これは美しく残酷な物語。植物を前に露呈する人間のリアル『バイオーム』観劇レビュー

スペクタクルリーディング『バイオーム』
スペクタクルリーディング『バイオーム』

これは美しく残酷な物語。植物を前に露呈する人間のリアル『バイオーム』観劇レビュー

上田久美子さんの宝塚退団後初となる書き下ろし戯曲『バイオーム』。「麒麟がくる」「精霊の守り人」などを手がけた一色隆司さん演出で東京建物BrilliaHALLにて開幕した。

宝塚在団中の上田さんの作品は美しく心に残るメッセージ性の強い作品が多かったが、全編朗読の本作でも言葉で私たちを引き付けて離さない。

スペクタクルリーディング『バイオーム』
スペクタクルリーディング『バイオーム』

舞台はある政治家一家の庭。息子のルイ(中村勘九郎)とその家族、庭の木々や植物たちの物語。中村勘九郎さんをはじめに花總まりさん、古川雄大さん、野添義弘さん、安藤聖さん、成河さん、麻実れいさんがそれぞれ1人2役で人間や植物を演じます。家庭を顧みない父親、心のバランスを欠いた母親、いわくありげな老家政婦、その息子の庭師。それぞれの思惑が絡み合い個人もそれぞれの関係もどんどん歪んでいく一家…。

それをいつも見守る植物たち。人間たちには知られないよう囁きのような「ウ~ララ~」「タトタト…」などという音でコミュニケーションを取ります。豪華な出演者らがハミングや音で植物の声を生き生きと奏でる。生演奏の音楽や舞台に投影されるプロジェクションマッピングと重なり合い幻想的な空気感を作り出します。

スペクタクルリーディング『バイオーム』
スペクタクルリーディング『バイオーム』

植物にとって人間は「けもの」のようなもの。感情に振り回され、物事の意味や自分自身の存在価値などに悩みはじめてエゴにまみれる。植物はただそこにあるだけ。醜い感情にフタをして体裁を整えている人間も、植物たちを前にその醜さが露わになっていきます。特に花總まりさんの狂気に満ちた演技は圧巻。そのヒステリーを麻実れいさんの落ち着いた温かさが包み込みます。ユーモアの効いた台詞もあり劇中にはクスッと笑える場面も。

スペクタクルリーディング『バイオーム』
スペクタクルリーディング『バイオーム』

本作の形式は朗読劇。しかし朗読劇なのか?というほど美しく、幻想的で立体的な空間。台本こそ持っていますが、朗読を超えた全身を使ったお芝居は迫力があり(なんと2幕ではほとんど台本を持っていないという)言葉の連なりから情景が目に浮かびます。ピアノの音色が耳に流れ込み、心に語りかけられ、目には庭に広がる自然が映る。夜の庭の匂いの様な空気に一種のヒーリング効果のようなもの感じ、観劇中つい深呼吸をしてしまいました。出演者の方々も初めての感覚とのことですが、これぞスペクタクルリーディングという体験なのでしょうか。

スペクタクルリーディング『バイオーム』
スペクタクルリーディング『バイオーム』

稽古期間が2~3週間という、驚きの短期間で作り上げられたバイオームの世界。出演者たちが育み積み重ねてきた立体感のある世界観は、大きすぎてその渦に飲み込まれてしまいそうな引力を含みつつ、最後には静かに受け入れられる穏やかさもあり。五感のすべてに訴えかけ、ゆっくりどっしりとした時間が私たちの中に流れ込んできます。

スペクタクルリーディング『バイオーム』
スペクタクルリーディング『バイオーム』

美しい音楽や映像に身を委ね朗読を聴く濃密な時間。
6月11日(土)には国内・海外に向けたライブ配信も行われます。スペクタクルリーディングという初めての体験を、その庭を目撃しに行ってみては。

詳細は公式サイトで。

(文:真来こはる

公演情報

スペクタクルリーディング
『バイオーム』

【作】上田久美子
【演出】一色隆司
【出演】中村勘九郎 / 花總まり 古川雄大 / 野添義弘 安藤聖 / 成河 / 麻実れい

2022/6/8(水)~2022/6/12(日)/東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
6/11 17:00公演ライブ配信

公式サイト
https://www.umegei.com/schedule/1042/

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