1990年に「“今”を切り取った作品を」とG2さんが中島らもさんに依頼し上演され続けてきた傑作コメディーホラー作品。中島らもさんの生誕70周年でもある今年2022年に、設定をアップデートして現代の2022年の「今」を浮き彫りにする新たな『こどもの一生』が上演されています!
作品タイトルからは内容が想像しきれないこの舞台。本作初見で臨んだ筆者の観劇レポートをお届けします!
『こどもの一生』 撮影:加藤幸広
孤島のクリニックで患者たちが、ストレスを取り除いた状態の10歳の「こども」に返り1週間の共同生活をするというお話。現実離れしている設定と色彩なく閉鎖的な舞台セットに、これは人体実験…?と冒頭でホラーな暗い展開を覚悟しました。
場面が変わり登場したのはランドセルを背負った小学生。幼稚園で着るようなカラフルなスモック姿に空気が一変し拍子抜けしたのと同時に、テンポの良い展開にどんどん惹きつけられていきます。
今回主演を演じられた松島聡さん。体当たりで経験のない社会人(社長秘書役)を演じられていた印象で、稽古中から着ていたというスーツがとても似合っていました。作品に重みを与える存在の嫌味な社長役の今井智彦さん、丸山智己さんはやんちゃな小学生姿がなぜか違和感なくとてもよく似合っていました。女性陣の田畑智子さん、川島海荷さんは2人の息ピッタリな女子トークが見どころです。(ネイルサロンや流行りのパン屋さんの話など・・笑)ROLLYさんは気味の悪い明るい声で演じられ、存在感あり。舞台冒頭から作品に不穏な空気を漂わせます。またクリニックのスタッフ陣、朝夏まなとさんは「いいのよ~!」が口癖の優しい看護婦長、そして今回が本作4度目の出演となる升毅さんはクリニックの院長としてこどもたちを導きます。
『こどもの一生』 撮影:加藤幸広
患者達がクリニックで「こども」になり生活する中で、印象的だったのは看護婦長がこども達に言った「なーに謝ってるのよ、告げ口してもいのよ~」という台詞。大人であれば「いやいや間違ったら謝罪しなければなければならないし告げ口はいけないだろ」と思わずツッコミを入れてしまうような台詞ですが、一方で幼いころの‘‘自由”を懐かしむ部分もあり 今の自分は‘‘それ”を失ったのか(それとも失ったと思い込んでいるだけなのか)、自分をルールや常識で縛りつけているのは自分自身なのかもしれない・・などと考えさせられました。この作中で「こども」に返る意味が、「見えなくなったものを見えるようにする」、逆に「見えすぎているものを見えないようにする」という意味合いを持っている事を暗示するような台詞が散りばめられています。(観る人によってひっかかるワードがおそらくそれぞれ異なると思いますが、そこも面白いところです)
『こどもの一生』 撮影:加藤幸広
全体的に「見やすい」「面白い」という感覚で最後まで観終えたため、その点でホラー要素だけではない「コメディー」作品!それは小学生の存在でしょうか、可愛らしい‘‘小学生あるある”なケンカが見どころです。
そのあとにやってくるのは心に刺さって外れない考えさせられるテーマ。「触れられないから存在していない(実体がない)というのか?実体のないものでも実体のある人間をも殺しうる。」というような作品のメッセージを感じ、ネットメディアの現代に起きている社会現象のことを思わずにはいられませんでした。
再演を繰り返されている作品ですが、現代を生きる私達の心にもなお刺さる作品。
社会を覆う閉塞感にパンチをくらわすような作品で、とにかく鋭角で且つエネルギーのある舞台でした。でもスッキリとした読後感のようなものがある、まさにコメディーホラー。暖かくなってきたこの季節に少しヒヤッとするにはピッタリの作品かもしれません。
詳細は公式サイトで。
(文:真来こはる)
『こどもの一生』
【作】中島らも
【上演台本・演出】G2
【出演】
松島聡 (Sexy Zone)
今井朋彦 丸山智己 田畑智子 川島海荷 ROLLY
田中朝子 仁田晶凱 山口将太朗 山根海音 吉﨑裕哉 朝夏まなと/升毅
2022年4月3日(日)〜4月28日(木) /東京・東京芸術劇場 プレイハウス
2022年5月6日(金)・7日(土)/大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
【公演中止】2022年5月18日(水)/宮城・東京エレクトロンホール宮城
公式サイト
https://stage.parco.jp/program/kodomo2022/
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