役者陣の圧倒的な熱量、身体を張った笑い、そしてちょっぴり心が温まる旅物語　疾走音楽劇『きたやじ オン・ザ・ロード〜いざ、出⽴!!篇〜』観劇レビュー

疾走音楽劇『きたやじ オン・ザ・ロード〜いざ、出⽴!!篇〜』撮影：田中亜紀

役者陣の圧倒的な熱量、身体を張った笑い、そしてちょっぴり心が温まる旅物語　疾走音楽劇『きたやじ オン・ザ・ロード〜いざ、出⽴!!篇〜』観劇レビュー

　
開演すると劇中劇で主役の脇で悪目立ちしている役者がいる。チャチャを入れ始めるし、デカいし、あろうことか華があり目を奪われる。座長の芝居をけなしては、自分はこんな小さな世界にいる人間じゃないと言わんばかりに大仰なこと言って芝居を台無しに。そう、彼こそがこの物語の主人公の一人、喜多八 （以下、喜多さん）。主人公としてはかなりクセ強めの登場だけど (笑)、一座を抜ける喜多さんに仲間がかける優しい言葉から、彼の人柄の良さが伝わってくる。

疾走音楽劇『きたやじ オン・ザ・ロード〜いざ、出⽴!!篇〜』撮影：田中亜紀

同じ頃、駿河の喧嘩師として名を轟かせたもう一人の主人公、弥次郎兵衞 （以下、弥次さん）はヤクザに絡まれていた。喜多さんと偶然再会した二人はピンチを切り抜け、二人は「ここじゃねぇどっかに行きてぇ！」と伊勢に向かって旅を始めることになるが、その展開の速さはまるでリニアモーターカー！ “疾走音楽劇”と銘打ってるだけあって、歌やダンスを交えながらテンポよく進む。その勢いに引き込まれ、気づけば一緒に乗ってしまうような感覚に！

疾走音楽劇『きたやじ オン・ザ・ロード〜いざ、出⽴!!篇〜』撮影：田中亜紀

『東海道中膝栗毛』は有名な作品ではあるけど読んだことがなく、情報によるとどうやらちょっとお下劣なユーモアが多い作品らしく、本作では“尻”に全振りしたようです（笑） きたやじが男子校の中高生のように尻の話を始めた時に、まさか全編を通して大事なワードになるなんて思いもよらず、この滑稽さが自分にはだいぶ好みでした(笑)

疾走音楽劇『きたやじ オン・ザ・ロード〜いざ、出⽴!!篇〜』撮影：田中亜紀

疾走音楽劇『きたやじ オン・ザ・ロード〜いざ、出⽴!!篇〜』撮影：田中亜紀

最近のアクションエンタメでは悪者が出てくると大抵は死人が出るけど、本作は違う。 三癖の十吉なんて、何度も盗みをしたのに咎められるどころか仲良くなってしまうし、八乙女一家の瞬太郎も、傷つけないように注意するシーンも多い。 こういう優しい場面に逆にハッとさせられ、「世話物をやりたい」という浅生プロデューサーの意図に共感を覚えました！
喜多さんは、まさに天性のエンターテイナー！自由奔放で、どんな場面でも自分の色に染めてしまう圧倒的な存在感。対照的に、弥次さんは常識人かと思いきや、すっぽんに食いつかれたことを“運命”と感じるロマンチストな一面も（笑）。こんな二人だからこそ、旅のどの瞬間も目が離せない！本作は旅するのが前提だけど、旅をしない二人の過去編も観たい！

疾走音楽劇『きたやじ オン・ザ・ロード〜いざ、出⽴!!篇〜』撮影：田中亜紀

きたやじにばかりフィーチャー しちゃったけど、本作は他の登場人物（役者）が最高にいい！瞬太郎はマザコンだけど一本気なところもあるし“恋に盲目”な姿はお腹抱えて笑ったし、十吉との戦いのバカバカしさも最高！こういう演出が演劇ならでは！
お蝶やオジキの存在感はさすがだし、舎弟の３人組は憎めない悪役で可愛い！個人的にはエクボ役のインディ高橋さんのヤラレっぷり『いいリアクションありがとうございます！』って思っちゃうほどの職人芸。やられてるのに、なぜか観てるこっちは元気になるってどういうこと！？（笑）

疾走音楽劇『きたやじ オン・ザ・ロード〜いざ、出⽴!!篇〜』撮影：田中亜紀

疾走音楽劇『きたやじ オン・ザ・ロード〜いざ、出⽴!!篇〜』撮影：田中亜紀

役者や演出だけに限らず、衣裳もメチャクチャ可愛くイカシてたし、美術や映像や照明も作品を彩りホントに総合芸術でした！
役者陣の圧倒的な熱量、身体を張った笑い、そしてちょっぴり心が温まる旅物語。これは生で観るしかない！ぜひ劇場で、彼らの“バカ真剣”な姿を目撃してください！

疾走音楽劇『きたやじ オン・ザ・ロード〜いざ、出⽴!!篇〜』撮影：田中亜紀

（文：かみざともりひと）