突然ですが、みなさんにはどのようなDREAMを追いかけた経験がありますか? そして、その課程で味わった喜びや挫折は、あなたをどう成長させてくれましたか?
今回レビューさせていただくブロードウェイ・ミュージカル「ドリームガールズ」で描かれるのは、1960年代、70年代アメリカの煌びやかなショービジネスの世界で、大きなDREAMをつかむために様々な困難に立ち向かいながら奔走する人々の物語。これだけを聞くと現代日本を生きる私たちには想像もつかないような、さぞかしドラマティックなことが起こるものだと思われる方もいるかもしれません。ですが、かつてDREAMを追いかけたことがある、または今追いかけている最中というすべての人にとって自分の歩む道を見つめ直すきっかけとなったり、強いパワーで背中を押してくれたりする、不思議な“共感”を覚える作品だと思いました。
人の数だけ人生にはドラマがある。ゆえに本作は、見る人の年齢や経験によって受け取るメッセージが全然違う、ある意味討論するのが楽しい作品だと思うのです。というわけで、このレビューではあえて物語にはほとんど触れず、楽曲や役者のみなさまの魅力を存分に語らせていただきたいと思います!(前置きが長くてごめんなさい…汗)
ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』撮影:吉原朱美 岩村美佳
ショービジネス界での成功を夢見て歌い踊るコーラスグループ「ザ・ドリームナッツ(のちにザ・ドリームズに改名)」。
そのメンバーで本作の主人公、ディーナ・ジョーンズを演じるのは、望海風斗さん。元宝塚歌劇団雪組のトップスターで、在団当時から観客の五臓六腑に染み渡る歌唱力は折り紙付き。今回もそんな望海さんの歌声をありがたいほど浴びることができるのですが、逆に新たな一面も多数。冒頭、まだ原石状態のディーナは、声を聞くまで望海さんか一瞬迷ったくらい野暮ったく、才能はあるのにどこか自信がなさそう(新鮮①)。
メンバーは基本的に同じ衣装、同じ髪型なので、暗闇で踊ったり、フォーメーションが変わったりすると見失いそうになるほど、良い意味で突出した華やかさがない(新鮮②)。
欲深い男に振り回される(新鮮③)などなど。持ちうる華を自由に操り、時間の経過と共に爆発させる。そんな器用さが存分に発揮された役だと感じました。終演後、1幕の彼女が懐かしくて会いたくなるほど、成長がまぶしかったです。
ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』撮影:吉原朱美 岩村美佳
2人目のメンバーは、エフィ・メロディ・ホワイト。福原みほさんと村川絵梨さんのWキャストですが、私は村川さんの回を拝見。多くの苦悩と葛藤と戦う役ゆえ、途中、「エフィが主人公では?」と思ってしまったほど、彼女の歌う曲は感情を露にする力強いものばかり。相当難しいだろうと思うのですが、村川さんの歌声はそんな心配を一切する隙がないくらいパワフルで、ズトンと心に響いてきます。
正直私は村川さんを、どちらかというと映像の役者さんだと思っていたので、お恥ずかしながらあんなに強い声帯をお持ちの方だと知らず、度肝を抜かれました。描かれてはいない役の背景も見えるような丁寧なお芝居と厚みのある歌が素敵な村川さんを、ぜひこれからもいろんなミュージカルで拝見したいです。
ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』撮影:吉原朱美 岩村美佳
3人目のメンバーは、saraさんが演じる、ローレル・ロビンソン。マイペースなようでしっかりとした芯もある、バランス感覚に優れた人。かわいらしい雰囲気だけれど、自分の意見はハッキリ言うところがアメリカ人らしくて魅力的な人物でした。saraさんのことは本作で初めて拝見したのですが、「もっとソロが欲しい!」と思うほど声が美しくて惹かれました。これは本作に限ったことではありませんが、やはり、聞いていて気持ちのいい歌、芝居の延長でなんの違和感もなく歌にシフトするグラデーション技術を見せられると、体中の細胞が活性化した気がしますよね。ちなみに帰り道は極寒だったようですが、少しも寒くなかったです(歓喜)。
ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』撮影:吉原朱美 岩村美佳
本作には他にも、個性的な人物たちが登場。物語の中盤でコーラスグループの4人目のメンバーとなるミッシェル・モリス(なかねかな)は、周りの空気に流されない強いハートと軽やかな存在感を持つある意味カッコイイ人ですし、エフィの弟であるC.C.ホワイト(内海啓貴)はグループのことを思って懸命に動き回る姿が健気で応援したくなります。あと、歌声も笑顔も爽やか。(大事!)
ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』撮影:吉原朱美 岩村美佳
駒田一さんが演じるマーティ・マディソンは、しっかりとした野望はありながらも物事を俯瞰して見ることができる、THE・大人という感じ。個人的に駒田さんは「レ・ミゼラブル」で演じたテナルディエの印象が強烈なので、青い炎を静かに燃やしているような役は新鮮でした。
岡田浩暉さんが演じるのは、ジェームズ・“サンダー”・アーリー。すべてのパフォーマンスがエネルギッシュで、とにかくいろんな意味で身体を張っています。お金や女性が大好きで、何かが吹っ切れたような明るさを放つ人物ですが、彼なりに苦労や葛藤があってもがいているのだということも節々で感じられて、妙に憎めない。岡田さんの愛嬌が光っている役だと思いました。
ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』撮影:吉原朱美 岩村美佳
そしてディーナたちの運命の歯車を狂わせていく人物、カーティス・テイラー・ジュニア(spi)。プロデューサーとしての才能はあるし、大きなDREAMに向かって突き進む貪欲さは素晴らしいけれども、そのやり方が…。ディーナたちのみならず、私たち観客のことも派手に振り回していく、つかみどころのない男。演じる側としてはすごくやりがいのある、楽しい役なのだろうということが、spiさんの生き生きとしたお芝居から伝わってきます。
ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』撮影:吉原朱美 岩村美佳
もちろんアンサンブルも技術力の高い方々ばかりで、視覚も聴覚も大忙し。今回のような大迫力の踊りや歌を見せつけられたとき、私たちがすることといえば、劇場の天井の心配ですよね。…みなさん、存分に心配してください(笑)。そして、“歌唱力”という名の膜で身体を包み込まれる感覚、劇場が揺れているような錯覚を起こす一種のアトラクションのような体験を楽しんでください。観劇後には、彼女たちの人生と共に、自分の過去と未来を見つめ直したくなるような不思議な充実感で溢れていると思います。
本作は、東京国際フォーラムCにて上演中。2月14日(火)まで上演された後、大阪・梅田芸術劇場、福岡・博多座、愛知・御園座でも上演されます。
詳細は公式サイトで!
https://www.umegei.com/dreamgirls2023/
(文:越前葵)
ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』
【脚本・作詞】トム・アイン
【音楽】ヘンリー・クリーガー
【オリジナル・ブロードウェイ版演出・振付】マイケル・ベネット
【演出】眞鍋卓嗣
【出演】望海風斗、福原みほ / 村川絵梨、sara / spi、内海啓貴、なかねかな、岡田浩暉、駒田一
石井千賀、ICHI、伊藤広祥、岡本華奈、Sarry、仙名立宗、高橋祥太、高橋卓士、茶谷健太、遠山裕介、菜々香、西岡寛修、原田真絢、丸山泰右、森山大輔、吉井乃歌(以上、五十音順) / 高橋莉瑚 田川景一
2023年2月5日(日)~14日(火)/東京・東京国際フォーラム ホールC
2023年2月20日(月)~3月5日(日)/大阪・梅田芸術劇場 メインホール
2023年3月11日(土)〜3月15日(水)/福岡・博多座
2023年3月22日(水)〜3月26日(日)/愛知・御園座
公式サイト
https://www.umegei.com/dreamgirls2023/