?」と思われるかもしれませんが、初心者目線でとっかかりとしては抜群でした!
言わされてるんじゃないの感ある感想を書いてしまいましたが、これが結構「初見でも楽しめる仕掛け」がしっかり散りばめられてます。
<あらすじ>
■前編 (開場11:30 開演12:00)
大いなる脅威『シン』に人々がおびえて暮らす、死の螺旋にとらわれた世界スピラ。そんなスピラへと迷いこんだ少年ティーダ。そこで可憐で気丈な召喚士ユウナと出会う。ユウナの目的はただ一つ。『シン』を倒すこと。そのための『究極召喚を手に入れること』であった。
ユウナの決意に胸をうたれるティーダは同じくユウナを援護する仲間たちと共に旅にでる。水球競技ブリッツボールでの熱戦や、父の盟友アーロンとの再会により、一行は「真実」に近づくこととなる。だがそこに立ちはだかるグアド族の族長・シーモア。「死の安息こそスピラの願い」というゆがんだ考えを抱いている男である。その原因ともなった彼の幼き頃の悲哀に満ちた物語とは果たして……。
■後編 (開場17:00 開演17:30)
グアド族の族長・シーモアの策略はティーダたちをますます追い込んでいく。
狡猾なシーモアは、ユウナを誘拐し、彼女を利用するために政略結婚を企てる。それに抗った一同は反逆者の汚名を着せられ、旅の中断を余儀なくされる。絶望し泣き崩れるユウナを見て、ティーダはなんとしても彼女を守りぬこうと決心。出会った頃から互いに惹かれあっていた二人は秘めた恋心に身を委ねるのであった。
一同は決意を新たに、再び『シン』を倒す究極召喚を手に入れるために立ち上がる。
だがそこに待ち受けていたのは衝撃の出来事……『シンの正体』『究極召喚と引き換えになってしまうユウナの命』そして『ティーダの存在の真実』……彼らはそれを乗り越え、自分たちの物語をつむごうとする。
『原作もの』『伝統芸能』の楽しみ方
撮影:引地信彦 © SQUARE ENIX/『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』製作委員会
既存の先行作品がある“原作もの”の場合「原作があるものは予習した方がいいかな?」と思われる人から「初見の感覚を楽しみたいので何も調べない!」など人によって様々かと思います。
ちなみに今回はあえて私は「予習なし」での観劇で行きましたが、個人の感想としてはおおよそ問題なし。もちろん、ゲーム内オリジナル用語・固有名詞に関しては後から設定を確認すると「ああこういう単語だったのか、名前だったのか」というところはありましたが、話の展開に関してはさほど問題なし。ストーリー中でさらっと解説のような形で違和感のない説明セリフもあります。
もちろん、プレイ済みの人にとっても見どころはバッチリ。物語の幕開けのセリフは実際のゲームを踏襲。またバトルシーンなどでゲームのCGビジュアルが舞台の大型スクリーン全面に映し出されるのは迫力抜群!自宅のテレビ画面では味わえない規模感の見応えがあります。
撮影:引地信彦 © SQUARE ENIX/『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』製作委員会
また、伝統芸能では「特徴的な動き・音」なども知らないなりに何か見たこと聞いたことあるんだけど・・・というところも多いもの。その点のフォローも23代目オオアカ屋(中村萬太郎)がゲーム内でのお助けキャラクターにふさわしくフォローしてくれます。
まずは挨拶の「口上」で解説からスタート。前編の導入部で説明&観客も一緒に見得を切る体験コーナーもあり、つかみはバッチリ。
「ツケ(※カンカンと歌舞伎でよく聞く拍子木っぽい音)」と音の演出効果として忘れてはいけないツケ打ちさんの紹介もしてもらえるあたり、「自分初心者なので、歌舞伎の常識知らないから置いてぼきりになったらどうしよう・・・」という不安は払拭されます。
撮影:引地信彦 © SQUARE ENIX/『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』製作委員会
また今回のステージアラウンドは入場時間中に通路として使われているエリアが本番中では役者が通るエリアとしても使われているので役者が実際に近い!コロナ禍で客席との距離をとっていたこともありここ数年は引いた形で見ていましたが「この近さは久々!」と盛り上がりポイントその1。ツケ打ちさんも本当にすぐそこにいるのはこの会場ならではかと。
ついつい、このシーン役者を目で追っていて見たいけれど、あちらで演出の音を打ってるのも気になる・・・と目玉がいくつあっても足りません。
撮影:引地信彦 © SQUARE ENIX/『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』製作委員会
またビジュアル面でも、一般的な2.5次元舞台だと「キャラクターや衣装も完全再現!」でその再現ぶりに「おお!」となるところですが、今回は「歌舞伎フォーマット」がありきなのでどうなるのか・・・?とドキドキしながら登場したキャラクターを見て「あ、このキャラクター見たことある!」と知らない人間が見て 感じるぐらいには元々のキャラデザインとうまく合致してるのにもびっくり。
ユウナなど女性キャラクターの衣装が元々和服モチーフということもあり、意外といろいろなポイントで歌舞伎との親和性が高かった点についてもメイキングコメントでありましたが、「ゲームももともとこのキャラデザだったのでは?」と思わされるレベルです。かたや打って変わってキャラデザがガラッと変わったのはラスボスのユウナレスカ。
「確かにこれは歌舞伎ではそのまま再現できないけど、そういうことか!」と膝を打ちます。完全再現ではなく、お互いのルールを踏まえた上での展開、高いレベルでのクリエイター陣の創作が光ります。
初心者が見た!ここがわかりやすい!
撮影:引地信彦 © SQUARE ENIX/『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』製作委員会
根本的な話になりますが、ゲームを演劇にする時に発生する決定的な違いとして、ゲームではユーザーがプレイヤーキャラクターを選んで、キャラクター目線でユーザーがゲームを進めていきます。それに対し演劇では「プレイヤーのキャラクターが登場人物」で「プレイヤー目線ではなく第三者目線」で話が進んでいくので、主語を変えて再構成する必要が出てきます。主人公のティーダ(尾上菊之助)についてはゲーム内では実は「ティーダ」として名前が呼ばれていない、というのも「そうか、ゲームではユーザーが好きなように名前を変えられるからか!」とそう言われればそんな話。
また、ゲーム内のやり込み要素もあくまで舞台においては物語の一部のエピソードになるので、「それぞれのプレイヤーごとの物語」から「一般的な物語」へ、ある意味最大公約数に変換する必要が出てきます。おそらくこの変換部分が様々なメディアミックス創作物で要になる部分・・・と思うのですが、ここを「ティーダとジェクト」「ユウナとブラスカ」そして敵役側の「シーモアとジスカル」それぞれの親子関係に物語をフォーカス。
初見・予備知識なしの人間としては、このおかげで一気に話がすんなり入ってきました。
撮影:引地信彦 © SQUARE ENIX/『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』製作委員会
物語の初めの部分からティーダとジェクトの関係はお世辞にも良好とは言い難い見え方で、またティーダ自身も抱えたものがある状態で始まります。その中での異世界「スピラ」に迷い込み、そこで出会ったユウナと同じく亡き父親ブラスカとの関係性、明かされる失踪後のジェクトの様子、物語の中で明かされるシーモアが抱える両親との過去。見事なまでに全員が全員、親子関係一筋縄では行ってないし、パーティーメンバーのルールーやワッカも家族・恋人など近しい人間との関係において過去の辛い思いを抱えています。
それぞれが葛藤を抱えていて、パーティー同士では見えないのに観客は引きで見ているので全部把握している立場だからこそ「関係性としての物語」が浮き上がってきます。
「そこ言葉足りないよ・・・!」「あああ本当に言いたいことが伝わってない・・・!」があちらこちらで発生していてもどかしいのですが、親子関係にフォーカスしているだけあって、全てのキャラクターに感情移入してしまいます。
特にシーモア(尾上松也)の両親とのそれぞれの関係性は敵役ながら気持ち的にはこちらに味方してしまいそう・・・。
撮影:引地信彦 © SQUARE ENIX/『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』製作委員会
そして歌舞伎初心者の思う「個人的・歌舞伎ちょっと食わず嫌いしてるかもポイント」に「セリフが昔の言葉なので何言ってるかわからないので置いてきぼりになったらどうしよう・・・」があったのですが、この心配も不要でした。
知らないなりになんとなく聞いたことのある、登場シーンで名を名乗ったりするところは伝統的なスタイルですが、物語内の会話セリフは現代劇スタイル。普通の口語なのでなんの心配もありません。今作は普通に演劇に観にいく気分で大丈夫です。
今も昔も歌舞伎は時代を作っていく
撮影:引地信彦 © SQUARE ENIX/『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』製作委員会
そして今作の出演メンバーは全体的に若手多め。
主役・ティーダ役の尾上菊之助を筆頭に、尾上松也・中村獅童などドラマ映画舞台からテレビのバラエティ番組などでもお馴染みのメンバーや、ヒロイン・ユウナ役の中村米吉など、パッと見て「チームの中心メンバーが20代もいるし、30代〜40代ぐらいで全体的に若い!」という印象です。現代劇などで「歌舞伎の人ってことは知ってるんだけど歌舞伎見たことないな」という面々ですが、ホームに帰ってまさしく本領発揮。テレビなどきっかけで知った人も、若手に関しては昔からチェックしてます、という古くからの歌舞伎ファンも楽しめるチーム構成なのではないでしょうか。
撮影:引地信彦 © SQUARE ENIX/『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』製作委員会
伝統は踏襲しながら新しいものを取り入れるのが江戸時代からの歌舞伎のスタイルであることを考えると、「最新コンテンツとタッグを組む」のも歌舞伎流。
そもそも歌舞伎ではお馴染みの盆・回転舞台などの演出も、江戸時代では世界の最先端の演出だったそうなので、舞台も客席も回転してクレーンもプロジェクションマッピングを駆使した今作、なんの不思議もありません。
現代の日本演劇において、歌舞伎の技法・演出に由来するあれこれは切っても切り離せないものであることを考えると、「今一番新しい演劇」はもしかしたら新作歌舞伎なのかもしれません。
(文:藤田侑加)
木下グループ presents「新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX」
【企画】尾上菊之助
【脚本】八津弘幸
【演出】金谷かほり、尾上菊之助
【出演】
ティーダ:尾上菊之助
アーロン:中村獅童
シーモア:尾上松也
ルールー:中村梅枝
ルッツ / 23代目オオアカ屋:中村萬太郎
ユウナ:中村米吉
ワッカ:中村橋之助
ティーダ(幼少期)/ 祈り子:尾上丑之助
リュック:上村吉太朗
ユウナレスカ:中村芝のぶ
キマリ:坂東彦三郎
ブラスカ:中村錦之助
ジェクト:坂東彌十郎
シド:中村歌六
尾上菊五郎(声の出演)
2023年3月4日(土)~4月12日(水)/東京・IHIステージアラウンド東京
公式サイト
https://ff10-kabuki.com/
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