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“ルパン現る!”古川雄大が華麗に七変化。ミュージカル・ピカレスク「LUPIN~カリオストロ伯爵夫人の秘密~」観劇レビュー

ミュージカル・ピカレスク『LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』“ルパン現る!”古川雄大が華麗に七変化。ミュージカル・ピカレスク「LUPIN~カリオストロ伯爵夫人の秘密~」観劇レビュー

本作は、日本ミュージカル界を代表する演出家小池修一郎とフランスの人気作曲家ドーヴ・アチアの日仏巨匠タッグによる新作ミュージカル。モーリス・ルブランによる小説「怪盗ルパン」を下敷きに、観客に息つく暇を与えないほど華やかで何でもあり(!?)のエンターテインメント性抜群な冒険活劇ロマンが誕生します!

舞台上に現れる7本枝の燭台、生命の樹・メノラー。
1本目【王冠】、2本目【知恵】、3本目【理解】、4本目【慈悲】、5本目【峻厳】、6本目【勝利】、7本目【栄光】をそれぞれ表し、すべての枝が燭台に揃うと願いが叶うという迷信がありました。


ミュージカル・ピカレスク『LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』

その枝をすべて集め、テンプル騎士団(※1)のカテドラル(※2)を再建し、貧しい人々を救う施療院を作って自ら院長に就くという旨を話す令嬢・クラリス(真彩希帆)。慈善事業への強い思いをハツラツと語る彼女は、女性参政権を求める夫人たちにとっては希望の光。しかし、実はクラリスの父・デティーグ男爵には多額の借金があり、その弱みを握ったテンプル騎士団研究会会長・ボーマニャン(黒羽麻璃央/立石俊樹)に押し切られ、彼とクラリスの婚約を進めようとしていました。

ある夜、デティーグ男爵は自らの邸宅でボーマニャンとクラリスの婚約発表を強行発表しようとしますが、クラリスは「どんなお金持ちだろうと、結婚相手は人間性で選ぶ」という強い意思を持ち、ボーマニャンとの婚約を断固拒否。夜会で出会ったアメリカ帰りの実業家ルイ・ヴァルメラ(※変装したアルセーヌ・ルパン 古川雄大)を頼り、邸宅からの脱出を計画します。
クラリス役の真彩さんは、「天使って本当にいるんだ…」と思わず尊い気持ちになってしまうほど、美しい歌声と可愛らしい存在感の持ち主。しっかりとした芯がありながら、恋愛においては“純潔”を守るピュアな女性を魅力的に表現。コロコロと繊細に変わる彼女の表情を追うだけでも、物語のおもしろさがグッと深まる気がしました。

ところ変わってデティーグ男爵邸の密室。ボーマニャンが男爵らと共に、とある計画を企んでいました。それは、生命の樹・メノラーの7本の枝が揃うと、願いが叶うどころか、テンプル騎士団の財宝の在処がわかるということ。そして、その密室に保管された絵に描かれた魔性の美女・カリオストロ伯爵夫人の秘密を暴くことー。


ミュージカル・ピカレスク『LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』

ボーマニャン役はWキャスト。黒羽さんは、野心に向かってまっしぐらで、何があろうと曲がらない芯の強さがTHE・悪役で最高。黒ずくめの手下たち(黒鷲団)を率いてのソロがあるのですが、彼らを操り自らに陶酔している感じ、しかも高音に至るまで伸びやかすぎて絶妙にイラッとする感じが素晴らしかったです。


ミュージカル・ピカレスク『LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』

立石さんは、爽やかで白いオーラをまとう見た目と野心の黒に染まった中身との差がゾクっとする怖さ。貴婦人たちから「あの人、顔はいいのにね」と言われていそう(独断と偏見)。個人的には立石さんの悪役を初めて拝見したので、もっと見たい欲が急上昇し、いつか『エリザベート』のルキーニ役も見てみたいなんて思ったりしました。

しかしその会議の最中、邸宅が突然の停電。ようやく数本揃っていた枝と1枚の伯爵夫人の絵が盗まれ、「宝物はいただいて帰る。ついでに美女も。アルセーヌ・ルパン」との書き置きが。美女とは令嬢クラリスですが、先ほどの夜会にルイ・ヴァルメラに変装した本物のルパンはまだ残っていました。では、クラリスをさらったのは?


ミュージカル・ピカレスク『LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』


ミュージカル・ピカレスク『LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』

こういう事件ものを扱う作品に欠かせないのは地元警察の存在。本作には、捜査に一生懸命で有益情報の提供者への感謝を忘れないガニマール警部(勝矢)と、好奇心旺盛なルパン・マニアの高校生探偵イジドール(加藤清史郎)、そしてあの名探偵シャーロック・ホームズ(小西遼生)までも登場し、ルパンとクラリスと財宝の行方を巡って右往左往。それぞれの個性がとにかく光っていて笑いどころが満載なので、余裕があれば、彼らの動きや発言も怠らず見て聞いていただきたいです!!
(特に2幕のホームズの、本人はいたって真面目だけど奇天烈な発想が個人的にツボでしたので、要注目 笑)

話は戻って、夜会でクラリスをさらった偽物のルパンは、自らをジェブール伯爵と名乗る見目麗しい男性。周りの空気を清浄しながら歩いているような涼やかなオーラを放ち、女性が権力を持つことへの理解もある伯爵にクラリスは一瞬で魅了されますが、実は彼こそボーマニャンらが語っていたカリオストロ伯爵夫人の仮の姿。
演じるのは、元宝塚歌劇団男役トップスターの柚希礼音さんと真風涼帆さん。


ミュージカル・ピカレスク『LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』

柚希さんは、“ハンサムな女性の男装”という表現がしっくりくるような柔らかな印象。けれど正体がバレ、カリオストロ伯爵夫人として堂々と登場したときの色気たるや。本当にどこにお隠しになっていたのでしょうか、といういろんな意味でのギャップがまさに魔性。


ミュージカル・ピカレスク『LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』

真風さんは、今年6月に宝塚歌劇団を退団後、本作が初舞台。ジェブール伯爵としての登場が黒燕尾なのですが、さすがにカッコよすぎます。退団したけど、していなかったという謎の安心感(?)。逆に、ドレス姿も女性的らしい声の雰囲気も見慣れていなければ聞き慣れてもいませんので軽くパニックでしたが、身のこなしの余裕感は「さすが」のひとこと。セクシーかつとてもチャーミングでドキッとさせられます。
生まれは1788年。本来ならば120歳を軽く越えているはずが、時間が止まったような妖しく若々しい色香を放つ彼女。その秘密やいかに…。
ちなみに、デティーグ男爵邸の密室に保管された若い頃のカリオストロ伯爵夫人の絵は、キャストによってちゃんと特徴が違うという芸の細かさ。柚希さんのときは“キリっとした眼差しの艶やかな美女”、真風さんのときは“タレ目であたたかみを感じる美女”になっているので、ぜひご覧くださいませ!!


ミュージカル・ピカレスク『LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』

本作の注目は、なんといってもアルセーヌ・ルパンを演じる古川雄大さんの七変化。見た目はもちろん、すべての役で声までまったく別人のようで、知っていても「どうなっているの??」と新鮮に驚いてしまうほど巧み。近年映像での活躍も華々しい古川さんですが、その経験で培った人物像の引き出しを器用に使い分けているという印象。演出の小池修一郎さんは、役者のポテンシャルを最大限に活かす作品をつくられる方ですが、二枚目の役も三枚目の役も、まるで観客がジェットコースターに乗せられているように緩急がありながら、とても心地良く楽しい気持ちにさせてくださる虹色の魅力を持つ役者・古川さんだからこそ用意された役であり作品なのだろうなと感じます。SNSにて、「宝塚の作品みたい!」という感想を見かけましたが、宝塚の男役が体現する“漫画から飛び出して来たような理想の男性”が、リアルにいるのだという衝撃が確かにすごい。作品としても登場人物全員の存在が濃く、番手がハッキリしているので、私も観劇しながら、「フィナーレの群舞ないんだ」「ルパンとクラリスのデュエットダンスないんだ」「古川さんの背中にトップスターの大羽根が見える!」と思いながら拍手をしていました。古川さんの帝国劇場初主演を祝うにふさわしい、様々な方向からの偉大なる愛がてんこ盛りの作品だと個人的には思います。


ミュージカル・ピカレスク『LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』

いろいろな情勢が渦巻き、日常に疲れてしまうことが多いからこそ、非日常を演劇に求める人はたくさんいるのではないでしょうか。少なくとも私はそうなのですが、良い意味で深いことを考えずに、心のままに笑ってキュンとしてハラハラドキドキできる、「疲れたときのジャンクフードって元気になるよね!」と思うような、演じる側にも観る側にもハイカロリーなエンターテインメントを観ることができました。ハートを盗まれる快感を皆様もぜひ劇場で体感してみてください。

本作は、東京・帝国劇場にて上演されたのち、名古屋・御園座、大阪・梅田芸術劇場メインホール、福岡・博多座、長野・ホクト文化ホール大ホールにて上演されます。詳細は公式サイトで!
https://www.tohostage.com/lupin/index.html/

※1 テンプル騎士団…中世ヨーロッパで活躍した騎士修道会。
※2 カテドラル…大聖堂。

(文:越前葵

公演情報

ミュージカル・ピカレスク『LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』

【脚本・歌詞・演出】小池修一郎(宝塚歌劇団)
【音楽】ドーヴ・アチア

【出演】
アルセーヌ・ルパン : 古川雄大
クラリス・デティーグ : 真彩希帆
ボーマニャン : 黒羽麻璃央 / 立石俊樹
イジドール・ボートルレ : 加藤清史郎
ガニマール警部 : 勝矢
シャーロック・ホームズ : 小西遼生
カリオストロ伯爵夫人 : 柚希礼音 / 真風涼帆

ゴドフロワ・デティーグ : 宮川浩
レオナール : 章平

(アンサンブル 五十音順) 朝隈濯朗、荒田至法、井口大地、奥山寛、島田隆誠、鈴木大菜、仙名立宗、中桐聖弥、畑中竜也、廣瀬孝輔、牧田リュウ平、丸山泰右、港幸樹、渡辺崇人、彩花まり、飯塚萌木、石田彩夏、伊宮理恵、鈴木サアヤ、平井琴望、真記子、政本季美、松田未莉亜、美麗、安岡千夏、山下麗奈

2023年11月9日(木)~11月28日(火)/東京・帝国劇場
2023年12月7日(木)~12月20日(水)/名古屋・御園座
2023年12月29日(金)~2024年1月10日(水)/大阪・梅田芸術劇場 メインホール
2024年1月22日(月)~2024年1月28日(日)/福岡・博多座
2024年2月8日(木)~2024年2月11日(日)/長野・ホクト文化ホール 大ホール

公式サイト
https://www.tohostage.com/lupin/index.html

チケット
https://www.tohostage.com/lupin/ticket.html

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