劇団「あやめ十八番」代表で作・演出家の堀越涼による完全オリジナル脚本の舞台『沈丁花』。本作でダブル主演を務める山田真歩と松島庄汰、重要な役どころの大沢健の3人は初共演で、堀越涼の脚本・演出も初体験となる。
堀越涼と演者3人が、舞台『沈丁花』を語り合った。
舞台『沈丁花』は、12月16日(金)より、KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオで上演される。
温泉旅館の女将を演じる山田真歩と、その秘湯を気に入る旅行雑誌ライターの松島庄汰が出会い、大沢健は松島庄汰演じる「油木正人」の20年後(現代)として登場する。物語は現代と過去がリンクしながら進み、2人の「油木」は交互に舞台に登場する。
『沈丁花』は、音楽と効果音まですべて楽隊による生演奏という「あやめ十八番」が得意とする手法を用い、あやめ十八番の音楽監督が演奏を指揮する。
10月初旬、都内スタジオで行われたビジュアル撮影と取材に、作・演出家の堀越涼さん、演者の山田真歩さん、松島庄汰さん、大沢健さんが集結。
脚本を読んだ感想や、今作の見どころ、舞台に向けての意気込みなどをたっぷり語り合った。(以下、4名とも名字で表記、敬称略)
――まず、堀越さんに作品タイトルに込めた思いをお聞きします。堀越
この脚本を書いたのは2年ほど前で、ストーリーとタイトルを一緒に考えながら書き進めました。沈丁花は山にも咲いている香りの良い花で、このタイトルは物語をすごく示唆しています。観客の皆さんには芝居を観た後に、「沈丁花」の花の意味を調べていただくと、「あ~なるほど」と思っていただける点がいくつも出てくると思います。
松島 脚本をいただいて読んで、ここまで惹きつけられたあらすじは初めてといっていいぐらい、面白くて気に入っています。タイトルの「沈丁花」も良い芝居っぽいタイトルですよね。
堀越 KAAT神奈川芸術劇場で演りそうでしょ?
松島 「KAAT・大スタジオ・沈丁花」って、クオリティの高い芝居って感じがします。
堀越 松島さんは、僕の思いを完璧に理解してくれていますね!
松島 堀越さんの思いに負けないように芝居、頑張ります!
堀越涼(あやめ十八番)
堀越 タイトルについては、実は「あやめ十八番」の作品タイトルは全部“あやめ”の品種の名前なんです。今年9月にやった『空蝉』、2018年の『ゲイシャパラソル』などもあやめの品種から取ったものです。今回はあやめ十八番の演目ではないですが、作品タイトルを考えるときに、花の名前にしようと思い、「沈丁花」をタイトルにしました。
大沢 あやめ十八番の演目名の“あやめ品種縛り”は初めて知りました。
山田 花の名前はたくさんあるので、無限に作品を作れますね(笑)。沈丁花は、早春に香りの良い花を咲かせる花木で、遠くからでも香って、惹きつけられるような匂いが好きな花の一つです。今回の舞台では、松島さんと大沢さんが演じる「油木」が、沈丁花の香りに誘われて山に迷い込むシーンがありますが、芝居空間に誘う沈丁花の香りは、作品とぴったりだなと思います。
現在公表されている『沈丁花』のあらすじには、
雨。その姿は見えないが、その足音と気配がする。
この雨の正体は”化け物”である。
これから訪れる未曾有の水害を、まだ誰も知らないで居る。
油木正人(現代:大沢健)の事務所は今、激しい雨音と闇の中にある。
20年前。
旅行雑誌ライターの油木正人(過去:松島庄汰)は、偶然道に迷った先で「白花温泉」という名の小さな秘湯に辿り着く。そこで唯一の温泉旅館を営む早明浦やゑ(山田真歩)と出会う。
良質な湯に驚いた正人は取材を開始するが、温泉街にも関わらず観光客を呼び込む事
に消極的なやゑら街の人々。
同じく湯に魅了されたと湯治に通う新聞記者の滝里純(藤原祐規)。
沈丁花香る温泉街で忘れえぬ時間が始まる。
過去と現代、ふたつの時間軸はリンクしながら、正人の遠い過去の記憶を呼び覚まし、
警報鳴り響く豪雨災害の夜とを繋ぐ。
とある。
――堀越さんはなぜこの物語を書こうと思ったのですか。堀越
皆さんの記憶にもまだ新しいと思いますが、令和元年(2019年)10月に台風19号により千葉県をはじめ甚大な被害が出ました。自分の実家は千葉で飲食店をやっていますが、5日間も停電して家族が大変な思いをしていて、「これを舞台にできないかな」と、記憶が鮮明なうちに書き始めました。
山田 そんな被災体験があったんですね。『沈丁花』の台本を読んで最初に感じたのは、過去と現代を行き来するのが面白いなと。私の役どころは40歳の旅館の女将ですが、エンディングは演劇でしか表現できないことが詰まっていて、「舞台でどう見せるんだろう?」と、今から楽しみです。
山田真歩
――山田さんは5年ぶりの舞台出演になりますね。
山田 私が役者になったきっかけは舞台なので、ずっと舞台に立ちたいと思っていましたが機会がなく、今回は本当にうれしいです。ずっと、日本の古典に興味がありますが、『沈丁花』の台本を読ませていただいて、古典と現代のバランスが面白く、こういう芝居は観たことがないので演じてみたいと思いました。書き下ろしのオリジナル脚本は、誰も観たことがないものを作るのでワクワクしますね。
堀越 山田さんは最初にお会いしたとき、ミステリアスな雰囲気を感じましたが、何度かお会いすると、キュートでやわらかくて、イメージが変わってきました。これから稽古に入ってさらにどう変わっていくのか楽しみです。
大沢 『沈丁花』は、堀越さんの書き下ろしの初演なので、役者として身が引き締まる思いです。特に今回は、松島さんと「油木」という一人の人物の現在と過去を演じるので、ディスカッションを重ねながら互いにイメージを寄せていきたいと思います。
松島 脚本を読んで思ったのは、空気感が好きですね。役者としては、山田さんとの掛け合いが多い“二人芝居”もあって、稽古ではハードルが高いだろうなと(笑)。それと大沢さんと「油木」を演じるにあたっては、大沢さんとたくさん話し合って、すり合わせて、沈丁花の香りではないですが、“同じ匂いを感じさせる人物”を観ていただきたいと思います。「油木」はまだ誰も演じたことがない役なので、何色にでも染められるし、選択肢も無限にありますね。自由にできるのは楽しいです。
大沢 20年という時空を舞台でどう表現していくのか、この脚本がカタチになっていくのが本当に楽しみですね。同一人物を2人で演じるのは初めての経験なので、稽古が待ち遠しいです。
――大沢さんと松島さんが演じる「油木」と山田さんの温泉宿の女将の“3人で二役”は面白そうです。堀越
物語は“令和元年と20年前”が交錯していきますが、20年前ってそれほど昔でもないので、言葉遣いを意図的に昭和初期ぐらいの古さにしています。観客の皆さんにも時間軸をしっかり感じてほしいので、大沢さんは現代語ですが、松島さんは古くさい言葉に仕立てています。
大沢 観ている人がちゃんと同じ人物に見えるように演じるのはもちろんですが、松島さんは、古典的な言葉遣いと、昔の集落ならではの風習や土臭さもどこかに背負って、『楢山節考』的な世界と、現代の自分がリンクしていきます。
堀越 楢山節考オマージュ! その通りです。
松島 言葉遣いもそうですが、自分が演じる「油木」には、舞台では初めてぐらいの長台詞があるので不安ですが、楽しみでもあります。
松島庄汰
――『沈丁花』は、あやめ十八番と同じく生演奏ですね。
堀越 あやめ十八番で相方の吉田能を招いて生演奏をします。SE(効果音)もないので、演者の皆さんには効果音も出してもらいます。あと、コンテンポラリー的な要素をやってみたいので、森の表現などをアンサンブルキャストに頑張ってもらって入れようかなと思っています。
山田 私も、効果音、蝉の鳴き声でもなんでもやりますよ(笑)。9月にやった公演『空蝉』を拝見しましたが、「人が音を出している力」を感じました。楽隊が出演者として同じ舞台空間にいて、演者は心強いだろうし、とても贅沢なことだと思いました。
松島 僕も『空蝉』を観て、血の通った音は迫力が違うし、芝居にプラスになるのを感じましたね。
大沢 自分は歌舞伎が好きなので、生演奏はウェルカムです。コロナが長く続いて、観客の皆さんに、「生」の芝居と音楽の価値、舞台の良さを改めて感じていただけたらと思います。
大沢健
――KAATにはどんな印象をお持ちですか。
堀越
今回初めて使いますが、良い劇場ですよね。「良質なクオリティの芝居をコンスタントにかけている小屋」というイメージがあって、アーティスティックなものが生まれる空間、上質なモノしか許されない雰囲気に、今回仲間入りできるのがとてもうれしいです。
山田 堀越さんがおっしゃる通り、KAATで観るお芝居は、刺激的で、実験的で攻めている芝居が多い印象があります。エッジの効いている芝居小屋で演じられるのは光栄なことだなと思います。
――では、皆さんの意気込み、見どころをアピールしてください。
松島 自分も好きな劇空間で、素敵な皆さんとご一緒できるので、ご期待ください。
大沢 一人の人間を、あえて2人で、松島さんと自分が演じる新しい試みをぜひご覧ください。
山田 これからの稽古も楽しみですが、舞台でしか観られない体験をしに、KAATに足をお運びください。
堀越 制約なしに、自由に書かせてもらったオリジナル脚本と豪華なキャストで、KAATで上演できるのは素直にうれしいです。コロナ禍での“演劇の作り方”はすごく難しいですが、制限があるからこそ舞台は尊いものです。まだまだ制限がある中でこそ出るエネルギーを発揮して、祈りながらみんなで頑張ります。
本作は12月16日(金)より、KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオにて上演される。
詳細は公式サイトで。
https://www.cccreation.co.jp/stage/jinchou-ge/
(撮影:中村彰 文:梶井誠)
舞台『沈丁花』
【脚本・演出】堀越涼(あやめ十八番)
【音楽監督】吉田能(あやめ十八番)
【出演】山田真歩、松島庄汰、大沢健、藤原祐規、少年T、和合真一、宇佐卓真
【アンサンブル】今村航 酒井和哉 下野はな 竹内麻利菜 中野亜美 中野克馬 古川和佳奈 松崎貴浩 ※五十音順
【楽隊】
吉田能 / ピアノ
中條日菜子 / ヴァイオリン
石崎元弥 / ドラム
企画・製作:CCCreation
2022年12月16日(金)~12月20日(火)/KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
公式サイト
https://www.cccreation.co.jp/stage/jinchou-ge/
チケット(カンフェティ)
https://www.confetti-web.com/detail.php?tid=68843&