ロシアの劇作家アントン・チェーホフの最晩年の戯曲、『桜の園』が2024年12月8日より世田谷パブリックシアターで幕を開けました。
「桜の園」は、これまでにも様々な演出家、キャストにより何度も上演されてきた作品ですが、今回はケラリーノ・サンドロヴィッチさん(以下KERAさん)の演出。シス・カンパニーとタッグを組み、アントン・チェーホフの4大戯曲を上演するシリーズ”KERA meets CHEKHOV”の最終章です。 KERAさん演出の「桜の園」は、4年前にラネーフスカヤ夫人を大竹しのぶさんが演じ、上演される予定でしたが、稽古もほとんど終わっていたにもかかわらず、コロナ禍の影響で開幕直前に公演が中止になってしまっていました。 今回は、続投キャストに新規キャストを加えてのリベンジ公演でもあるのです!!
開演を前に、KERAさんは「天国のチェーホフを小躍りさせてみましょう」と語っていましたが、チェーホフは、小躍りしてくれているでしょうか?
チェーホフは難しい? 予習は必要か?
公演前からX上では、予習は必要か否かの論争が繰り広げられていました。実際に私は、戯曲本を事前に読んだ予習組ですが、個人的な結論としては、予習は不要だと思います。 とてもわかりやすい舞台になっていますので、真っすぐな気持ちで楽しんで観れば大丈夫です! なんといっても、戯曲本は盛大なネタバレですからね・・・(笑)
でも、登場人物の相関図は頭に入れておいた方がわかりやすいのは間違いないです!
◆「桜の園」相関図
本レビューでは、ストーリにはストーリーには触れていませんので、あらすじは公式サイトにてご確認ください。
https://www.siscompany.com/produce/lineup/sissakura2024/
客席の緊張を笑いで解いた冒頭シーン
会場に警笛の音が鳴り響き、幕が上がり、ロパーヒン(荒川良々)とドゥニャーシャ(池谷のぶえ)が、お屋敷で奥さまたちの帰りを待つシーンからスタートします。
もう、この段階で面白いのです。会場内に笑い声が響き、「チェーホフは、難しいんでしょ?」と、少し身構えていた客席の雰囲気が一気に和んだように感じました。 最初からドゥニャーシャがお茶目で可愛らしくて、たまらないです。細かな仕草までぜひ、注目してみてください!
冒頭のシーンでは、ヤーシャ(鈴木浩介)とエピホードフ(山中崇)が登場しますが、二人ともキャラが濃い!(笑)。2人についても語りたいところですが、3時間丸々書いてしまいそうなので、2人については、ぜひ劇場で確認してみてください。
新境地!天海祐希が魅せる、ラネーフスカヤ夫人降臨
いよいよ、奥さまたちのお帰りです。
このあたりで、眼鏡をオペラグラスに切り替えてスタンバイします(笑)。
直前に公開されたゲネプロの舞台写真や動画で、予習をしていたので覚悟はしていましたが、やはり凄かった!! 何が凄かったか・・というと、ラネーフスカヤ夫人(天海祐希)のオーラと美美美!!!!
登場した瞬間、客席のみんなが息をのんだ・・と言っても過言でないほど(私だけではなく、複数名の証言あり)。
まるで絵画のようなシーンが何度かあるので、観るときは覚悟が必要です(笑)。
天海祐希さんと言えば、言わずと知れた宝塚の元トップスター。今までは、何でもてきぱきとこなすカッコいい女性!という役どころが多かったですが、今回は違います。彼女なら、「はい!じゃー次はこうして、あなたはこれをして・・」と、てきぱきと決めていき、あっさりと解決をして、さらに繁栄させてしまいそうなのに、今回は様子がおかしいのです。
人の良さと優しさは抜群ですが、肝心なことは何もできない・・決められない。現実から目を背け、「私バカだからわからない・・・」と言います。
なのに、なぜか他の人のことには、はっきりものを言うし、行動力もある(笑)。
私が資産のある男性だったら、あんなにも美しい夫人に、甘えられたり、頼られたりしたら喜んでお金を貢いでしまいますが、夫人が選ぶのは残念なことにダメンズ・・(涙)
ちょっと残念なラネーフスカヤ夫人を見事に演じているのは、やっぱり流石としか言いようがありません。
コロコロと変わる感情表現。寂しそうな顔をしたり、怒ったり、笑ったり、甘えたり・・。ぜひ、細かな表情とKERAさんからオーダーのあった、ちょっと高めの天海さんの声にも注目です。
ミュージカル界のプリンスが・・・・
パブリックイメージと異なるキャストがもう一人。ミュージカル界のプリンスこと、トロフィーモフ役の井上芳雄さん。 事前情報なしでは、「え?井上さん出てた?」となってもおかしくないビジュアルにも注目です。
ファンの皆さんの反応を拝見していると、プリンスの井上さんはいつも観ているので、貴重なお姿に喜んでいるようにも感じます。
私は、初めての井上さんが本作なので、トロフィーモフのキャラクターでインプットされそうです。
KERAさんも、難しいと事前にXでポストしていた、ラネーフスカヤ夫人とトロフィーモフのやり取りが続く3幕。お二人のテンポの良いお芝居が私はとってもお気に入りです!ラネーフスカヤ夫人の色々なキャラも見え隠れします。
どこから見ても完全に老僕!!角度が素晴らしい
笑いどころも多い桜の園ですが、やはり何といっても俳優陣の演技が素晴らしい!というか、さすが!と唸ってしまいます。セリフの間であったり、笑いとの切り替えだったり・・。ただ面白いのではなく、感情の移り変わりや、言いたいけど言えないもどかしさ、そんなことを感じることができます。
その中でも注目して欲しいのは、浅野和之さんが演じる老僕フィールスです。どこからどう見ても、老僕の姿そのもの。膝の角度、腰の曲がり具合、歩き方、声の使い方。一つ一つの会話から長い年月をお屋敷で過ごしてきた姿が目に浮かびます。中でも、ラネーフスカヤ夫人の兄ガーエフ(山崎一)との会話は、ほっこりするし、思わず笑みがこぼれてしまいます。
ちょっと残念だけど愛おしい登場人物たち
ここで、不完全で一生懸命なのに、どこか残念で愛おしい登場人物たちを少し紹介したいと思います。
全く頼りにならない兄のガーエフ(山崎一)。
ラネーフスカヤ夫人同様、現実を受け入れられないガーエフ。兄がしっかりさえしてくれていれば、こんなことにならなかったかもしれない!と思いますが、いつまでも甘い事ばかり言っていて頼りになりません。
気づくといつもフルーツドロップを舐めていますが、公演中に何粒舐めているのでしょうか?(笑)
本当は頼りになるはずなんだけど・・な、商人・元農奴の息子ロパーヒン(荒川良々)。
今までのイメージと少し違ったキャストの1人。とっても頼りになるはずなんだけど、なかなか思いを理解してもらえません。桜の園の行く末を握る重要なキーマンの一人ですが、彼の本音はどうだったのだろうか・・?と、戯曲を読んだ時から疑問に感じていますが、いまだにわかりません。
明るくポジティブな娘のアーニャ(大原櫻子)。
お人形さんのような可愛さで、基本的にテンションが高い!桜の園を失って落ち込むママを前進させることが出来るのは、彼女だろうなぁ~とも思います。
謎が多い家庭教師のシャルロッタ(緒川たまき)。
シャルロッタは、持ち物がどうにもおかしい・・。「それは何、、、?」と、突っ込みたくなるところが多々あるので、チェックしてみて欲しいです。 そして、シャルロッタと言えば、手品が得意です!手品を披露するシーンもありますので、楽しみにしていてください!
そして、桜の園に出てくる男性陣はみんな、どこか頼りないし、どこかイケてない。頼りになるところもあるんだけど、肝心なところで何だかポンコツ(笑)。
全員紹介したいところですが、この辺で。。
まるでショータイムのような舞台転換
最後に、どうしてもお伝えしなければならないポイントがあります。それは、舞台の転換についてです。この舞台で驚いたことの一つが転換の美しさです。転換と言えば、客席としては、ちょっと休憩・・といったタイミングではありますが、本作は違います。転換のシーンが一つのショーのようになっていて、転換も楽しむ事が出来ます。
特に最初の舞台転換が本当に素敵ですので、ぜひ、見逃さずにチェックしてくださいね。
「桜の園」は悲劇なのか、喜劇なのか・・?
チェーホフは悲劇ではなく、喜劇として描いたと言われるこの作品。
どちらだったのか・・と聞かれると、正直私には判断がつきません。というのも、そもそも悲劇とは?、喜劇とは?・・と調べ始めると簡単に語れることではないと感じてしまいました。
私が感じたのは、ここのお屋敷にいるのは、 没落している貴族たちではあるが、良くも悪くもそこまで悲観的にはなっていなく、愛おしく、憎めない人達だということ。個人的には、そんな彼女たちの幸せを願わずにはいられません。
しかし、作品としては未来について描かれていませんので、同じことを繰り返してしまうのか、それとも新たな一歩を踏み出すのか、観る人によって解釈が分かれるのではないでしょうか。あの時決断していれば結果は違っていたかもしれない、、あの時、、と、思うところはありますが、後の祭り。
実は、少しだけ明るい未来を期待してしまった瞬間があったのですが、それこそ、私もずいぶんと楽観的な思考だなぁ~と、ふと気づくのです。
傍から見れば愚かに見える行動も、自分自身を振り返ると、同じような経験があることにも気づかされます。
ロバーヒンのように助言してくれている人も近くにいるんだろうが、耳に入っていない・・そんなこともあるんだろう・・とハッとさせられます。
宝塚の元トップスタとミュージカル界のプリンスの共演
天海祐希さんと井上芳雄さんの共演となれば、ちょっと期待していることが皆さんにもあったのではないでしょうか?私は、もちろん期待していたタイプです(笑)
普段とは異なる役柄に挑戦している二人の姿は、非常に魅力的でした。しかし、次の共演の際には、ぜひ、プリンスの井上芳雄さんと、THE天海祐希さん!という作品での共演も期待したいところです。
足腰に自信があれば、実はとってもお得な3階立見席!?
私が観劇したのは、開演初日の12月8日。 とはいえ、チケットが取れなかった(本当は当選していたのに、諸事情で権利消失・・涙)私は、ドキドキの当日券抽選組。
開演時間の75分前に会場前に集合をし、購入順を決める番号を引くシステム。本当に心臓によくない・・・(笑)。
そんな抽選をくぐり抜け、本当にギリギリ、かろうじて当日券の3階立見席をゲットしました。
3階の立見席は一般販売されていないので、当日券は毎日チャンスがあります。
立見席はスペースが狭くて少し窮屈で足腰はやっぱり辛いですが、舞台はしっかりと観ることが出来るので、3,000円で桜の園を拝めると思うと、大変お得です!
ぜひ、気になった方は、チャレンジしてみてください!くじ運の良い方は、当日券でも、ちゃんとお席のチケットをゲットすることも出来ます!
(文:松坂柚希)
シス・カンパニー公演 KERA meets CHEKHOV Vol.4/4 『桜の園』
作:アントン・チェーホフ
上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
〈出演〉
ラネーフスカヤ夫人:天海祐希
トロフィーモフ:井上芳雄
アーニャ:大原櫻子
ロパーヒン:荒川良々
ドゥニャーシャ:池谷のぶえ
ワーリャ:峯村リエ
ピーシチク:藤田秀世
エピホードフ:山中崇
ヤーシャ:鈴木浩介
シャルロッタ:緒川たまき
ガーエフ:山崎一
フィールス:浅野和之
勝俣三四郎、矢部祥太、吉沢宙彦
◻︎東京公演
公演日程:2024年12月8日(日)~27日(金)
会場:世田谷パブリックシアター
◻︎大阪公演
公演日程:2025年1月6日(月)~13日(月・祝)
会場:SkyシアターMBS
◻︎福岡公演
公演日程:2025年1月18日(土)~26日(日)
会場:キャナルシティ劇場
公式サイト
https://www.siscompany.com/produce/lineup/sissakura2024/