9月2日にシアタートラムで開幕した『Crimes of the Heart-心の罪-』。ピューリッツァー賞を1981年に受賞し、ブロードウェイでも上演されていた作品です。
今回の日本語版での演出は時期 新国立劇場・演劇部門の芸術監督であり、海外演劇の翻訳でも有名な小川絵梨子さん。そして今回の翻訳は小川さんのものではなく、『星ノ数ホド』の翻訳で、小田島雄志・翻訳戯曲賞を受賞した浦辺千鶴さん。それぞれ素晴らしい翻訳・演出がタッグを組んだ形です。
日常の中の非日常
物語の始まりは日常の中の非日常。軸となる三人姉妹の三女、ベイブ(伊勢佳世)が上院議員の夫を拳銃で撃ち抜き、ベイブ・ボトレルは朝刊の一面を飾った、しかもそれはよりによって長女、レニー(那須佐代子)の誕生日という、とてつもなくセンセーショナルな始まり方。
育ての親である祖父の介護を実家で続け、恋人もおらず一人40歳の誕生日を迎えた長女のレニー、歌手を目指して故郷を離れている次女のメグ(安田成美)そして地元の名士であるところの上院議員と華々しい結婚をしていわゆる「勝ち組」と見られている三女のベイブ。それぞれの思い、葛藤、これらの描き方がとてもリアル。
三人姉妹が集まって、アルバムを見るシーンやレモネードを飲みながら喋るシーンは日常、でもその裏でなぜこの三人が今一堂に会しているのかの原因を作ったのはそれこそ非日常。
昔の恋人と再開するのは日常?非日常?弁護士がくるのは非日常。誕生日を覚えていてもらえるのは・・・?と日常と非日常が交錯しながら物語は展開していきます。
「お姉ちゃんだから」「妹だからって」
「お姉ちゃんだから」「妹だから」「姉のくせに」「妹だからって」
それぞれがそれぞれに抱いている、フラストレーションであるとか不満であるとか、やっかみやうらやましさやら。
愛と憎悪は表裏一体というかむしろ同じもの。そしてこれがアラサーではなく三人ともアラフォーの「そこそこおばちゃん」VS「だけどまだまだ女盛り」というある意味繊細な年齢設定のキャラクターだからこそ、リアリティを持って見れるのです。
これがもし一回り若くてアラサー三人姉妹の話であればただのキャットファイト、女のひがみって嫌な感じ~で終わりかねない話が、これまで紆余曲折人生にあったアラフォーだからこそ一周回って三人ともそれぞれ愛おしいキャラクターに見えてくる、そんな話です。
私個人としては実際に三人兄弟で長女なので、「あーお姉ちゃんってだいたい貧乏くじひかされるよねえ」とか「そうそう保護者は下の方に対して甘いの!!あれ何!?」などとレニーに心理的に感情移入しながら観ていました。そうそう大事にしているものをあれだけ非難されたら箒持って暴れるよ・・・長女だもの・・・怒らせたら一番面倒なの長女だから・・・と、それぞれの兄弟関係に着目して「あるあるこういうの」とリアリティを持って観劇できること間違いなしです。
アメリカのホームドラマのような美術もステキ!
そしてこの舞台は3面舞台。上手と下手の両サイドに客席があり、基本的に三姉妹が育った家のキッチンとダイニングルームの1室でのみ繰り広げられる会話劇なのですが、本当にアメリカの一昔前のホームドラマや映画で見れるようなファッションやインテリアで、見た目にもリアリティがある素敵な舞台セットでとても楽しめます。特にサイドシートの最前列は演者が本当にすぐそこを通っていくので臨場感あり!
女って、繊細
女って、めんどくさい
でも、だからこそ愛おしい。
そんな舞台です。
(文:藤田侑加)
Crimes of the Heart -心の罪-
【企画】中嶋しゅう
【作】べス・ヘンリー
【翻訳】浦辺千鶴
【演出】小川絵梨子
【出演】安田成美 那須佐代子 伊勢佳世
渚あき ・ 斎藤直樹 / 岡本健一
2017年9月2日(土)~19日(火)/東京・シアタートラム
2017年9月22日(金)/神奈川・やまと芸術文化ホール メインホール