「浮漂」舞台写真

観れば一晩かけて語りたくなる! 長塚圭史演出 「浮標(ぶい)」観劇レビュー

葛河思潮社「浮漂」舞台写真
葛河思潮社 第5回公演『浮標』舞台写真 撮影:五十嵐 絢也

葛河思潮社 第5回公演『浮標』観劇レビュー

青年座On7(オンナナ)に所属してます、小暮智美です。
葛河思潮社 第5回公演『浮標(ぶい)』の公開舞台稽古を観させて頂いたので観劇レビュー書いていきます!!

もう3度目の再演ということですが、何のその!新鮮さや挑戦の空気が滲み出る4時間。上演時間を聞いて一瞬は怯みましたが、これまた何のその! 4時間座っていたなんて感じさせない時間でした。

浮漂
葛河思潮社 第5回公演『浮標』舞台写真 撮影:五十嵐 絢也

三好十郎さんが1940年に産み出した言葉達。
シンプルで強く、柔らかく強く、圧倒的で強く、登場人物達の市井の人々の言葉達が圧倒的な普遍性を持って観てる者の頭や心をジワジワ刺激し続けます。

日常、忘れてしまう色んな瞬間、忘れてしまいたい色んな瞬間、言葉にならない数々の空気達。演出・長塚圭史さんと役者さん、全ての力が合わさり、舞台上に出現します。それが演劇でしょ?と、言われてしまいそうですが・・・、それが実に巧みで信じられるのであります。

1940年が初演の作品ですが、76年前の作品なんだという感覚がまるでありません。不思議です。そしてある意味、恐くもなります。
泥沼の日中戦争の影が忍び寄る背景の中で描かれた今作品『浮標』。
何故に、この作品が書かれた時代と現代に多くの共通点を見つけてしまうのでしょうか。

葛河思潮社 第5回公演『浮標』舞台写真
葛河思潮社 第5回公演『浮標』舞台写真 撮影:五十嵐 絢也

簡単にあらすじをお伝えすると、

夏も終わりの千葉市郊外の海岸。洋画家の久我五郎は結核を患う妻・美緒の看病に明け暮れている。生活の困窮、画壇からの圧力、不動産の譲渡を迫る家族……など苦境の中で妻の病気は悪化していく。戦地へ赴く親友の訪問を受けた数日後、献身むなしく美緒の容態が急変。その枕元で、 五郎は必死に万葉の歌を詠み上げる─。

私が特に印象的だったのは、久我五郎(田中哲司さん)が、妻・美緒(原田夏希さん)に言うともなく語りかける言葉

“それが人間か?……そうだな、それが人間かもわからんな……”

五郎と美緒の最期に至る時間が忘れられません。
私から観た、舞台上の美緒は幸せだっただろうなと思います。
最後の場面に至る全てのシーンがシンプルに丁寧に紡がれているが故の瞬間を観せて頂いたと…

葛河思潮社 舞台「浮漂」
葛河思潮社 第5回公演『浮標』舞台写真 撮影:五十嵐 絢也

本当に一晩かけてお酒でも傾けながら、この作品について、今の日本について、自分達について語りたいくらいです。
今やっている横浜公演の後には全国6か所を巡られますので、ご興味ある方は、どうぞどうぞ劇場にて体感してきてください!

(文:小暮智美

公演情報

葛河思潮社 第5回公演『浮標』

作:三好十郎
演出:長塚圭史
出演:田中哲司 原田夏希 佐藤直子 谷田 歩 木下あかり 池谷のぶえ 山﨑 薫 柳下 大 長塚圭史 中別府 葵 菅原永二 深貝大輔(戯曲配役順)

【横浜公演】 2016年8月4日(木)~7日(日) KAAT神奈川芸術劇場 〈大スタジオ〉
【豊橋公演】 2016年8月11日(木・祝) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
【兵庫公演】 2016年8月13日(土)、14日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【三重公演】 2016年8月20日(土)、21日(日) 四日市地域総合会館 あさけプラザホール
【北九州公演】 2016年8月28日(日) 北九州芸術劇場 大ホール
【佐賀公演】 2016年8月30日(火) 佐賀市文化会館 中ホール
【東京公演】 2016年9月2日(金)~4日(日) 世田谷パブリックシアター

葛河思潮社 第5回公演『浮標』公式サイト

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