白井晃の演出舞台『セツアンの善人』のメインビジュアルが公開。また、本作に出演する葵わかな、木村達成らのコメントが公開された。
『セツアンの善人』は、第二次世界大戦中、ナチスにより市民権を剥奪されたドイツの劇作家ベルトルト・ブレヒトが亡命先で執筆し、1943年にスイスのチューリッヒで初演された。
神様が地上に降りてきて善人を探すという本作は、ブレヒト作品を代表する寓意劇として、今も多くの人々に愛され、世界各地で上演を重ねている。ブレヒトは、第一次世界大戦への徴兵経験から、反戦を訴える作品や、資本主義を風刺した作品など、社会性の強い戯曲を多く世に送り出したが、それと同時に叙事的演劇や異化効果といったメソッドも提唱し、その偉大な功績から20世紀最大の劇作家と称されている。そうしたブレヒトならではのエッセンスが『セツアンの善人』には、ふんだんにちりばめられ、舞台ならではの醍醐味が堪能できる一作となっている。
『セツアンの善人』は、畏怖すべき神様たちが、人間臭い立ち居振る舞いで下界に現れ「善人探し」をするという奇想天外な設定からスタートする。
神々から「善人である」と認められる貧民窟に暮らす心優しき娼婦のシェン・テと、これに対してビジネスに徹する冷酷な青年シュイ・タの2役を葵わかなが一人二役で演じ分ける。
そして、シェン・テが恋に落ちる失職中のパイロット、ヤン・スンは木村達成が演じるほか、渡部豪太、七瀬なつみ、あめくみちこ、小林勝也、松澤一之、小宮孝泰、ラサール石井らが出演する。
本作のビジュアル公開に合わせて、白井晃、葵わかな、木村達成のコメントが公開された。
上演台本・演出 白井晃 メッセージ(チラシより)
この世の中でホントに善人でいることができるのか?善意と言われても、無料の奉仕などあり得るのか、自己満足もしくは何か裏にあるのではないかと疑ってしまう。そんな殺伐とした世界に私たちは生きている。
真に人と人とが信じあえて、思いやれる時が来たらと願っても、そんなことなど絶対にあり得ない、信じる方が愚かだと思えてしまう。私たちは諦めの中に生きている。だからこそなお、今このブレヒト作品を上演する意味があると思ったわけなのです。パンデミックや災害、戦争の悲壮を身近に感じる中で、社会の原理が本質的に変わることを目指すべきとした、かつてのブレヒトのメッセージはより一層強力に心に響くのです。
演劇に社会を変える力など、もはやありはしないのかもしれない。
それでも、主人公シェン・テを今の世界を生きる人間として描くことで、少しの時間だけでも演劇の力を信じたいと思うのです。
出演・葵わかな コメント
シェン・テと、シェン・テが劇中で演じるシュイ・タの二役を演じます。なかなか複雑な構造の二役に挑戦することになります。シェン・テはとてもお人好しな性格で神様から善人だと認められ、逆にシュイ・タは周囲から冷酷な人物だと評価されています。果たして本当にそうなのか、見ている人によっても色々と感じ方が変わるような役でもあると思うので、そういう部分も楽しんでいただけるように頑張りたいです。
今回、演出の白井さんとは初めてご一緒させていただきます。白井さんは俳優の新境地を開拓してくださる印象があったので、私も新しい挑戦ができることをとても楽しみにしております。
『セツアンの善人』は 80 年以上前に書かれたお話ではありますが、素敵な共演者の皆様と演出の白井さんと共に、今を生きる私たちにも響くようなメッセージをしっかりと表現していきたいです。また音楽の力によって、より親近感や楽しい瞬間も生まれるような作品になればいいなと思っております。
出演・木村達成 コメント
失業中のパイロットの青年、ヤン・スンを演じます。ヤン・スンは一見すると嫌な奴のように思えるのですが、とても人間らしくもあって、そういったところに親近感を覚えています。
白井さんの演出作品にはこれまで二度出演させていただきましたが、いつも自分はどうあるべきなのかといったことや、人のために何かをする自己犠牲の気持ち、観客の皆様に与える影響などについて考えるきっかけを与えてくださり、自分が変わる瞬間に何度も立ち会っていただきました。今回、世田谷パブリックシアターで『セツアンの善人』に出演することになり、改めてそういったことをたくさん考えられる稽古が待っていると思うと、少し不安でもあり、同時に楽しみでもあります。
約1年ぶりの舞台出演となりますが、この作品を観ていただいた皆様に、“面白そうな奴だな”と思っていただけたら幸いです。
詳細は公式サイトで。
https://setagaya-pt.jp/stage/16042/
(文:エントレ編集部)
『セツアンの善人』
【上演台本・演出】白井晃 【訳詞・音楽監督】国広和毅
【出演】
葵わかな 木村達成 渡部豪太 七瀬なつみ あめくみちこ
栗田桃子 粟野史浩 枝元萌 斉藤悠 小柳友
大場みなみ 小日向春平 佐々木春香
小林勝也 松澤一之 小宮孝泰 ラサール石井
【演奏】
磯部舞子(Vn. 東京公演) 島津由美(Vc.) 熊谷太輔(Perc.)/加藤優美(Vn. 兵庫公演)
2024年11月9日(土)13:00、11月10日(日)13:00/兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール