
スピード感のある言葉が物語を運んでくれるような新翻訳 恋物語の背景にも着目 水戸芸術館プロデュース公演『ロミオとジュリエット』インタビュー
水戸芸術館プロデュース『ロミオとジュリエット』
水戸芸術館プロデュース公演『ロミオとジュリエット』翻訳の小田島創志、ロミオを演じる大石英玄(文学座)、ジュリエットを演じる伊海実紗にインタビュー
本作は《新しいシェイクスピア劇の創造事業》と題したプロジェクトのひとつとして、シェイクスピア最大の恋愛悲劇『ロミオとジュリエット』が、水戸芸術館のプロデュースで上演される。
翻訳は小田島創志の新翻訳、演出は大澤遊が手掛け〈新しいシェイクスピア劇〉を作り上げる。
今回エントレでは、翻訳の小田島創志、ロミオを演じる大石英玄(文学座)、ジュリエットを演じる伊海実紗にインタビュー取材し、本作の魅力について聞いた。
もっともピュアな恋愛が、あらゆる敵を飲み込んでいく
若者ふたりの愛だけが、この世のすべてとなっていく
愛し合うジュリエットと彼女のロミオの物語
モンタギュー家の息子ロミオは、一目会った魅惑の女ロザラインに恋をする。
何も手につかない日々を過ごしていたある日、敵対するキャピュレット家のパーティーにふざけて仲間と忍び込むが、
キャピレット家の娘ジュリエットと衝撃的な愛の出会いをすることに。
やがてふたりの恋愛は両家のかつてないほどの抗争に発展し、花の都ヴェローナ中を巻き込んでいく…。
水戸芸術館プロデュース『ロミオとジュリエット』
意志の強さや主体性の強さを言葉で出せたら
――まず、新翻訳に当たって意識したことを教えてください。
小田島 「『ロミオとジュリエット』って物語の展開がかなり強くて、感情の喜怒哀楽もすごく強い作品だと思うんです。言葉が物語を運んでくれるような、リズムの良さを意識しました。
特にジュリエットは意思が強くて行動力や主体性があって、親世代とかの価値観に抗って自分の道を歩んで行こうとしています。運命に流されしまうところもあるけれど、意志の強さや主体性の強さを言葉で出せたらいいなと思ってキャラクターの作り方から意識して翻訳しました。
ロミオに関しては、特にない。」
大石・伊海 「(笑)」
小田島 「嘘です(笑)ロミオに関しては、すごく迷いながら進んでいくところがあるので、若者が若者として悩んでいるっていうことを、言葉の上でも見せられたらなと思ってそういうことに気をつけて訳しました。
・・・脚本を読んでみてどうでしたか?」
大石 「スピード感を感じるなと思って読みました。ロミオを演じる自分としても、小田島さんの書いてくださった言葉と共に、傾れ込むように最後まで駆け抜けられたらなと思いました。」
伊海 「私はクラシックバレエの『ロメオとジュリエット』、ディカプリオさん出演の映画版、あとは私が卒業した新国立劇場演劇研修所で岡本健一さんが演出した『ロミオとジュリエット』を見ていたんですが、今回の脚本を読んでいて、ジュリエットの意思の強さを端々で感じていて《私が選ぶ》、《私はこう思う》というのが、かなり色濃く出ているなと思いました。私はそこを大事にしてジュリエット像を立ち上げて行きたいなと思っています。」
小田島 「・・・つまり翻訳がいいということですね!」
大石・伊海 「(笑)」
伊海 「本当にそうです! ジュリエットの強さみたいなものを言葉からもらっている感じがするので、それを活かして行きたいです!」
『ロミオとジュリエット』稽古場より
――まさに新しい『ロミオとジュリエット』になりそうですね。
大石 「僕はオリヴィア・ハッセーさんが出演した映画と、さらに古い白黒映画、あとは宝塚歌劇団版のDVDで見ました。宝塚版では最初のロミオがロザラインに恋をするところは全部カットされていて、清廉潔白で、真実の恋を探し求めている男が、ジュリエットに初めて恋をしたというふうに描かれていたと思います。
今回の訳では、ちゃんと14歳の青年として恋に悩んでいて、若さゆえの言葉と行動が描かれていると思います。その違いをしっかり感じながらやれたらなと思います。」
小田島 「そう、ロミオってちゃんと読むと思春期の男子なんですよね。ちゃんと読むと《気持ち悪いな・・・》ということも言ってるんです。また、他のポイントを挙げると、この戯曲は、『ロミオとジュリエット』という題名なだけあって、ロミオとジュリエットの愛にフォーカスされがちなんですが、この作品の背景には《戦争と平和》がある。演出の大澤さんとも話し合って、今回は《戦争と平和》というテーマも大事にして翻訳しました。
もちろん、ロミオとジュリエットの恋物語なんですけど、その背景には争いがあるんですよね。モンタギューとキャピュレットの家同士の争いなんですが、俯瞰してみると戦争という話につながってくる。どうやって対立構造が生まれてくるのか、なぜ争いが無くならないのかみたいなことを、考えさせられる作品だなと思います。」
――確かにそうですね。
小田島 「原文をよく読むと《peace》っていう単語がたくさん入っているんです。ただ、当時の《peace》という単語の使い方は、静かにとか、黙ってとか、ちょっと平穏な感じを表す時にも《peace》を使っているんです。必ずしも「平和」と訳さなくても良い時が結構あるんですね。先行訳でも「平和」っていう言葉はそこまで多くは使ってないはずなんですけど、今回は行けるところは なるべく《peace》を「平和」と訳しています。物語の背景には対立があって、それが悲劇を生むということを強調した訳になるように工夫しました。」
『ロミオとジュリエット』稽古場より
――実際に稽古をしてみていかがですか?
伊海 「現時点では読み合わせをしている段階で、一つ一つのせりふを細かく読み込んで、可能性を探っています。大澤さんは冒険していると言ってました。『これって、もしかしたら、こうかもね』というのが稽古場で生み出されていっているので、私はそれがすごく楽しくて面白いです!一人で読んでいる時には気づかなかった視点があったり、ロミオはこういう気持ちでいたんだ!という発見もありましたが、英玄さん、どうでしたか?」
大石 「そうですね。演出の大澤さんとは3回目のお仕事なので、流れもわかっているので安心して身を委ねています。それぞれの役のいろんな可能性について、みんなが発言していい空気を作ってくださっているので、現場でふと浮かんだ疑問をポンと置いてみて、そこから議論が発展していく感覚がとても楽しいです。思いもよらなかった道筋が見えていくのが面白いですよね。」
小田島 「お二人は、結構役作りをしてから稽古に入るタイプなんですか?」
伊海 「私はそこまでガッツリ固めないんですけど、ジュリエットに寄り添おうと思って、いろんな想像をしたり、調べ物をしたりしています。今回は言葉を大事にして、せりふ一つ一つを自分の感覚を通して入れるというか、そこからジュリエットの思考回路とか、感性とか大事にしていることがすごくわかったので、役作りの段階もすごく面白かったです。」
大石 「僕の場合は、初日の本読み稽古で、自分がどういう風になるんだろう、というのがすごく楽しみなので、家では黙読だけにして極力声に出さないようにしているんです。せりふが難しくて、まだ苦労はしているんですが、せりふが作る音に役の状態を合わせていきながら お客さんの耳を楽しませられるようにしていきたいと思います。」
小田島 「家ではパソコンに向かっている時には想像してなかった可能性を俳優さんたちが考えてくれているので、実際に聞いていてワクワクしましたね。
あと、新訳のいいところは、言葉をその場で直せるんですよね。聞いてみてちょっとリズムが悪いかなとか、感情がうまく表現できないよねって思ったらその場で直したり、みんなで考えていただいたりしています。自分の翻訳をどんどん乗り越えていってくれるというか、いい方向性に行っている気がします。僕が家でブツブツ読んでいると不安になってくるんですが、みなさんの努力と技量のおかげで僕の言葉が救われて、それがすごく嬉しいです。」
――他の出演者の皆さんとのお芝居はいかがですか?
小田島 「(高畑)こと美さんはずっと面白いですよね。」
伊海 「こと美さんはジュリエットの乳母役だから、ずっとやり取りをしているんですけど、何でも受け止めてくださるし、すごいものが飛んでくるんです。そういうお芝居の綱引きが楽しくて! これからの立ち稽古もとても楽しみです。」
大石 「僕は前回上演された『世界のすべては、ひとつの舞台 ~シェイクスピアの旅芸人』には参加できていなくて、リーディングのメンバーを含めて誰とも立ってお芝居をしてないんです。だから誰からも取り残されないように、みなさんのお力を借りながら頑張りたいなと思います。」
伊海 「2年前(2023年10月)にリーディングで『ロミオとジュリエット』を一緒にやった時には、私はティボルトを演じていて、英玄とはちょっとしたやり取りはあったんですが、今回はロミオ役とジュリエット役なので、大きく違いますね。この2年の間にある種のチーム感みたいなものができているので、このメンバーで長い間シェイクスピアに向き合えることがありがたいし、嬉しいことですね。今作がこのプロジェクトの最後になるので、ちょっと寂しくもあり、いろんな気持ちが入り混じる公演になりそうです。」
『世界のすべては、ひとつの舞台~シェイクスピアの旅芸人』
――今作では、他公演でカットされがちなシーンが含まれているそうですね
小田島 「ジュリエットの親たちは、ジュリエットとパリスの結婚式の結婚式を挙げさせようとしているんですが、ジュリエットは薬を飲んで仮死状態になっている。みんなジュリエットが亡くなったと誤解して、お葬式の準備を始めるんです。その空気の中で音楽隊の楽師の人たちと、キャピュレット家の従僕のピーターがくっだらない会話をするんですよ。これが余りにもくだらないので、よくカットされるんです。哀しい空気のまま次に行きたいのに、楽師とピーターのシーンに悲しい空気が邪魔されちゃうからだと思います。
ただ、『ロミオとジュリエット』ってどのシーンでも喜怒哀楽が激しくて、ある人は哀しいけど、ある人は嬉しいかもしれない。いろんな立場の人がいるのが面白いところなので、ちょっと上の立場の人たちとの気持ちの距離感があるという意味でも、見どころのある場面になりそうです。」
――最後に本作の一番の見どころを教えてください
小田島 「感情のジェットコースターを見せるにはうってつけの公演だなと思っています。誰が見ても感情の波に飲まれていけるような作品だと思いますので、ぜひお越しください。」
大石 「この水戸芸術館のACM劇場がシェイクスピアをやるには最適な劇場だと思うので、ぜひここで観て頂きたいです。絶対に誰も観たことがないような面白いものになる確信がありますので、シェイクスピアを見たことないぞっていう方も、シェイクスピア作品の匂いを感じに来てください!」
伊海 「本作の背景には戦争と平和があると創志さんがおっしゃっていましたが、ロミオとジュリエットって争いがある中で生まれた子供たちで、人の死や戦いが身近にあると 彼らの命の価値ってどうなるんだろうって、すごく今考えているんです。ロミオとジュリエットは結果的に2人とも死を選択するわけですけども、現実にあらゆるところで戦争は起こっていて、子供達は巻き込まれている。そういうことを考えた時に、劇場でお客様も含めて、平和や戦争について共有して行きたい場でもあるなと思います。
純粋にロミオとジュリエットのお話も楽しんで頂きたいので、劇場でお待ちしています!」
『ロミオとジュリエット』稽古場より
本公演は2025年9月20日(土)〜9月28日(日)に茨城・水戸芸術館ACM劇場にて上演される。
詳細は公式サイトで。
https://www.arttowermito.or.jp/theatre/lineup/article_4275.html
(文:水戸芸術館 監修:エントレ編集部)
新しいシェイクスピア劇の創造事業
水戸芸術館プロデュース公演
『ロミオとジュリエット』
翻訳:小田島創志
演出:大澤遊
振付・ステージング:根本紳平(水中めがね∞)
出演:大石英玄(文学座)、伊海実紗、鈴木勝大、高畑こと美
伊藤ナツキ、今井公平、西奥瑠菜、八頭司悠友
塩谷亮、大内真智、小林祐介(以上劇団ACM)
松田洋治
アンサンブル:今泉遥、小貫愛弥、木村莉緒、髙野晴香、照沼音羽、清水畑優希
美術:池宮城直美 衣裳:佐野利江 照明:佐野清一 音響:友部秋一
演出助手:山田朋佳 舞台監督:川除学
宣伝美術:kolonigraph 吉野学 宣伝イラスト:滑川まい
公式サイト
https://www.arttowermito.or.jp/theatre/lineup/article_4275.html