4月8日から日生劇場で上演されている「リトル・ナイト・ミュージック」
「スウィーニー・トッド」「イントゥ・ザ・ウッド」「太平洋序曲」など美しくとても難解なメロディーで有名なソンドハイムの作詞作曲で、大竹しのぶさんが主演ということで話題を集めている今作の観劇レビューをOn7・青年座の尾身美詞がお届けします!
舞台は20世紀初頭のスウェーデン。愛を求めてすれ違う、優雅で軽妙で感傷的な大人のおとぎ話…ということで、
幕開けから洗練されたシンプルな空間にザ・ソンドハイム!という美しく繊細な不協和音が広がり、一体どんな話が展開されるのか…とどこか背筋を伸ばし優雅な気分で鑑賞しておりましたが…
ん??????
なんだかしょっぱなから、おかしいぞ?? ?
風間杜夫さん演じる弁護士フレデリックの妻アンは、蓮佛美沙子さん。
なんと彼女は18歳。そして二人は新婚でラブラブ!!
…ところが11ヶ月経った結婚生活でも、フレデリックは妻に手を出すことが出来ずに、アンは未だに処女のまま。
そして、フレデリックの息子ヘンリックは、1歳年下の義母に恋心を抱き、悶々としている。
まず、状況設定だけで、??!という展開なのに…そこから先がまた!すごい!
家に帰って来たフレデリックに、子犬のように飛びつき甘える可愛い妻。
そこからフレデリックのソロが始まるのだが…「いま、妻に襲い掛かり処女を奪うか?!それとも昼寝するか?!それが問題だ!!!」と朗々と歌い上げるのだ。ソンドハイムの美しい旋律に乗せて、ええーー ーーそんなこと歌うの??!と、もう笑いたいのに、なんか、綺麗すぎる音楽だから、笑うって感覚じゃないし、ううううと内臓がねじれる感じで、ニヤニヤしちゃう。なんだ!?この曲は!!
そのまま、息子ヘンリックは、このままヤラないなら死んだほうがましだ。とか、妻アンは、私は悪い妻?でも関係を持つのは怖いの!!!まだ無理!だとか、とにかく、そんなどうしようもない内容を超難しいメロディーで(アンなんてソンドハイム特有の超高音)、あーだこーだと歌い出し、綺麗な3重奏になり、ええええええ、ソンドハイムさん。なんなんだ、このあまりに綺麗な旋律にのせた内容が…こんなに馬鹿馬鹿しいものだなんて!!!どうかしてるよ!!!とニヤニヤしちゃうしザワザワするし、堪らない気分に。笑 いや~おしゃれ!
客席の方も、始まって間もないので、笑っていいのかどうたらいいのか…と
美しい音楽と歌詞のギャップで、なんだか大人しく鑑賞していらっしゃいますが、きっと皆さま笑いたいのを我慢して背筋を伸ばしてご覧になっているのでしょう。
このままどうなってしまうのか??と思いきや、待ってました、大竹しのぶさんの登場です。
大女優デジレの女優生活を歌った曲での登場ですが…これがまた可笑しい。
田舎のドサ回り中、田舎のアマチュア演劇協議会からの表彰を嘆き(状況設定もイチイチ面白い)、木野花さん演じる怖くて厳しい母親が「娘はドサ廻り!!!!」なんて迫力満点にセリフを挟むものだから、またまた内臓がねじれます。
ミュージカル「リトル・ナイト・ミュージック」大竹しのぶ 写真提供:東宝演劇部
そして、極めつけは、フレデリックとデジレの元恋人同士の再会!
デジレの舞台を鑑賞しに行ったフレデリックとアン夫妻。舞台上からデジレがフレデリックを発見し、ビビビッっと戦慄が走ると…
♪リメンバー!!!(リメンバ~~リメンバ~~~)
と美しいメロディーがこだま!!!ギャグなのか、なんなのか。笑
このフレデリックとデジレの運命の(?!)再会から、デジレの恋人カールマグナス伯爵(栗原英雄)とカールマグナス伯爵夫人(安蘭けい)も含んだ大人の恋の六角関係がスタート。
関係も設定も歌も、とにかくずっと可笑しく、ソンドハイムの曲のように複雑に絡み合い、それでいて美しくドラマティックで。最高にお洒落でバカバカしい、大人なミュージカルだ!!!と言わずにはおられません。
演者の皆様、本当に芸達者な方々ばかりで…
どの役もキャラクターが立っていて、キャラクターが舞台上に存在してくれていることを感じさせてくれていて、もし歌がなくたってストレートプレイでも満足できるだろう!と思わせてくれる大満足のお芝居でした。あのセリフや歌を乗りこなす役者さんたちのお芝居に真実味があるからこそ、ニヤニヤ笑えてくるのです。
風間杜夫さんと大竹しのぶさんの大人な恋のやりとりは、生で、いきいきしていて、昔の恋人同士のなんともいえない雰囲気が舞台いっぱいに広がって…
沢山笑わせてくれるのに、ちょっと切なく、舞台終盤の♪Send in the Clowns なんて、堪りませんでした。
ミュージカル「リトル・ナイト・ミュージック」蓮佛美沙子、ウエンツ瑛士 写真提供:東宝演劇部
そして、この前編通した面白さを産み出しているのは!!何と言っても素晴らしすぎる翻訳のおかげでしょう。歌詞もセリフも最高の日本語が…!そう!言葉のチョイスがイチイチ面白い!!
翻訳は、「Let’it go!!」を「ありのままの」と翻訳された、あの高橋知伽江さんです。
スマートに笑わせてくださる日本語訳にもう、脱帽です…
翻訳ものは、翻訳で本当に大きく世界が変わってしまうので、翻訳の大きさを改めて感じさせていただきました!
演出は、ソンドハイムさんが自ら指名した女優のマリア・フリードマン氏。ローレンス・オリヴィエ賞を4度も受賞されている名女優さん!!
皆さんとても素敵なお芝居をされていたので、一体どんな風にお稽古されたのだろう…と個人的には興味深々でした。
愛を求める女たちと男たちの恋の駆け引きが面白いけど、ほろ苦い!
ソンドハイムの最高傑作!待望の20年ぶりの日本上陸です!!
ぜひニヤニヤを体感しに日生劇場へお運びください。
(写真提供:東宝演劇部 文:尾身美詞)
ミュージカル「リトル・ナイト・ミュージック」
【作詞・作曲】スティーヴン・ソンドハイム
【脚本】ヒュー・ホィーラー
【翻訳・訳詞】高橋知伽江
【演出】マリア・フリードマン
【振付】ティム・ジャクソン
【音楽監督・指揮】小林恵子
【出演】
デジレ・アームフェルト(女優)・・・大竹しのぶ
アン・エガーマン(フレデリックの幼妻)・・・蓮佛美沙子
シャーロット・マルコム(伯爵夫人)・・・安蘭けい
カールマグナス・マルコム(伯爵)・・・栗原英雄
フリード(マダムの執事)・・・安崎 求
フレデリカ・アームフェルト(デジレの娘)・・・トミタ栞
ペトラ(エガーマン家のメイド)・・・瀬戸たかの
マダム・アームフェルト(デジレの母)・・・木野 花
ヘンリック・エガーマン(フレデリックの息子)・・・ウエンツ瑛士
フレデリック・エガーマン(弁護士)・・・風間杜夫
ノードストラム夫人・・・彩橋みゆ
セグストラム夫人・・・飯野めぐみ
アンダーセン夫人・・・家塚敦子
エアランソン氏・・・中山 昇
リンドクイスト氏・・・ひのあらた(五十音順)
2018年4月8日(日)~30日(月・祝)/東京・日生劇場
2018年5月4日(金)~5日(土)/大阪・梅田芸術劇場
2018年5月12日(土)~13日(日)/静岡・静岡市清水文化会館マリナート 大ホール
2018年5月19日(土)~20日(日)/富山・オーバード ホール
公式サイト
ミュージカル「リトル・ナイト・ミュージック」