まずはじめに。
この物語は2019年の現代ではなく、19世紀産業革命期のアメリカが舞台の物語であるということです。
産業革命といえばイギリスでの方が世界史の授業レベルではフューチャーされてますが、アメリカでも同様に綿工業で産業形態が変わってきていて多くの労働力を求めていて、かたや自分の力でお金を稼ぎたいという女性たちが一旗あげようと集まってきた。そんな時代の物語です。
工場とそこの女性労働者、といえば日本的には「野麦峠」(こちらも日本の産業革命期の話でこちらは絹糸工場ですが)がパッと思い浮かびますが、ここはアメリカ、戦って自分たちの国すら手に入れた自由の国の娘たちは一筋縄じゃあいきません。
女は強い?女だから?女なのに?いえいえ、女だけど、彼女たちは人として強い。かつての女工、ルーシー(剣幸/清水くるみ)の回想で物語は進みます。私の憧れたアイドル、ハリエット・ファーリー(ソニン)と、私たちの「ヒーロー」サラ・バグリー(柚希礼音)について。
ミュージカル「FACTORY GIRLS ~私が描く物語~」柚希礼音、ソニン 写真撮影:岡千里
ここで働くために来ている女性たちは事情は人それぞれではありますが、皆自分自身で選んで自分の人生をただ進むのではなく切り拓くためにと言ってもいいぐらいの気持ちできています。夢がある、家庭の、家族の事情。玉の輿狙いであったり。
しかし「自分で選んだ」というのは時に枷にもなるというのは現代に生きる私たちも思い当たる節があるのではないでしょうか。
サラも実家の事情があり、教師から工場労働者に転職して街に出てきます。そして面食らうのです、現実に。
技術の進歩は良いことも悪いことも連れてくる
アボット工場長(こういう役を演じたらピカイチの原田優一)が鯨油ランプを工場に導入したのは「会社」としては「競合他社に対抗」「売り上げ」最優先なのも会社としてはごもっとも。彼女たちの労働条件とかそんなの関係ない!と主張しそうですが、工場の仕事は別に慈善事業ではないのだから生産力をつけるための工夫をする事は当然の話ではあります。
しかし現代でもパソコンやインターネット、スマートフォンの進化が日常生活に革新を与えて便利になる反面、仕事がどこまでも24時間ついてくるようになったのと同じで、お日様が降りたら終わりだった労働時間はどんどん延びていきます。だって、作業ができるんですから。
ミュージカル「FACTORY GIRLS(ファクトリー・ガールズ) ~私が描く物語~」柚希礼音 写真撮影:岡千里
「地獄への道は善意で舗装されている」というのはよく言ったもので、結果的に地獄のような状況になっていくきっかけは「悪意」ではないのです。そして、地獄への道行きを加速するのはむしろ「共喰い」。
サラが契約と違うと主張したことに対して男性労働者たちの「俺たちだって同じ条件でやってるんだ」と言ってサラに食いかかるシーン。あぁこれ現代でもある、「俺たちだって同じぐらいの条件、私たちのほうがもっとしんどい、だからなんでお前らは我慢しないんだ」地獄に勝手に落ちていく負の連鎖です。論点はそこじゃないのに!
想いは言わないと伝わらない、だけど、ただ叫ぶだけでも伝わらない
サラはもちろん「ヒロイン」ではなく「ヒーロー」なのです。明らかにおかしいことを指摘し、声を上げ、その声を剣とする言葉を武器に変える力を持つ。けれどもこれは私自身が「一組織の労働者」であることを経験したからこそ思うのです。たとえ剣を持っていたとしても、使い方を間違えたら己を傷つけてしまうことも。けれども声を上げるのはやめられない、辞めてはいけない。声を大声で上げて叫んでも聞き入れてもらえない状況にまでたとえ追い込まれようとも、声を上げ続ける。
人は言います。
「なんでこんなになるまで放っておいたの」
「だってあなた方は聴こうとしていなかったじゃない」
声を上げることは恐ろしい。
けれど助けてくれる「誰か」を待つぐらいなら「わたし」が声を上げる。
ミュージカル「FACTORY GIRLS(ファクトリー・ガールズ) ~私が描く物語~」ソニン ほか 写真撮影:岡千里
ハリエットの立場は劇中でどんどん「悪く」なります。けれどもそれが単純な「悪役」になり得ないのはおそらく会社「組織」を意識して働いたことがある人ならばわかるのではないでしょうか。もともとは仕事の延長線上にあった自己実現を仕事と並行して成し遂げた。与えられた工場労働者としての仕事ではなく、己の手の積み重ねによって「ローウェル・オファリング」編集長に抜擢された。
だけど社内での立場や編成が変わろうと「雇用される側」であることには変わりないのです。仕事で認め「られたはずなのに」上からも下からもプレッシャー。でも仕事で認められた「からこそ」できる方策を模索する。ベストとは言い難いかもしれないけれど、長期戦かもしれないけれど、でも結果が出るように種を蒔く。
ミュージカル「FACTORY GIRLS(ファクトリー・ガールズ) ~私が描く物語~」実咲凜音 写真撮影:岡千里
直接的な攻撃だけが戦術ではないけれど、それでも何もせずにはいられない。
戦い方は1つだけではないのです。
その戦いの結果は舞台を観ていただくことにして、どういう結果であれ、これは彼女たちの、そして私たちの選択の結果、描いた道だと言えます。
作中の人物や舞台は実在のもので、サラ・バグリーは実際に10時間労働を掲げて戦ったし、ストーリー上「悪役」扱いではありますがローウェルの工場は紡績の仕事を「賃金が払われる工場労働」として体系化したというところは今日にもつながっていたり、実際に明治維新後の岩倉使節団も視察に行ってたようで私たちが見ている現在の世界に繋がってるのか!というところもひとつの物語。
ミュージカル「FACTORY GIRLS(ファクトリー・ガールズ) ~私が描く物語~」 写真撮影:岡千里
そしてこの作品が、ここ数年「#me too」運動をはじめとして女性が声を上げて世論が、世界が動いたことがあった今だからこそ、考えさせられるものがあります。
私たちは、「自分で」世界を変えられる。
(文:藤田侑加)
新作ロックミュージカル「FACTORY GIRLS ~私が描く物語~」
【音楽/作詞】クレイトン・アイロンズ&ショーン・マホニー
【日本版脚本・演出】板垣恭⼀
【出演】
柚希礼音 ソニン
実咲凜音 清水くるみ 石田ニコル
原田優⼀ 平野 良 猪塚健太
⻘野紗穂 谷口ゆうな 能條愛未
⼾井勝海 剣 幸 他
2019年9月25日(水)~10月9日(水)/東京・TBS赤坂ACTシアター
2019年10月25日(金)~10月27日(日)/大阪・梅田芸術劇場メインホール