PARCOステージプロデュース「命売ります」観劇レポートお届けします。
「三島」の「エンターテイメント」作品と銘打った「命売ります」。もとは1968年に週刊誌「週刊プレイボーイ」に連載されていた小説で、過去には実写ドラマやボイスドラマ化もされている作品です。
ところで、私も含めて世間一般が持っている三島由紀夫のイメージといえば、「豊饒の海」4部作や「黒蜥蜴」「近代能楽集」などに始まる耽美な世界観、そして本人の生前のエピソードや昭和を揺るがした大事件であった割腹自殺という壮絶な最期などから「作品も本人も難しい、とっつきにくいのでは?」という印象を抱かれる方もいるかもしれません。
が、「命売ります」はそのイメージからは正直真逆です。
もう出てくる登場人物全員変なところとか、連載小説がベースになっているのでエピソードがくるくる変わりながら繋がって行く様子。まるで安部公房や星新一のショートショートを観ているよう。三島作品初心者にもオススメの気軽に観れる娯楽作品です。
脚本・演出は「はえぎわ」のノゾエ征爾さん。兼出演もされてるのですが、主人公の東啓介演じる羽仁男を取り巻く個性的な登場人物たちを演じる俳優陣もまあ個性派ぞろい、演劇界(特に小劇場まわり)オールスター集めた感がすごいです。
命は売ってるけど自殺希望者でも自殺愛好者でもなく
物語は自殺に失敗した羽仁男が新聞広告に「命売ります」という広告を出したことによりその命を買って好きなように使って、その結果として死にたい!というまあ荒唐無稽な物語。
そしてだいたいこういう話のセオリーというのは
「そう簡単には死ねません」
というところ。
そして、それぞれの持ってくる買った理由」のぶっ飛び具合が個性豊かな登場人物たちと相まってそれぞれのエピソードの畳み掛けぶり!
個人的には1人目の温水洋一さん演じる「妻を殺して欲しい」購入者が「えっ、ここでエピソード終わり…?」と思ってたら大間違い。お約束といいますか、ひっくり返されました。
そして吸血鬼の母子と家族ごっこをしながら緩やかに死に向かっていく様子にはホロリ。
衣装と同じく色とりどりのエピソードです。
死にたがり?殺されたがり?それはまるで横断歩道の白いところだけを歩いているようで
美術や衣装も狂乱の60年代後半を彩っていたようなキッチュでポップなもの。見せるようで、みせていない、骨組みなのかな?と思えば実は飛び石のようになってる、ドアはあるのに壁はない。事ある毎に光る「命売ります」のネオンサインなど平成も終わりの今となってはなかなかお目にかかることがなくなってしまった極彩色の光景です。
テーブルの骨組みが丸見えの舞台、役者が裏にはけていくのも、いや、「裏なんてあるようでない」のかもしれませんが、出てくる時の出方も「こんなスタンバイの為の移動の仕方ある!?」というシーンも。
裏はあるのかないのか。
そもそも元々何が表と言われるものなのか。
日常なのに摩訶不思議、でも何処かでありそう、そんな物語です。
命、売ります、か?
(文:藤田侑加)
2018 PARCO PRODUCE 三島×MISHIMA 『命売ります』
【原作】三島由紀夫
【脚本・演出】ノゾエ征爾
【出演】 東啓介 上村海成
馬渕英里何 莉奈 樹里咲穂 家納ジュンコ
市川しんぺー 平田敦子
川上友里 町田水城 ノゾエ征爾
不破万作 温水洋一
2018年11月24日(土)~12月9日(日)/東京・サンシャイン劇場
2018年12月22日 (土) /大阪・森ノ宮ピロティホール