2019.2.21  21

静かで激動! 10年間の変化に息を呑む 神保町花月 舞台「莫逆の犬」観劇レビュー



神保町花月 舞台「莫逆の犬」
神保町花月 舞台「莫逆の犬」宮下雄也、大谷麻乃
 

静かで激動! 10年間の変化に息を呑む 神保町花月 舞台「莫逆の犬」観劇レビュー

 
本作は、ある罪を犯した一郎(宮下雄也)をマンションの一室に匿う父親(板尾創路)と彼女の美月(大谷麻乃)の10年を描いた物語。舞台は2019年から始まり、一度2009年にプレーバックしてから、1年毎に現在に近づいていく構成。内容もド・シリアスだし、出演者のみなさんの役柄も新鮮!

新鮮って言葉を使うと活き活きした感じで誤解を招きそうですが、まず冒頭から宮下さんが“終わった男”として登場したことにビックリしました!宮下さんの持ち味といえば“鋭さ”。これまでも芯の強い役で高圧的な存在感に圧倒されてきましたが、そこにいる男は生気や主体性が全く感じられない。この先にどんな挑戦が観られるんだろうという期待感と、この“終わった男”の救いがないであろう物語への不安とが入り混じってきました。

 
神保町花月 舞台「莫逆の犬」
神保町花月 舞台「莫逆の犬」 宮下雄也

最近の自分は「1年て秒だな!」ってぐらい時の流れを早く感じますが、それはちゃんと社会に生きて充実した日々を過ごしているからだなと、この作品を観ると感じました。

同棲している一郎と美月はまだ若く、“普通に”デートを重ねて想い出になるようなことをしたいはず。それが社会から隠れて、自分の存在をマンションの一室に留めなくちゃいけない。一郎に関しては、罪がバレないように人との関りも遮断されるわけだから、独房にいれられているのと変わらない。だから時が経ち、美月がバイトを始めるのも必然だったし、父親との意向とは裏腹に、マンションに訪れる人々に対して一郎が追い返さなくなっていく姿に救いを与えてあげたくなった。

 
神保町花月 舞台「莫逆の犬」
神保町花月 舞台「莫逆の犬」 宮下雄也

 
まずマンションに訪れる第3者はヒラノショウダイさん演じる美月の弟・照実。その演技に終始イライラさせれ、こんな弟(もしくは部下)がいたら嫌だわ~って思って観てました。ジェネレーションギャップだけじゃないと信じたい(笑)。でも酔っぱらっているシーンはイライラしながら笑わせていただきました。

笑いという意味で大好物だったのは山口森広さん演じるオカマのガリ子!緊張感の漂う舞台だと笑うのを無意識に抑える習性がある自分ですが、ガリ子さんはしっかり笑わせていただきました。絶妙なブサイクさ(最高の言葉)!いるだけで面白くなってきて、帰宅してからも思い出しては噴き出す始末。ほかの出演者も作品が求める役をしっかり演じていて、随所に笑いもあり世界観を広げていました。

 
神保町花月 舞台「莫逆の犬」
神保町花月 舞台「莫逆の犬」 宮下雄也、板尾創路、大谷麻乃

場面は「○○年×月」と台詞の表現のみで、日常から日常へと変化します。自分の生活において、例えば今日ソファで携帯をいじっていて、来年の“いつか”にソファで携帯をいじるってことがあるはずです。この変化のなさが一郎の視点に見えて面白い。

そしてこの作品の醍醐味は、上演時間1時間50分で10年間の変化を表現する点。おおよそ10分で1年。子供の成長は体の変化でわかりやすいけど、大人になってからは意外とわからない。美月や父親は毎年出てくるけど(例外有)、そこの微妙な変化が丁寧に表現されていて、いつの間にか10年変化していました!

もっと凄いと思ったのは宮下さんが演じる一郎。社会に出ていれば環境や経験で自ずと変化が生じるが、一郎はこの一室が社会。人からも時からも置き去りに去られた状態での10年。蓄積されるストレスを見事に表現!自分ならこの空間に発狂してるだろうけど、台本に組み込まれた緻密な一郎の設定が、ただそこにいる一郎にリアリティを与えていて、観ていて悲しくなりました。

 
神保町花月 舞台「莫逆の犬」
神保町花月 舞台「莫逆の犬」 宮下雄也、大谷麻乃

 
中盤で訪れるターニングポイント、一郎が自首しようとするのを美月が止めてしまうシーン。これが最後の最後まで効いている。

美月に限らず、経験のない若者が自分の弱さに立ち向かえず感情的に行動した結果、悲劇を招くことは多い。「あの時、ああしていれば…」なんて後悔も薄れていっているんじゃないかなと思わせるほどの憎しみや絶望感。そして観終わってから改めてチラシを見て、美月の視点で書かれた【あらすじ】に後日の解釈が深まり、ハッとさせられました!

 
神保町花月 舞台「莫逆の犬」
神保町花月 舞台「莫逆の犬」 宮下雄也

 
本作は3月3日(日)まで神保町花月で上演されます。
詳細は公式サイトで。

 
(文:かみざともりひと)

 
このレビューを書いたのは

かみざともりひと
演出家。映画監督。エンタメ劇団・骸骨ストリッパー主宰。劇団☆新感線『轟天』シリーズが大好物!
劇団骸骨ストリッパー『蛇骸王METAL』4/1~4/5 座・高円寺2
Twitter ⇒ @gai_suto

 


 

 

 

公演情報

舞台「莫逆の犬」

【作・演出】田村孝裕

【出演】宮下雄也 冨田直美(ONEOR8) 山口森広(ONEOR8) 恩田隆一(ONEOR8) 大谷麻乃 ヒラノショウダイ 西田どらやき(入間国際宣言) 奈良岡にこ 
矢部太郎(カラテカ) ・ 板尾創路

2019年2月20日(水)~3月3日(日)/東京・神保町花月

公式サイト
舞台「莫逆の犬」

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