「あやめ十八番」代表で作・演出家の堀越涼が、完全オリジナル脚本のCCCreation Presents舞台『白蟻』をひっさげて、2022年12月の舞台『沈丁花』以来、6月にKAAT神奈川芸術劇場に戻ってくる!
本作でダブル主演を務める平野良と多和田任益、重要な役どころを務める松島庄汰の3人は初共演で、堀越涼と演者3人が、『白蟻』を語り合った。
右から、松島庄汰、平野良、多和田任益、堀越涼
舞台『白蟻』は、6月6日(木)より9日(日)まで、KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオで上演される。
物語は、一週間しか存在しなかった昭和64年(1989年)に始まり、2000年代の高校生活と、2024年から2025年を交互に行き来しながら、人間の根底にある死生観と、これから世界と人間を蹂躙していくであろう人工知能AI(Artificial Intelligence(アーティフィシャル インテリジェンス))が登場人物を突き動かしていく。
『白蟻』は、『沈丁花』と同様、音楽と効果音まですべて楽隊による生演奏という「あやめ十八番」が得意とする手法を用い、あやめ十八番の音楽監督の吉田能が演奏を指揮。『沈丁花』で話題を呼んだ堀越涼脚本の美しい日本語とイントネーション、意表を突く舞台セット、生演奏が劇空間に広がる独特の世界がまたKAATに舞い降りる。
さらに、『白蟻』の見どころは、物語のキーマンとなる“人類の時計を百年進めた天才”の櫛本悟と、葬儀社を継いだ勢堂直哉の二役を、平野良と多和田任益が「交互配役」で演じるところ。それぞれの配役で膨大なセリフがあり、公演日程を見ると大きな挑戦にも思えるが、両人は脚本を読んで闘志を燃やす。
松島庄汰は、主役二人と高校時代を共に過ごすが、家業の寺を継いで住職となり、“アナザーストーリー”を描く役を演じる。
3月初旬の初顔合わせに、作・演出家の堀越涼さん、演者の平野良さん、多和田任益さん、松島庄汰さんが集合。脚本第一稿を読んだ感想や交互配役について、舞台に向けての意気込みなどをたっぷり語り合った。(以下、4名とも名字で表記、敬称略)
脚本を読んで、タイトルを「白蟻」にした意味が理解できた
――堀越さんはこの作品タイトルにどんな思いを込めていますか。堀越
3~4年前に書いたプロットのときからタイトルは「白蟻」で、脚本を書き始めたのは昨年ですが、書き終わってみてもタイトルは変わりませんでした。KAAT神奈川芸術劇場で「白蟻」をかけるというのも面白そうですよね。前作『沈丁花』の登場人物はすべてダムの名前から取りましたが、『白蟻』は白蟻の種類から役名を付けています。
松島 芝居のタイトルで「白蟻」はおしゃれですね。自分が出た『沈丁花』もKAATで演るのにおしゃれなタイトルでしたが、今回もそう来たかと思いました。
堀越 『白蟻』のメインビジュアルは吉田能さんが手がけてくれましたが、“茶運人形”のビジュアルを初めて見たときは感動しました。KAATの前にこのポスターが貼ってあるのを想像したらグッときますよね。
「白蟻」フライヤー
平野 第一稿を読み終わったときに、「白蟻」の意味がぐわっと湧き上がってきて、読み物としても素晴らしかったです。ページをめくっていくのが小説のような感覚で、読み終わった後、「作品を見た=人生を体験した」感じになりました。作品のタイトルは顔であり内容を示すものですが、観劇の後できっと白蟻の意味が分かると思います。
多和田 脚本をいただいたときは、「あの白蟻?」と思いますが、読み終えると、なるほどこのタイトルなんだな、おしゃれだなと思いました。内容とタイトルがしっかりリンクしていてやりがいを感じます。
――皆さん、今日が「初めまして」ですか。
堀越 平野さんと多和田さんとは初めましてで、松島さんとは『沈丁花』以来です。平野さんは、昨年5月の舞台『桜姫東文章』を拝見して、清玄という難役で硬質なお芝居をされていて、すごく良かったです。多和田さんは『熱海殺人事件』を拝見して、長セリフを自分のものにされていて、良い役者さんだなと思いました。
堀越涼
【現在公表されている『白蟻』の作品紹介】
「AIと葬儀(弔い)」をテーマ に、現代的な題材ながらも古典的演出技法のエッセンスを盛り込み、久保田悠人のシンプルながらも創造性を広げる巧みな舞台美術により堀越涼らしい世界観を劇場空間に描き出します。
また吉田能(あやめ十八番)を音楽監督に迎え楽隊を率いた生演奏での心情や情景表現(BGM のみならず効果音等も全て LIVE での音出しで表現)が細部まで計算された繊細な物語を鮮やかに彩り、演者が発するセリフの美しさ小気味良さをより鮮明に伝えます。
振付には木皮成を迎えアンサンブルらによるコンテンポラリーダンスを組み合わせた身体表現をもちい、様々なシーンを表現します。
アナログな手法を多用し、劇場空間、お客様の想像性を存分に活かした演劇世界をお楽しみください。
害虫駆除、葬儀社、寺……、家業を継ぐ/継がないという問題とAI革命
――平野さんはX(旧Twitter)で「やりがいの塊のような作品」とつぶやかれていました。平野
今回の脚本は、最初の読了感が小説に近くて、今生きていることや、匂いや色など、生々しさ感じると同時に、演じる難しさも感じました。自分は脚本を読んだときに感じた感情や思いを大事にしたいと思っていますが、この感覚を身体表現でいかに伝えるかはこれから考えていきます。テーマも倫理観も面白いし、好きな題材ですね。
――松島さんもXで「台本を読んだだけでゾクゾク」と書かれています。
松島 『沈丁花』とはもちろん話は違いますが、言葉が美しいのは「さすが堀越さん」と思いました。堀越さんの作品の空気感が好きで、脚本を目で追って、耳でも楽しめるようで、前作で味わった感覚をもう一度味わえるのが今から楽しみです。実は『沈丁花』は自分が近年で一番緊張した作品でしたが、高い評価をいただいたので、今回も頑張ります。
多和田 最初はAIが出てくると聞いて、難しいイメージを抱きましたが、脚本を読んでいくうちに作品の中にスッと入っていけて、「これは遠くない未来だな」と思いました。
堀越 『白蟻』のプロットを書いた3~4年前から今はAIが進化していて、お客様によりリアリティを持って観劇していただけるのは追い風になると思います。自分は普段、時代を切り取って脚本を書くことはしませんが、AIはホットな話題だし、前から注視していました。題材的に、この『白蟻』の賞味期限は2025年までかな?と思っていたので、2024年に世に出せるのはとてもうれしいし、AIというトピックと、家業を継ぐ/継がないという「家」もテーマであるので、その関係性にも期待してください。
平野良
主演の交互配役を聞いたとき、平野良と多和田任益の思いは?
――堀越さんはなぜ平野さんと多和田さんの「交互配役」を思いついたのですか。堀越
プロデューサーとミーティングの段階で、チャレンジしてみたいなという思いはありました。キャスティングで平野さんと多和田さんが想定していた配役とぴったりで、「主役二役を交互に演じてもらった芝居を観てみたい!」と。あまり覇気がなく葬儀社を継いだ勢堂、真のリーダーの櫛本という先輩に思いを寄せていった勢堂の、いわば“憧れの対象と憧れがひっくり返る”配役をこの2人がどう演じるかに純粋に興味が湧きました。
多和田 大先輩の平野さんとの交互配役は、最初耳を疑いました(笑)。「え、あの平野さんと僕が同じ役を交互に?」と衝撃でした。交互配役は初めての挑戦で、きっと切り替えが大変だと思いますが、稽古では平野先輩の胸を借りて、一緒に役を探っていけたらと思います。
平野 「若い多和田君と自分が入れ替わるんですか?」と思いましたが(笑)、だからこそ人物像の解釈も広がるし、リスペクトと愛着を持って演じられると思います。2人が演じる勢堂と櫛本は、互いに純粋な面を持っていて、人のエゴやすれ違いに翻弄されていきますが、稽古でその純粋の正体を紐解いていきたいですね。この作品にしか出せない人物像を演じてみたいです。
松島 自分は寺の僧侶を演じますが、堀越さんの前作で日本語の正しいイントネーションに苦戦したので、今回も苦しむだろうな(笑)と思います。堀越さんの脚本は、読み進めるうちに自然に感情が出てくるのでとても信頼しています。
松島庄汰
高校の生徒会のメンバーたちの精神的な結びつきから生まれるブロマンス
――交互配役と共に、『白蟻』のもう一つの見どころは、高校の生徒会メンバーの男同士の精神的な結びつきによる愛憎劇です。皆さん、高校生のときを思い出して、この脚本をどう解釈しますか。平野
今でも連絡を取り合っている仲の良い友人はいますが、振り返れば、「2人で人生を無駄に過ごしたな」と思えるぐらい無駄な時間を共に過ごしていました。高校時代はある意味、青春で、支え合って、勇気をもらって、少し狂気性を含んだ関係性だったなと思います。
多和田 高校時代はクラスのほとんどが女子で、男同士だけの集まり、繋がりというのはあまり意識していませんでした。卒業後すぐに演じたミュージカル『テニスの王子様』の現場が2年以上四六時中男同士でいる、第二の学生生活のような感じだったんですが、確かに精神的な結びつきはあったと思います。仲間で、ライバルで、友達で、家族で……、どの言葉も当てはまるようではまらない、言い表すのが難しい関係性だったし、今も特別です。だから自分の経験と脚本を照らし合わせるなら、彼らとの関係性がヒントになるかもしれないなと思います。
松島 高校では、仲の良い4人の友達がいたので、男同士の精神的な結びつきは分かります。仕事を始めてから出会うのは俳優や仕事関係者ばかりなので、高校の友達は何にも考えずに話せるという安心感はありますね。
堀越 実は僕の妻が、BLが大好きで、熱くてすごいタイのBLドラマをずっと見ています(笑)。BLとブロマンスは違いますが、ブロマンスは、憧れもあるけど「依存」している状況なんですね。恋愛までいかなくても、その人が欲しいとか、みんなから好かれているクラスメイトに好かれたらうれしいとか。「自分だけは特別に思われているのではないのだろうか」が深くなってくると「依存」になってきて、『白蟻』では、生徒会の会計役の勢堂は、生徒会長の櫛本に依存しているけど、櫛本は勢堂に依存していないというのがせつないブロマンス。その関係性も楽しんでください。
多和田任益
6月のKAAT神奈川芸術劇場 大スタジオで会いましょう!
――では、皆さんに『白蟻』を演じる意気込みをお聞きします。多和田
難しい題材と役柄ですが、舞台でご一緒したかった平野さんと松島さんと、まだ見たことのないところに行きたいと思います。第一稿を読んで、セリフがとても良いなと思ったし、感情的にも共感できるところをたくさん見つけたので、必ず良い演劇になると思います。皆さんと初めてご一緒する楽しみに加えて、感じたことのない心持ちでお芝居できると思うので、稽古でそこを広げていきたいですね。見終わった後にいっぱい話したくなる脚本なので、ご期待ください。
平野 交互配役に関しては、自分の記憶力に期待したいです(笑)。『白蟻』は死と向き合う芝居ですが、自分はこれまで虫も無理なほど、死を遠ざけて生きてきたので、今回の死を直視する役はとても新鮮です。普段は怖がって何もしないタイプですが、芝居は追体験ができることが好きで、それが芝居の醍醐味かなと思います。今まで積み重ねた演じることの愛情で、この難しい役を超えていきたいですね。
松島 お坊さん役は初めてで、知り合いのお坊さんに所作や読経の仕方などを聞こうと思っています。稽古までに読経も覚えますよ。『沈丁花』は大変な作品でしたが、楽しかった記憶しかなくて、裏に何か一つありそうな堀越演出を今回も紐解いていく稽古が今から楽しみです。
堀越 今回は100人を超すオーディションも行って、アンサンブルなどに参加してもらう新しい出会いもあります。アンサンブルのコンテンポラリーダンスも注目していただき、劇空間ならではの空気感、世界観、死生観などを意識しながらつくっているので、ぜひKAATでご覧ください。
本作は6月6日(木)より、KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオにて上演される。
詳細は公式サイト(https://www.cccreation.co.jp/stage/shiroari/)まで。
(撮影:田口真佐美 文:梶井誠)
CCCreation Presents
提携=KAAT神奈川芸術劇場
舞台『白蟻』
【脚本・演出】堀越涼(あやめ十八番)
【音楽監督】吉田能(あやめ十八番)
【出演】平野良 多和田任益
松島庄汰 島田惇平 谷戸亮太 今村美歩 山森信太郎 保坂エマ 内田靖子 溝畑藍 齊藤広大 伊藤南咲 酒井和哉 笹川幹太 竹内麻利菜 藤江花
【楽隊】吉田能 吉田悠 福岡丈明
主催・企画・製作:CCCreation 提携:神奈川芸術劇場
2024年6月6日(木)〜6月9日(日)/神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
★チケットは3月27日(水)12:00より
オフィシャル先行・キャスト先行販売開始中
詳細は公式サイト内へ★