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これぞ、ホラー・エンターテインメント!『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』観劇レビュー

スウィーニー・トッド役:市村正親、ミセス・ラヴェット役:大竹しのぶ 提供:ホリプロミュージカル『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』が3月9日(土)から東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)にて上演されています。

イギリスの伝説スウィーニー・トッドを題材としたミュージカル『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』は、名匠スティーヴン・ソンドハイムの楽曲にのせて描かれる、愛と復讐の物語です。1979年にブロードウェイで初演され、1979年度トニー賞8部門受賞を受賞しました。

日本では、1981年に鈴木忠志の演出によって初演され、2007年に宮本亞門演出、市村正親、大竹しのぶ主演で再演。宮本亞門×市村正親×大竹しのぶのタッグが話題を呼び、2007年以降、2011年、2013年、2016年と何度も再演されてきました。
そんなスウィーニー・トッドが、8年ぶりに再演されることに!2024年3月から、東京・東京建物Brillia HALLを皮切りに、宮城、埼玉、大阪にて公演予定です。

STORY

舞台は18世紀末のロンドン。フリート街で妻子と共に幸せに暮らしていた理髪師ベンジャミン・バーカー(市村正親)が、ある日、妻に横恋慕した悪徳判事ターピン(安崎 求/上原理生)によって無実の罪を着せられ流刑に処せられる。長い年月を耐え忍び、やっと脱出した彼は、若い水夫・アンソニー(山崎大輝/糸川耀士郎)に助けられ、不吉予言を吐く乞食女(マルシア)もたむろする、ロンドンのフリート街にたどり着く。かつての自分の店を訪ねた彼は、その階下でパイ屋を営む昔なじみのミセス・ラヴェット(大竹しのぶ)から、妻はターピン判事に陵辱された果てに狂死し、娘のジョアンナ(唯月ふうか/熊谷彩春)はそのターピンの養女となっているという事実を知らされる。怒りに燃える彼は、スウィーニー・トッドと名乗り、素性を隠して新たに理髪店を開いて虎視眈々とターピン判事や、部下のビードル(こがけん)に復讐する機会を狙う。そしてラヴェットを慕う孤児のトバイアス(武田真治/加藤 諒)を巻き込み、スウィーニーとラヴェットは、奇想天外で荒唐無稽な計画を実行する…!!

印象的だったプロローグ

開演アナウンスからすでに物語は始まっている…
そう感じる不気味なアナウンスに、「いよいよ始まる」という高揚感が押し寄せます。
人の叫び声のような泣き声のような耳を割く高音が劇場中に響いたら、“人殺しの理髪師・スウィーニー・トッド”を語る歌で物語が始まります。

薄暗い舞台、不気味なメイクを施して歌う人々、トッドの登場…。
繰り返される不気味なメロディーラインも癖になり、徐々に自分の鼓動が早くなるのを感じました。
開始5分程度で、あっという間にその世界に没入してしまう…これぞエンターテインメント!圧巻のプロローグでした!

主要キャストについて

復讐に燃える男・スウィーニー・トッド(市村正親さん)。

プロローグでは、血の赤が滲む白衣姿で現れます。目に復讐の炎が宿っているのが分かり、登場しただけで“覇気”がある。だから、「怖いけれど見たい」と感じるのです。そんなトッドが、一人スポットライトに照らされて歌う姿には、鳥肌が立ちました。


スウィーニー・トッド役:市村正親 提供:ホリプロ

彼はもともと悪い人間ではなかったはず。それなのに、愛する家族を奪われて人が変わってしまったのです。いつも虚ろな空気を漂わせていて生気がない彼ですが、復讐の話になると人が変わって、熱に浮かされたように大きな声で流暢に語りだす…その姿は狂気的です。
市村さんはそのスイッチの入り方が、良い意味で“怖い”。これくらいの強い思いがなければ、この物語は生まれないだろうと思わせる、不気味なお芝居でした。

満を持して登場するのは、ミセス・ラヴェット(大竹しのぶさん)。
初登場シーンの彼女はみすぼらしい格好をしているし、セットだって華美じゃない。それなのに、彼女には明るいオーラがある…そのアンバランスさが面白くて、ついつい彼女の立ち居振る舞いを目で追ってしまうのです。
とにかく表情豊かなラヴェット。悪だくみしているときの顔、恋に浮かれているときの顔、動揺しているときの顔、そのすべてがあまりにリアルで。


ミセス・ラヴェット役:大竹しのぶ 提供:ホリプロ

そして、コメディーセンスも抜群!トッドがピレッリを殺したと知った時も、初めは口を手で覆って動揺するのですが、彼が死に値する人物だと分かった瞬間に「それならよかったじゃない」と切り替える。そのテンポの良さが絶妙!客席からもたくさん笑いが起こっていました。

アンソニーとトッドに迫る乞食女(マルシアさん)。
不気味なオーラを纏って物乞いをしていて、登場シーンから存在感がある乞食女。「どうかお恵みを~」と歌う声、甲高い笑い声が頭に響いて、思わず体が強張る感覚さえありました。


乞食女役:マルシア 提供:ホリプロ

歌もセリフもしっかり聞き取れるのに、まともに喋れていないように感じさせるお芝居も印象的。舞台に登場している時間は短いのに存在感がある…マルシアさんの魅せ方が素晴らしいのだと感じました。

若い水夫・アンソニー(糸川耀士郎さん)。
登場シーンから溌溂とした印象がありました。乞食女に迫られ、お金を渡すアンソニーと見捨てるトッド…2人の行動に、生きてきた世界の違いが垣間見えます。


アンソニー役:糸川耀士郎、ジョアンナ役:熊谷彩春 提供:ホリプロ

糸川さんのお芝居は、爽やかで汚れを知らない純粋さがまぶしくて。水夫の紺色の衣装が、彼の爽やかな印象と相まって、暗い舞台の中でやけに眩しく見えたのは私だけでしょうか?
人の愚かさに触れて、心を曲げてしまったトッドとの対比が面白く、まさに陰と陽の2人という感じがしました。

両親と引き離され、ターピンの養女にされたジョアンナ(熊谷彩春さん)。
小さな部屋に閉じ込められた彼女は、自分を監視し続けるターピンにいつも怯えています。身に纏った白いドレス、透き通る天使のような歌声、可愛らしいビジュアルが印象的。カスミソウのような品があるので、アンソニーが一目ぼれし、ターピンが依存しているのも納得です。
印象的だったのは、アンソニーと駆け落ちを決意する場面。ターピンへの恐怖で気が動転しているところから、アンソニーと共に逃げる喜びに変わっていく心境を、メロディーに合わせてコミカルに表現していて、技術力の高さを感じました。

この物語の敵役・ターピン(上原理生さん)。
183cmの長身と、長い髪の毛、無精ひげ、杖を突きながらゆっくり歩く姿が、怪しさと恐ろしさを増長させていました。
娘・ジョアンナに歪んだ愛情を注ぐ不気味さは、見ていて不愉快で…(笑)。


ビードル役:こがけん、ターピン役:上原理生 提供:ホリプロ

ジョアンナの部屋に向かうときは、とりわけゆっくり歩いているように見えるのです。徐々に近づいてきている“オバケ”のような不気味さ。
ゆっくりと歩く姿を見ているだけで、悪寒がするのです。ここまで気持ち悪さを体現できる、上原さんの芝居力にはただただ感嘆するばかりでした…!

彼に付き従う部下・ビードル(こがけんさん)。
丸眼鏡とシルクハットがトレードマークですが、私が個人的に彼に抱いた第一印象は、“見るからにインチキ”。姑息なオーラがビンビンで…さすが芸人さん!キャラクターの癖を表現するのがお上手だなと思いました。
お気に入りポイントは、ターピンがジョアンナと結婚すると話したときに、呆れた顔をして暗転するところ。結局彼は、すべての人間を見下しているのでは?と感じる場面でした。

偽物の育毛剤を売るピレッリの元にいた孤児・トバイアス(加藤諒さん)。
ピレッリにどんなに酷いことをされても、逃げられずにいるのがあまりにも不憫で…。彼は健気で一生懸命。そして、自分を拾ってくれたピレッリに嫌われないために体を張っている…そんな印象を受けました。


トバイアス役:加藤諒 提供:ホリプロ

愛情を注いでくれる人がいなかったから、自分を利用するピレッリに依存していて、離れられないのでしょう。個人的には、今作で1番手を差し伸べたくなる役だなと思いました。

シンプルに“とにかく面白い!”

恐怖の復讐劇…
もっと緊迫感のある場面が続くかと思いきや、そうでもないところがこの舞台の面白さです。
駆け落ちシーンでジョアンナが「キスミー」を連呼したり、人殺しをしたはずのトッドとラヴェットが楽しそうだったり…暗いはずの場面がコミカルに見えるところが、たまらなく面白いのです。今作が“ホラー・エンターテインメント”といわれる所以なのかなと思いました。

そして、シンプルに“とにかく面白い!”
役者の実力はもちろんのこと、セットの転換の仕方、小道具の使い方、楽曲の不気味さ、何もかもが作品の魅力につながっていると感じました!ぜひ生の舞台で、復讐劇のスリルを味わっていただきたいです。


ジョアンナ役:唯月ふうか、アンソニー役:山崎大輝 提供:ホリプロ


トバイアス役:武田真治 提供:ホリプロ

 

本作は2024年3月9日(土)から東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)で上演されています。
詳細は公式サイトでご確認ください。
https://horipro-stage.jp/stage/sweeneytodd2024/

(文:山本萌絵

公演情報

ミュージカル『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』

【作詞・作曲】スティーヴン・ソンドハイム
【脚本】ヒュー・ホイラー
【演出・振付】宮本亞門

【出演】市村正親 大竹しのぶ
マルシア
山崎大輝/糸川耀士郎(Wキャスト)
唯月ふうか/熊谷彩春(Wキャスト)
安崎 求/上原理生(Wキャスト)
こがけん
武田真治/加藤 諒(Wキャスト) 他

 

2024年3月9日(土)~3月30日(土)/東京・東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場) 
2024年4月12日(金)~14日(日)/宮城・東京エレクトロンホール宮城
2024年4月19日(金)~21日(日)/埼玉・ウェスタ川越 大ホール
2024年4月27日(土)~29日(月祝)/大阪・梅田芸術劇場メインホール

 
公式サイト
https://horipro-stage.jp/stage/sweeneytodd2024/

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