原作は平居紀一さんによる同名小説で、2021年に宝島社主催、第19回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作品!そんな話題作の脚本・演出を「キングオブコント2013」の王者かもめんたる岩崎う大さんが手掛けます。そして、主演には「美 少年」のメンバーとして活躍する藤井直樹さんを迎え今回初舞台化されました!
大賞受賞のミステリー小説×芸人脚本×アイドルの組み合わせに「どんな舞台に仕上がっているの⁉」「なんだか面白そう!」と興味をそそられると共に、期待値が高いだけに面白くなかったら残念だなという一抹の不安も覚えつつ囲み取材&観劇へいってきました。
ヤクザの下っ端、真二と悠人。人使いの荒い兄貴分にこき使われる彼らの冴えない日常は、一体の他殺体を見つけてから一気に変わり始める。同じ頃、自動車部品店を営む植草父娘は、地上げ屋の嫌がらせで廃業に追い込まれかけていた。一方、脱法行為で金を稼ぐ宗教団体・ニルヴァーナでは、教祖の孫娘が誘拐され――。様々な事件が、絡まり合い、ラストどうなるのか⁉
原作と脚本の魅力
「映像化不可能!」と言われた今作。囲み取材で、脚本のう大さんは「演劇だとギリギリできる部分、そこが演劇で今作をやる意味だと思う。」と仰っていたようにミステリーというジャンルで、様々な人間模様や状況が絡み合う内容、複雑な場面構成を演劇ならではの方法でわかりやすく表現されており、場面転換が「演劇らしく」て上手く落とし込まれているなと感心しました。
率直な感想として…観終わった後、思わず「面白かった」と口からこぼれ、ついお隣の方と顔を見合わせて、すぐに話してしまうような舞台でした。やくざ、殺人事件、誘拐など物騒なキーワードを含む内容ではありますが、ミステリー特有のシリアスさ、不気味さは残しつつ、観劇中「フフッ」っと笑ってしまうような言い回しや場面が随所に散りばめられ、演劇ですが、長編コントを見ているような楽しい内容でした。う大さんは現役お笑い芸人の傍ら「劇団かもめんたる」を旗揚げし、原作・脚本・演出を担い、岸田國士戯曲賞に2年連続でノミネートされるなど、注目されている脚本家なだけあり流石でした!(観る前の不安なんか吹っ飛びました)
また、今作では、地上げ屋に嫌がらせをされ廃業に追い込まれる植草親子の父としても出演しています。う大さんの、なんとも言えない哀愁に満ちた姿、人の良さから、「情けない父」「幸薄い中年男」役がとても似合っていて、存在感がありました。う大さんが発するから笑ってしまうようなシュールな台詞も今作の魅力だと感じます。主演の藤井さんとは誕生日も一緒で、藤井さんのお父様と身長も同じ!「親和性」を感じると語っておられ、舞台外では、ほっこりした親子のような仲の良い関係性を築かれている様子でした。
主演藤井直樹の新たな一面
「そわそわどきどきしています」と囲み取材で高身長の共演者陣の真ん中でちょこんと佇み、ニコニコ笑顔で話す小顔で小柄の藤井さんは、役柄の「気怠さのあるクールキャラ」「ギラギラ感」は全く感じない可愛らしさがある弟キャラの「王道アイドル」!会見でも「自分にはない部分が多いですが、アイドルとして仕事に挑んでいる部分はギラギラしていると思うのでそこを置き替えました。」と話され、役に挑まれた様子でした。共演の和田さんや、う大さんが「物腰が柔らかく、ガラの悪さが藤井ちゃんの中になかったが、パンっとやくざと藤井ちゃんがリンクする部分があった。その瞬間を見れて嬉しかった。」と話されていたように、劇中、「愛されキャラの弟的存在」から一変したクールな姿に驚かせられました。普段の藤井さんのイメージとは違うキャラに戸惑う部分もあるかと思いますが、「本来の藤井さんらしさ」も感じる場面もあり、そこに藤井さんが起用された一つの理由もあるように感じました。藤井さんの新たな一面と藤井さんらしさのどちらも活かされた作品をお楽しみください!
和田琢磨の役作り
今作で、主演の藤井さんや他の共演者を喰う勢いで素晴らしい演技と役作りをされているなと感じたのがヤクザのバディ役である和田琢磨さんです!2.5次元作品からミュージカル、ストレートプレイなど幅広い舞台で活躍し、近年では国内外問わず映像作品への出演も続いている注目俳優の一人です。
本来はびっくりするほどの正統派イケメンながら、お調子者でよくしゃべる関西人役がばっちり過ぎて…途中、和田さんがイケメンであることを忘れてしまうくらいでした(笑)。
しかしながら、長身でスタイルが良いので、サングラス姿がとても似合っていて、スーツやキンキラ金の派手な服まで着こなしているのは流石でした!強面のクールキャラも合いそうですが、今回は「末端のヤクザ役」ということで、こちらも和田さんの見たことがない姿を見ることができます!
初共演の藤井さんは「琢磨君はとにかく優しい!僕が上手く演技ができるように引き出してくれました。」と語っておられ、バディとして信頼されていました。性格の全く違う凸凹コンビながらも、ハマっていて、掛け合いのテンポが自然で心地よく引き込まれました。
今作は、主演の藤井さんはじめ、和田さん、内さんなど、正統派のいわゆるイケメン達が集まっているにも関わらず、主要キャラが「ヤクザの下っ端」というところからも想像がつく通り、ハッキリ言ってキラキライケメン舞台要素は皆無(笑)!イケメンの無駄遣いだなということを強く感じます(笑) !しかし、できるタイプのかっこいいキャラではなく、「イケメンなのに残念」なところが情けなくも人間らしく、愛すべきキャラに仕上がっていて作品の良さに繋がっているのかなとも思いました。役者さんたちが「イケメン」に甘んじず、役を的確にとらえ、振り切って演技し、役に入り込んでいるからこそ、その役柄として見え、笑える舞台に仕上がっているのだと感じました。
脇を固める実力のある役者たち
主演の藤井さんの事務所の先輩である内博貴さんは特別出演されており、
「初主演の後輩の姿を見てどう感じるか?」という問いには「稽古場で見て、頑張っている、一生懸命やる子だなっというのは昔からあったので心配はなかったです。何かあれば言ってねとは伝えていました。」と、先輩として後輩を頼もしく見守っているようでした。また、「前回共演時は僕が(藤井さんを)ぼこぼこにする役で美 少年ファンからは反感を買っていたと思いますが、今回は僕が舎弟役でぼこぼこにされます(笑)!なので美 少年ファンの方は僕のことが大好きになると思います!」とユーモアを交え美 少年ファンへメッセージを伝えていました。美 少年ファンの皆さんは、より二人の関係性や絡みにご注目くださいね。内さんの存在感から「ただのチンピラ」ではないようなキャラの背景も感じたので内さん主演でスピンオフ作品も観たいような、気になる役柄でした。
数々の映画や舞台で活躍する浪岡一喜さんは古風な昔気質のやくざの雰囲気がぴったりで、ふくみを持たせた演技は物語に深みを持たせ、意外な一面とのふり幅が大きく、今作に必要な存在だと感じました。
宗教団体ニルヴァーナ幹部・佐々倉(土屋翔)、人使いの荒いヤクザの兄貴分・荒木田(馬場良馬)など強烈キャラや、頼りない父役の、う大さんと対照的なしっかりした娘役の磯部花凜さんとのやりとりもほほえましく、それぞれキャラ立ちしていました。
最後の最後までわからない伏線回収に原作の良さとミステリー要素を感じました。そして、シリアスとコミカルでユーモアな要素を混在させた脚本と役者たちが作り出す独特の空気感、演劇ならではの演出はぜひ生の舞台で見ていただきたい作品です。今回、短い公演日数なのがもったいないないと思えるような舞台でした。
(文:あかね渉)
舞台『甘美なる誘拐』
原作:「甘美なる誘拐」平居紀一/宝島社刊
脚本・演出:岩崎う大(かもめんたる)
■出演
藤井直樹
和田琢磨
礒部花凜
馬場良馬
高畑結希
末永みゆ
土屋翔(劇団かもめんたる)
槙尾ユウスケ(かもめんたる)
岩崎う大(かもめんたる)
内博貴(特別出演)
波岡一喜
■会場:シアター1010
〒120-0034 東京都足立区千住3丁目92 ミルディスⅠ番館11F
■上演日程:2024年9月13日(金)〜9月16日(月祝)