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母と娘の壮絶なバトル! ギリシャ悲劇「エレクトラ」観劇レビュー

舞台「エレクトラ」高畑充希、村上虹郎 撮影:石川純母と娘の壮絶なバトル! ギリシャ悲劇「エレクトラ」観劇レビュー

高畑充希さんと白石加代子さんが母・娘を演じるということで話題の「エレクトラ」が4月14日、世田谷パブリックシアターで開幕!
鵜山仁氏の演出により豪華キャストが織りなす、壮大なギリシャ悲劇「エレクトラ」の観劇レビューを、青年座On7の尾身美詞がお届けします。


舞台「エレクトラ」高畑充希、白石加代子 撮影:石川純

「私が最も憎んだ人 私が最も愛した人」とチラシに記されている様に、母と娘の壮絶なバトルが繰り広げられる今作!

“エレクトラコンプレックス”(女児が父親に対して強い独占欲的な愛情を抱き、母親に対して強い対抗意識を燃やす状態)という語源にもなるほど、古来から強い強烈を残してきたギリシャ悲劇です。
母クリュタイメストラ(白石加代子)と母の情夫アイギストス(横田栄司)に、愛する父王アガメムノン(麿赤兒)を殺されたことを嘆き、エレクトラ(高畑充希)は復讐に情熱を燃やします。

古代ギリシャでは人間の運命を巡る物語が数多く作られたそうですが、その中で特に人気のあったものが「アトレウス一族の悲劇」の物語だそうで。今回のエレクトラの台本はアトレウス家の物語を中心に構成されています。


舞台「エレクトラ」中嶋朋子、白石加代子 撮影:石川純

呪われた一族の負の連鎖は、アルゴスの王アガメムノンが神からのお告げを受け、トロイア戦争を終わらせるために自分の長女イピゲネイラ(中嶋朋子)を生け贄に差し出しすことからスタートします。

大切な娘を殺された母クリュタイメストラはその悲しみと怒りから、自分の夫を情夫とともに殺害。
愛する父親を殺し、継父となったとアイギストスとともに城で暮らす母親を強く憎み、城を離れ酷い暮らしをするエレクトラ。彼女の唯一の励みは一族の罪を贖うために追放され離ればなれになってしまった弟オレステス(村上虹郎)と再会し、母を殺害すること。ようやく再会した弟を誘惑し、自分の手を染めずに母親と継父を殺害。その罪悪感から弟は狂気に陥ります。

娘の命と国を天秤に掛けなければならない父王アガメムノンの葛藤や苦しみ。
国の為とはいえ大事な娘を殺されてしまった、母クリュタイメストラの怒りと悲しみ。
愛する勇敢な父を情夫をとともに殺した母への、エレクトラの怒りと憎悪。
母を殺してしまった苦しみから狂気となってしまうオレステス。

それぞれの想いが分かるからこそ、この負の連鎖が悲しく、
また、この悲しみの決断がギリシャの神々からのお告げによるものであるという、ギリシャ悲劇ならではで、全て神々の計らいのうちに起こった出来事だと思うと、なんとも言葉に現しがたい想いにかられます。


舞台「エレクトラ」白石加代子、麿赤兒 撮影:石川純

「全ては神に定められている」それを人は”運命”と呼ぶのでしょうか。
「正義の中に悪いことが含まれている」「善と悪はひとつ」「アポロン(ギリシャの太陽の神)の中にも悪意がある」「人間は欲深く、けだものの血と神の血が含まれている」神を通して、人間を見つめていた古代ギリシャの人々の言葉、それは時代を越えてもなお普遍的なメッセージが感じられます。
悲しみと復讐の連鎖はいつとまるのか…
それはいつの時代でも、世界中を見渡しても、解決しない問題で途方もない気持ちになりました。

10代の頃からずっと白石さんのファンだった、という高畑充希さん。16歳のとき「将来必ず、白石さんと共演出来る女優になります!」と楽屋に挨拶に行ったという話が今回の企画に繋がったそうです。
白石加代子さんはクリュタイメストラを演じられるのは4度目!自身にとっても大切な役だそう。
そんな2人のエネルギーに満ちた火花散らす壮大なバトルも楽しめます。


舞台「エレクトラ」高畑充希 撮影:石川純

また今回の出演者はコロスなどがいなく、たった7名。
1幕2幕を通して、王・神・老人など様々な役を演じ上げ、独特な魅力と存在感を放つ、舞踏界の重鎮、麿赤兒さん。
2幕から登場する、美しく力強い、悲しみの長女イピゲネイラの中嶋朋子さん。
えー!こんな贅沢使い??!と出番が少なくてちょっと残念な横田栄司さん。
母を殺した葛藤、苦しみ、狂って行く様を繊細に演じられた村上虹郎さん。
今回が初舞台だという、素直な芝居で透明感溢れる妹クリュソテミスの仁村紗和さん。
主演の2人をはじめとした、個性溢れる豪華キャストが勢揃いです!


舞台「エレクトラ」仁村紗和 撮影:石川純

ギリシャ悲劇って、難しくってよく分からなそう…名前もカタカナで難しいし、神々とか出てくるし、感覚も違いすぎる!…と思う方も多い気がしますが、ギリシャ悲劇だからこそ、今では???と思ってしまいそうな、ちょっと不思議なポイントは、カジュアルに今の感覚のまま演じてくれているので、会場が笑いに包まれるシーンもあったりして、見易くなっていると思います。

また、ギリシャ悲劇では「殺害シーンは舞台上では見せない!」という暗黙のルールや、「舞台上で台詞を喋るのは3人まで」というルールもあるそうで、そんなことを思いながら観劇すると、なるほど~と楽しめるのではないでしょうか。


舞台「エレクトラ」横田栄司 撮影:石川純

不穏な音色を奏でる生バンドの演奏や、美しく煌びやかな衣裳が豪華満点!
また舞台中央に聳え立つ美しい大木が、2幕では驚きの仕掛けで、根底に流れる神々の存在を感じさせられ、古代ギリシャの世界に誘ってくれました。

上質な作品を創り上げる、りゅーとぴあプロデュース。地方劇場からの芸術発信がどんどん増えていますが、これからどんな素晴らしい舞台が創り上げられていくのだろうかと、今後がとても楽しみです!!

東京以外でも兵庫、神奈川、水戸で上演される「エレクトラ」、ぜひ劇場へ!

(文:尾身美詞

公演情報

舞台「エレクトラ」

【 演出】鵜山仁
【原作】アイスキュロス・ソポクレス・エウリピデス「ギリシア悲劇」より
【上演台本】笹部博司

【出演】
エレクトラ:高畑 充希
オレステス:村上 虹郎
イピゲネイア:中嶋 朋子
アイギストス:横田 栄司
クリュソテミス:仁村 紗和

アガメムノン:麿 赤兒
クリュタイメストラ:白石 加代子

2017年4月17日(金)~23日(日)/東京・世田谷パブリックシアター
2017年4月29日(土)~30日(日)/兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
2017年5月2日(火)/神奈川・相模女子大学グリーンホール・大ホール
2017年5月6日(土)、7日(日)/水戸・水戸芸術館 ACM劇場

公式サイト
舞台「エレクトラ」

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