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観客の心も開放してくれる! ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』観劇レビュー

ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』 写真提供/東宝演劇部ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト』観劇レビュー

ウーピー・ゴールドバーグ主演の大ヒット映画「天使にラブ・ソングを・・・」の日本版ミュージカルが2019年から2020年にかけて再々演。

映画でウーピーが演じたクラブ歌手・デロリス役には、2014年の初演で帝劇初主演を果たし、圧倒的な歌唱力とコメディセンスで客席を爆笑の渦に巻き込んだ森公美子が続投するほか、初演や2016年の再演からのメンバーに加えて新たな出演者も迎えられた。

※ここでは、デロリス⇒森公美子さん、カーティス⇒今拓哉さんバージョンでの観劇レビューをお届けします。


ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』 写真提供/東宝演劇部
映画版でもそうなのだが、今作はそれ以上にそれぞれの役の個性が引き立っていると感じた。
特にシスターたちは皆同じ服を着ていて顔以外が隠されているのにも関わらず、あれはソプラノのおちゃめなシスター、あれはおばあちゃんシスター!と、誰が誰だかがちゃんと理解できるのだ。
理由は、演出家やスタッフの手腕はもちろんのこと、出演者個々のレベルが高いことがあげられると思う。


ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』 写真提供/東宝演劇部

シスター・メアリー・ロバート役の屋比久知奈はディズニー映画「モアナと伝説の海」での主人公モアナ役をはじめ、2019年のミュージカル レ・ミゼラブルでもエポニーヌ役などで豊かな表現を乗せた歌唱力が注目されるが、今作でもその表現力は見事だった。
メアリー・ロバートは修道院で唯一の見習いシスターだが、彼女の若さ故の苦悩や大胆さ、危うさを声色だけで感じることができたほどだ。


ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』 写真提供/東宝演劇部

エディ役の石井一孝は、一歩間違えると”舞台上にいるひょうきんなキャラクター”とみなされてしまうところを、我々が日常で実際に出会うような多面性のある人間らしさを感じさせてくれるまろやかさを持っていたし、
カーティス(今拓哉)や彼の子分の三人組、TJ(泉見洋平)・ジョーイ(KENTARO)・パブロ(林翔太)も同じく、役を人間臭く描いてくれていた。この三人組においてはTJがカーティスの親戚という以外に細かい説明はないはずなのに、それぞれのバックグラウンドが口調や振る舞いで理解できるほどリアルだった。

こんな風に、日常でこんな人いる!と思い出せるくらい、登場人物全員の描写が自然でリアルだったのだ。


ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』 写真提供/東宝演劇部

通常、演劇作品を観劇するときに感じるような主役・アンサンブル・脇役・オーケストラ・・・というような線引きがこの作品には全く感じられず、「それぞれがそれぞれの人生を生きてきて、この場所で出会う」という当たり前のことが、このミュージカルでは起きていた。
また、「ミュージカルって突然歌ったり踊ったりしてよくわかんない。」という声を聞くことがあるが、この作品では歌うことや踊ることも不自然ではないからちゃんとわかるし、どんどん没入していく。


ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』 写真提供/東宝演劇部

それは前述で挙げた個々が引き立っていることや、演者やスタッフの技術力の高さが成せるわざであろう。
だがそれだけではない。決して誰にも真似できない上に、おそらく一番の理由となるのが、森公美子の圧倒的な包容力、そしてキュートさだ。
明るくて心の開いた温かさを持つ女性という点で、役と本人のギャップがないから、観客は安心して”モリクミデロリス”に身も心も委ねることができるのではないだろうか。(いや、そう感じさせてしまうのが森公美子なのだ。)

そしてそこへ、良い意味で肩の力が抜けた小野武彦演じるオハラ神父が張り詰めた空気を緩和してくれたり、鳳蘭の修道院長が複雑な立ち位置と絶妙な表情で味を加えていくのだが、そのさじ加減もとにかく・・・すごい。


ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』 写真提供/東宝演劇部

物語の内容は映画「天使にラブ・ソングを・・・」をほぼそのままに、少しオリジナル要素が加わっていて、その違いも楽しい。

あらすじ

破天荒な黒人クラブ歌手デロリスは、殺人事件を目撃したことでギャングのボスに命を狙われるハメに。重要証人であるデロリスは、警察の指示でカトリック修道院に匿って貰うが、規律厳しい修道女たちからは天真爛漫なデロリスは煙たがられてしまう。そんなある日、修道院の聖歌隊の歌があまりに下手なのを耳にしたデロリスは、修道院長の勧めもあって、クラブ歌手として鍛えた歌声と持ち前の明るいキャラクターを活かして聖歌隊の特訓に励むことになる。やがて、デロリスに触発された修道女たちは、今まで気づかなかった「自分を信じる」というシンプルで大切なことを発見し、デロリスもまた修道女たちから「他人を信頼する」ことを教わる中で、互いに信頼関係が芽生え、聖歌隊のコーラスも見る見る上達する。が、噂を聞きつけた修道院にギャングの手が伸びるのも時間の問題であった・・・。果たしてデロリスは無事に切り抜けることが出来るのか?修道院と聖歌隊を巻き込んだ一大作戦が始まる!

デロリスはクラブ歌手として歌を歌いながらも、目指す成功には至らずフラストレーションを抱えている。そんな最中で彼女は殺人事件を目撃してしまい、思いもよらなかった経験をすることになるが、それが彼女自身と周囲の人間の大きな転機となる。
我々観客が殺人事件を目撃することはそうそう起きないことだろうが、何かに向かって歩んでいたり、それがうまく進まないということは誰しも経験したことがあると思う。そしてその中で日々何かは起こるということや、シスターたちが体感した「できないことができることになっていく幸せ」も知っているはずだ。

だが、そういった経験は大人になるにつれて少なくなり、どんどん心も固まってきてしまう。
ここでこんなことをしてはいけない、我慢しなくてはいけない、と自分自身をセーブさせて生活することが普通になっていく。


ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』 写真提供/東宝演劇部

でも、このミュージカルを観ていると、そんな制限は自分で勝手に作っていたことだと気づく。そしてどんどん素直になっていく自分にも出会える。

先へ先へと向かうことだけではなく、内側にある手の届くものを大切にすることで、素直な自分に出会い、その新しい自分は、自分の中にある新たな可能性を芽生えさせてくれるかもしれないよ、と、この作品は教えてくれた気がする。


ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』 写真提供/東宝演劇部

実際にカーテンコールでは恥も掻き捨て、観客総立ちで出演者と一緒に踊っていた。(自分も含め。)会場にいる全員が素直になってしまったのだ。
同行のエントレライターの一人、かみざと氏も もちろん踊っていたし、終演後は「ミュージカルナンバーが流れると自然に手拍子を打ちたくなるし、歌が終わった後にも拍手したくなった!」と子供のような笑顔で言っていた。同感だ。

デロリスはシスターたちだけでなく、観るものの心も開放してくれたようだ。

何かに向かって頑張っている人や、素直になりたい人にはぜひ観てほしい。

本作は11月15日(金)から東京・東急シアターオーブで上演される。
詳細は公式サイトで。

(文:志田彩香

公演情報

ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』

【脚本】チェリ・シュタインケルナー&ビル・シュタインケルナー
【音楽】アラン・メンケン
【歌詞】グレン・スレイター
【演出】山田和也

【出演】
森公美子(Wキャスト)、朝夏まなと(Wキャスト) / 石井一孝、大澄賢也(Wキャスト)、今拓哉(Wキャスト) / 春風ひとみ、未来優希、屋比久知奈 / 泉見洋平、KENTARO、林翔太(ジャニーズJr.) / 小野武彦 / 鳳蘭 ほか

2019年11月15日(金)~12月8日(日)/東京・東急シアターオーブ
2019年12月14日(土)・15日(日)/富山・オーバード・ホール
2019年12月21日(土)・22日/静岡・静岡市清水文化会館(マリナート)
2020年1月2日(木)~6日(月)/大阪・梅田芸術劇場 メインホール
2020年1月9日(木)・10日(金)/愛知・愛知県芸術劇場 大ホール
2020年1月23日(木)~27日(月)/福岡・博多座
2020年2月1日(土)・2日(日)/長野・まつもと市民芸術館

公式サイト
ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト』

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