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山崎美貴×一龍齋貞寿インタビュー~演劇と講談のコラボレーションに挑む 東京タンバリン『花に嵐』

右から山崎美貴、一龍齋貞寿

東京タンバリン『花に嵐』が4月4日(木)から東京国立博物館・九条館にて上演される。

東京タンバリンは、高井浩子の劇作を本人演出のもと、上演することを目的に設立された劇団で、現代人の陰を日常会話の中にあぶりだしていく物語を「演劇でしかできない表現」にこだわった演出で上演している。通常の公演だけではなく、1 つの劇場で同時に2 本の作品を上演する公演、街歩きをしながら演劇を鑑賞する公演など、様々な企画を活かした公演も行っている。

今作は東京タンバリンが「和をモチーフに輪を広げていこう」と行っている企画「わのわ」の作品の一つで、和室で上演される演劇作品となる。前回のわのわ公演『さとうは甘い』(2020年)には落語家の柳家喬太郎が出演、そして今回は講談師の一龍齋貞寿が出演する。講談とどのようなコラボレーションを見せるのか、『さとうは甘い』にも出演した山崎美貴と、一龍齋貞寿に話を聞いた。

演劇と講談は全く違う芸能

──貞寿さんは東京タンバリンに参加されるのは今回が初めてですが、どういった経緯で出演することになったのでしょうか。

貞寿 柳家喬太郎師匠には以前からお世話になっておりまして、昨年3月に大阪の聖天通劇場のこけら落としシリーズで師匠が独演会をされたときに、ゲストとして私も呼んでいただきました。それを高井さんがご覧になったことが最初のきっかけです。

──本作への出演のお話が来たときの率直なお気持ちはいかがでしたか。

貞寿 「喬太郎師匠じゃなくて、私?」と思いました(笑)。師匠のご縁でいただいたお話しなのでまずは師匠にご相談したら「いいよ、出なよ!」と前のめりな反応をいただいたので、「じゃあ、勉強させていただきます」という感じでお受けしました。

──これまで演劇の公演にご出演されたことはありましたか。

貞寿 ないんです。でも、講談師の中にはお芝居もされている方が結構いらっしゃるんですよ。だから、そういう機会があったら出た方がいいよ、ということは喬太郎師匠からも言われていました。講談は1人で全部完結してしまう芸なので、いろんな人と関わって作っていくとか、演出を付けていただくといった機会がないので、これはやっておくべきだろうと思って今回の参加を決めました。

──お芝居の稽古に参加されてみた感想はいかがでしょうか。

貞寿 講談というのは語りが主軸になっているので、極端に言うと、私はテレビなんですよ。テレビを見ているとき、テレビという機械を見ているのではなく、テレビの映像を見ているのと同じで、皆さんは私を見ているのではなく、私が語る物語を見ているから、お客様の前で何をやっていても、自分を見られているという感覚があまりないんです。ところがお芝居になると、物語の登場人物であるその人を見る、ということになるので、全く違う芸能だな、と感じています。声の出し方も全く違いますし、歩くとか立つとかを意識してやったことがないので、どうやったらいいのかを1から考えているような次第です。

山崎 すごく自然にお芝居されてますよ。

貞寿 いやいや、講談のときは釈台という台を置いて座って喋るじゃないですか。釈台がないだけで、なんだかスカートをはき忘れたみたいな気持ちになります(笑)。その上、立つなんてもう、貞寿が立った、って「クララが立った」と同じみたいな感じなんですよ(笑)。いろいろなことに対して「恥ずかしいよ、どうしよう」と思いながらやっている状態で、ものすごく新鮮です。

右から山崎美貴、一龍齋貞寿

──山崎さんからご覧になって、お稽古場での貞寿さんはどんな印象でしょうか。

山崎 講談は役者の仕事とは全く違う分野のものだなと思いますし、リズム感とか声の調子とか、聞いているだけで情景が浮かぶような話術には毎回感心してしまいます。演劇は通常はナレーションが入りませんが、今回は貞寿さんがそういう役割も果たされていて、状況を説明してくださる語りが入ります。それがまた面白おかしく語ってくださるので、私たちも稽古をしていて楽しいです。

──これまでのわのわ公演とはまた少し違ったテイストになりそうですね。

山崎 そうですね、前回のわのわでは、喬太郎さんは落語家としてではなく役者として出演されましたが、今回は芝居エリアの中に講談師がいる、という形がとても新鮮で、イメージとしてはトーキー映画の弁士みたいな感じに近いかもしれません。ちょっと新しい感じの演劇だと思いますし、貞寿さんの魅力をたっぷり堪能できると思いますので、私達も負けないようにお芝居しなくちゃいけないな、と頑張ってお稽古しているところです。

九条館の雰囲気も体感できる貴重な機会

──本作の台本を読んだ感想を教えてください。

山崎 わのわ公演では、私はこれまで『花筏』と『さとうは甘い』で、同一人物ではないのですが「さくら」という名前の役をやらせていただいて、今回も「さくら」という役です。今度はどんなさくらさんかな、と楽しみに読んでみたら、女同士のバトルが起こるお話で、高井さんは女性のちょっと嫌なところまで細やかに描いているので、読みながら「ああ、こういうことあるよね」と、なんだか楽しくなっちゃいました。

貞寿 東京タンバリンの作品は何作も見てきましたが、高井さんは女性を描くのが上手だなと思います。女の人って立場によってきつくもなればかわいくもなるし、ワーッと諍いがあってもそれが終わるとすぐに仲良くなれたり、コロコロっと変わるようなところがあると思うのですが、そういった女性の変化がうまく描かれていて、共感できる部分が多かったです。あと、高井さんが講談をものすごく勉強してくださったので、こういうところで講談を入れたいとか、講談の口調でこういうふうにやって欲しい、というのが意図的にわかるように台本を書いてくださっているので、初めて参加したお芝居が高井さんの作品でよかったなと思っています。

──今作は東京タンバリンが継続して行っている「わのわ」という企画公演で、会場は劇場ではなく、東京国立博物館の九条館というお茶室です。

貞寿 喬太郎師匠が出演された前作も拝見しましたが、お茶室を舞台にしたドラマを、本当にお茶室でやるという面白さを感じました。あと、お客様と演者との距離がすごく近いんですよね。だから何となく自分もそのドラマの中にいて傍観しているというか体感している、という感じが非常に面白い企画だなと思いました。ちょうど今回の公演の頃には桜が咲いていそうなので、『花に嵐』というタイトルと、お茶室と、お芝居の中身が全部一体になった形でご覧いただけるんじゃないかなと思うと、すごく楽しみです。

──山崎さんは昨年から東京国立博物館のアンバサダーに就任されましたし、九条館での公演は何度も出演者として経験されていますが、どのような印象をお持ちですか。

山崎 九条館の空間はとても素敵なのですが、すぐ近くにお客様がいて、ちょっとした心の動きも全部伝わってしまうので本当に緊張します。その分、お客様を巻き込むみたいなところもあって楽しいですし、だからこそ面白いものにできるように頑張らないと、と思います。滅多にああいう空間ではお芝居をできないので、ぜひ足を運んでいただきたいです。

貞寿 多分、九条館があること自体を知らない方が多いですよね。

山崎 そうなんです。だから、博物館に来る方を増やしたい、ということで昨年からアンバサダー制度が始まったんです。いろんな人に来てもらえるようにいろんなイベントをやりたいというコンセプトがありまして、昨年11月には応挙館というところで朗読会をやりました。今回の公演では、アンバサダー企画として夜の博物館も楽しんでいただきたいと思い、夜公演の回を設定しています。

貞寿 夜もまた雰囲気が変わりますよね。

山崎 夜の九条館でお芝居を見る、というのはかなりレアな機会だと思いますので、場所の雰囲気も併せてぜひ皆さんに体感していただきたいですね。

左から一龍齋貞寿、山崎美貴

身近に感じられる物語を気楽に見に来て欲しい

──山崎さんと貞寿さんはそれぞれ俳優と講談師ということで、お稽古でご一緒してみて改めて感じるお互いの違いはありますか。

山崎 喬太郎さんとご一緒したときも思ったのですが、落語や講談といった芸事をずっと続けてらっしゃる方は積み重ねがありますよね。俳優は目の前の芝居にワーッと集中するけれども、終わったら忘れてまた次の芝居に向かうので、そこが全然違うなと思います。

貞寿 お互い全然違うんですよ。美貴さんたちはずっとお芝居をやっていて、私はずっと講談をやっていて、お互いに「すごいな、私にはできないや」と思うことがいっぱいあるけれども、もちろん共通点もあって。そういうことを肌で感じるすごくいい機会になったな、と思っています。

山崎 講談師も落語家も「これやって」と言われたらすぐできるように、作品が何個も頭に入っているんですよね。それがすごいです。私たちは「あの芝居やってください」と言われてもすぐにはできないです。それは一人ではできないからというのもありますが、セリフは公演が終わったらすぐ忘れますし。

貞寿 毎日にように高座に上がっていれば、そりゃ覚えます(笑)。でも、台本を覚えるのはまた全然違うので、今頑張っているところです。

──台本を覚えるとき、具体的にどういったところに違いを感じるのでしょうか。

貞寿 講談は全部を丸ごと覚えているわけです。自分のところだけ喋る、ということがないので、なんだか記憶の回路が違う感じですね。あと、他の人の動きを見ながら喋るということも新たに発生しているので、そこが大変です。

──今回の公演の見どころを教えてください。

貞寿 女性陣がアクティブな作品で、特に美貴さんと(木村)美月さんのバトルが見どころだと思います。

山崎 やっていて結構汗かきます(笑)。

貞寿 私は毎回一番いい席で見させてもらえるので(笑)、すごく楽しみにしています。

山崎 高井さんの描くお話って、ほわっとしているところが好きなんです。激しい感情の動きがあって派手にやりあうみたいな感じではなくて、日常生活を切り取って「こういうことあるよね、その気持ちわかる」みたいに、お客さんが一緒になって感じていただけたらいいなと思います。

貞寿 本当に自分にもこういうことありそうだな、というような身近に感じられるお話なんですよね。お芝居も講談も敷居が高いと感じてしまう方もいらっしゃると思いますが、高井さんの作品は本当に気楽な気持ちで見に行けるし、「ああ、面白かった」とリフレッシュして帰っていけるところがすごく素敵なので、この作品がきっかけで、お芝居や演芸を少しでも身近に感じていただけたらうれしいですね。

わのわ公演『花筏』(2018年上演/会場:東京国立博物館 九条館)ダイジェスト版
STORY
1990年、夫を亡くした榎本さくらは20年振りに仕事に出る。
古い友人が営む日本料理菊池。
しかし、従業員にはなかなか受け入れてもらえず…。

 

本作は4月4日から東京国立博物館・九条館で上演される。
詳細は公式サイトで。
https://tokyotanbarin.com/

(文:久田絢子 監修:エントレ編集部)

公演情報

東京タンバリン『花に嵐』

【作・演出】高井浩子

【出演】山崎美貴・木村美月
遠藤弘章・萩原美智子・青海衣央里・田中博士・竹之内隆志
一龍齋貞寿

2024年4月4日(木)~4月7日(日)/東京国立博物館・九条館

 
公式サイト
https://tokyotanbarin.com/

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