レビューを書くとき、“初見の人はどういった心持で観劇をしたら【この作品】を楽しめるかな”と考えるけど、今回はなかなか厳しいかも…だって『熱海殺人事件』は、自分が演劇を初めてから最も観ている作品だから。それほどあちこち上演され続けている “愛された作品”。まだ観たことない人はその認知度から、どんな素敵なエンタメ作品が観られるんだろうと当然ウキウキすることでしょう。
しかし劇場に行く前に知っておいてほしい。つかこうへい氏の脚本はかなりぶっ飛んでます!世間の常識を覆すためにたくさん破壊行為を行ってきます←あくまで個人的な感想ですが、この『熱海殺人事件』の主人公の刑事部長は、犯人の動機や証拠を自分勝手に変えちゃうし、共に働く婦人警官を【愛人】として扱うし、テレビの報道番組で言ったらヤバい発言を連発する。真っ白な心の人が観たらカルチャーショックを受けて泣いちゃうかもしれません。それぐらい毒づいたところがあります。
しかし、ここで引いたら作品の本質を見損ないます!演劇に不慣れな人ほど、気持ちを強く持って挑んでください(マヂで!)。
味方良介さんは“つかイズム”にどっぷり魅了された一人でしょう。昨年、同作で超エキセントリックなキャラとして知られる木村伝兵衛部長刑事を演じ、もう一度演じたいと志願したとのこと。その覚悟が舞台上から伝わってめちゃくちゃ良かった。
開演時間と同時に流れ始めるチャイコフスキーの音楽、幕が開いた瞬間に会場の期待を裏切らない木村の凛とした立ち姿!歴代の木村よりもスタイリッシュな印象ではあるものの、しゃべり口調はやはり“つか調”。マシンガンのように次から次へと膨大な言葉が放たれる。まったく不安を感じさせない完璧な口調に、味方式木村伝兵衛の個性が見えてくる。
その刑事部長と対峙(?)する富山の田舎刑事、熊田留吉(石田明)は、これまでの熊田より優しい男に感じる。が、年下の刑事部長に対しての余裕にも見える。また、いままでこんなに頭の悪い婦人警官・水野朋子(木﨑ゆりあ)がいただろうか。木村と水野のやり取りにキレる熊田に同情すら覚える。犯人の大山金太郎(敦貴 / 匠海(α-X’s)(Wキャスト) 観劇したのは匠海さんバージョン)も人を殺したとは思えないほど軽い。(もちろんみんな演出ですよ!)
つい過去と比較しちゃいましたが、今回のも最高傑作!なぜならこの『熱海殺人事件』という作品は上演の度に台詞が大幅に変更されます。曲なんかも流行りのものに変わります。懐古主義な自分は古い形の熱海を好むけど、それは創る側が意図してない。
舞台「熱海殺人事件 CROSS OVER 45」味方良介、匠海、石田明、木﨑ゆりあ
パンフレットの引用ですが「作家が書けるのは四割だけ、あとの六割は役者に書かせてもらっている」というように、役者にあわせて台詞を変更するということは、より現代を反映させた作品に仕上げているということ。また演じている人達も、芸人、元アイドル、アーティスト、役者とバラバラだし、その異種な感じがまさしく“いまの”熱海!自分と同じように昔にばかり目を向けている人ほど、この『熱海殺人事件』を観た方がいい。
もちろん本質は変わっていません。一貫して登場人物たちはみな弱さを抱えている。観ているとその“弱さ”に共感して泣きたくなるけど、木村は決して甘えを許しません。鍛冶屋が何度も刀を熱して叩くように、立派な刀に仕上がるまで叩きます。
終盤の木村は圧巻でした。大足広げて客席を見つめる姿は、歌舞伎の見得のように威風堂々としていました!惚れますわっ!観終わった後、登場人物たちと共に前進できるような気になりました。
パンフレットも読み応えがあるので、より作品を知りたい方にはオススメです!
(文:かみざともりひと)
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舞台「熱海殺人事件 CROSS OVER 45」
作:つかこうへい
演出:岡村俊一
キャスト:
木村伝兵衛部長刑事:味方良介
婦人警官水野朋子:木﨑ゆりあ
犯人大山金太郎:敦貴 / 匠海(α-X’s)(Wキャスト)
熊田留吉刑事:石田明
2018年2月17日(土)~3月5日(月)/東京・新宿 紀伊國屋ホール
公式サイト
熱海殺人事件 CROSS OVER 45